5-19 慣習
その日の夜のこと。
僕たちは約束通り、村人からイフリートを見つけた報酬の50万ガリュをいただきましたね。
それをルピアたちと半分に分けることになりました。
ルピアはまだベッドから起き上がれないようなので、ネモに渡しましたね。
さらに、ガゼルも合わせて5人で戦ったので村人から5万ガリュをもらったっす。
とは言っても命がけだったので、このくらいの報酬では割に合わないと思いました。
愚痴をこぼしても仕方ありませんね。
その日の夕食、宿屋の料理人たちは腕をふるって料理を作ってくれました。
なんと無料でした。
村からの感謝の気持ちなのだと思います。
僕たちは前と同じように前から二番目の廊下側のテーブルの席に腰を下ろしていました。
ガゼルは入院中なのでいないですね。
ただ飯ということで、肉料理をガツンと注文します。
「ルビールなんてお酒がある! テツト、飲もう」
イヨが笑顔で言ったっす。
びっくりして僕が聞きます。
「お酒?」
メニューをめくるとそれは高級酒でした。
「うん」
イヨが笑顔で首肯したっす。
ヒメが万歳をして頷きます。
「今日は酔っぱらうまで飲むニャーン」
「それは良いですね。天使さま」
レドナーが同意しているっす。
こんな日ぐらい、お酒を飲んでも良いですよね。
僕も頷きました。
「分かった」
僕たちが注文すると、すぐに樽ジョッキが運ばれてきます。
イヨはごくごくと飲んで、プフーと息をつきました。
「それにしても、ひどい事件だった」
「本当だね」
僕はルビールを舐めるようにちびりと飲みます。
イヨが口角をつりあげて、両目をくりくりとさせました。
「テツト、今日はいっぱい飲んで良いわ」
「そ、そんなに飲んだら、泥酔しちゃいますよ」
「大丈夫、私が面倒見てあげるから」
イヨが自分の椅子を動かして、僕の体に体を密着させます。
僕の腕に、彼女の胸が当たっていますね。
そういうことされるとですよ。
顔が火照っちゃいますね。
イヨが好きです。
「ほら、テツト、飲んで」
「あ、はい」
「一気、一気」
「一気飲みですか!?」
「うんうん、一気」
僕は樽ジョッキの取っ手を掴み、覚悟を決めて一気飲みしました。
げふうとゲップがこぼれます。
「良い飲みっぷり」
イヨが両手のひらを合わせて微笑しましたね。
いやー。
可愛いっす。
キスしたいですね。
でも、できないんですよねー。
僕、チキンなんで。
ダメ男っす。
テーブルの対面では、ヒメとレドナーが喋っています。
ヒメが説教するように、何か話していますね。
「レドナーよ。今日はお前に、オスたるもののふるまい方について教えてやるニャン」
「天使さま、オスのふるまい方、ですか?」
「そうニャンよ~。まずオスは、一人のメスを決めたら、他のメスにデレデレしたらいけないニャンよ」
「は、はい」
「分かってるニャンか?」
「わ、分かっているつもりです」
「分かっていないから言っているだニャン!」
ヒメがテーブルを手で叩いて、それから樽ジョッキをゴクゴクとあおります。
それを聞いたイヨと僕は笑ってしまいました。
ヨナとイチャイチャし過ぎたレドナーの自業自得ですね。
因果応報とも言うのでしょうか。
僕は食事に手をつけます。
ふと、イヨが僕の太ももに左手を置きました。
「い、イヨ?」
「うふふ、テツト、食べさせてあげる。はい、あーん」
フォークで肉の切れ端をすくって、僕の口に運んでくれるイヨ。
「あ、あーん?」
「はい、あーん」
「あーん」
僕はむしゃむしゃ食べたっす。
イヨが僕の太ももを撫でました。
僕はくすぐったくて、声を上ずらせます。
「うふ、テツトカワイイ」
「い、イヨには敵わないっすよ~」
「はい、あーん」
「あ、あーん」
また食べさせてもらっちゃいました。
美味しいです。
それに、何だかテンションが上がってきます。
男として勇気づけられた気分でした。
僕はルビールをおかわりして、また運ばれてきた樽ジョッキを半分まで一気に飲みます。
「良い飲みっぷり」
イヨが飛び切りの笑顔をくれたっす。
少し伸びて来た首筋までの黒髪。
真っ白い肌に。
若干のつり目。
薄ピンクの唇。
彼女が僕の太もものきわどいところまで撫でます。
僕は。
僕は右手をイヨの肩に回したっす。
「あん、テツト」
「だ、ダメ?」
「ううん、いいよ?」
「いい?」
「うん。私も、そうして欲しい」
僕とイヨの目と目が見つめ合います。
若干潤んでいる彼女の瞳。
上気している赤い頬。
イヨが両目をつむり、唇を突き出しました。
やばいっす。
これって。
キスしてってことですよね?
