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5-18 救出



 僕たちは急いで山道を下っていたっす。

 ギニースの話からすると、今頃ヴァルハラの傭兵が村を襲撃しているということでした。

 後ろには鎖をほどいたイフリートがいて、浮遊しながら着いてきていますね。

 イフリートが言います。

「テツト、テツトという男よ」

「何ですか?」

 僕は一瞬後ろを振り返ります。

 しかしすぐに前を向きました。

 斜面に足を滑らせて怪我でもしたら大変っす。

「前を向いたままで良い。聞け。俺を救ってくれた恩返しだ。連携スキルの名前とその素材スキルを教えてやる」

 イフリートが何か言っていますね。

 僕は山を下るのに無我夢中で、言葉が頭に入らなかったっす。

 しかしイヨはしっかりと聞いたようで、

「イフリートさま、それって本当なの?」

「ああ」

「教えてくださって、ありがとうございます」

「良い。だが、ぶっつけ本番ですぐには使えないぞ」

 それからも僕らは走ります。

 崖を飛び降りるようにジャンプして、林を通り抜け、やがて細くなってきた道を駆け抜けます。

 祭壇のある地面に出ました。

 そこには村人が誰もいませんでしたね。

 坂を二つ下って、宿屋のある広場へと向かいます。

 その中心地には村人が大勢集まっていて、先頭には黄土色のローブを着た村長がいました。

 これからみんなで戦地に赴くような様子です。

 村人の何人かがこちらに気付きました。

「イフリートさまだ!」

「イフリートさまがいるぞ!」

 こちらに大勢が駆け寄って来ます。

 僕は村人の一人に尋ねました。

「黒い外套の連中に、村人は襲われていませんか?」

「いま、村の入口で戦闘が起こっている!」と村人の男。

「つっ、分かりました」

 僕は思わず舌打ちをして、また走り出します。

 イヨとヒメとレドナーも着いてきました。

 イフリートはその場に残るようです。

「待って、ちょっと待ってニャン!」

 ヒメの走り方が、左足をかばっているような格好ですね。

 山を下る時に、足をくじいたのかもしれません。

 それでも止まるわけにはいかないっす。

「天使さま、もうすぐです」

 レドナーが励ましていました。

 なだらかな坂を下り、人々が争っている光景が見えました。

 なんとガゼルもいるっす!

 入院中の身でありながら、戦闘に参加したようです。

 そして今、褐色の肌の男が、地面に転がっているガゼルに左の拳を振り下ろそうとしていました。

 やばいっす!

 僕は全速力でダッシュして、唱えます。

「炸裂玉!」

 持っている玉を、褐色の肌の男に向けて投げつけました。

 ズゴオンッ。

 突風が巻き起こり、褐色の肌の男が回避のために後退しましたね。

 その隣では白いスーツの男が、裸の女性の首を掴み、宙づりにしています。

 上下の下着を脱がされたのか、布が地面に落ちていますね。

 裸の女性は誰でしょうか?

 ……。

 茶髪のショートカットに、背の高めの女性。

 ミリーっす!

「この野郎、許さねえぜ!」

 レドナーがダッシュしていきます。

「なんであーるか? 今良いところであったのに、また救助隊が来たのであーる」

 白いスーツの男が掴んでいたミリーの首を離しました。

 ドサッと地面に崩れ落ちるミリー。

 僕は全身が怒りに粟立つのを感じて、首に下げてある理性上昇のネックレスを握りました。

 落ち着け。

 冷静になるんだ。

 冷静に!

 そうじゃないと勝てない。

 見回すと、敵は四人いますね。

 敵の一人、褐色の肌の男は右腕を失っているようです。

 機械のような体ですね。

 さしずめ、SFゲームに出てくるサイボーグと言った感じです。

 もう一人は白いスーツの男、僕と同じく鉄拳のスキルが発動しています。

 その後方には血まみれになった弓使いのゴスロリ服の少女と、ロッドを持った修道服の女がいるっす。

「癒しの風」と修道服の女。

「ありがとうデス」とゴスロリ服の少女、緑の光に包まれてその体の傷が回復していました。

 誰から倒せば良いですかね?

