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5-20 おみやげ



 数日が経ち、ガゼルの病気が治ったっす。

 僕らはイフリートや村人に別れを告げて、グランシヤランを離れましたね。

 ちなみに怪我の治ったルピアたちや他の闘技祭出場者は先に村を出て、各々の帰路についていました。

 ヴァルハラが再び村を襲うという懸念がありましたが。

 イフリートは、今度から口に入れるものには気を付けると言っていたので、大丈夫だと思います。

 イフリートが村を守ってくれますね。

 それに、心配しすぎても仕方ないことですし。

 ちなみにヴァルハラの修道服の女の件なのですが、僕たちが村にいる間にも傭兵ギルドのお偉いさんたちを呼び寄せて、連れて行ってもらいましたね。

 傭兵団ヴァルハラはギルドから厳しく罰せられることになるようでした。

 これで一件落着っす。

 僕たちはまた三日間かけてバルレイツの町に戻ってきました。

 いま、傭兵ギルドの前に到着したっす。

 剣を突き上げている剣士の彫像。

 そのわきに狼車を止めて、みんなでガゼルの首を撫でます。

「「ガゼル、ありがとう」」とイヨと僕。

「ガゼル、ありがとうだニャーン」とヒメ。

「今回も世話になったな」とレドナー。

 ガゼルは「ぐるるー」と鳴き声を上げます。

(今回の旅は我の修行にもなった。また、機会があったらよろしく頼む)

 そう言って地面に伏せりましたね。

 僕たちはギルドの建物の中に入ったっす。

 中にはダリルとハニハがいて、自分の武器を手入れしていましたね。

 意外だったんですが、ハニハが杖を磨いていました。

 どうやら彼女は魔法使いのようです。

 赤髪のダリルが心配したような声をかけましたね。

「おうお前ら! やっと帰ってきたのか!」とダリル。

「お、お疲れ様でございます」とハニハ。

「ダリルー、もう大変だったニャンよ~!」

 ヒメがパタパタと小走りで駆けて行って、カウンターに両手をつけたっす。

 僕たちも苦笑しながら近づいて、ダリルとハニハに帰宅が遅れた事情を説明しましたね。

 その際、イヨがおみやげのメラメラクッキーを二つ渡しました。

 ダリルとハニハがお礼を言って受け取りましたね。

 そして二人は話をふんふんと聞きました。

 ダリル顔をしかめて言ったっす。

「そいつは大変だったなー。ヴァルハラと戦ったのか。この大陸で一番でかい傭兵団だな」

「ヴァルハラ、私も聞いたことがありますね」

 ハニハが眉をひそめます。

 ヒメが顔を険しくします。

「もうヴァルハラには会いたく無いニャンよ~」

「本当ですね、天使さま」

 恭しいレドナーの声。

 ダリルは楽観的な表情をして言います。

「まっ、この町にいりゃあ安全だろう。なんて言ったって、勇者の娘のミルフィさまがいる町だからな」

「うんうん、その通りだと思います」

 ハニハも頷いています。

 イヨが顔を青くして言ったっす。

「そうだと良いけど」

「どうした?」

 ダリルが両腕を組んで心配そうな顔になりましたね。

 イヨは困った顔をしています。

「昔から知っている人が、ヴァルハラの団員にいたんです」

「誰だ?」

「ダリルさん、ギニースって覚えてますか?」

「ああ、あのマーシャ村の元地主のぼんぼんな。……は? まさかあいつがヴァルハラに!?」

「ええ、そうなんです」

 イヨはげんなりとしていますね。

 ダリルは苦笑いしたっす。

「大丈夫だろ? あのぼんぼんに戦いのセンスがあるなんて話は、聞いたことねーからなあ」

「それはそうなんですが……」

 ダリルはイヨの肩にぽんと手を置きました。

「ま、面倒ごとに巻き込まれるのも傭兵の仕事のうちってな。傭兵やってりゃあ、仕方ねーこともあるさ。それにお前ら、聞いた話に寄るとヒーリオを殺しちまったんだってな」

 レドナーが表情をびくつかせましたね。

 実際手にかけたのは彼でした。

 僕は頷いて言います。

「闘技祭だから、仕方が無かったんです」

「そう。仕方が無いんだ。傭兵やってりゃあ人を殺すこともある。当然誰かの恨みを買うこともある。何なら復讐もされる。それが嫌なら傭兵をやめちまえって話だ……とまあ、さて。お前ら、闘技祭では一回戦を勝ったんだってな。ナザクたちから聞いたぞ」

