5-16 ルピアのゲーム(ルピア視点)
イヨさんたちが山を登って行ってから三時間近くが経っています。
わたくしたちは、黒い外套を着た四人をずっと見張っていました。
村の入口で、四人が行動を開始しましたね。
黒い外套を脱ぎ捨てました。
「行くであるか?」と白いスーツの男。
「イエス、任務開始の時なのデス」とゴスロリ服の少女。
「さあ、グランシヤランの村人に安息を与えましょう」と修道服の女
「全てはヴァルハラによる幸福を実現するためだ」と褐色の肌の男。
村の入口には文様の描かれた二つの柱が立っており、見張りの少女がいます。
白いスーツの男が歩み寄って、右手で少女の首を持ち上げました。
宙づりにします。
首を圧迫して殺そうとしているようです。
「な、なにをっ!」
少女の悲鳴。
わたくしの後ろからミリーが言いました。
「おい、あの少女がやべえぞ!」
「分かっています! ネモ! やってください!」
「はい。ウインドブラスト」
かまいたちの大渦が巻き起こり、白いスーツの男は慌てて少女から手を離しました。
後退する白いスーツの男。
「げほっ、けほっ」
地面に落っこちた少女が四つん這いになって咳をしています。
わたくしたちは駆け寄っていきました。
少女は立ち上がり、急いで走って逃げて行きます。
褐色の肌の男が前に出てきました。
その男は角張った黒いメガネをしており、黒の短髪で、その姿かたちはまるで執行人のような雰囲気でした。
「お前たち、我々の邪魔をするなら、排除させてもらう」と褐色の肌の男。
「イヤデス、デオルゴさん。邪魔をするもしないも、いまこの村にいる人間は全員抹殺なのデスヨ」とゴスロリ服の少女。
「そうだったな、はは」とデオルゴと呼ばれた男の乾いた笑い声。
わたしくの背中に汗がつたいました。
とてもやばい雰囲気がします。
まるで上級魔族の集団を相手にしているような重圧です。
「ルピア、どーする?」
そう言ったミリーの表情が今にも泣き出しそうに歪んでいます。
わたくしは瞬時に相手の力量を推し量り、相手が自分たちより格上であると断定し、それでも勝つ方法を考えます。
……。
助けを呼ぶしかありません。
わたくしは振り向きもせずに言いました。
「ヨナ、この村の村人には強い人がいるはずです。呼んで来てください」
「分かりましたです!」
間髪入れずに走り出すヨナ。
「行かせないでのであーる」
地面を滑るようなステップを踏んで、白いスーツの男がヨナに迫ります。
彼の両手には鉄拳のスキルが発動していました。
わたくしとミリーが立ちはだかります。
「やらせません!」
「行かせるか!」
二人で白いスーツの男に斬りかかります。
カーンッ、ガンッ。
レイピアと大剣が余裕で弾かれました。
後ろにいる修道服の女が唱えます。
「さあヨナ。貴方に安息を与えましょう。エクスプロージョン」
わたくしたちの会話から、ヨナの名前を覚えたようです。
ヨナの頭上に振る炎の柱。
わたくしが叫びます。
「ネモ!」
「スクエアバリア」
ネモが唱えて、ヨナの頭上に正方形のピンクのバリアが出現しました。
炎の柱がバリアに衝突して爆発します。
ズドンッ。
「キャァァァァ!」
ヨナが悲鳴を上げながらも走って行きました。
「そんなことしたってコロスデス!」
ゴスロリ服の少女が背中の矢筒から矢を取り、ヨナに向けて弓矢を放ちました。
びゅんっ。
「この!」
わたくしは矢を叩き落とそうとしたのですが、豪速にかないませんでした。
矢がヨナに背中に命中します。
「あがぁぁああああ!」
ヨナの脇腹を貫通していました。
「くそっ!」
ミリーが毒づきます。
振り向くと、ヨナは一度倒れたのですが、また起き上がりました。
脇腹に矢が刺さったまま、よたよたと坂を駆け上がっていきます。
血がだらだらと流れています。
いつも眠たそうな顔をしているネモが険しい顔をして、杖を握っていました。
「コロスデス、コロスデスヨ!」
次々に矢をつがえるゴスロリ服の少女
ネモが声を張って唱えます。
「アマアラシ!」
アマアラシなんてスキルはありません。
しかし、修道服の女は過敏に反応したようです。
「リフレクトバリア!」
青いバリアが彼らの前に出現します。
何も跳ね返りません。
ゴスロリ服の少女は弓矢を撃つのをやめていました。
今のはネモのフェイントです。
「んん?」
修道服の女が首をかしげています。
「こけおどしデスカ?」
ゴスロリ服の少女が表情を歪めていました。
リフレクトバリアがある以上、ネモの魔法スキルは撃てません。
助けが来るまで、わたくしとミリーで何とか時間もたせるしか無いですね。
