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5-8 食堂での説明会



 夕食の時間になりましたね。

 僕たちは宿屋の一階に下りて食堂に行ったっす。

 そこにはたくさんの人間がいて、テーブルの席についていましたね。

 僕は室内を眺めまわして、それから言いました。

「イヨ、そこ空いてる」

「うん! そこにしましょう」

 前から二番目の廊下側のテーブルに五人で歩いて行きます。

 みんなで丸テーブルを囲んで座りました。

 メニューを開き、ヒメとイヨが料理を選んでいます。

「ふんふんふーん、今日は何を食べるかニャーン」

「ヒメちゃんほら、魚フライ定食あるよ」

 イヨがメニューを指さしたっす。

 ヒメうーんと言って考えていますね。

「魚フライは昨日食べたから、今日はクリームスープが食べたいニャンけど~」

 イヨがメニューを一つはぐりましたね。

「ある。夏野菜とキノコのチキンクリームスープ、だって」

「おおー! あたしはそれにするニャン!」

「私も同じのにしようかな」

 ヒメとイヨが料理を決めて、メニューを僕に渡したっす。

「はいテツト」

「ありがとう」

 僕はメニューを覗き込みます。

 どれにしますかね。

 せっかくの旅なので豪快に肉料理を食べましょうか。

 そして順番に、僕とレドナーとガゼルが肉料理を注文することに決めて、店員を呼んだっす。

 ガゼルは三人前を注文するようでしたね。

 体格が大きいので、それぐらい食べないとお腹いっぱいにならないようでした。

 ちなみにガゼルの支払いは僕たち四人で負担することになるっす。

 やがて店員が来て、みんなにハーブティーを配ります。

 ハーブティーは無料のようです。

 注文を紙にメモした店員が下がって少しすると……。

「おいテツト!」

 聞いたことのある声がして振り返りましたね。

 浅黒い肌にくせっ毛の黒髪の男。

 なんと、ナザクがいたっす。

 その後ろにはジェスもいますね。

 びっくりしました。

「君たちも闘技祭にでるのー?」

 茶髪にツーブロックのジェスが薄ら笑いを浮かべています。

 レドナーが目つきを鋭くして言いましたね。

「あんたたち、ギルドで見たことあるな」

「誰だおめー、俺は知らねえけど」

 ナザクが首を振ったっす。

 レドナーが「えぇ!?」と言って、首をかしげています。

 僕は椅子から立ち上がりました。

「ナザクさんたちも、闘技祭に来ていたんですか?」

「ああ、友人たちと四人でな。さくっと優勝して、イフリートの恩恵をもらっておこうと思ってよ」

 愉快そうに笑みを浮かべるナザク。

「そうですか。もしも闘技祭で当たったら、お手柔らかにお願いします」

 僕は頭を垂れます。

 ナザクが僕の肩をポンと叩きました。

「お前ら、せいぜい死なないように気を付けるんだぞ。じゃあな」

「そうそう。危なくなったらすぐに棄権したほうがいいよー」

 ナザクとジェスが自分たちのテーブルに歩いて行ったっす。

 僕はまた椅子に腰を落ち着けました。

 イヨがしかめっ面をして言いましたね。

「あの人たちとは当たりたくない」

「何でニャン? テツトがボッコボコにしてやるニャンよ~」

 強気の瞳を揺らすヒメ。

 イヨは首を振ったっす。

「一応、同じ町出身の人だから」

「んにゃーん、ここは、あたしたたちの強さを見せつけておくニャン」

「ヒメちゃん、知り合いを死なせたら、後味悪いでしょ?」

「んー、それはそうだニャンねー」

 僕もできれば彼らとは当たりたくありませんでした。

 知り合いが相手ではやりにくいっす。

 ガゼルは一言も喋らずに両腕を胸に組んでじっとしていましたね。

 そして僕らの料理が運ばれてきました。

 分厚いステーキを両手で持って、ガゼルがガツガツと食べているっす。

 隣にいるヒメが注意するように言います。

「ガゼルー、ちゃんとナイフとフォークを使うニャンよ~」

「ん? それは面倒だな」

 ガゼルはまだ食器の扱い方を知らないのでした。

 その光景を見てレドナーはおかしそうに笑っています。

 イヨと僕は仕方なしとため息をつきましたね。

 やがて、みんなが料理を食べ終えます。

 その頃。

 村人の、白いローブを着た女性が室内に入って来ました。

 やはり全身に入れ墨をしていますね。

 両手に紙を抱えています。

 みんなの前に立ち、彼女が声を張りました。

「明日の闘技祭にご出場の皆さん! よく集まってくれました! 長旅でお疲れでしょうから、今日はゆっくりと休んでください」

 テーブルについている何人かが「おー」と返事をしましたね。