「優勝したニャンよ~」

 ヒメが満面の笑みを浮かべたっす。

「優勝? そりゃあ聞いてねーな。おう、すげーじゃねーか。お前ら、おめでとさん!」

「お、おめでとうございます!」

 ダリルとハニハが小さな拍手をくれましたね。

 僕たちは照れたように笑ったっす。

 今更ながらですが、優勝の実感が沸いてきました。

 僕たちは少しずつレベルアップしているようです。

 ダリルが胸の前で右手を開きました。

「という事はお前ら、イフリートさまから火の力の恩恵をもらえたのか?」

「んにゃん! もらえたニャンよ~」

 嬉しそうなヒメの表情。

 僕たちも頷きました。

「そいつは良かったなあ! お前ら、強くなったんだな」とダリル。

「す、凄いですね!」とハニハ。

「まだまだこれから」

 イヨが口角を上げて微笑しました。

「よーし、ちょっと待ってろよ」

 ダリルがカウンターの奥の部屋に引っ込み、すぐにまた出てきましたね。

 四つの新しい傭兵バッヂがその両手にありました。

 剣の模様のついたバッヂなのですが、小さな星マークがついています。

 ダリルが説明をくれたっす。

「この小さな星が増えるごとに、傭兵ランクは上がるってことだ。レドナーはCランクになったので星が二つ。テツトとイヨとヒメの嬢ちゃんはDランクになったから星が一つだ。さあ、前の傭兵バッヂと交換だ」

「ありがとうございます」

 イヨが言って、服の裾につけてある傭兵バッヂを外しましたね。

 それを新しいバッヂに交換し、また服の裾につけます。

 他の三人もそれぞれお礼を言って、自分の服に新しいバッヂをつけたっす。

「よし、お前らにはこれからはさらにランクの高い仕事を請けさせてやる。どうだい? 今日は仕事をやるかい?」

 イヨが顔の前で右手を振りましたね。

「今日は休む」

「へとへとニャンよ~」

 ヒメはへばっているようです。

 ダリルはニカッと笑って、右手で顎髭をつまみました。

「それじゃあ明日からまた仕事ができるように、ゆっくり休むこったな。狼車とスティナウルフはこっちで片付けておくからな。あ、それと、ナザクたちには俺からよーく言っておいたから、多分大丈夫だ。気を付けて帰れよ!」

 ナザクは僕たちがヒーリオを殺したことと、ベンの腕を切ったことを恨んでいるっす。

 ダリルに言われたからと言って、怨恨は消えるのでしょうか?

