5-12 闘技祭決勝戦
準決勝が終わったっす。
いまの試合、ルピアたちが勝ちましたね。
つまり、決勝戦は僕たちとルピアたちの勝負ということになりました。
ルピアたちに負けたチームが祭壇を下ります。
担架が運ばれて行きました。
怪我人が出ているようですね。
少しした後、黄土色のローブを着た村長が前に出て、声を張ったっす。
「それでは、これより闘技祭決勝戦をとり行う。出場チームは祭壇に上がれ!」
「行くニャーン!」
ヒメが元気に肩を揺らして階段を上って行きます。
緊張感がゼロですね。
イヨと僕とレドナーは黙って上りました。
祭壇の上で待っているルピアたち四人。
彼女たちは怪我をしていないようです。
全員が持っている武器を構えます。
僕は両手を掲げ、魔力を漲溢させました。
審判のおじさんが槍を床にトンと打ち鳴らします。
「それでは、決勝戦始め!」
「おっしゃあ、行くぜー!」
レドナーが走り出そうとして。
その前にルピアが右手を胸に掲げました。
「お待ちください」
「えっ!?」
出鼻をくじかれて、床に足を擦らせて立ち止まるレドナー。
ルピアが言います。
「ヒメちゃんチームのみなさん。ここは一つ、お互いのチームから代表者を選び、一騎討ちで勝負を決めるというのはどうでしょうか?」
「なんでだ?」
疑問を呈するレドナー。
イヨと僕は顔を見合わせたっす。
ルピアが続けます。
「お互いに四対四で戦い、多くの怪我人や死者を出すよりも、一騎討ちで勝負を決めた方が、被害が軽微になると思うんですが」
「うー、確かにそうニャンね~」
ヒメは思案顔で頷いています。
イヨが僕に声をかけたっす。
「テツト、そうしよう」
「そうだね」
頷く僕。
レドナーが半身だけ振り返ったっす
「でも、一騎討ちって誰が出るんだ?」
「僕が出るよ」
僕は一歩前に進み出て、硬い表情をしたっす。
レドナーは顔をひきつらせましたね。
「俺が出てーんだが」
「レドナーよ、ここはテツトに任せるニャーン」
ヒメが両手をグーにして胸に掲げましたね。
彼女に言われるとですよ。
レドナーはあっさりと承諾します。
「天使さま、分かりました」
僕は前に進みます。
そして聞きました。
「そっちの代表者は誰っすか?」
「「ルピアさま」」とヨナとネモ。
「ルピアだな」とミリー。
ルピアが前に出て、レイピアを二度振りました。
びゅんびゅんと音がします。
「わたくしが、代表を務めさせていただきますわ」
「いいんですか?」
僕は聞いたっす。
だってルピアは昨日、僕に負けていますよね。
今度は勝つ気でいるんでしょうか?
ルピアがこちらを睨みつけて言いました。
「スキルありでお願いします」
「分かりました」
僕は頷いたっす。
そして。
僕とルピアが一定の距離を置いて立ちました。
祭壇の端で、お互いの仲間たちが固唾を飲んで見守っているっす。
ルピアが言います。
「テツトさん、昨日のようにはいきませんよ」
「そうですか」
僕はその場で軽くジャンプしたっす。
お互いがお互いの出方をうかがっており、攻勢に出ないですね。
僕は言ったっす。
「かかって来ないんですか?」
「テツトさんの方こそ」
ルピアの唇が挑戦的に弧を描きます。
僕は気合を込めて両こぶしをかかげました。
「では、こちらから行きますよ」
「おいでなさい!」
ルピアの凛とした声が響きます。
僕は近づき、右手から三連撃のパンチを放ちます。
ワンツースリー。
カンカンカンッ。
全部レイピアで弾かれちゃいました。
というか相手のリーチが長いので、こっちのパンチが届かないっす。
やりにくいっすねー。
ルピアが唱えます。
「ポイズンアタック」
紫色の波動を帯びるレイピア。
マジッすか。
これに当たったらいけません。
僕は後ろにバックステップを踏んで距離を取ります。
ルピアが一気に攻めに出ました。
「ほらほらほらっ、逃げてないでかかってきてくださいな!」
びゅんびゅんと振られるレイピア。
拳で弾きます。
蛇睨みというスキルを使うタイミングを僕は見計らっていました。
一秒間、相手を恐怖状態に落とすことができるっす。
スタン効果と似ていました。
僕の首に提げられている理性上昇のネックレス。
これのおかげで、頭がすっきりと冴えわたっていますね。
相手の攻撃を防御しながら、僕は円を描くように後退します。
やがてポイズンアタックの効果が切れたのか、ルピアが苛立たしそうに舌打ちしました。
「ちっ、ポイズンアタック!」
また唱えていますね
レイピアが紫色の波動に包まれます。
毒にかかれば体の動きが重くなりますね。
熱も出てきます。
つまり、一撃でも攻撃を受ければ毒にかかり、僕は大きく劣勢になるっす。
タイミングを見計らえ。
タイミングを……。
ルピアがしびれを切らしたのか、唱えました。
「この! 三連突き!」
オレンジ色の波動に包まれるレイピア。
瞬時に三連撃の突きが繰り出されました。
この時を待っていたっす!
「蛇睨み!」
空気がピシンと音を立てて、ルピアの顔が恐怖に染まりました。
レイピアの動きが精彩を欠いています。
効果時間は一秒。
僕はレイピアを左手で掴み、柔道技をかけました。
大外刈り。
「キャッ、キャアァァアア!」
後ろに倒れていくルピア。
そのまま袈裟固めにします。
このまま落としてやる!
