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5-6 ルピアとの稽古



 朝日がまぶしいですね。

 目を覚ますと、隣で寝息をかく規則正しい音が聞こえました。

 僕は寝袋に入ったまま上半身を起こしたっす。

 見ると、イヨが隣で寝ています。

 彼女たちは昨日何時まで起きていたんですかね。

 イヨの口元にはほんの少しヨダレを垂れちゃっています。

 可愛いなあ。

 優しく指で拭う僕。

 起こすと悪いですね。

 もう少し寝かせてあげましょう。

 ただでさえみんな旅疲れがありますし。

 僕は寝袋から出て、靴を履きました。

 寝袋を綺麗に丸めて狼車に積んだっす。

 周りを見ると、みんなまだ寝ているようですね。

 今日の午後にはグランシヤランに到着する予定でした。

 つまり、明日には闘技祭があるっす。

 そうだ、闘技祭に備えてトレーニングをしよう。

 狼車の中に入り、半袖短パンに着替えます。

 それから。

 みんなから離れたところで、腕立て伏せを始めました。

 続けて腹筋、背筋、スクワットっす。

「あら、朝から精が出ますね」

 人の声がして、背筋をしていた僕は体をひねって振り返ります。

 女性にしては大きい肩幅にプラチナブロンド。

 ルピアですね。

 こちらに歩いてきました。

 僕はペコリと頭を下げて挨拶します。

「あ、おはようございます」

「こちらこそ、おはようございます」

 ルピアは両腕を胸に組んで、感心したように薄い笑みを浮かべました。

 ……。

 慣れていない人相手だと、何を喋っていいか分からないっす。

 僕は背筋の続きをしようと地面を向きました。

「あの」とルピアの声。

 僕はまた体をひねります。

「な、何ですか?」

「テツトさん、ですよね? 良かったら、わたくしの朝稽古に付き合っていただけませんか?」

「朝稽古?」

「はい!」

 ルピアは腰に差してある剣の柄に手を置いたっす。

 僕はゆっくりと小刻みに頷いて、立ち上がりましたね。

「いいですよ」

「ありがとうございます」

 そして。

 僕とルピアが一定の距離を置いて立ちました。

 レイピアを抜いて右手で構えるルピア。

 僕は両手を構えて鉄拳を発動させたっす。

 無を意識して両腕に力を込め、魔力を漲溢させます。

 やっぱり彼女は肩幅が大きいですね。

 まるでプロのテニス選手です。

 腕力がありそうです。

 ルピアの真剣な顔。

「お互い、スキル無しでお願いします」

「分かりました」

 僕は答えたっす。

 お互いがスキルを使って、闘技祭前に怪我でもしたら大変ですよね。

 とは言っても鉄拳は発動させているのですが。

 構えたまま一歩も動かない二人。

 緊張感が高まり、自分の心臓の音と呼吸の音だけが聞こえます。

 ルピアが聞きましたね。

「かかって来ないんですか?」

「あなたこそ」

 僕はうっすらと笑います。

 ルピアの唇にも笑み。

「では、こちらから行きますよ!」

 ステップを踏んで、近づいてきました。

 レイピアがムチのようにしなります。

 びゅんっ。

 僕は後退して避けました。

 この武器が相手ではやりにくいっすね―。

 剣さばきがとても速いっす。

 びゅんっ、カンッ、カンッ。

 僕は両手で弾いて、後退します。

「どうしました? 後退ばかりして、格好悪いですよ!?」

 挑発にのってはダメっす。

 僕の首にかけてある理性上昇のネックレス。

 これのおかげで、風のない水面のように頭が冷静でした。

 僕はレイピアの攻撃を防御しながら、円を描くように後退します。

 まるで、柔道の赤畳から出ないように。

 どこかに隙は無いか?

 隙は?

