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5-9 闘技祭の朝



 ついに闘技祭の日がやって来たっす。

 その日の朝、イヨと僕は朝から起き出していつものトレーニングをしていました。

 宿屋の前の地面で腕立て、腹筋、背筋、スクワットをしましたね。

 村の家々の前には松明が灯っています。

 祭壇のある坂の上の方からは楽器を演奏する音色が響いていますね。

 時折「そーれ!」という人々のかけ声もします。

 いやー、お祭りのムードは良いですねー。

 トレーニングを済ませると、イヨと僕は村道をジョギングしました。

 隣に並ぶイヨが言います。

「テツト、何か楽しい雰囲気ね」

 最近ではジョギング中に、イヨは息切れをしなくなりましたね。

 随分と体力がついてきているっす。

 もちろん汗はかくのですが。

 僕は頷きました。

「イヨ、祭壇の方、行ってみる?」

 イヨの表情に笑顔。

「うん、行く」

「分かった」

 僕たちは坂の方へと方向を変えて走りました。

 やがて見えて来た坂を二つ上がり、祭壇のある広い地面へと到着します。

 まだ朝の五時前だというのに、そこには村人が大勢集まっていましたね。

 並べられているいくつもの長テーブル。

 ところどころには焚火がたかれており、村人が料理をしている光景がありました。

 昨日の話では、その料理は好きなように取って食べて良いということっす。

 そして楽器の音色は祭壇の上から響いてきます。

 男女の踊り子がいて、ひらひらと衣装をたなびかせて、演奏に合わせて踊っているのが見えますね。

 それは闘技祭前の儀式のようなものでしょうか?

