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6-5 ジャスティンのアパート



 傭兵ギルドの扉の横には、やはりと言うかレドナーが待っていました。

 壁に背中を預け、右足で貧乏ゆすりをしており、両腕を胸に組んでいます。

 ヒメがパタパタと走り近づいていきました。

「レドナーよ、おはよーだニャーン」

「天使さま、今日はどうして遅くなったんですか? 何かあったんですか?」

 その顔は、ちょっと怒っているようですね。

 そして、僕たちを心配してくれていたようでもあります。

 ヒメが首を傾けたっす。

「それがニャンけど~」

 朝にミルフィに呼ばれて領主館に行ったことと、そして今回のプレゼント作戦の内容をヒメが説明しました。

 レドナーは不満そうです。

「それなら、先に俺を呼びにきてください」

「んにゃん、今度からそうするニャンよ~」

 弱ったような顔つきのヒメ。

 レドナーはそこでやっと両腕を胸から下ろしました。

「分かりました天使さま。今度から俺は朝、天使さまの家の前で待つことにします」

 レドナーは僕たちの住所を知っていますね。

 以前、ミルフィの家で合宿をやった日に、みんなでうちを通りかかったことがあります。

 ヒメが笑顔で頷きました。

「それが良いニャン!」

「はい、そうします」

 レドナーが壁から背中を離しました。

 僕はレドナーに声をかけます。

「ごめん、レドナー」

「テツト、俺を忘れるな」

 やっぱり怒っていますね。

 僕は数回「ごめん」と謝りました。

 イヨは謝る気が無いのかツンとしていますね。

 そして僕たちはレドナーにこれからのことを話しました。

 彼は納得したようで、プレゼント作戦を一緒にやってくれるようです。

 合宿にも来るようでした。

 そして、みんなでギルドを離れて歩き出します。

 ここからは徒歩で充分ですね。

 僕らの家に向かいます。

 道中。

 僕とレドナーとの会話です。

「おいテツト、お前、今いくら持ってる?」

「いくらって、お金のことですか?」

 僕はちょっとびっくりしました。

 レドナーは当然と言ったふうに頷きます。

「そうだよ。結局、強くなるためには金だぜ。合成スキルの情報も、素材スキルのスキル書を買うためにも、マジックアイテムを買うためにも金がいる。それもちょっとやそっとじゃない。莫大な金がいるんだ。テツト、もし財布に余裕があったら、少し貸してくれ」

「うちの財布はイヨが握っていますね」

 僕は苦笑して首を振ったっす。

 レドナーが顔をひきつらせました。

「マジかー」

「マジっす」

「うーん、じゃあ借りれねえわな。俺が何とかして金を溜めねえとなあ」

「欲しいスキル書でもあるんすか?」

「俺はさあ。雷系統のスキルを極めようと思うんだ」

「雷系統ですか?」

「ああ、だって格好良いだろ? 雷って。俺にピッタリだぜ」

「まあ、否定はしません」

「だろ? この間サンダーショックの一つ上のランクのサンダーボルトを手に入れたからさ。合成スキルの雷鳴剣とライトニングペインを、試しに使ってみたんだ。そしたら強化されていてさ。つまり、素材スキルのランクが上がれば合成スキルも強くなるってこった」

