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5-4 Uランクの傭兵



 旅の二日目。

 その日の昼。

 食料補給のためニッテルの町に寄りました。

 入る時、通行税を取られましたね。

 イヨが支払います。

 レドナーも自分のぶんを支払いました。

 スティナウルフが町に入ることを門衛は禁止したので、ガゼルには狼車と共に外で待っていてもらいます。

 食料調達の前。

 ちょうどお昼時ということで、僕たちは町のレストランを探していました。

「ふんふんふーん。あたしはお魚が食べたいニャン!」

 後ろからついてくるヒメが鼻歌を歌っているっす。

「天使さま、魚料理のあるレストランを探しましょう」

 畏まったようなレドナーの声。

 それを聞いたイヨと僕がそろって苦笑をこぼしましたね。

 通りを歩く人々の顔は、バルレイツとは違って少しよそよそしいです。

 他人に警戒を払っていると言えば良いのでしょうか?

 物珍しそうに町を眺める僕らを睨みつけてくる人もいたっす。

「あそこにしよう」

 イヨが指さした先には年季の入った大衆食堂の看板。

「いいね」

 僕は同意して、そちらへと足を運びます。

 ヒメがウキウキと声を弾ませました。

「魚料理はあるかニャーン?」

「必ずや、あるでしょうとも」

 レドナーが力強く言ったっす。

 食堂に入ると、昼食時だというのに中は空いていました。

 僕たち以外にお客さんは一組しかいませんね。

 その一組は店の奥の窓際のテーブルについています。

 僕らは出口にほど近い席に腰を下ろしました。

 メニューをめくり、注文する料理を決めます。

 イヨが「すいませーん」と言って店員を呼びましたね。

 カウンターの奥からは「はーい」という返事がありました。

「おっ魚おっ魚ニャンニャニャン」

 ヒメが嬉しそうに肩を揺らしています。

 魚のフライの定食を頼むことにしたようです。

 ふと。

 奥の窓際にいる四人組、女性だけのグループのようですが、こちらを向いてこそこそと話をしています。

 何か、居心地が悪いですね。

 イヨもそう思ったのか眉をひそめました。

 彼女たちを見ると、武器や防具を持っていますね。

 もしかしたら、僕たちと同じく傭兵なのかもしれません。

 ヒメがちらりと見やりました。

「なんか視線を感じるニャンねー」

「ヒメちゃん、見ちゃダメ」

 イヨが首をわずかに振ります。

 僕も同意っす。

「うん」

「何だあ、あいつらもしかして、俺の顔に惚れたか?」

 どうしてか自信満々のレドナー。

「違うから」

 イヨがツッコみを入れました。

 店員のお兄さんが来て、僕たちの注文を紙にメモし、またカウンター奥に下がります。

 レドナーがテーブルに両肘をつけて手のひらを握り合わせましたね。

「それにしても思うんだが」

「どうしたの? レドナー」

 僕が聞きます。

 レドナーが続けました。

「闘技祭って四対四なんだろ? 俺たち、ちゃんと連携を取って戦えるかと思ってさ」

「確かにね」

 同意です。

 レドナーと僕たちは一緒に戦った経験が少ないです。

 せめて訓練する時間があれば良かったのですが。

 ぶっつけ本番になりそうですね。

「まず貴方は正面から突っ込めばいいいのよ」

 イヨが薄い笑いを浮かべて、レドナーに顎をしゃくりました。

 レドナーがぎょっとしたような表情をしたっす。

「俺がか?」

「ええ、それで私たちは何もしない。ずっと後ろから戦いを眺めているから」

 クスクスと笑うイヨ。

 レドナーが顔をひきつらせましたね。

「それって、放置プレイ!? ってかイジメじゃねーか?」

「レドナーよ。頑張るニャーン」

 ヒメに応援されると、ですよ。

 レドナーはきりっとした表情をします。

 頼もしい笑みを浮かべました。

「お任せください、天使さま。敵を倒すのは俺一人で十分です」

 僕はおかしくって笑ってしまいました。

 その時です。

 窓際の四人組の女性の一人が立ち上がったっす。

 紫色の髪に、少し身長が低いですね。

 背中には弓矢と矢筒を担いでいます。

 こちらへと歩いてきました。

 声をかけてきたっす。

「あなた方。あなた方もグランシヤランの闘技祭へ行くですか? 見たところ四人組みたいですが」

「誰?」

 視線を向けるイヨの目つきがとんがっています。

 紫色の髪の女性は僕たちのテーブルから一定の距離を置いて立ち止まりました。

 自分の胸に右手を当てます。

「私はヨナ・リンクルと言います」

「それで、ヨナさん。なんの用事?」

 イヨの声は少し警戒のこもった響きですね。

 ヨナは人懐っこい笑顔を浮かべて、両手をグーに握り、胸の前に掲げました。

「そんなに警戒しなくても良いと思うですよー」

 甘ったるいヨナの声。

 どこか妹を連想させるような雰囲気です。

 とは言っても、僕に妹はいないので想像に過ぎませんが。

 ヨナは人差し指を立てます。

「同じ武器を持つ者同士、世間話をしても良いと思うです!」