「こ、このっ! エアロストライク!」
小さなかまいたちが巻き起こり、僕の背中に切り刻まれるような痛みが走りました。
「いっだっ!」
僕はたまらず立ち上がり、ルピアから離れたっす。
「「テツト!」」とイヨとヒメの心配そうな声。
「おいテツト!」レドナーも声を上げていますね。
ルピアも立ちます。
「こ、このっ! やってくれましたわね!」
「あ、貴方の方こそ」
僕は冷静にその場でジャンプを刻みます。
僕の背中の服が破れて、出血していますね。
正直、女性相手に殺す気でかかりたくありません。
でも、やるしかないっす。
ルピアが迫ってきます。
「ウインドムーブ」
彼女の靴がオレンジ色の波動に包まれます。
初めて見るスキルですね。
どんな効果なのでしょうか?
ルピアが険しい表情で呼吸を荒くしています。
前にステップを踏んだっす。
たったのツーステップで、一気に間合いが詰まりました。
彼女の移動速度が格段に速くなっています。
「乱れ斬り!」
ルピアが唱えました。
オレンジ色の波動を帯びるレイピア。
びゅんびゅんとしなり、まるで小さな嵐が巻き起こっているような光景っす。
僕はたまらず後退するのですが。
「甘いですのよ!」
彼女は僕のバックステップに合わせて、前にステップを踏みます。
ウインドムーブのせいで速度が上がっていました。
逃げられない!
レイピアの嵐が僕の体を引き裂く……。
瞬間、僕は唱えました。
「はらはら回避!」
「なっ!」
ルピアのレイピアの乱舞を、まるで蝶が舞うようにひらりひらりと躱します。
今っす!
僕はルピアに肉薄し、相手の右腕の袖を左手で握ります。
右手で襟を掴んで体を反転させました。
真骨頂。
背負い投げ。
ドシンッ。
「アアァ!」
床に叩きつけられたルピアが悲鳴を上げました。
僕はもう一度袈裟固めを決めます。
相手の首を思いっきり圧迫しました。
今度は首をへし折る気で力を込めたっす。
「ああぁぁぁぁっ!」
苦しさに耐えきれなかったルピアが、僕の背中を二度叩きました。
降参の合図ですね。
僕は立ち上がり、柔道の試合のように礼をしました。
「ありがとうございました」
ルピアも立ちます。
残念そうな顔をしながらも、「ありがとうございました」と言い、頭を垂れました。
「テツトの勝ちだニャーン!」
ヒメが万歳していますね。
イヨも拍手をしています。
「さすがテツト」
「まっ、俺が出ても良かったんだけどなー」
そう言うレドナーの顔にも笑みが浮かんでいますね。
ルピアは仲間のところに歩いて、悔しそうに謝罪しました。
「ごめんなさい、負けてしまいました」
「しょーがねーよルピア、ドンマイだな」とミリー。
「ルピアさま。気を落とさないでくださいです」とヨナ。
「私は何でも良い。とりあえず寝たい」とネモ。
ルピアが審判を振り返り、右手を上げましたね。
「棄権します」
審判がもっている槍をトンと地面につきました。
「優勝者、テツト、イヨ、ヒメ、レドナーチーム!」
祭壇の下から大喝采が起こりましたね。
「わー!」と観客が沸いています。
僕たちは照れたように笑ったのでした。
ふと、ヒメがルピアたちに近づきます。
ヨナを指さしました。
「ヨナ、約束通り、お前たちの仲間を一人連れて帰るニャン」
「ちょっとヒメちゃん」
後ろからイヨがたしなめるような声をかけていますね。
ヨナが、げっ、というような顔をします。
「だ、誰を連れて帰るですか?」
「ルピアを連れて帰るニャンよ」
ヒメは決然と言い放ち、両手を腰に当てます。
ヨナは泣きそうな顔になりましたね。
「ルピアさまは、勘弁してくださいですー」
「勘弁しないニャンよー!」
ルピアは困ったような顔をして、そしてそれから右手の中指につけている指輪をはずしました。
「すいません、これを差し上げますので、どうか勘弁してくださいませんか?」
「それは何だニャン?」
疑問そうなヒメの声。
ルピアが説明します。
「この指輪はマジックアイテムです。致命救済の効果が込められています」
「致命救済ニャン?」
「ルピアさま! それはお家に代々伝わる秘宝の指輪ではないですかー!」
ヨナが悲鳴のような声を上げましたね。
ルピアが悲しげな顔で言います。
「誰かを連れて帰られるよりましです」
「ありがとうニャーン」
ヒメが指輪を受け取ったっす。
さっそく中指にはめていますね。
ヨナは泣いてしまいました。
「うっぐ、えっぐ、ルピアさま、ごめんなさいです」
「ヨナ、もう変な挑戦をけしかけたりしてはいけませんよ」
ルピアがヨナの頭をそっと撫でました。
ルピアは懐の深い女性のようです。
そしてルピアたち四人が祭壇の階段を下りて行きます。
僕たちはどうすれば良いのかと思っていると、審判が言いましたね。
「優勝者たちよ、今からイフリートさまの元に連れて行く。着いてくるが良い!」
審判の槍のおじさんが歩き出します。
僕たちは顔を見合わせて頷き、彼の背中を追ったのでした。