わたくしは時間稼ぎを打ってでました。
「貴方たち、一つ、わたくしとゲームをしませんか?」
「ん? どんなゲームであーるか?」と白いスーツの男。
「ゲーム? ゲームなら今やってるデス。殺し合いという名のゲームデス」とゴスロリ服の少女。
「ゲームは良いですね」と修道服の女、ニコニコと両手のひらを合わせています。
「その必要はない」とデオルゴという名の男。
わたくしはレイピアを降ろして、自信満々に近づきます。
もちろん虚勢でした。
「まあ、そう言わないでくださいな。時間は取らせません。簡単なゲームです」
わたくしはニッコリと微笑。
ちょっと表情がひきつっていたかもしれません。
両手を開いて説明をします。
「ゲーム内容は単純、わたくしがあなた方の今回の目的について、正解を当てたらあなた方は一歩下がってください。間違いを言ったら一歩進んでください。最初の位置から三歩進むことができたら、わたくしを殺してかまいません。しかし五歩下がったら、この村から立ち退いてください」
白いスーツの男がズボンのポケットから紙タバコを取り出しましたね。
マッチで火をつけます。
「ふむ、面白そうだな」
ゴスロリ服の少女はツインテールの金髪をいじっています。
「えー、勝てるかなー」
修道服の女は楽しそうに肩を揺らしていました。
「素敵なゲームですねそれは」
デオルゴという執行人のような男は、嫌そうに顔をしかめました。
「時間の無駄だ」
後ろから小声でミリーがわたくしの名前を呼んでいます。
「おい、ルピア」
今は仲間の声も気にしないことにします。
恥ずかしながら、わたくしたちではこの四人に勝てる気がしません。
助けが来るまでの間、少しでも長く時間を稼ぐしかないですね。
わたくしは両手のひらを合わせて、満面の笑顔を作ります。
「それでは一つ目。あなた方は、世界を救おうとしている」
相手方は困ったような顔をして一歩下がります。
どうやら正解だったようです。
しかしデオルゴだけは動かず、こちらを睨みつけています。
気にせず続けることにしましょう。
「それでは二つ目。あなた方は、この村を滅ぼす。それは正義のためである」
相手方はまたまた困った顔をして、一歩下がりましたね。
「なんだこの女は?」
デオルゴが吐き捨てています。
わたくしは続けます。
「では三つ目、あなた方は、この村を滅ぼすために戦うのが楽しみでもある」
白いスーツの男とゴスロリ服の少女がまた一歩下がりました。
修道服の女は一歩前進します。
修道服の女は、戦ったり殺人をしたりすることに愉悦を覚えないようです。
「おい、お前ら。さっさとこの女を殺すぞ」
デオルゴがいら立っていますね。
気にしません。
わたくしは続けます。
「では四つ目。あなた方は、この村にとても強い人がいたら、仲間に迎え入れようと思っている」
三人が困った顔をして、また一歩下がりました。
「おい。お前ら。もう俺一人でもやるぞ?」とデオルゴ。
気にしません。
わたくしは続けます。
「では五つ目。あなた方は、この村を滅ぼすのも目的だけれど、その前にわたくしと戦って自分とどっちが強いか試してみたい」
ゴスロリ服の少女が一歩下がりました。
白いスーツの男は一歩進み、吸いきったのかタバコを靴で踏み消しましたね。
修道服の女も前に出ます。
「興味無えよ」
デオルゴが吐き捨てましたね。
わたくしはまた両手のひらを合わせて、笑顔を浮かべました。
これでゴスロリ服の少女は五歩下がったことになり、この村から立ち退くことになるはずです。
というルールなのでしたが、もちろん相手がルールを守ってくれるとは思っていません。
なので続けます。
「では六つ目」
「おい、殺すぞ」
デオルゴは今にも襲い掛かってきそうな雰囲気ですね。
気にしません。
「六つ目。あなた方は、このゲームのルールを守るつもりがない」
三人が一歩後ろに下がります。
「えへっ」
ゴスロリ服の少女がちろりと舌を出して笑みをこぼしました。
「おいっ!」とデオルゴ。
「七つ目、あなた方は、わたくしたちと平和的な解決を望まない」
三人が一歩後ろに下がります。
「ちっ、時間がもったいねえ。もう俺一人でやる!」とデオルゴ。
「八つ目、あなた方は……」
「死ね」
デオルゴが、その褐色の肌の大きな拳をわたくしに振りかぶります。
ミリーが大剣を振って防いでくれました。
「させるか!」
ガツンッ。
拳と大剣がぶつかり合い、火花が散っています。
デオルゴの拳はスキルの鉄拳ではありませんが、機械の拳でした。
おとぎ話に出てくるようなサイボーグとやらでしょうか?