「テツト! 行くぜ!」

 レドナーが合図しました。

 僕は彼の言いたいことを瞬時に理解して返事をしたっす。

 闘技祭と同じパターンでした。

「分かった!」

「どおおりゃあああああああ!」

 レドナーが白いスーツの男に向けて前宙し、足から突っ込んでいきます。

「なんと!?」

 白いスーツの男は避けるのですが、それも僕たちの作戦のうちっす。

 レドナーは敵の後方に着地して振り向きます。

 相手を挟み撃ちにする構図になりました。

 その間にもヒメがガゼルに近寄り、回復スキルを唱えていますね。

「チロリンヒールニャン! チロリンヒールニャン!」

「ヒ、ヒメか、来るのが遅いぞ!」

 ガゼルはゆっくりと立ち上がります。

 まだ戦えるようです。

 ガゼルがヒメに言いました。

「ヒメ、相手はリフレクトバリアを持っている。魔法は考えて撃て」

「んにゃん?」

 首をかしげているヒメ。

 イヨが僕の前に出ました。

「テツト!」

「分かった!」

 いつもの連携を意識します。

 しかし相手は四人もいますね。

 いつものパターン通りに行く保障は無いっす。

 白いスーツの男が額に汗を流していました。

「おいデオルゴ! 吾輩が前をやるのであーる」

「分かった。では俺が後ろをやる」

「私を忘れて欲しく無いデス」

 服が血まみれのゴスロリ服の少女が弓に矢をつがえます。

 修道服の女は迷っているような顔つきで表情を硬くしており、動かずに何もしません。

 ロッドを持っているところからして魔法使いなのだと思います。

 その顔はイヨを注視していますね。

 イヨを警戒しているような雰囲気です。

 レドナーが唱えました。

「ライトニングペイン!」

 それはミルフィから教えてもらった合成スキルでした。

 素材スキルはサンダーショックと飛燕斬と聞いています。

 レドナーは剣を突き上げたっす。

 その剣に雷が落ちて、ズダンッとけたたましい音を立てました。

 レドナーの体が雷の力を吸収し、青く輝いていますね。

 青い稲妻のような速さで、褐色の男に何度も斬りかかります。

「なっ、何だ? こ、この! この! この野郎! ぶああぁぁぁぁああああ!」

「雑魚雑魚雑庫雑魚、雑魚なんだよ! でかい図体しやがって、チン◯はどうせ小せえんだろう? お前、俺の株を上げる糧となれ!」

 レドナーの青く光る剣が、褐色の肌の男を切り刻んでいきます。

 やっぱりレドナーは強いっす。

 凄まじい頼もしさです。

 以前よりもその強さには磨きがかかっていますね。

 褐色の肌の男は左腕を無くし、右足を無くし、左足も無くし、地面に倒れました。

「ぐっ、すまない、俺は離脱する!」

 褐色の肌の男が叫んだっす。

 首から上が胴体から離れて、ロケットのように頭が空へと飛んで行きました。

 驚きましたね。

 やはりサイボーグだったようです。

 殺すことはできませんでしたが、敵の数が一人減ったっす。

 イヨはゴスロリ服の少女の弓を躱すのに必死でした。

 矢を盾で防ぎ、見切り三秒のスキルを何度も使って避けています。

 僕は白いスーツの男と戦っていたっす。

 相手は地面を滑るような動きでステップを踏み、攻撃を仕掛けてきています。

 柔道をやっていた僕にとって、その動きは読みやすいですね。

 なぜかと言うと、相手の動き方は派手ですが、一度に地面を滑る距離が一定だからです。

 お互いの拳を交差させながら、僕は一発ずつ確実にヒットを当てました。

 昨日、イフリートからもらった火の力の恩恵のおかげで、腕力が格段に上がっているっす。

 与えるダメージが飛躍的に上がっていますね。

 やがて白いスーツの男が口から血を吐きます。

「がはっ!」

 内臓にダメージが出たようですね。

「これは、撤退が良いかもしれないのであーる」

 白いスーツの男が弱気になって言いました。

 逃げ腰です。

 逃がさないっす。

 僕は軽くジャンプしながら肉薄し、コンスタントにパンチを叩きこみます。

「ぐうっ」

 攻撃を受けるたびに白いスーツの男のスピードが落ちています。

 長引けばこちらの有利です。

「甘いデス!」

 ふと、ゴスロリ服の少女が標的を変えて、僕にピントを合わせました。

 ……なっ!

 僕がはらはら回避と唱えようとした瞬間でした。

「ウインドブラスト!」

 それまで離れて様子をうかがっていたネモが唱えたっす。

 彼女の存在は影が薄いせいか、味方の僕でさえもいることを忘れていました。

 かまいたちの大渦がゴスロリ服の少女を襲います。

「ウアアアァァァァアアアアア!」

 金髪ツインテールが悲鳴を上げました。

 おびただしく噴出する血しぶき。

 その顔は真っ青ですね。

 血を流しすぎたのでしょうか?