 それは無いですね。

「ダリル、ハニハ、バイバイニャーン!」

 ヒメがぴょんと右手をあげます。

「おう、じゃあな、ヒメの嬢ちゃん」とダリル。

「ま、また明日です」とハニハ。

 僕たちはダリルとハニハに別れを告げて、ギルドの外に出ましたね。

「よし、それじゃあ天使さま、俺は帰ります」

 レドナーがそう言ったところで、イヨが引き留めました。

「待って」

「え?」

 怪訝そうなレドナーの顔と声。

 イヨの両目が計算高く光ります。

「貴方からまだ旅の道中の食糧費を払ってもらってない」

「あ、あー、そうだったな。いくらだ?」

 レドナーがカバンから財布を取り出しましたね。

 イヨは細かく計算していたようで、

「8千562ガリュよ」

「じゃあ一万ガリュで」

 レドナーが一万ガリュ札を差し出します。

 イヨは首を振りましたね。

「おつりの小銭はない」

「要らねーって。おつりは料理の手間賃ってことにしといてくれや」

「そう」

 イヨが一万ガリュ札を受け取ります。

「よし。それじゃーな」

 レドナーが去って行こうと右手を上げるのですが。

 イヨがまた引き留めました。

「待ってってば」

 イヨがカバンの中から三つの本を取り出します。

 それは闘技祭で敵を倒した時に入手したスキル書でした。

「あ、そーいや俺も」

 レドナーもカバンから一冊のスキル書を取り出します。

 全部で四冊、僕たちはスキルのタイトルを読みました。


 サンダーボルト。

 フリージングカッター。

 力溜め。

 ヒール。


 どれもDランクのスキルのようでした。

 イヨが人差し指を立てたっす。

「誰がどれをもらうか、今から話し合って決める」

「あたしはヒールニャーン」

 ヒメがヒールのスキル書に手を伸ばします。

 他に誰もヒールを取ろうとはしませんでした。

「もらって良いかニャン?」

「いいよ、ヒメちゃん」

 イヨが言って、ヒメが習得を実行します。

「習得だニャーン!」

 茶色い光に包まれてヒールのスキル書が消えましたね。

 ヒメがヒールを覚えたっす。

 これでチロリンヒールは卒業ですね。

 レドナーがサンダーボルトに手を伸ばしました。

「俺はこれが良い」

「じゃあ僕はこれかな」

 フリージングカッターに手を置く僕。

 イヨは満足げに頷きました。

 彼女は最後に残った力溜めのスキル書を持って、ガゼルの元へと持って行きます。

「ガゼル、ご褒美。スキル書よ」

 嬉しそうにガゼルが本をくわえたっす。

(そうか! ありがたい! 習得!)

 ガゼルが力溜めを覚えましたね。

 それは一生懸命の一つ上のランクのスキルでした。

 辞典で見たことがありますね。

 だけどこれではイヨのぶんのスキル書が無いっす。

 レドナーはみんなに挨拶し、今度こそ歩いて帰って行きました。

 僕はイヨに尋ねます。

「良かったの? イヨはスキルを覚えなくって」

「だって四冊しか無かったし、それに」

 イヨがにんまりと微笑みましたね。

 両手を水平に広げました。

「私、どうしても欲しいスキルがあるの。これからスキル書屋さんに行って買う」

「あ、買うんですか」

「うん。ダメ?」

 イヨに上目遣いで見られるとですね。

 何でも許してあげたくなっちゃいます。

「良いけど、何を買うの?」

「プチバリアとカウンターを買うの」

 イヨの瞳が意味ありげに揺れていますね。

 プチバリアとカウンターで、何かの合成スキルが出来るんでしょうか?

 イヨが人差し指を立てて、にんまりと微笑んだっす。

「あの後、イフリートさまから、教えてもらったの」

 それはなんと、本当に合成スキルの情報でした。

 リフレクトバリアだそうです。

 それを聞き、その合成スキルの必要性に僕は納得したっす。

 リフレクトバリアがあれば、魔法スキルをはね返せますね。

 ふと、疑問が思い浮かびました。

 スキル書屋に行くんだったら、先ほど南門から町に入った時に寄れば良かったんじゃないですかね。

 その方が時間の短縮になるはずです。

 それを僕がイヨに言うと、

「ごめん、疲れて忘れてたの」

 はにかんだ笑顔をくれました。

 そんな笑顔を見るとですよ。

 僕は心がキュンとします。

 ナイスプリティーです。

 僕は答えました。

「そっか。それならしょうがないね」

 そして僕たちは町の南区へと巡行狼車を利用して向かいました。

 途中、テッセリンマジック店にも寄りましたね。

 おみやげを渡すためでした。

 ティルルとクラが笑顔でお礼を言ってくれたっす。

 新しく作成したマジックアイテムの話をティルルがしようとしていましたが、長話になると悪いので、早々とお店を後にします。

 三人とも疲れていますからね。

 次にスキル書屋に行き、スキル書の、プチバリアを二冊、カウンターを一冊買いました。

 ちなみに以前イヨはプチバリアを一冊溜めており持っています。

 三冊を使って進化させることができました。

 イヨがトライアングルバリアとカウンターを覚えましたね。

 また僕たちは巡行狼車に乗り、やっとアパートに帰宅しました。

 ミルフィとジャスティンとルルにおみやげを届けていませんが、後日でも大丈夫でしょう。

 僕たちはイヨの入れてくれた紅茶を飲み、一息ついたのでした。

 やっぱり自宅が一番休まりますね。


                                     


ブックマークとレビューといただきました。ありがとうございます。励みになりました!

これで五巻が終わりです。

みな様、今回もお付き合いありがとうございました!

六巻はまだ製作途中であり、次の投稿までお時間をいただきます。

8月か9月にはお披露目できればいいな、と思っています。

投稿が近くなったら、活動報告にてアナウンスさせていただきます。

重ねて、今回もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一段落ですね。 お疲れ様でした(>_<)
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