「なるほど」

 僕は感慨深げに頷きました。

 僕の覚えている合成スキルと言えば、炸裂巴とポンコツパンチと幻惑回避ですね。

 素材スキルは、炸裂玉と、へっぽこパンチと一生懸命と、はらはら回避と蛇睨みっす。

 そしてスキルではありませんが柔道の巴投げですね。

 炸裂玉は最初からCランクのスキルであり、これがBランクになると爆裂玉になるっす。

 できれば覚えたいですね。

 そんな話をレドナーにしました。

「爆裂玉かあ。くらったら一撃で死にそうな名前だな」

「欲しいんですけどねー。Cランクのスキルの値段平均は180万ガリュなんで、爆裂玉はその三倍の値段がきっとします」

 レドナーが舌打ちをしましたね。

「やっぱり金だぜこの世はよお。何か儲ける良い方法はねーかなあ」

 僕のリュックには今、千万ガリュの入った紙袋が入っているっす。

 大金ですが、Bランクのスキル書を買おうものなら立ちどころにその半分以上が減りますね。

 レドナーの言った通りがそのままで、この世は金です。

 そして可哀そうですが、レドナーにマグマ鉱床の話をするわけにはいきません。

 僕たちとティルルたちとガゼルだけの秘密でした。

 話をしながら歩いて行くと、うちのアパートが見えてきたっす。

 僕たちは四人で階段を上がり、イヨが前に出てジャスティンの部屋の扉をノックします。

「ほーい!」

 中から返事があって、やがて金色の短髪に肌がうっすらと色黒の、すらっと背の高いジャスティンが顔を見せました。

 サンダルを履いており、陽気な顔つきです。

「どうした? テツトのお嫁さん」

「あ、あの、ちょっと用事があって来ました」

 イヨはぽっと顔を赤くしましたね。

 お嫁さんと呼ばれたことが恥ずかしかったみたいです。

「ふーん、上がる?」とジャスティン。

「あ、できれば」とイヨ。

 ジャスティンは僕たちの顔を眺めまわし、それから後ろを振り向きました。

「おーい、ルル。お客さんだ。茶の準備をしろー」

「はーい」

 気の無い返事が中から聞こえました。

 中に入ってみると、部屋の形は僕たちのアパートと同じでしたね。

 玄関からすぐのところにダイニングキッチンがありました。

 とは言っても家具の配置は違いますが。

 そこにあったテーブルの席に僕らは腰かけます。

 椅子は四つしか無く、僕たちが腰かけて、ジャスティンは壁を背にして立ちました。

 ルルは今、コーヒーを作ってくれているっす。

 ジャスティンが聞きました。

「それで君たち、何の用事なんだい?」

「それなんですが、その前にジャスティンさん。フライドポテトの露店の件、ミルフィに許可をもらいました」

 イヨが説明をします。

 ジャスティンが親指を立てました。

「そうか! はっはー、グッジョブだぜお嫁さん」

 イヨに対するその呼び方に、僕は思わず笑ってしまいました。

 ジャスティンは面白い人ですね。

 ルルがコーヒーカップを四つ持ち、テーブルに運んでくれます。

 口角を上げて、彼女は笑うような声で言いましたね。

「ほら、飲むのよ、可愛い小ブタちゃんたち」

「何言ってんだルル! この野郎! 折檻(せっかん)してくれる!」

 ジャスティンがすぐに反応して移動し、ルルの尻を二度ひっぱたきます。

「痛い! ジャスティンっ、痛い!」

「ジャスティンさん……」

 悲しそうなイヨの瞳。

「なんか面白い人ニャンねー」

 ヒメが両目をくりくりとさせています。

 ジャスティンは流しに背中を預けて、自分のぶんのコーヒーカップを取り、口につけてすすります。

「それで、君たち、他に用事は?」

「それなんだけど、ジャスティンさんはサイモン山に詳しいですよね。サイモン山には天使族の領域へと続く階段があるって聞いたんだけど、その場所を知っていますか?」

 イヨが代表して聞いてくれていました。

 他の三人は黙って聞いています。

「あるよ。天界への階段な。そこには霧の結界があるけど」

「場所は分かりますか?」

「分かるよ。地図はあるか?」

「部屋に行けばあります」

「ふーん。何しに行くんだ?」

「それは、友人のスティナウルフのフェンリルとガゼルが結婚をするので、プレゼントを作るためです。天使族の領域で、プレゼントの素材となる天霊石を採りたいんです。それはミルフィの頼みでもあって、みんなでプレゼントを製作して贈るんです」