僕はもう、酔いなのか火照りなのか分からないんですが、良い気分になって、イヨの唇に自分の唇をあてがいました。
彼女が舌を出してきます。
僕も舌を出しました。
お互いの舌をちゅっちゅと吸いあい、少しして唇を離します。
「うふふふ」
イヨが蠱惑的な笑顔を浮かべます。
可愛いったらないっす。
僕は彼女の細い肩に腕を回したまま、左手で樽ジョッキをあおりました。
もう僕たちに言葉は要らなかったですね。
僕は時折、彼女の胸に触れることもありました。
イヨは顔を赤らめて笑い、僕の太ももを撫でます。
何でも許しちゃってくれるみたいですね。
イヨがたまらなく愛おしくなり、イヨの顔の色んなところにキスをしました。
イヨは色っぽく笑ったり、時折じれったそうな顔をします。
イチャイチャするって言うのはこういうことを言うのでしょうか。
多分そうだと思います。
体がポカポカとして。
ドキドキとして。
楽しいっす。
神です。
お互いが樽ジョッキを三つ空けたときのことでした。
イヨが言いましたね。
「ねえ、テツト。二階のバルコニーに行こう」
「良いですよ」
イヨと僕は椅子から立ち上がります。
僕の足がちょっとふらつきました。
酔っぱらっちゃったみたいです。
「テツト、酔った?」
「大丈夫す」
僕はしっかりと立って頷きました。
そして、レドナーに説教をするヒメを置いて、そっと食堂を出ました。
イヨが僕の右腕にべっとりと抱き着いています。
うれしいですねー。
階段を上がり、部屋の扉とは反対側にあるバルコニーに出ました。
頭上には満天の星があり、とても綺麗な光景です。
「テツト、もっとあっちに行こう」
「あ、はい」
イヨは左端の角に行きたいようでした。
僕は頷いて、彼女の行きたいところに移動します
ここなら、誰かが廊下を通りかかっても僕たちの姿は見えませんね。
イヨがユメヒツジ製のタイツを脱いでベランダにかけます。
ドキドキ。
真っ白い生足が見えましたね。
今日のイヨは、すごくエッチでした。
それから彼女は、僕に色んな要求をしましたね。
僕の両腕に抱かれながら、体をもたれかけてきます。
スキンシップをしながら、色っぽく甘えてきました。
僕は彼女を触ったり、匂いを嗅いだり、色々しました。
エッチまではしません。
場所が場所ですからね。
ですがそれに近い行為を、イヨは僕にしてくれました。
どうオブラートに言ったら良いのでしょうか?
男の肉欲を、吸い取ってくれましたね。
すごく恥ずかしかったっす。
それ以上に気持ち良かったです。
僕は何と言うか。
恋人がいるという幸福を、骨の髄まで染みて理解した気分でした。
そして新たに発見したことがあります。
こんな間近でイヨの体臭を嗅いだのは初めてだったのですが。
すごく良い香りでした。
それは誰にとっても良い匂いという訳ではないと思います。
僕だけにピッタリな、性的な興奮を高める香りでした。
僕があまりにも彼女の匂いを嗅ぐので、そのうちイヨが言いましたね。
「ねえ、テツト」
「何?」
「私の匂い、好きなの?」
「あ、そ、そうみたいです」
「じゃ、じゃあさ、いる?」
「何をですか?」
イヨが履いているリボンのついたショーツを脱ぎました。
それを恥ずかしそうに丸めて、僕に渡そうとします。
「私のこれ、いる?」
イヨの顔が真っ赤です。
僕の顔も真っ赤だったと思うっす。
「そ、それって」
「前に約束したよね。私のパンティをあげるって」
「はい、しましたね」
「このロナード王国では、女の子はね、好きな男の子に、脱ぎたてのパンティをあげるって慣習があるの」
「そうなんですか」
「うん。テツト」
「はい」
「私のパンティを、もらってくれますか?」
「頂きます!」
僕は満面の笑顔で頷いたっす。
彼女からパンティを受け取ります。
イヨが僕の耳に唇を寄せて言いましたね。
「うふふ、テツト、後で感想を聞かせてね」
「はい!」
僕は嬉しくてたまらない気分です。
それからも、僕とイヨの時間は続きましたね。
イヨ、大好きです。