ミリーは大きくのけぞり、しかしすぐに体勢を立て直します。
「お前からやってやる!」
デオルゴはミリーをターゲットしたようでした。
「来てみろ、このデカブツ」
二人が争い始めます。
大丈夫でしょうか。
ミリーは強いのですが、倒されるかもしれません。
それでもわたくしは続けます。
「八つ目。あなた方は、この村を正義のために滅ぼそうとしていますが、実は心の奥では、個別に本当の目的がある」
ゴスロリ服の少女が一歩前にでました。
白いスーツの男と修道服の女は躊躇したのか、その場を動きません。
「では、九つ目」
「あー、私もうこのゲームに飽きてきたデス」とゴスロリ服の少女。
「年端も行かない女にしては肝が据わっているであるな」と白いスーツの男。
「楽しいゲームですね」と修道服の女。
「九つ目、自分はもう戦いたくて仕方がない」
白いスーツの男とゴスロリ服の少女が一歩後ろに下がります。
修道服の女はニコニコと一歩前に出ました。
わたくしの後ろではガツンガツンと大剣と機械の拳が火花を散らしています。
ミリーが奮戦しているようでした。
リフレクトバリアは消失していましたが、再度唱えられることを警戒しているネモは様子を見ていることしかできません。
「では十個目、あなた方は、今回の任務に失敗して死んだとしても、何も悔いがない」
白いスーツの男と修道服の女が一歩下がります。
ゴスロリ服の少女は背中から矢を取って、弓につがえました。
わたくしのオデコを狙っています。
時間稼ぎにも、そろそろ限界がきたみたいです。
「私は飽きたデス。もうやっちゃうデスヨー!」
「はらはら回避」と唱えるわたくし。
びゅんっ。
豪速の矢がわたくしの側面の髪をふわっと舞い上げて、通過しました。
ゴスロリ服の少女はすぐに矢をつがえます。
……ここまでのようですね。
「では十一個目。あなた方は、わたくしたちを殺すことに躊躇がない」
もう誰も動きませんでした。
三人が黙ってわたくしを見ています。
「仕方ありませんね。ネモ、やりますよ!」とわたくし。
「はい」とネモ。
「やるも何も、一撃で決めるのであーる!」
白いスーツの男が地面を滑る動きで突っ込んできました。
「銀鱗豪拳!」
オレンジ色の波動を帯びる拳。
一直線にこちらへと向かってきます。
ネモが唱えます。
「スクエアバリア」
正方形に展開されるバリア。
バンッと火花が散って、相手の拳を阻みます。
「危ないルピア!」とミリーの声。
わたくしの後ろからデオルゴの拳が迫っていました。
どうやら標的をこちらへ変えたようです。
「はらはら回避」とわたくし。
地面に倒れるように、相手のパンチを回避します。
しかし避けたのもつかの間、デオルゴが両こぶしを握り合わせて、わたくしの頭に振り下ろそうとしていました。
「死ね!」とデオルゴ。
「蛇睨み」とわたくし。
空気がピシンと音を立てて、相手の顔が恐怖に染まります。
デオルゴが攻撃を躊躇しました。
効果時間は一秒。
わたくしは立ち上がり、相手の心臓に突きを放ちます。
「流龍一閃」
青い波動に包まれるレイピア。
一の突きと流龍斬りというスキルの合成スキルでした。
わたくしの最強のスキルでもあります。
素早さと貫通力の伴った一撃が相手の心臓を貫いた。
と思ったのですが胸の前で、デオルゴの両拳に挟まれます。
ガツンッ!
レイピアがパキンッと音を立てて折れてしまいました。
「当たるかよ。へっ、ざーこ」
デオルゴが続けざまに右腕を振りかぶります。
「幻惑回避」
唱えたのはゴスロリ服の少女です。
ちなみにわたくしはまだ幻惑回避を覚えていません。
わたくしは眩暈を起こし、その場で上体をぐらつかせます。
デオルゴの右拳がわたくしの左肩に命中しました。
ドゴンッ!
まるで石ころのように吹っ飛ばされるわたくしの身体。
左肩の骨が折れたと思います。
それに頭が真っ白にフラッシュしました。
どうやらここまでのようです。
「ルピアァァァァアアアアアア!」
ミリーが叫んでいますね。
「ルピアさま!」
ネモの悲しげな声。
ごめんね、ミリー、ネモ。
ごめんね、ヨナ。