「世間話?」

 イヨが言って、僕の顔をちらりと見たっす。

 レドナーが両足を組み合わせて、座ったままヨナの方を向きましたね。

「お前たちも闘技祭へ行くのか?」

「はいです! 私たちは傭兵ですが、貴方たちもそうなんですか?」

 ヨナが両手を背中に組み合わせました。

 レドナーは頷きます。

「そうだけど?」

「ふ、ふーん。ここは一つ、貴方たちの傭兵ランクを聞いても良いでしょうか! ちなみに、私はCなのです」

「Sよ」

 イヨがぷくっと笑いをこぼしつつ言いましたね。

 ヒメが胸を張って言います。

「テツトはSS(ダブルエス)だニャーン」

 もちろん嘘ですね。

「あ、あの……」

 僕は右手を上げて訂正しようとするのですが。

「俺はUだぜ」

 レドナーは自分の顔を親指でさしました。

 ちなみに傭兵ランクは下から、E,D、C、B,A、S,SS、U、UU、L,LLとなっています。

 実際の僕らの傭兵ランクはEであり、レドナーだけはDっす。

 ヨナは真に受けたようで、両手を開いてびっくりしていました。

「ゆ、Uランクの傭兵ですかあ!? こ、これは失礼をいたしましたあ!」

「おう、おとといきやがれ」

 レドナーのその言葉の使い方には微妙に違和感がありましたね。

 特に訂正せずにおきます。

 ヨナの後ろから、プラチナブロンドの女性が歩いてきました。

 腰には鞘があって剣が収められています。

 彼女はヨナの首根っこを捕まえて、

「みなさま、失礼をいたしました。ヨナ、行きますよ」

「あうー、ルピアさま、首を掴まないでくださいー。私は猫ではありませーん」

 涙目のヨナ。

 ルピアはもう一度頭を下げたっす。

 ヨナを連れて、奥の窓際のテーブルへと戻って行きます。

「何だったニャン?」

 ヒメが首をかしげていますね。

 イヨが声をにごらせます。

「あの人たちも、闘技祭に出場するみたい」

「そうみたいだね」

 僕は緊張を感じてお腹が引き締まりました。

 レドナーは組んでいた両足を解いて、また前を向きます。

「へっ、女が相手だろうと、容赦しねえぜ」

 それから少しして、僕たちの注文した料理が運ばれてきます、

 ヒメは魚フライ定食、イヨは焼肉定食、僕は鶏肉の卵とじ丼、レドナーはステーキ定食でした。

 僕たちが食べ始める頃、奥の窓際いた四人組が立ち上がり、会計を済ませて店を出て行きます。

「ま、またお会いしましょう! Uランクの傭兵さま!」

 ヨナだけは挨拶を残していきましたね。

 レドナーはちらりと振り向いただけで返事をしなかったっす。

 ヨナたちがいなくなり、僕たちは少しだけほっとしていました。

 ヒメが唇をゆるゆると緩ませます。

「あのチームが相手なら、余裕で勝てそうだニャン~」

「その通りですね。天使さま」

 同意するレドナー。

 イヨは首を振りましたね。

「強さは見た目じゃ分からない」

「僕もそう思う」

 頷く僕。

 女性だけのチームでしたが、弱いとは限らないですね。

 特にあのルピアというプラチナブロンドの女性は、立ち振る舞いに隙が無かったっす。

 身長も高く、女性にしては肩幅もありましたし。

 戦えば強いかもしれません。

 ヒメはうーんと唸り声をあげて、それからフォークで魚フライをパクっと口に入れました。

 もぐもぐと咀嚼しているっす。

 僕は注意を呼びかけました。

「とりあえず、闘技祭には用心してかかろう」

「それが良い」

 イヨが顎を引きます。

 レドナーがぶっきらぼうに言いましたね。

「まー、それはそうだな」

「あたしも頑張れニャンニャニャン」

 ヒメはのんきっす。

 食事を終えると、イヨが会計を済ませました。

 店を出て、今度は残りの旅の道中に必要になる食料の調達です。

 食材屋で買い物をして、それぞれのリュックに入れました。

 支払いをするのはイヨっすね。

 レドナーの道中の食料代は、バルレイツに帰宅してから払ってもらうという約束でした。

 僕たちはニッテルの町を出て、ガゼルのいる狼車の元へと戻ります。

 リュックを車に積んで、出発でした。

 地図を見て、南南東へと進んで行きます。

 いやー、雨が降らなくて助かっています。

 雨が降ったら、地面がぬかるみますね。

 進行速度が遅くなる上に、車が泥まみれになるっすよ。

 このまま雨に遭遇せずに、イフリートの村までたどり着きたいものです。

 夕焼けが山間に沈んでいく頃。

 ダリルが地図につけてくれた二つ目の丸印にたどり着きました。

 しかしですよ。

 先客がいるとは思わなかったっす。

 馬が二頭いて、馬車があります。

 四人組の女性が焚火を囲んでいますね。

 それは昼に会ったルピアとヨナたちでした。

 隣に座っているイヨが両目を丸くしましたね。

「あの人たちがいる!」

「目指しているのは同じ方向だからね、僕たちも、あの人たちも」

 そう言って、僕はガゼルに声をかけました。

 狼車を止めます。


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