 白いローブの女性は続けます。

「今から大会のルールを説明します。その前に、トーナメント表が出来上がりましたので、配ります。チームの代表の者は、取りに来てください」

 僕はイヨに顔を向けたっす。

 イヨが頷きました。

「テツト、行ってきて」

「分かりました」

 僕は立ち上がります。

「え、代表は俺じゃねーの?」

 怪訝そうなレドナー表情。

 一応、僕たちの中で傭兵ランクが一番高いのがレドナーです。

 僕は気にせず前へと進み、女性からトーナメント表をもらってきました。

 またテーブルに戻ってきて、トーナメント表をテーブルの真ん中に広げたっす。

 どうやら、八組のチームが闘技祭に出場するようです

 試合はトーナメント形式なので、一回勝てばもう準決勝ですね。

 三回勝てば優勝、ということでした。

 白いローブの女性がまた声を張ります。

「皆さん。試合は四人対四人の形で行われます。勝利条件は、相手チームのメンバーを全員戦闘不能にすること。あるいは、相手チームの誰かに棄権を宣言させること、となっています。棄権をすればそこで試合は終了、自分たちのチームは負けとなりますので、ご留意ください」

 そこで女性は食堂のみんなを眺めまわしたっす。

 少しして、また喋り出しましたね。

「闘技祭の試合場はイフリートさまの祭壇となります。祭壇の床は(しゃく)神木(しんぼく)と呼ばれる丈夫な木で出来ていますので、滅多に壊れることはありません。しかし、もし破壊してしまった場合でも、闘技祭後、村民で修繕をします。なので、思う存分暴れてくださって結構です。また、祭壇の奥ではイフリートさまが試合を観戦しております。流れ弾がイフリートさまに当たった場合はどうすればいいか、という疑問があると思いますが、イフリートさまはあなた方よりもはるかに強い存在ですので、大丈夫です。気にせず戦ってください」

 女性は「何か質問はありますか?」と言って、みんなを眺めまわします。

 僕たちとは反対側のテーブルに座っている紫色の髪の女性が手を上げましたね。

「お昼ご飯はどうすれば良いです?」

 ヨナでした。

 そのテーブルの席にはルピアにミリー、ネモもいます。

 彼女たちも無事にこの村へ到着したようでした。

 白いローブの女性が返事をしたっす。

「闘技祭中、祭壇の下には様々なご馳走を用意させていただきます。お腹が空いたらご自由にお皿に取って食べてください」

「分かりましたです!」

 手を降ろすヨナ。

 入れ墨の女性が室内を見回します。

「他にご質問はございませんか?」

「聞きてー!」

 ナザクでした。

 彼が質問します。

「闘技祭で相手を殺した時、手に入ったスキル書は誰のものになるんだ?」

「それは、倒した人の物という扱いになります」

 白いローブの女性が表情を変えずに答えたっす。

 続けて言います。

「他に質問はございませんか?」

「優勝した場合にもらえる、イフリートさまの恩恵って何なのー?」

 今度はジェスが質問していますね。

 女性は人差し指を立てて、

「それは、優勝してみてからのお楽しみということになります」

「ちぇっ、意地悪だなー、教えてくれてもいいのにさぁ」

 ジェスがそう言って、椅子の背もたれに大きく寄りかかりました。

 白いローブの女性が言います。

「他にはありませんか?」

 ふと。

 真ん中の一番後ろのテーブルについている人間が小さく挙手したっす。

 そのチームメンバーは全員は黒い外套を着ており、頭まですっぽりと覆われていますね。

 何だか不気味っす。

「イフリートと戦って、イフリートを殺しても良いのか?」

 地響きのような低い声でした。

 白いローブの女性が顔を歪めたっす。

「……言い忘れました。闘技祭中に、イフリートさまへの故意の攻撃は禁止となっております」

 黒の外套の一人が手を下げました。

「よかろう」

「……他にご質問はありませんか?」

 これ以上挙手や質問をする人はいませんでしたね。

 白いローブの女性が室内を見回して数回頷きます。

 また口を開きました。

「最初の試合開始時間と、試合相手のチームについては、トーナメント表に書かれてある通りです。試合は、一試合目が終わったらすぐに二試合目というふうに次々と行われていきますので、みなさんは明日、祭壇を離れないようにお願いいたします。自分たちの試合の番が来てもチームメンバーが祭壇に現れない場合は、失格となってしまうので、ご留意ください。それでは、今夜はごゆるりとお休みになってください。私からの説明は以上になります。私はもう少しこの場にいますので、質問のある方は聞きに来てください」