「ふーん」

 ジャスティンがコーヒーをすすります。

 そして何か考えるように天井を見上げ、またイヨを見ました。

「お嫁さん。俺たちも一緒に行っていいかい?」

「い、良いんですか?」とイヨ。

「ああ!」

 ジャスティンは親指を立てました。

「それでなんだけど。できれば、ミルフィさんにも一度お会いしたいんだが。フライドポテトの露店許可の件のお礼が言いたくってさ」

「それなら」

 イヨが僕に顔を向けます。

 僕は頷きました。

 イヨがまたジャスティンに視線を向けます。

「これから一緒に、領主館に来てくれますか?」

「いいのかい? はっはー、こりゃあ絶好調の展開だ! ってまあ、こっちの話なんだけどさ。あと、その前に、霧の結界を解くためには結消(けっしょう)(ぼく)の枝が必要だな」

「「結消木の枝?」」イヨと僕とレドナーの声が重なります。

「結消木の枝ニャン?」とヒメ。

 ジャスティンはコーヒーをすすって、ふうと息をつきました。

「ああ。結界を解くためには結消木を焚く必要があって。その煙が霧を晴らしてくれるんだ」

「結消木はどこにあるニャン?」とヒメ。

「水の中だな」とジャスティン。

「「水の中?」」またもや僕たちの疑問の声が重なります。

「んにゃん~、猫は泳げないニャン」とヒメ。

 どうやら水の中に生える木のようです。

 ジャスティンはルルの肩に手を置きました。

 二人が話し始めます。

「おいルル、泳いで取ってきてくれ」

「嫌よ、そんなヒトデや貝を取るみたいに言わないで」

「いいから取って来てくれよー」

「何でよ。大体、結消木はどこの水の中にあるのよ?」

「ここら辺だと、ノーラ池か?」

「じゃあノーラ池に、みんなで行ってくれば良いじゃない」

「ちっ、そうするしかねーか」

 ジャスティンが僕らに向き直ります。

 続けて言いましたね。

「皆さん、これからノーラ池に行くってことで、良いかい?」

 僕たちは顔を見合わせて頷きます。

「そうするか」両手で伸びをするレドナー。

「うん、良いと思う」頷く僕。

「そうするしかなさそう」そう言って、イヨがコーヒーを飲み切りました。

「んにゃん~、あたし泳げないニャン~」ヒメは涙目です。

 ジャスティンが飲み切った自分のカップを流しに置きました。

「よし、それじゃあ決まったな。全員でノーラ池にゴーだ」

「ノーラ池はどこにあるニャン?」

 ヒメが疑問を向けます。

 ジャスティンが壁に立てかけてあった杖を持ちましたね。

「アヤギリ山の麓だな」

 どうやら出発のようです。

 アヤギリ山は僕も知っていました。

 近くまで巡行狼車が出ていますね。

 みんなでコーヒーのお礼を言ったっす。

 ルルが流しで洗い物をして、それが終わると六人でアパートを出ました。

 イヨがうちの鍵を開けて入り、中からサイモン山の地図を持ってきます。

 その際、三人分の折りたたみ傘を家に置きました。

 空は清々しく晴れているので、もう必要無いですね。

 イヨは他にも、合宿に必要な着替えの服などを準備してくれました。

 ちなみにお金は家に置きません。

 空き巣に入られたら困りますからね。

 お金は携帯するか、銀行に預けるのが得策でした。

 そして階段を下り、六人で巡行狼車の停留所へと行きます。

 途中、銀行に寄りましたね。

 僕たちは千万ガリュの大部分を預けます。

 それを見たレドナーが驚いたように両目を大きくしていましたね。

 僕は冷や汗が出ました。

 ……見られちゃったっす。

 ぶちぶち言いながらルルも着いてきましたね。

 ジャスティンと夫婦漫才のような掛け合いをしています。

「ルルは泳がないんだから」

「お前が泳がないんなら誰が泳ぐんだ?」

「ジャスティンが泳いで」

「俺は金づちなんだ」

 何か、愉快な二人ですね。



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