6-1 魔王の復活(魔王レイラン視点)
おはようございます!一ヶ月ぶりの更新になります。お待たせいたしました。
前巻の時と同様、六巻はすでに最後まで出来上がっており、一日一エピソードずつの投稿になります。
それでは、今回もよろしくお願いいたします。
――時は遡ること数年前――
場所はロナード王国の東の山岳地帯。
その山の中腹には木々の鬱蒼としげった森が広がっている。
森の奥深くに、背が高く幹の太いリプリシアという名前の木が立っていた。
封印というスキルの力を強める木である。
リプリシアに磔にされている紫色の肌の巨大な男。
それが余だ。
余は魔王と呼ばれている。
長き封印からいま目が覚めた。
ぼんやりとした眼を動かして、辺りを見回す。
近くには剣を持った天使族の女が一人、弓矢を持ったエルフの男が一人いる。
その二人が、余の番人をしているようだ。
魔族が来て、余の体を持ち出さないように見張っているのだろう。
そして余が復活することがあれば、それを仲間に伝達する役割も担っていると思われる。
どうして余の肉体を封印という形でこの世に残しておくのか?
理由はこういうふうなものだ。
魔王を死なせると、別の場所でまた新たな魔王が生まれるからである。
どうせ復活するのなら、敵としては居場所を特定しておきたいだろう。
だから肉体は滅ぼさず、こうして木に磔にしておくのだ。
余は復活を気づかれぬように目を閉じた。
さて、どうしたものか。
磔にしている杭を抜きとって自由になり、そこにいる番人たちを殺すことはさして難しくない。
だが騒ぎになり、敵の仲間たちを呼ばれ、集まられては困る。
特に人間という種族の中でも強い者、勇者などが呼ばれれば、目覚めたばかりの余などたちどころに倒されてしまう。
また封印されてしまう。
目覚めたとは言え、余はまだ十全に力を発揮できない。
力が回復していないのだった。
考えた末、待つことにした。
余の復活に気付いた魔族が助けに来るまで。
ロナードの上級魔族には天全六道と呼ばれる六つの大勢力があった。
天全六道の長たちの中には、第六感の鋭い者がいる。
余の復活に気づくはずだ。
あるいは魔族に親和的な月の大精霊ルプラン、またあるいは闇の大精霊フィルドラルド、はたまたあるいは光の大精霊ハレルナが助けに来るかもしれないというわずかな希望にかけることにした。
そのまま一年、また一年、また一年と経過した。
余は目をつむりながら、できるだけ呼吸を静かにし、眠っているふりを続けていた。
まだ封印されているふりをしていた。
その間に、余の力は半分ほどまでには回復した。
それは三日月の夜に起こった。
番人をしている二人が、リプリシアの木を背にしたまま静かな眠りに落ちたのだ。
番人にとって、それはあるまじき失態だった。
余にはすぐに分かった。
天全六道の長たちが迎えに来たのである。
その長の一人がスキルを使い、番人を眠らせたのだ。
仲間たちが近づいてくる、それらの魔力の匂いがぷんぷんとしていた。
余は長らく閉じていた眼を開き、つぶやくように言う。
「……やっと来たか」
目の前に勢ぞろいして、地面に恭しく膝をつく六人の魔族の女性たち。
見ただけで誰が何の勢力に属しているかが余には分かった。
右から、
夢。
知。
失。
触。
雨。
魅。
余は言った。
「天全六道の長ども、名を名乗れ」
「「はっ!」」
長たちは声をそろえて畏まった声を上げる。
余が知っている顔はひとつもない。
封印されている長い年月の間に、全勢力の長が代替わりしたようだ。
右から順に女性たちは名を名乗った。
「夢の長、ネムレーナ」
「知の長、リチェ」
「失の長、ミライカナイ」
「触の長、フレイア」
「雨の長、ヒサメ」
「魅の長、イロハ」
長が女だけであることには理由があった。
その理由については後で説明をしよう。
余は四肢に刺さっている杭を木から抜き、地面に着地する。
両手両足に刺さっている杭を抜き取る。
傷は塞がっていたため、血液はこぼれなかった。
しかし手のひらや足には大きな穴が空いている。
耳ピアスのように、杭が刺さったまま傷が塞がったのだろう。
すぐに失のミライカナイが唱えた。
「神の手のひら」
ヒール系統の最高ランクのスキルである。
緑色の光に包まれて、手のひらや足の穴はすぐに塞がった。
しかし余は不機嫌に眉をひそめる。
「誰が、勝手に余に回復魔法をかけることを許可した?」
「隣のリチェにございます」
ミライカナイはくぷぷと笑い、責任転嫁をしてひざまずく。
「おい。私じゃないだろ」
リチェが首を振った。
ミライカナイはえへへと笑い、頭を深く下げる。
