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5-17 入院中の出陣(ガゼル視点)



 病院の外が騒がしいな。

 我はごほっと一つ咳をして、ベッドから上半身を起こした。

 薬を飲んだおかげで、ずいぶんと体が楽になったようだ。

 だけどまだ咳が出る。

 テツトたちはまだ帰って来ないのか?

 ふと、外から助けを求める女性の大声がした。

「誰か! 誰か強いお方! 助けてくださいですー!」

 なんだ!?

 聞き覚えのある声だった。

 あの声はヨナとかいう女のものじゃないか?

 我はベッドから出て病室の扉をくぐる。

 通路を歩き、玄関から外に出た。

 そこにはやはりヨナがいて、誰かに矢を撃たれたのか脇腹を貫通している。

 我は驚きに目を見張った。

 この村に何かまずいことが起きているようだ。

 村人たちが駆け寄ってきて、口々に「ゼツさま、ゼツさま」「ゼツさま、お願いします」と呼びかけている。

 とんがりのニット帽をかぶった男がヨナから事情を聞き、表情を険しくしていた。

 この男はゼツという名前のようだ。

 村人から頼りにされているところからして、ゼツも村人だろう。

 そして強いのだろうと思う。

 彼がヨナに言う。

「傷は医者に見せろ。俺は敵を倒しに行く」

 右手にロッドを持ったゼツがなだらかな坂を下って行く。

 速足だった。

 我はその背中を追いかける。

 隣に並んだ。

「おいお前。何が起こっているか知らんが、我も共に戦う」

「お前、亜人か?」

 険しい顔をしているゼツ。

 我は首を振った。

「我はスティナウルフだ。今は人狼化している」

「そうか。敵に魔法使いがいたら、優先して狙え」

 ゼツの話し方は()いていた。

 しかし状況が状況だけに仕方なかろう。

 我は聞いた。

「魔法使い?」

「集団戦では、相手の魔法使いを無力化することが最優先。それができれば一気にこちらの優勢となる。お前は近接アタッカーだろう。だから魔法使いをやれ」

「わ、分かったが、ぐっ、ごほっ」

 咳が出て、我は痰を飲み込んだ。

 ゼツがこちらに顔も向けずに聞く。

「風邪か?」

「薬を飲んだが、まだ治らん」

「戦えるのか?」

「……分からん」

「死んでも知らんぞ」

「我は死ぬことなどない」

 歩いて行くと、村の入口前で争っている人間たちが見えた。

 ルピアが地面に転がっており、ミリーとネモがルピアを守るように立っている。

 四人の男女に取り囲まれていた。

「やばい!」

 我は焦って駆け出した。

 犬歯を噛み合わせて魔力を漲溢させる。

 全速力で走った。

 ミリーに肉薄している褐色の肌の男の胸にパンチを叩きこむ。

 ドンッと音がして、男が後退した。

 何だこの硬い体は?

 ゴスロリ服の少女が舌打ちをする。

「ちっ、救助隊が来たデス。それもそれも、こいつはモンスターデスカ?」

 呆れたようなゴスロリ服の少女の声。

 褐色の肌の男が胸を押さえている。

「パンチが重い。こいつは強いぞ。レビィ、気をつけろ」

「気を付けるも何も、私が本気を出せばイチコロナノデス!」

 レビィという名前らしい少女が弓に矢をつがえる。

 白いスーツの男も動いた。

「さあさあさあ、行ってみようではないか! 吾輩の必殺、インフェルノブローであーる」

 青い波動と炎に包まれる拳を振りかぶっている。

 くそっ、多勢に無勢だ。

 我は唱える。

「カウンター!」

 瞬間、白いスーツの男の胸に爪で引き裂いたような切り傷が入った。

「ぐぬうっ?」

 苦しげな声を上げている。

 我は白いスーツの男の後ろにワープするように着地した。

 今のがカウンターのスキル効果である。

 敵の面々を見回す。

 先ほど、ゼツは魔法使いをやれと言った。

 魔法使いはどいつだ?

「癒しの風!」

 ロッドを持っている修道服の女が唱えた。

 白いスーツの男が緑色の光に包まれて、胸の傷が治る。

 こいつだ!

