5-1 ランクアップ試験
6/2第五巻の連載を開始しました。この巻はすでに最後の部分まで完成しています。ですので、毎日手直しをしながらアップをするだけの作業となります。【猫もついてきた!】は第四巻で一度完結していますが、再度連載開始となりました。皆さまどうぞよろしくお願いいたします。
夏祭りが過ぎました。
僕とイヨの関係は発展し、最近では顔を合わせるだけでお互いがはにかんでしまいますね。
恋人なってからというもの、心がポカポカと暖かくなり、気分がウキウキとしちゃいます。
いやー、人生の春ですね。
嬉しくて。
楽しいっす。
マジ神っす。
その日の朝。
早朝のトレーニングを済ませて、朝食も食べ終えた僕たちはダイニングテーブルで紅茶を飲んでいました。
右斜め向かいに座っているヒメが言いましたね。
「二人とも~、子供はまだ出来ないのかニャン?」
「ちょっとヒメちゃん!」
イヨが口に含んだ紅茶をふき出しそうになって、左手で口元を押さえます。
僕は苦笑したっす。
「ヒメ、まだ出来ないよ」
いたって真剣なヒメの表情。
僕たちが恋人になったことは告げてありました。
「じゃあいつ出来るかニャン?」
イヨがヒメの肩に手を置きます。
「ヒメちゃん。その話はまた今度!」
「何でニャン? あたしは早く、二人の子供が見たいニャンよ~」
「そ、そんなこと言われてもさ」
僕はたじたじっす。
僕はまだ15才ですね。
イヨは二つ上の17才でした。
恋人として過ごした期間的にも、年齢的にも子供を作るのは早い気がします。
イヨが鼻を赤らめて僕を見ましたね。
「テツト、作る?」
「つ、作るんすか!?」
口をあんぐりと開ける僕。
「ここは、作っておけ、だニャン!」
ヒメが言って何度も頷きましたね。
僕はうーんと唸って、考えたっす。
ちなみに、イヨとエッチをしたことはまだ無いですね。
ですが、ですよ?
もしも、そういう行為をしてイヨが妊娠してしまったら、彼女は長い期間仕事を休むことになるっす。
つまり、イヨ抜きで仕事をすることになりますね。
子育ての期間も考えると、何年かかるんでしょうか?
先日マグマ鉱床を発掘したおかげで家に貯蓄はありますが。
うーん。
子供を作るかどうかはイヨの気持ち次第ですね。
彼女が人差し指を立てました。
「子供は、もうちょっと待つ」
「何でニャンか?」
ヒメが聞きました。
「せめて、家を買ってからにする」
「家はまだ買えないかニャン?」
「うん。いま持っている貯金の倍は欲しいところ」
「いまいくらぐらいあるニャン?」
「900万ぐらい」
「おおー、だいぶ溜まったニャンねー」
「うん。マグマ鉱床を発掘したおかげ」
「マグマ鉱床をもっと掘りに行くニャンよー」
「それは、確かにそう」
僕は紅茶をずずーっとすすって、カップをテーブルに置いたっす。
「とりあえず、今日はどうする?」
「テツト、マグマ鉱床に行くニャーン!」
ヒメが両手を万歳しましたね。
イヨが左手を顎につけてうなりました。
「うーん、行くとなると、ティルルさんやガゼルの協力も必要だから、声をかけないといけない。二人には仕事を休んでもらわないといけないから、今日行くのは無理」
「んにゃん~、残念だニャン」
両手を降ろすヒメ。
僕は頷いたっす。
「そうだね」
「うん。今日はギルドに行って、いつも通り仕事をしよう」
イヨが僕の顔を見ました。
「それが良いね」
同意する僕。
「んにゃん~、あたしはー、子供の名前を考えるニャンよー」
「ヒメちゃん、気が早すぎ」
イヨが言って、おかしそうに肩を揺らしたっす。
「テツトとイヨの子供だから~、テツヨという名前はどうだニャン?」
「……ダメ」
「それはさすがに……」
イヨと僕が首を振ります。
センスが無さすぎでした。
ヒメが残念そうに唇をすぼめます。
「良いと思ったニャンけど~」
「ダーメ」
イヨが椅子を引いて立ち上がります。
三人の紅茶のカップを回収して、流しで洗い物をしました。
