5-2 出発
翌日の朝。
泊りがけの仕事をするために、僕たちは大荷物でした。
三人ともリュックと寝袋を担いでいます。
僕の両手には調理器具セットもぶら下がっていました。
三人で傭兵ギルドへ行くと、建物の前に狼車が止まっていましたね。
馬具につながれて、スティナウルフもいます。
伏せをしているっす。
「ガゼルニャーン!」
ヒメが近づいて行って、その首に触れました。
ガゼルがむくっと体を起こします。
「ぐるるー」
(おはようヒメ)
イヨと僕も笑顔になったっす。
僕らも近づいて行きます。
ヒメが聞きました。
「またガゼルがあたしたちを連れて行ってくれるニャンか?」
(うむ、そうなった。お前たちとまた仕事ができて嬉しいぞ)
「あたしも嬉しいニャンよ~」
「本当」
イヨが両手のひらを合わせて微笑しましたね。
その顔を見るとですよ。
僕は頬を染めてしまいます。
可愛いっす。
ふと建物の扉が開いてダリルが出てきました。
右手に折りたたまれた紙を持っていますね。
僕たちを見つけると、彼は「お」と言ってこちらに近寄ってきます。
「来たか、お前たち。おはよう」
「おはようだニャーン!」
右手を上げて、元気いっぱいなヒメの挨拶。
「「おはようございます」」
イヨと僕が軽く会釈をしました。
そう言えばレドナーの姿がありませんね。
まだ来ていないんでしょうか?
そう思っていると、ガチャと狼車の扉が内側から開きましたね。
黒ずくめに灰色のマフラーの男が登場したっす。
「おはようございます! 天使さま」
ヒメがくるりと振り向きました。
「レドナーよ、そんなところに隠れていたニャンかー」
「か、隠れてなどいません! 乗っていただけです」
照れたようにレドナーが首を振ったっす。
四人がそろうと、ダリルが両腕を胸に組みました。
声を張ります。
「お前ら。グランシヤランには昨日伝書バトを飛ばしておいた。四日後の闘技祭にはエントリーされるはずだ。気合を入れて、名を上げて来るんだな。それと、死なないようにな」
ダリルは言葉尻で嫌な笑みを浮かべたっす。
ヒメが勢いよく首を振りましたね。
「テツトがいるから安全ニャンよ~」
「そうそう」
イヨがぷくっと笑って同意しました。
「いやいやいや、みんなで頑張りましょうよ」
僕はそう言うんですが、
「テツトは無敵ニャン」
「頼もしいわ」
「白浜テツト、れでぃ~ごーだニャーン!」
「余裕ね」
ヒメは本気で言っているんでしょうけれど。
イヨは悪ノリしているっす。
そんなところも可愛いのですが。
僕は返す言葉が出ないっす。
「俺がいれば楽勝だぜ!」
レドナーが自分の胸をドンと叩きましたね。
ダリルは口を閉じたまま笑って二度頷きました。
「よし。テツト、レドナー、イヨとヒメの嬢ちゃんは任せたぞ。これは地図だ」
ダリルが折りたたまれている紙を僕に渡したっす。
受け取る僕。
「ありがとうございます」
「ああ。道中気をつけろよ」
「はい!」
僕ははきはきと返事をします。
ダリルが狼車を指さしました。
「スティナウルフの食料は昨日言った通り狼車に積んである。防腐剤入りの水もタル二つ分用意しておいた。お前たち、忘れもんは無いか?」
「大丈夫ニャンよー!」
ヒメが言って機嫌良さそうに肩を揺らしましたね。
ダリルがニカッと笑います。
「よし、それじゃあ行って来い!」
「んにゃーん!」とヒメ。
「「はい!」」とイヨと僕とレドナー。
僕たちはダリルに軽く頭を下げて、狼車の方に移動しました。
荷物を後ろに積みます。
ヒメとレドナーが狼車に乗り込み、イヨと僕は御者台に座りました。
ガゼルがむっくりと立ち上がります。
「ぐるるー」
(行くか? テツト)
「ああ。だけどちょっと待ってくれ、ガゼル」
(ああ)
地図を開くと、紙が三枚重なっていますね。
この町からグランシヤランまでの道のりは狼車で三日ということです。
地図の枚数が多くなるのは当然でした。
隣にいるイヨが地図を覗き込んだっす。
「とりあえず、町の南門から出れば良い」
「そうだね」
僕は頷きましたね。
(南門だな。それじゃあ行くぞ)
ガゼルがゆっくりと歩き出します。
狼車が旋回し、ギシギシと音を立てて進み出しました。
「お前ら、気を付けるんだぞー!」
後ろではダリルが右手を上げています。
窓が開く音がして、ヒメが顔を出したっす。
「行ってくるニャンよー!」
ダリルに手を振っていますね。
イヨと僕は顔を見合わせて微笑したのでした。
空は気持ちの良い快晴。
良い旅になりそうでした。