 修道服の女が魔法使いだ。

 我は唱えた。

蛇這(じゃしゃ)の牙!」

 蛇が獲物に飛びつくような変則起動を描き、我は修道服の女に肉薄する。

 女の首を噛み切った。

 と思ったのだが、

「甘い!」

 褐色の肌の男が腕を割り込ませていた。

 我はその腕を噛む。

 あまりの硬さに噛むのをやめて後退した。

 なんだこいつの腕は?

 鉄で出来ているのか?

 しかも蛇這の牙の効果で毒にかかった様子がない。

 気づくと我は四人に取り囲まれていた。

「みなの者、この犬っころからやるのであーる」と白いスーツの男が笑っている。

「ドッグハンティングナノデス」とレビィ。

「さあ、モンスターよ。私が永久の眠りへと(いざな)いましょう」と修道服の女。

「一気にやるぞ」と褐色の肌の男。

 くそ。

 ゼツは何をしている!?

 そう思った瞬間だった。

「シューティングレイ」

 一筋の光線がこちらに射出される。

 ゼツの魔法スキルだった。

 瞬間、修道服の女が唱えた。

「リフレクトバリア」

 青いバリアが出現し、光線が跳ね返っていく。

 ゼツは横に跳んで躱した。

 くそったれ!

 これでは魔法スキルでダメージを与えられない。

 魔法使いを優先的に倒せとはそう言うことか!

 周りを見ると、ミリーがルピアを守るように立っている。

 ルピアは痛そうに、右手で左肩を押さえている。

 動けないようだ。

 ビクビクと痙攣しており、悶絶しているようにも見える。

 その近くにいるネモは、無表情で何を考えているのか分からない。

 とにかく、リフレクトバリアが邪魔だ!

 修道服の女を無力化しなければいけない。

 その時、ゼツが詠唱を始めた。

「俺の杖に集まれ火の精、彼の者の魔法法則をねじ曲げ、その物語に終止符を打とうではないか。ただ一撃の歪曲をこの杖にもらたらさんことを願う。開け、(ほむら)の穴」

 ……。

 黄緑色に光るゼツの杖。

 詠唱スキルのようだったが、何も起こらない。

 敵の四人はリフレクトバリアの後ろに移動して、ニヤニヤと笑っていた。

 ゼツは再び唱えた。

「フレアブラスト!」

 炎の閃光がこちらに目駆けて射出される。

 我は慌てて跳んで避けた。

 炎がリフレクトバリアと接触し、バリンッと音を立てて貫通した。

「なんだと!?」

 一番前に立っていた褐色の肌の男が驚きの声を上げ、両手を広げてフレアブラストをもろに浴びた。

 その身を(てい)して仲間を守ったようだ。

 体が焼け焦げて、ぶしゅーと煙を上げる。

 どうやら先ほどの詠唱スキルはリフレクトバリアを貫通するためのスキルだったらしい。

 今がチャンスだ。

 黙っていたネモも唱えた。

「ウインドブラスト!」

 かまいたちの大渦が敵を襲う。

「ちょ、ちょっと、ぬっわああぁぁああああ!」

 レビィの黒い服が切り刻まれて、体から血を流して倒れた。

 我は舌打ちをする。

 これではうかつに敵に近寄れん。

 近寄ったら味方の魔法スキルの巻き添えになるかもしれない。

 修道服の女が唱える。

「リフレクトバリア」

 またしても青いバリアが出現した。

 修道服の女がゼツを指さす。

「ヨミチさん、あの魔法使いを倒してくれますか?」

「任せろ。吾輩が一瞬にして肉塊に変えてやるのであーる」とヨミチという名前らしい白いスーツの男。

 ゼツに向かって地面を滑るようなステップで向かって行く。

 させるか!

 我は立ちはだかり、ヨミチに肉薄した。

「邪魔であーる」とヨミチ。

「行かせん!」我は拳を振った。

 お互いのパンチが交差し、お互いの体に拳がめり込む。

「ごふぅ!」

 ヨミチが唾を吐いた。

 我にダメージはそれほど無い。

 どうやらヨミチというこの男よりも、我の力の方が強いようだ。

 イフリートから火の力の恩恵を受けたおかげかもしれなかった。

 それに人狼化しているため戦闘力上昇効果が大きい。

 このまま仕留めてやる!

