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1-9 イヨとの決闘


 家に帰ると昼食を食べ。

 いま僕は、イノシシの解体をしているっす。

 血抜きはすでに終えていて、専用の包丁で肉を切り分けます。

 水の入ったバケツに内蔵の部位を入れていくんですが。

 いやー、かなり手強いっす。

 腸が長いったらありゃしません。

 以前やり方はイヨに習ったんですがね。

 匂いもかなりします。

 これを嗅ぐとですね。

 夕飯の食欲がマジ無くなるっす。

 慣れれば、そうでも無いんでしょうが。

 日向ではヒメがゴロゴロとしています。

 大きな石に座って、のんきなもんです。

 僕はため息ひとつ。

 解体が終わりました。

 ん?

 あれ。

 玄関の方からイヨが歩いてきました。

 畑仕事に行ったと思ったんですがね。

 どうしたんでしょう。

 両手に剣と盾を持っていますね。

 イヨが目の前で立ち止まりました。

「テツトくん、終わった?」

 僕は笑顔で答えます。

「はい、やっと何とか」

 最近はイヨとしゃべるのにも慣れてきました。

 とは言っても、世間話は続きませんが。

 ヒメが立ち上がり、こちらに歩いてきます。

 パタパタ。

「テツト、終わったかニャーン!」

 ヒメが体をすりすりと寄せてきます。

 僕は両手を上げました。

「ヒメ、まだ両手が汚いから」

「あ、そうニャン?」

 ヒメが体を離します。

 僕は綺麗な水の入ったバケツで手を洗いました。

 イヨが口を開いたっす。

「明日、三人で町へ行く」

 ヒメの興奮したような声。

「ついに町だニャーン」

「うん」

 イヨは頷いていますね。

 僕は両手を綺麗にして振り向きました。

「もう村を出るんですか?」

「ううん」

 イヨは首を振りました。

 続けて言います。

「村を出る前にテツトくんの、仕事を探す」

「なるほどニャン!」

「仕事ですか」

 僕はまだ、どんな職業に就くか決めていないっす。

 イヨが言いました。

「三人で、傭兵をやろう」

「傭兵をやるニャン!」

 ヒメが左手を腰に当てて右手を突き上げます。

 僕は顔をひきつらせて、

「傭兵って、人を殺すんですよね?」

「うん」

「僕にできるかどうか」

「出来る、テツトくんの強さなら」

 イヨは笑顔で頷きましたね。

 その素敵な顔を見るとですね。

 僕は顎を引くしか無いっす。

「分かりました」

「そう」

 イヨは満足そうに頷きました。

 そして言います。

「ちょっと、こっちに来て」

「あ、はい」

 何をするんですかね?

 僕はイヨに着いていきました。

「何を始めるニャン?」

 後ろからヒメが追いかけてきます。

 二人で一定の距離をとり。

 イヨが剣と盾を構えます。

 僕は両手を開きました。

「ど、どうしたんですか?」

「テツトくん、構えて」

「か、構えてって?」

「勝負よ」

 風が吹きましたね。

 イヨの黒いスカートがひらひらと揺れます。

 僕はよく分からないっす。

「な、なんで?」

「ふっ」

 イヨが走り出しました。

 僕に向けて剣を振りかぶります。

 危ない!

 僕は両手を上げました。

 手が銀に染まります。

 振りかぶる剣を両手で弾きました。

 カーンッ。

「イヨさん?」

「問答無用!」

 剣が右から左からと襲って来ます。

 僕は両手で弾き、

 カーンッ、カーンッ。

「イヨ、やめるニャン!」

 ヒメが止めに入りました。

 イヨの腹に抱き着きます。

「ヒメちゃん、どいてて」

「どかないニャン! 喧嘩はダメニャン!」

「これは、傭兵になれるかどうかを試す試験なの」

「試験ニャン?」

「そう」

 イヨがまた剣を構えます。

 僕は両手を掲げましたね。

 そして言います。

「そう言うことなら、全力で行きますよ」

 両足で軽くジャンプをします。

「来い!」

 イヨが声を張ります。

「そ、そう言うことニャンなら」

 ヒメがイヨから両手を離しました。

「せいっ!」

 イヨが走り出します。

 右手の剣を振りかぶり。

 僕はその刀身を掴んで足払いをかけました。

「わっ」

 イヨが斜めに倒れました。

 白いショーツがちらり。

 見ちゃいました。

 背中から倒れるイヨ。

 僕は押さえ込みます。

 上四方固め。

 イヨの上半身に逆から抱き着くような格好です。

 これ。

 かなり興奮します。

「くっ、このっ!」

 イヨが抜け出そうとして四肢をばたつかせるんですが。

 離さないっす。

 胸がプニプニ。

 やがて、イヨは力を抜きました。

「テツトくん、私の負けだわ」

 僕は立ち上がります。

「ありがとうございました」

 柔道の試合のように礼をしました。

「テツトの勝ちだニャーン」

 ヒメが飛び跳ねます。

 そして。

 リアカーにイノシシの肉や内臓の入ったバケツを積みます。

 自分たちで食べるぶんは違うバケツに入れて、家に運びました。

 その後三人で、村の大衆食堂を目指します。

売るためです。

 もちろんリアカーを引くのは僕です。

 リアカーは足が四つあり、引くタイプでした。

 イヨが言ったっす。

「テツトくんなら、傭兵で名を上げれるわ」

「テツトなら余裕ニャーン」

「そうですかね」

 僕の顔が赤くなります。

「うん。ダブルSも夢じゃないかも」

「ダブルSニャン?」

「ダブルSって、何ですか?」

「傭兵ランクのこと」

「ダブルSは、どれくらい高いニャンか?」

「一番高いんですか?」

「……一番上は、ダブルL」

「テツト、ダブルLになるニャーン」

「ダブルLは、行けますかね」

「この国の人間に、ダブルLはいない」

 イヨがクスリと笑いました。

 その笑顔を見て、僕は胸がドキドキします。

 口には出せませんが。

 さっき見た彼女の白いショーツが頭から離れません。

 体が熱いっす。

「テツト、ダブルLになるニャーン」

 ヒメがのんきな声で言いました。

「なれるかな」

 僕は苦笑しましたね。

「テツトくんなら、なれるかも」

「テツトは最強だニャン」

「そうかな」

「明日、町に行ったら、傭兵になるための試験を受けよう」

「さっきのが、試験じゃないニャンか?」

「やっぱり、試験があるんですか?」

 イヨがヒメの頭を撫でます。

「さっきのは私の試験」

「そうだったニャンか」

「だろうね」

「明日、私とテツトくんで、試験を受ける」

「あたしはどうすれば良いニャンか?」

「ヒメは……」

 僕は首を振ったっす。

「ヒメちゃんは、強くなったら、試験を受けようね」

「強くなるニャーン」

「そうだね」

 そして。

 食堂につきました。

 イヨが話を通してくれて、肉を売ります。

 量が多いので、かなり値引きしてるみたいです。

 お金を手に入れて、家に帰ることにしました。

 また三人で肩を並べて歩きます。


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