リチェが注意する。
「えへへ、じゃないだろ! ミライカナイ、魔王様の御前だ。態度をわきまえろ!」
「魔王様、ごめんなさいだぴょん」とミライカナイ。
「……おい、ぴょんって何だ!?」とリチェ。
失の長は代々、いつもこうだ。
空気を読まないどころか、余に対して無礼な態度を取る。
それをあげつらって殺すこともできるのだが、失の勢力の魔族たちはその気質により死を恐れていないから質が悪い。
殺すと言えば、喜んで首を差し出すだろう。
死ぬことが人生の目的とも謳っている。
失の勢力の魔族にとって、死は罰ではなく、目標の達成なのだ。
だから、ミライカナイの無礼を死というやり方で裁くことはできない。
そして。
その発言や行動は刺激的でもあるし、時には余でさえも笑わせてくれることがある。
無礼だからといって斬るよりも、生かしておくことの方が有益であると余は考えていた。
胸の中心に埋め込まれている紫色の宝珠に右手のひらを当てる。
「まあ良い。とりあえず、余の力の回復はまだ十全ではない。今のままでは人間の勇者には勝てん。回復するのに時間がかかる。どこかに身を潜める必要があるのだが……」
そう言うと、六道の全員が是非自分の領地へ来るようにと言う。
ミライカナイだけは「ただ、うちに来ても美味しいご飯はありません」とこぼした。
これは無礼を言っているのではなく、真実である。
失の魔族たちは霞でも食うような生活をしている。
つつましさこそが失の魔族たちの魔力を高める儀式だからだ。
質素な美女ほど、性的魅力を感じる女は中々いない。
とは言え、余はミライカナイのところへは行きたくなかった。
メシがまずいのは嫌だからだ。
「夢のネムレーナ、そなたの領地で世話になることにする」
選んだ理由はもちろん、ネムレーナがこの中で一番うまそうだからだ。
余の言葉に対し、見目麗しい外見をしたネムレーナは目に涙を浮かべて首肯する。
「ありがたき幸せに存じます」
そして赤く赤く頬を染めた。
彼女たちは、余の男根の精力が限りなく強い力を持っていることを知っている。
ネムレーナはこの一瞬のやりとりと首肯で、これから先、余と寝室を共にし、激しく性交して、子を作ることを受け入れたのだ。
ふふふ、可愛い奴め。
毎晩、余の目の前で恥をさらさせて、宇宙を見させてやる。
他の五人は顔色に落胆をにじませているが、必死に押し隠していた。
余は満足な笑顔を浮かべて、全員に聞いた。
「ロナードの勇者は今、どうなっている?」
「それが、勇者カノス・ノーティアスはいま、妻や仲間たちと共に隣国のアウラン皇国の魔王討伐に出向いています」
リチェが答える。
余は怪訝な声を震わせる。
「カノスは隣国の魔王まで封印しに行っているのか?」
憎たらしきカノス。
測ったわけでは無いがもう十年以上前になるのだろうな。
カノスは余を討伐し、このリプリシアの木に封印にした男である。
「「はい」」
六道たちが言って頭を垂れる。
余はゆっくりと数回頷く。
また聞いた。
「カノスの親はどうなっている? それと、奴に子供はいるか?」
「カノスの父母は共に老いて亡くっております。子供は娘が一人います。その娘は現在、バルレイツの領主をやっている模様」
リチェは事務的に説明をする。
リチェは何も、皆より前に出たくて、率先して喋っている訳ではない。
知の長は代々説明をするのが好きなのだ。
余が聞いた。
「娘の名は?」
「ミルフィ・ノーティアスです」とリチェ。
「ミルフィとやらは何才だ? 勇者なのか?」
「年は19。今のところロナードの国王は、ミルフィを勇者として認めていません」とリチェ。
「ふむ」
余はまた胸の中心にある宝珠に右の手のひらを当てた。
ミルフィというのか。
できれば殺しておきたいところである。
バルレイツの町もろとも、消してしまいたい。
もう一つ気になることがあった。
「余の子供、王子や王女たちはどうしている?」
「王子様、王女様たちは、各々の領地で頭角を現し始めています。参謀や軍師に任命されている者も多数おります」とリチェ。
「ふむ、それは良かった」
余は右手のひらで顎髭を撫で、満足げに頷いた。
その時初めて、魅の長イロハが顔を上げた。
緊張が弾けたような様子だ。
「レイラン様! あたい目に、どうかあたい目に力をお分けください! あたいがレイラン様の前に立ちはだかる敵を全て魅了し、奴隷にして差し上げます」
レイランとは余の名前である。
「ほお」
余は愉悦に頬を緩ませてイロハの外見を見た。
魅の魔族たちは忍者と呼ばれる装束をしている。
女の格好はくノ一。
太ももから下は網タイツだ。
イロハの胸は大きく、腰がきゅっと締まっており、尻も大きい。
