5-13 後夜祭
審判のおじさんが先導して、僕たちはイフリートの御前に連れて行かれましたね。
おじさんが声を張ります。
「イフリートさま。今回の闘技祭における優勝者たちが決定しました。優勝者たちに力の恩恵を与えてくださるよう、お願いいたします」
「ほぉ」
イフリートは肘を膝につけたまま手のひらに顎をのせているっす。
ヒメが両手をグーにして突き上げましたね。
「恩恵をくれだニャーン!」
イフリートが姿勢を変えました
両腕を胸に組み、興味深そうな視線をヒメに向けます。
「金色の目の女。お前の戦い、見ていたぞ。ほとんど突っ立っていただけだったな」
「んにゃん? ちゃんと戦ってたニャンけど」
ヒメが人差し指で頬をかきます。
イフリートは鷹揚に頷きましたね。
「まあいい。優勝は優勝だ。お前たち四人には力を分けてやる。火の力だ。受け取るが良い」
イフリートが両手を開きました。
僕らの体が赤い燐光に包まれたっす。
なんだか熱いですね。
しかし、それは一瞬のことでした。
ヒメがつぶやくように聞きます。
「今のが力の恩恵なのかニャン?」
「うむ。火の力だ。これでお前たちの力は1上がったことになる」
「「1?」」イヨと僕とレドナーの疑問の声が重なったっす。
「1しか上がらないニャンか?」
ヒメが疑問を呈します。
イフリートが頷きます。
「見たところ、お前たちの元々の力は1だった。それが1上がったのだから2になったことになる。つまり、力は倍増したということになるな」
イフリートは言葉の間隔を空けて、また説明しましたね。
「特に火の力は、嗅覚と握力に強く作用する。上手く使うことだ」
イヨが控えめに右手を上げたっす。
「あ、あの。私たちが強くなるためには全ての属性の大精霊さまのところへ行って、力の恩恵を分けてもらわなければいけないんですか?」
イフリートは姿勢変えずに答えましたね。
「大精霊の属性は八つある。火、風、土、雷、水、月、闇、光。もしもその全ての力の恩恵を手に入れることが出来たのなら、お前たちはこの国の勇者になれるだろう」
「「勇者?」」イヨと僕とレドナーの声が重なったっす。
「勇者ニャン?」とヒメ
イフリートは両腕を胸に組みます。
「今のはたとえ話だがな」
「なるほど、勇者か!」
レドナー意気込んで頷き、右手のひらを胸の前で握ったっす。
最後にヒメが右手を上げます。
「イフリートよ」
「何だ?」
「ありがとうだニャン」
お礼の言葉でした。
イフリートはまた肘を膝につけて、手のひらに顎をのせたっす。
「用事が済んだら行け」
「また来るニャンよ~」
ヒメが手を振ります。
イフリートはもう何も言いませんでしたね。
僕たちは槍のおじさんと一緒に歩いて、祭壇の階段を下りました。
そこには闘技祭に出場した者たちや大勢の村人たちがいて、一斉に拍手をしてくれましたね。
「おめでとう!」という言葉やヒューヒューという口笛がそこらかしこから飛んできます。
僕は浮かれた気分で歩いたっす。
目の前にガゼルが来ましたね。
「お前たち、優勝おめでとう」
「「ありがとう」」
僕たちはお礼を言って、ガゼルの腕や足をぽんぽんと触りました。
その後、ルピアたちも来て、僕たちを祝福してくれましたね。
今日の僕らは、さながらお祭りの主役のような塩梅でした。
祭壇の上には何人もの村人が上り、再び楽器が演奏されます。
踊り子が衣装をひらひら風になびかせながら踊り始めました、綺麗ですねー。
イヨが声をかけたっす。
「テツト、バルレイツの町のみんなにおみやげを買いに行く」
「あ、そうですね!」
頷く僕。
ヒメが元気いっぱいに右手を上げます。
「ミルフィにおみやげを買いに行くニャーン」
「ミルフィとフェンリルと、ダリルさんとハニハと、ティルルとクラにも買いたい。あと、お隣さんのジャスティンとルルにも」
イヨが右手の指を折って数えています。
ガゼルが低い声を出しましたね。
「フェンリルには我が買うから良いぞ」
「そう。じゃあえっと、五個あれば足りるかな」
イヨが頭の中で計算してつぶやきました。
レドナーが頭の後ろに両手を組んだっす。
「そういやまあ、俺の父さんと母さんと姉ちゃんにも、何か買って帰らなきゃいけねーな」
レドナーにはお姉さんがいたんですね。
初耳でした。
ヒメが坂の下の方へと歩き出します。
「おみやげ屋さんに行くニャンよー!」
「ヒメちゃん、待って」
ヒメの背中をイヨと僕らが追いかけて歩きました。
宿屋のある広場の東におみやげ屋さんがありましたね。
みんなで買い物をしたっす。
イヨはメラメラクッキーの箱を五つ買ったようです。
メラメラクッキーって名前が名前ですよね。
辛いんでしょうか?
買い物の途中、ガゼルが言いました。
「テツト、すまん。我は財布を持ってきていなかった。金を少し貸してくれないか?」
僕の隣にいるイヨが財布を開きます。
「いいよ」
1000ガリュ札を一枚貸してあげましたね。
ガゼルは受け取り、
「すまんな。町に帰ったら返す」
そう言って、カンカンマアムの箱を二つ買ったっす。
レドナーは炎々ラスクを三箱買ったみたいですね。
これでおみやげは大丈夫っす。
僕たちは一旦宿屋に戻り、買ったものを置きました。
イヨが聞きます。
「テツト、これからどうしよう」
「せっかくだし、お祭り見物をしよう。夕食も摂らなきゃいけないし」
「お祭り見物だ、ニャーン!」
ヒメが両手を万歳していますね。
レドナーが畏まった声で言ったっす。
「天使さま、俺が付き添いをします」
「え? レドナーは来なくて良いニャンよ?」
ヒメの声にはトゲがありますね。
レドナーは虚を突かれたようで、ぽかーんとした表情をしたっす。
今までのヒメの鬱憤がついに弾けたんでしょうか?
たぶんそうだと思います。
ガゼルが言います。
「肉が食いたいな」
「もう一度、祭壇へ行きましょう」
イヨが人差し指を立てます。
頷く僕。
「そうだね」
「行くニャーン」
ヒメを先頭に部屋の扉を出る僕ら。
レドナーがヒメの隣に並びます。
「天使さま、俺が、俺が、お供させていただきます」
「レドナーは来なくて良いニャン」
ヒメは顔も向けずに無感情な口調で言います。
ヨナとイチャイチャしたことへの逆襲ですね。
イヨと僕は顔を向け合って、苦笑をこぼしたのでした。
そして僕らは祭壇に戻り、美しい演奏や踊りを堪能します。
長テーブルにはご馳走が出ており、ガゼルが次々にたいらげていましたね。
明日の朝には帰らなきゃいけません。
せめて、この光景を目に焼き付けておきたいっすねー。
しかしですよ。
次の日の朝のこと。
事件は起こりました。
☆5評価を一つ、ブックマークを一つ、頂きました。嬉しいです。励みになりました!