僕も立ち上がり、仕事に出かける準備をします。
イヨが作ってくれたサンドイッチや飲み物などをリュックに入れたっす。
ヒメは一人で両腕を胸に組み、何か考えています。
「テツトテツト、イヨイヨイヨ、んにゃん~」
何かぶつぶつ言っていますね。
子供の名前を考えているんだと思うっす。
そして僕たちは出かける準備して、アパートを出ました。
朝日がまぶしいっすねー。
それに最近では気温が高くて、すぐに背中や脇から汗が出てきます。
夏ですねー。
イヨとヒメは、ユメヒツジ製のワンピースとタイツを着ているのですが、涼しそうな顔でした。
風通しの良い素材という話でしたね。
ちなみにイヨは赤、ヒメはピンクのワンピースっす。
坂を上がり、下って行きます。
突き当りを右に折れて歩いて行くと、傭兵ギルドの建物が見えてきました。
剣を突き上げた剣士の彫像。
その奥の建物の扉わきに、見知った顔の男が立っているっす。
黒ずくめのレザージャケットの上下に、首元には灰色のマフラー。
口元が隠れていますね。
ざんばら髪に眼光の鋭い男。
「お、おはようございます。天使さま!」
レドナーでした。
「レドナーよ、おはようだニャーン」
ヒメがぴょんと右手を上げたっす。
「出たわね」
イヨが呆れたように笑いましたね。
僕も右手を胸元にあげます。
「おはよう、レドナー」
「おう、テツトにイヨ。今日は良い朝だ。これから仕事を請けに行くのか?」
「そうだニャンよ~」
ヒメがレドナーのそばに寄って、彼の頭をぽんぽんと触っています。
レドナーが続けます。
「そうか。何なら、俺が一緒に仕事を手伝ってやっても良いんだぜ?」
「要らない」
切り捨てるイヨ。
ヒメが振り向きます。
「イヨ、レドナーも一緒に連れて行くニャンよ。この間、夏祭りでいっぱいご馳走してもらったニャン!」
「そうなの? ヒメちゃん」
イヨが首を傾けましたね。
ヒメが元気に頷きます。
「んにゃん!」
「へ、へへへ」
レドナーが照れたように笑って右手で頬をかいたっす。
イヨが僕を振り向きました。
「テツト、どうする?」
僕は頷いたっす。
「いいんじゃないかな? 一緒でも」
「そっか」
イヨが顎を引いて、レドナーを向きます。
「同行して良い」
「よっしゃー!」
レドナーがガッツポーズを取りましたね。
ヒメが嬉しそうに彼の肩を叩きます。
「レドナーよ、ちゃんとあたしを守るニャンよー?」
「お、おおお、お任せください天使さま。天使さまのためなら、例え火の中水の中!」
「中に入る」
イヨが扉を開けてギルドの中へと足を踏み入れます。
僕はその背中に続いたっす。
「行くニャーン」
「よ、よし!」
ヒメとレドナーが着いてきました。
室内はいつも傭兵たちが一列を作っているのですが、今日は二列でしたね。
ダリルだけでなく、ハニハもいて、仕事を請け負う傭兵たちをさばいているっす。
僕たちはダリルの方の列に並びました。
やがて順番が回ってきます。
イヨがカウンターに手をつけたっす。
「おはようございます。ダリルさん」
赤髪に顎髭のダリルがニカッと笑みをくれました。
「おはよう、イヨにテツトにヒメの嬢ちゃん。お? 今日はレドナーも一緒なのか。ということは、四人で一緒に仕事をするのか?」
「おうよ!」
レドナーが気合を込めて言って、胸の前で拳を握りましたね。
イヨはちょっと微妙な顔をしつつ、言葉を続けます。
「ダリルさん、今日はどんな仕事が来ている?」
「うーん、そうだなー、ちょっと待ってくれ」
ダリルは首の後ろをポリポリとかいて、クリップボードを取りました。
しかしすぐにそれをカウンターに置きます。
両腕を胸に組んで、僕たちを値踏みするように見ましたね。
「イヨ、グランシヤランって村を知っているか?」
「グランシヤラン? 確か、イフリートさまの祭壇がある村ですよね?」
「そうだ。火の大精霊、イフリートが君臨している村なんだが、行ってみたらどうだ?」