二十代であろうが、顔つきは少女のなごりを残しており、その瞳には知性をほのめかすような可愛らしさがある。
さすがは魅の長と言った出で立ちである。
性的魅力は抜群だ。
余は笑って言った。
「お前、イロハと言ったな。余に力を分け与えることを欲すると言ったが、それは何の為だ?」
「は! それはもちろん、レイラン様に立ちはだかる敵を滅ぼすためにございます」
イロハは低頭する。
その唇が震えている。
悪い奴め。
余は見破って言った。
「それだけではないな?」
「い、いえ。あたいは、それだけにございます」
「嘘をつくな」
「は、ははー!」
イロハは畏まってひざまずき、頬を真っ赤に染める。
彼女は泣き出しそうな表情だった。
他の六道の連中がイロハに懐疑的なの視線を送った。
余には分かっている。
先ほど後回しにした説明をここでしておこう。
どうして天全六道の長には女性しかいないのか? という疑問である。
余が他の魔族に力を分けるにはそいつの子宮に精を注ぐ必要があるからだ。
男は子宮を持っていない。
血を吸わせて力を分けるという方法もあるが、それでは弱い。
余が大きく力を分け与えることができるのは女だけだ。
男は強くなれない。
だから、天全六道の長には女性が選ばれる。
今さっき、イロハは余と寝床を共にすることを願い出たことになる。
魅のイロハにとって、寝室での作法は、この六人の中でも一番の強みどころであろう。
しかし彼女には奥底に隠している狙いがある。
イロハは余と何晩か寝室を共にして、余の精力を試そうとしていた。
そしてあわよくば余を彼女自身の虜にし、自分の言いなりにしようとしている。
魔王という強大な人形を操る影の支配者になろうとしていた。
見破る系統のスキルを使わなくても、余の鼻で、魔力の匂いを嗅げば嘘が分かる。
だからと言ってイロハの提案を無視するわけにもいかなかった。
イロハと寝床を共にすること、それを怯えて逃げたなどと噂されれば、他の魔族たちが余の力に疑念を抱く。
六道の長たちに舐められでもしたらもってのほかだ。
ここは、魔王としての力を見せつけておかなければいけないだろう。
「いいだろう。イロハよ。余の力を分けてやる」
「いいのですか!?」
イロハの唇が妖艶につり上がる。
まるで今宵の三日月のようだ。
その顔は女の喜びに満ち溢れていた。
「許す。余はこれからネムレーナの領地へ行き、身を潜ませるのだが、お前も着いてこい」
「は、ははー!」
イロハが地面に頭をこすりつけた。
紫色の肌がピンク色に染まっている。
彼女の性的興奮が体中に溢れている証拠だった。
可愛い奴め。
これから、余の真の恐ろしさを骨の髄まで教え込んでやる。
イロハがその胸の奥底にぎゅっと隠している女の子の大切なモノをあられもない方法で暴いてやろう。
もしかしたらイロハは壊れるかもしれない。
その心を赤ん坊にするかもしれない。
そうなったら、六道の長が一人減る。
しかし余の可愛い側室が一人増える。
イロハの羞恥心が張り裂けるか、それとも堪えきるのか、試すのが楽しみで仕方がなかった。
それから余は全員に、魔王の力の恩恵を与えた。
これで長たちは力が1上がったことになる。
その後で、まだ大きな動きを起こさぬようにと全員に命令する。
事は焦らずにじっくりと運ばなければいけない。
次こそは勝ってやる、勇者め。
余はネムレーナに向けて顎をしゃくる。
「ネムレーナ、お前の領地へ行くぞ」
「はい」
ネムレーナが頬を染めて立ち上がる。
「イロハ、お前も着いてこい」
「はい!」
イロハもその場を立った。
くノ一衣装の胸がゆさっと上下に揺れる。
彼女は妖艶な顔つきである。
あなたに恋に落ちましたと告げる熱視線のような重圧があった。
とは言っても余を恋に落とすなどさすがに無理であるが。
そして、他の六道の四人は各々の領地に帰ることになり、余たちは山岳地帯を去った。
その際、天使族とエルフの番人の二人は眠っていたが殺さずにおく。
後で、余の逃亡に気づいた天使族やエルフの偉い奴らが、二人にきつい罰を下すだろう。
しばらくは牢から出られまい。
出た後も、領民には糾弾され、同僚には蔑まれ、一生をつまらない生活を送ることになるのは想像に容易かった。
出世街道からははずれるだろう。
だが殺さないのは、そもそもこの二人の生き死にに興味が無いという理由が大きかった。
ネムレーナとイロハ、それと余の三人は、ネムレーナの領地であるドラキュラの森と呼ばれる地へと向かった。
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