 イヨと僕は走るのをやめて、辺りを見回しました。

「テツト、あれすごい」

 イヨが祭壇の上の踊り子を指さします。

 僕は首肯したっす。

「綺麗だね」

 僕たちは歩き、祭壇の上や周りを見物しました。

 その折、村人から「君たちは闘技祭に出場するのかね?」と尋ねられましたね。

「そうなんです」

 イヨが返事をしました。

 村人は陽気な顔で応援をくれましたね。

「そうか。頑張るんだぞ! 二人とも。はい、これはスープだ」

 差し出されたスプーン付きのスープの深皿を、僕らは受け取ります。

「「ありがとうございます」」

 顔を見合わせて笑顔を浮かべ、二人で食べました。

 赤いスープであり、辛みを出す香辛料が使われていましたね。

 ちょっと辛かったけど、鶏肉と野菜の出汁が良く出ていて美味かったっす。

 二人でまた坂を下りて、元の宿屋前へと帰ります。

 その頃には、ヒメとレドナー、ガゼルも起き出してきていましたね。

 えっさえっさとトレーニングをしているヒメ。

 彼女が僕たちを見つけて笑顔を浮かべました。

 イヨが声をかけます。

「ヒメちゃん、おはよう」

「イヨ、おはようだニャーン」

 ヒメがトレーニングをやめて立ち上がりました。

 レドナーも近づいてきます。

「よお。おはよう、テツト」

「レドナー、おはよう」

 僕は返事をします。

 ガゼルも来ました。

「イヨにテツト、ジョギングか? 朝から精が出るな」

「ガゼル、おはよう」

 イヨがほほ笑んで、ガゼルの腕をぽんぽんと触ります。

 挨拶を交わした僕たちは、それから輪になりましたね。

 イヨが人差し指を立てました。

「みんな、闘技祭の戦い方なんだけど、ちょっと聞いて」

 何か話があるようです。

「作戦ニャンか?」

 ヒメが顔を寄せます。

「おう。作戦は立てた方がいーな」

 レドナーは意気揚々と頷きます。

「うむ。我は出場しないが、聞いておこう」

 ガゼルが両腕を胸に組んだっす。

「どんな作戦なの?」

 僕が聞きましたね。

 イヨが指を降ろします。

「それなんだけど、まず……」

 僕たちは注意深く聞きました。

 時折レドナーが、あーした方がいいこーした方がいいと催促をしたりして。

 話が終わると、ヒメが満足そうに頷きましたね。

「イヨ、分かったニャンよー!」

「うん、それで行ってみよう」

 僕も首肯したっす。

 レドナーが興奮したように笑みを浮かべました。

「まあ、実際やってみてどうなるかだな」

「いま決めたことを守って戦って。それと、危ないと思ったら、私がすぐに棄権を宣言するから」

 イヨは厳しい顔つきっす。

 闘技祭で倒されて、大怪我をしたり死んだりでもしたら目も当てられませんね。

 ガゼルが鼓舞すように言いました。

「我は試合には出られんが、応援はしている。頑張れよ、四人とも」

「頑張るにゃーん」

 ヒメがガゼルの腕を撫でたっす。

 他の三人も首肯しましたね。

 レドナーが僕を見て言ったっす。

「おい、テツト。軽く稽古しよーぜ」

「いいですよ。お手柔らかに」

 了解して、僕とレドナーが一定の距離を置いて立ちます。

 他の三人は観戦するようで、脇に立って見ていました。

 僕は両こぶしを掲げて鉄拳を発動させたっす。

 レドナーも剣を構えましたね。

 そして言います。

「テツト、スキルは無しだ」

「はい」

 頷く僕。

 スキルなんて使ったら怪我をしますね。

 とは言っても僕は鉄拳を発動させますが。

「行くぞ!」

 レドナーが走りだし、突っ込んできます。

 相変わらず剣を大振りしていますね。

 これが、やりにくいんですよねー。

 僕は焦らずに、レドナーの剣を弾いては後退します。

 弾いて後退。

 隙あらば攻勢に出たっす。

 ふと宿屋の前から黄色い声が上がりました。

「レドナーさま! そこですよ! そこです!」

 顔を向けると、いつの間にかヨナがいましたね。

 レドナーを応援しています。

 僕は眉をひそめたっす。

 ヨナが両手を口元に当てて声をかけてきます。

「レドナーさま、そんな鉄拳男なんて、やっつけちゃってください! そこです! ああ、今の、もう少しだったのに!」

 いら立ったヒメがヨナに近づいて行きましたね。

「お前、何しに来たニャン!」

「何って? もちろん、レドナーさまを応援しにきたです。私はレドナーさまのファンですから」

 大振りの胸を張ってほくそ笑むヨナ。

 その顔をヒメが指さしたっす。

「お前うるさいニャン、どっか行けニャン! ふうぅぅ!」

「何ですか? 貴方。そんなふうに猫みたいに威嚇して。お下品にも程があるです」

 両手を腰に当ててヨナが早口で言いましたね。

 ヒメの後ろからイヨが進み出て、氷のような顔でヨナを見ました。

 腰の剣を抜き、ヨナに突きつけます。

「あなた、仲間のところに帰って」

「し、真剣を向けたですね!」

 ヨナはさすがに焦ったような顔と声でした。

 イヨが剣を振りかぶります。

 ヨナは両手を掲げて、

「ま、待って。わ、分かった、分かったです! 帰りますです!」

 涙目でしたね。

 ヨナは前を向いたまま後ずさります。

 それからくるりと背中を向けて宿屋の中へと入って行きました。

 ヒメがイヨに体を向けたっす。

「イヨ、助かったニャン」

「ヒメちゃん、ああいうのは相手にしちゃダメ」

 カーンッ、カーンッと音が響き、レドナーと僕の間で火花が散っています。

 双方一歩も譲らず、拮抗状態が続いていました。

 とは言っても稽古なので、お互いに手加減をしていますが。

 そして、朝の時間が過ぎて行きましたね。

 闘技祭開始は、午前九時からっす。

 僕たちは二試合目に出場でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒメちゃん、レドナーのことどう思っているんでしょう。 気になります(>_<)
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