 びゅんっ、びゅんっ、びゅんっ。

「わたくしばかり攻撃していますよ! かかって来ないんですか?」

 僕は大きく後ろにジャンプします。

「最近、肩がこるんすよねー」

 そう言って、自分の右肩に左手を置きます。

 右腕をぐるぐると回しました

「なっ!」

 ルピアの顔が怒りのピンクに染まったっす。

 一瞬攻撃をやめましたね。

「この! 怪我しても知りませんからね!」

 それまでよりも素早く繰り出される攻撃。

 今の僕のはもちろん挑発っす。

 隙を見つけました。

 ルピアは一定の回数、剣を振るうとステップを踏むんですよね。

 今もそうでした。

 前に軽くジャンプするようにルピアのステップが刻まれます。

 ずっと後退していた僕は、相手のステップに合わせて前進し、距離を詰めました。

「え?」

 焦ったようなルピアの声。

 この近距離ではレイピアを振れないですね。

「待っ!?」

 慌てて後退しようとするルピア。

 甘いっす!

 中段蹴り。

 カーンッ。

 ルピアが握っていた剣の柄を吹っ飛ばし、レイピアが地面に転がります。

「え、えええ!?」

 僕はルピアに足払いをかけます。

「きゃ、キャアァァアー!」

 その場に転ばされる彼女。

 僕は柔道の試合のように礼をしました。

「ありがとうございました」

 いやー、良い試合でしたね。

 相手の武器の特性も分かりましたし。

 すっきりとした気分です。

 僕は踵を返し、また元のトレーニングに戻ろうと歩き出しました。

 背中に声がかかります。

「ま、待ちなさい貴方! 今のは、今のは!」

「今のは、何ですか?」

 半身だけ振り返る僕。

「油断しました! もう一度です!」

「すいません。トレーニングがあるんで、今回はこれで」

 僕は歩いて行きました。

 後ろでルピアが悔しそうに何かつぶやいていますが、気にしないことにするっす。

 一本の木の根元でトレーニングの残りをこなしましたね。

 ジョギングまではしませんでした。

 夏の朝であり、気温は高いです。

 汗だくになった僕は狼車へと戻ります。

 そこではイヨとガゼルが起き出していて、ガゼルが朝食を摂っていますね。

 イヨが準備したみたいです。

 僕は笑顔で挨拶をします。

「イヨ、おはよう」

「おはよう、テツト。どこ行ってたの?」

 イヨの疑問そうな表情。

 しかし僕の汗だくの服を見て分かったのか、彼女がため息をついたっす。

「旅の途中にまでトレーニングしてたの?」

「うん。だって、やることが無かったから」

 ルピアと戦ったことは言わなくても良いと思いました。

 イヨはゆっくりと二度頷いて言ったっす。

「もう~、テツト、頑張り屋さんなんだから。とりあえず小川で体を洗って、着替えてきて。風邪引くよ?」

「分かった。ありがとう」

 僕は狼車に戻り、タオルと着替えを持って、近くの小川に歩いて行きましたね。

 さやさやと流れる小さな川。

 僕は顔を洗って、それからパンツ一枚になり、タオルに水をつけて体を拭いたっす。

 いやー、気持ち良いっすねー。

 それに涼しいっす。

 神っすねー。

 体を拭き終えると、レザーの上下に着替えました。

 狼車の元に戻ると、ヒメとレドナーも起き出していたっす。

「んにゃん~、良く寝たにゃんよ~」

 寝ぼけ眼をこすっているヒメ。

 レドナーが両手を突き上げて伸びをしています。

「あぁー、いい朝だぜー!」

 イヨが麻布(あさぬの)を地面に敷いて、みんなの朝食を準備しています。

 サンドイッチではなく、パンの切れ目にお惣菜を挟んでソースをかけていますね。

 僕はイヨの隣に腰かけます。

「パン一つ、貰って良い?」

「いいよ?」

 パンを受け取り、僕はかぶりつきます。

 うん、美味いっす。

「あたしも、あたしも欲しいニャーン」

 ヒメが寝袋に入ったまま立ち上がり、不器用そうに歩いてきます。

 その姿は逆に器用なのかもしれませんでした。

 まるでペンギンです。

 滑稽な姿に、イヨと僕が噴き出すように笑いましたね。

「あー! 何かおかしいかニャン?」

「天使さま、寝袋に入ったままです」

 レドナーが指摘したっす。

「んにゃん?」

 つぶやいて、自分の姿を眺めるヒメ。

 清々しい朝でした。

 今日も良い一日になりそうですね。

 みんなが朝食を食べ終えると、ガゼルに馬具をつないで出発でした。

 グランシヤラン村にはもうすぐ到着予定です。


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[良い点] テツト強! (>_<)
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