「撤退なのだ!」

 ついに白のスーツが逃亡を決断しました。

 ゴスロリ服の少女に近寄り、その腹を引っ掴んで抱えて走り出します。

 その逃げ足の速さは凄まじく、追いかける気力を無くすほどでした。

 残された修道服の女。

 まるで世間話をするように、胸元に右手を掲げて尋ねてきます。

「あなた、リフレクトバリアを持っていますよね?」

 彼女はイヨを見ていますね。

 ちなみにイヨはリフレクトバリアのスキルを覚えていないっす。

 しかし、分かりました。

 イヨは盾持ちの剣士です。

 修道服の女は、イヨがリフレクトバリアを持っているかもしれないと警戒して、魔法を撃たないでいたようです。

 イヨの唇に笑み。

「さあ、どうかしら?」

 修道服の女が悲しげに言います。

「私は足が遅いので、逃げても逃げきれないと思います」

「だから何?」とイヨ。

「だから、私はあなたがリフレクトバリアを持っていないことに、賭けることにします」

 修道服の女が両手を開きました。

「さあ、あなたに幸福なる安息を与えましょう。エクスプロージョン!」

「プチバリア!」

 イヨの盾に現れるピンク色の小さなバリア、それを上方に掲げます。

 炎の柱とプチバリアがぶつかり、大爆発が起こりました。

 ズドオンッ!

 エクスプロージョンの勢いが凄まじいっす。

 イヨが吹き飛ばされそうでした。

 イヨが剣を捨てて、両手で盾を握り、地面に足を踏ん張ります。

「ぐううぅぅうう!」

 何とか耐えていますね。

 そして叫びます。

「テツト! みんな! やって!」

 イヨの後ろからガゼルが走って来ましたね。

「我の牙の錆にしてくれる!」

 右からは僕が、

「へっぽこパンチ!」

 左からはレドナーが、

「真空斬り!」

 斜め左からネモが、

「エアロストライク」

 さらに追い打ちでヒメが唱えました。

「猫鳴りスローニャン!」

 修道服の女はあきらめたのか、両手のひらを祈るように握り合わせました。

「これもまた、私にとっての安息なのでしょう」

 袋のネズミとなった修道服の女が多数の攻撃を受けてその場に崩れました。

 ぽんっと白い煙に包まれて、黒猫に変身します。

 傷まみれの黒猫が地面に転がりました。

 みんながぜーぜーと息をつきます。

 僕はミリーに近寄って、自分のレザージャケットを脱ぎ、その裸を隠すようにかけてあげたっす。

 僕はTシャツ姿になりましたね。

 ミリーの口元に手を当てると、まだ息をしています。

 他の味方たちもスキル書を落としていないことから、まだ生きていますね。

 レドナーが近づいてきて聞きました。

「おい、この女どうする?」

 黒猫の、修道服の女のことですね。

 僕は顔を厳しくしたっす。

「傭兵ギルドに突き出しましょう」

「それが良い」

 イヨが頷いています。

「チロリンヒールニャン、チロリンヒールニャン」

 チロリンチロリンと音がして、ヒメがミリーに回復魔法をかけてあげています。

 やがてミリーの目が開きました。

「え? あ……あた、し、助かった、のか?」

「死ぬところだったニャンよー」とヒメ。

 ルピアのところにはネモが行っており、やはり回復魔法をかけてあげていますね。

「ヒール、ヒール、ヒール」

 キラリンと音がしており、三回も唱えていました。

 ルピアの怪我は回復したようですが、意識はまだ戻らないようです。

 僕は辺りを見回しました。

 少し離れたところで、腹を押えてうずくまっている男がいます。

 矢が腹を貫通しているっす。

 ガゼルがその人の名前を教えてくれました。

 ゼツという名前の村人らしいです。

 今すぐ病院に連れて行った方が良いですね。

 僕はみんなに言いました。

「とりあえず、怪我人を病院に運ぼう」

「そうね」

 イヨが頷きます。

 またぽんっと白い煙に包まれて、黒猫が修道服の女に戻りました。

 地面に倒れています。

 気絶しているようです。

 そして僕たちは、怪我人であるルピアとミリー、修道服の女とゼツという名前の男を病院のある上の広場に運んだっす。

 なだらかな坂を登ると、待機していた村人たちが大勢いて手伝ってくれました。

 病院には回復スキルを持つ医者や村長、救護班が集まりましたね。

 全てが終わってみると、僕たちはへとへとになっていたっす。

 今日は大変でした。

 ちなみにガゼルの風邪と胃腸炎はまだ治っていないらしく、もう数日入院するようです。

 僕たちは宿屋を借りて、グランシヤランに留まることになったっす。

 それにしても、ですよ。

 ギニースにヴァルハラ。

 凶悪な存在がこれからも僕たちの前に現れるかもしれないっす。

 もっと修行して強くならないと。

 そう、強く思いましたね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] テツト達が間に合って良かったです。 強くなりましたねテツト達。 (>_<)
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