「コノオ! 身体がムチャクチャ痛いんデスケド!」

 血まみれのレビィが弓矢を構えている。

 彼女が唱えた。

「突風の射撃」

 オレンジ色の波動を帯びる弓矢。

 矢が放たれたと思った瞬間、ゼツが悲鳴を上げていた。

「ぬぐあぁぁあああ!」

 その場に膝をつくゼツ。

 腹に矢が貫通していた。

 しまった!

 ゼツよ、もう立てないのか?

 くそ、戦える味方が一人減ってしまった。

 その間にもヨミチが攻めの手を繰り出して来る。

「青い犬のモンスターよ。よそ見をしてはいけないのであーる」

「ぐっ!」

 ヨミチのパンチが我のみぞおちに決まった。

 元々風邪を引いている我は、唾が肺の方の気管に入り、その場に膝をついてごほんごほんと咳をする。

 吐いた唾に血が混じっていた。

 くそ!

 身体のコンディションが悪すぎる。

 せめて風邪を引いていなければ、四人をまとめて倒してやるのに……。

 ヨミチがスキルを唱えた。

「飛龍脚!」

 赤い波動を帯びるヨミチの靴。

 その蹴りが我の顔をぶっ飛ばす。

「ぐぼあっ!」

 我は地面にごろごろと転がり、やがて止まった。

 はあ、はあ。

 ダメだ。

 風邪のせいで体が重いのだ。

 テツト、イヨ、ヒメ、レドナー。

 今どこにいる?

 助けにきてくれ。

 ふと、体からぶしゅーぶしゅーと煙を上げながら褐色の肌の男が近づいてきた。

「ヨミチ、その犬は俺が殺す」

「何を言っているのであーるか? 吾輩が痛めつけたのである。殺すのは吾輩なのだ」

「うるせえ!」

 褐色の肌の男が我に拳を振り上げた。

 ぶしゅーと、肉体が悲鳴のような煙を上げている。

 振り下ろされる拳。

 ガンッと衝突音がして、見上げると大剣が拳を受け止めていた。

 ミリーだった。

「あ、あたしも戦う。どうせ殺されるんなら、戦って死んでやる!」

 彼女が唱えた、

「絶! 真空斬り!」

 ズガンッ。

 赤い波動をまとった大剣が褐色の肌の男の右腕に食い込み、その半分を切断した。

「ちっ。右腕が死んだ」

 褐色の肌の男は左手で右肩を押さえる。

 ブシューという音と煙。

 右腕が肩からはずれ落ちて、地面にドシンと音を立てた。

 どうやら右腕は使えなくなったために捨てたようだ。

 そういう機械仕掛けの人間なのだろう。

「どうするヨミチ。この女、すぐ殺すか? それとも拷問するか?」

「そうであるなあ。気の強い女は好みであーる。よって吾輩がレイプするのだ」

 機械の体の男が無表情に顎を振る。

「変態野郎、勝手にやれ。俺は犬とチビの魔法使いをやる」

 ミリーが眉間にしわを寄せて怒りの声を上げた。

「あ、あたしをレイプするだと!?」

「その通りであーる」

 ヨミチは地面を滑る動きで接近し、ミリーの首を右手のひらで鷲掴みにした。

「フハハハハハ! レイプショーの始まりなのだ!」

 ヨミチが左手でミリーの服をびりびりと引き裂いて行く。

「や、やめろおぉぉぉぉおおおおおお!」

 ミリーは泣き声のような怒声を振り絞った。

 彼女は大剣を落っことし、その両手はヨミチの右手を掴んでいる。

 ヨミチの両手は鉄拳のスキルが発動している。

 くそったれ! 

 ミリーの力では振り払えない!

 ヨミチは愉快痛快と言った笑顔だ。

「さあて、ブラとパンツの中は、どんな美しい花園が広がっているであーるかな?」

「や、やめっ! やめっ! やめてっ!」

 ミリーが顔を真っ赤にしてもがいている。

 我が助けるしかない!

 だが……。

 くそう!

 風邪さえ引いていなければこんなことには……。


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