 白いローブの女性はもう少しその場に居残るようでした。

 テーブルについていた何人かが、彼女に質問をしに行っていますね。

 僕たちは特に聞きたいことがなく、ハーブティーをすすっていました。

 ふと、イヨがトーナメント表を手に取って声を上げます。

「うそ! 私たちの最初の相手、あの人たちだわ」

 僕は隣にいるイヨの持つ紙を覗き込みます。

 僕たちの最初の相手は、ナザク、ジェス、ヒーリオ、ベンと書かれていますね。

 いきなりナザクたちに当たってしまったようでした。

 ヒメも紙を覗き込んでいます。

「ここは、ぼこぼこにしてやるだニャン」

「できると良いけど」

 イヨが顔をひきつらせていますね。

 レドナーが聞きます。

「おい、あの人たちって誰だ?」

 イヨが僕にトーナメント表を回します。

 僕はレドナーにその紙を渡しました。

 それを見たレドナーが肩を落としたっす。

「マジかぁ……」

 僕はナザクたちの席を振り返りましたね。

 彼らは笑い声を上げながら樽ジョッキをあおっています。

 酒を飲んでいますね。

 豪快な笑い声が響いています。

 余裕そうな雰囲気っす。

 初戦からやりづらいっすねー。

 僕は視線をそらしました。

 また前を向きます。

 少しして、僕たちの席を訪れる者がいました。

「みなさん! 長旅お疲れ様ですよー!」

 ヨナですね。

 妹っぽい雰囲気をまとった彼女にみんなの視線が集まりました。

「おお、ヨナ、お疲れさん」とレドナー。

「「お疲れさま」」とイヨと僕。

「ヨナもお疲れさまだニャン」とヒメ。

「うむ」とガゼル。

 ガゼルはステーキのソースでべたべたになった両手を舌で舐めていますね。

 ちょっと下品です。

 ヨナが瞳を大きくしてガゼルを見ました。

「そこにいるのは、昨日のスティナウルフですかー?」

「そうだが?」とガゼル。

「いまは人狼化しているの」とイヨが説明をしました。

 ヨナはびっくりしたように頷いて、それから「なるほどです」と言いましたね。

 続けて彼女は、左手を背中に組んで、右手の人差し指を立てました。

「みなさんに、私から一つ提案があるですよー」

「どんな提案?」

 イヨが両腕を胸に組んだっす。

 ヨナがにたにたと笑います。

「ふふふ、それはと言うとですねー。明日、闘技祭で貴方たちが優勝したら、私たちのチームから一人選んで、連れて帰って良いです!」

 みんながぎょっとしましたね。

「どういうこと?」

 イヨの両目がびくびく。

 ヨナが続けます。

「その代わり、私たちが優勝したら、レドナーさまを連れて帰るです!」

「お、俺か!?」

 レドナーがびっくりしたように声を上ずらせたっす。

 イヨが視線を鋭くしてヨナを見ました。

「どうしてレドナーなの?」

「もちろん、惚れたからなのですよー!」

 両手で頬を挟んで顔を赤くするヨナ。

 ヒメが怒ったように眉間にしわを寄せました。

「レ、レドナーは渡さないニャン!」

「えー? それって、どういうことですかー? レドナーさまは、ヒメちゃんの所有物なのですかー?」

「渡さないニャンよ!」

 ヨナの言葉に被せるようにヒメが言ったっす。

 ヨナがレドナーの腕に抱き着きましたね。

「レドナーさま~、あんな胸の小さい女は卒業して~、私たちのチームに来ましょうよっ! いっぱい、気持ち良いことして差し上げますです!」

「き、気持ち良いことって何だ!?」

 まんざらでも無さそうなレドナーの顔と声。

 ヨナがレドナーの耳元でささやいたっす。

「膝枕をしながら耳かきをしてあげるです」

「ま、マジか!」

 レドナーの顔が紅潮しています。

 嬉しそうですね。

 やばいっす。

 ヒメの顔が怒っています。

「んにゃん~、ふうぅぅぅぅ」

 威嚇の声まで発していますね。

 僕は椅子から立ち上がりました。

 レドナーからヨナの手を引きはがしたっす。

 そして言います。

「悪いけど、レドナーは渡さないよ」

「えー!」

 不満そうなヨナの顔と声。

 僕は突き放すように言いました。

「それよりも明日の闘技祭。自分が死なないように作戦でも立てた方が良くないっすか?」

「わ、私は死にませーん! 強いからです!」

 ヨナが肩をいからせます。

 僕は離れたテーブルにいるルピアに視線を向けました。

 ルピアは眉をひそめて立ち上がり、こちらに歩いて来ます。

「ヨナ、何を話しているの?」

「ルピアさま、いま、ヒメちゃんチームに挑戦状をですね……」

「迷惑になるから、もう行きますよ!」

「わ、わわわわ!」

 ルピアがヨナの腕を引っ掴んで連れて行きました。

 僕はほっとして、また椅子に座りましたね。

 ヒメが鼻息を荒くしているっす。

 その背中をイヨがなだめるように撫でてあげていました。

 ヒメが言います。

「あいつ、許さないニャン!」

「ヒメちゃん、気にしないで」

 優しいイヨの声。

「あたしはそんなに胸が小さくないニャン~」

 ヒメは怒りがおさまらないようですね。

 実際、ヒメの胸は小ぶりっす。

 僕が提案しました。

「もうそろそろ、部屋に行こう」

「そうね」

 僕とイヨが立ち上がります。

「そうだな」とレドナー。

「んにゃん~、何かイライラするニャンよ」とヒメ。

「うむぅ、まだ手にソースの匂いがするな」とガゼル。

 他のみんなも席を立ちました。

 食堂を出て廊下を歩き、階段を上がります。

 また通路を歩いて、自分たちの部屋に入ったっす。

 中には大き目のベッドが四つありますね。

 僕とレドナーとガゼルがベッドを一つずつ使うことにしました。

 イヨとヒメは一緒のベッドです。

 そして、みんなでだらだらと過ごしながらの夜が更けていきます。


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