「グランシヤランに?」
「ああ。確か数日後に、夏の闘技祭があるはずだ。闘技祭で優勝したチームは、イフリートの力の恩恵を賜れる。行って出場してみる価値はあると思うぞ?」
「んー……」
イヨが腕組みをして下を向いたっす。
こちらをちらりと振り返りましたね。
イヨの隣に僕が並びます。
「闘技祭の出場者は、何人ぐらいいるんですか?」
「それはその年によって違うなあ。ガナッドが生前の頃、俺とガナッドとエリザと、他の友人で出場したことがあるんだが……」
「勝ったニャンか?」
ヒメが聞きましたね。
「ペテタンだ」
肩を落とすダリル。
イヨが顔を上げたっす。
胸ポケットからメモ帳とペンを取り出しましたね。
「闘技祭の情報を詳しく教えて欲しい」
「いいぞ?」
ダリルが説明をします。
イヨがメモを取ってくれました。
何でも、闘技祭は四人組のチーム戦なのだとか。
いま僕たちは四人いるのでピッタリでした。
説明を終えると、ダリルがカウンターに両手をつけましたね。
「お前ら、試しに出場してみたらどうだ?」
「行くニャーン!」
ヒメは元気にそう言うんですが。
イヨは悩んでいるようで、首を傾けています。
「出場しても優勝するのは難しいと思う。イフリートさまの力の恩恵をもらえなければ、行くメリットがあるのかどうか……」
「そうだなあ」
ダリルが右手で顎髭をつまみます。
続けて言ったっす。
「よし! もし闘技祭で一回戦でも勝てたなら、お前らの傭兵ランクを一つ上げてやる!」
「マジか!」
黙って聞いていたレドナーが反応しましたね。
僕もちょっとだけ興奮していました。
EランクからDランクに上がれば、ですよ。
もう一つ難易度の高い依頼が受けられるっす。
報酬も上がりますよね。
「ここは、グランシヤランに行っておくだニャン!」
ヒメが言ってイヨの顔を見ます。
イヨはコクコクと頷きましたね。
「そうね!」
「お前ら」
ダリルがまた両腕を胸に組んだっす。
続けて言います。
「繰り返すが、これは傭兵のランクアップ試験とする。一回戦でも勝てればランクアップ。勝てなければ何も無し。どうだ、やるかい?」
イヨがこちらを向きます。
僕は力強く頷きましたね。
イヨがまた正面を向いたっす。
「やる」
「よし」
ダリルはまた僕たち四人を見回しました。
「狼車の用意はこちらでしておく。お前ら、明日の朝また来い。グランシヤランまでの地図はあるか?」
「ありません」
首を振るイヨ。
ダリルがゆっくりと二度頷きましたね。
「じゃあ地図も俺が用意しておく。飲み水も用意しておく。お前らは自分たちの食い物と着替えを持ってくればいい。武器を忘れるんじゃねーぞ?」
「はいニャーン!」
ヒメが元気に右手を上げたっす。
ダリルは愉快そうに笑いましたね。
「ヒメの嬢ちゃんは元気がいいな」
イヨが口を開きました。
「グランシヤランまでは、狼車で何日かかる?」
「三日だな」
「三日か……」
イヨがまたメモ帳に書き込みます。
続けて聞きました。
「私たち、今日の仕事はどうすればいいの?」
ダリルはうーんと唸って、何か考え、それからいたずらっぽく笑います。
「お前らの今日の仕事は、傭兵ギルドと両隣の酒場と宿屋の草むしりをしろ」
「草むしり?」
顔をひきつらせるイヨ。
ダリルは続けて言ったっす。
「ちなみに報酬は無しだ」
「なんで?」
イヨが怪訝そうに眉にしわを寄せます。
「当たり前だろ。スティナウルフと狼車の借り賃。それからスティナウルフの食料と飲み水を用意するのはギルドだ。よってお前たちは今日、ただ働きだ」
僕たちは苦笑を浮かべましたね。
そう言うことなら仕方ないっす。
そしてそれから。
僕たちはしぶしぶ、ギルドとその両隣の建物の地面を草むしりしたのでした。
休憩を入れつつ、一日中頑張りましたね。
みんなが汗でだらだらになったっすよ。
だけど地面には雑草が無くなり、すっきりとしましたね。
明日からは長旅なるみたいです。
プレッシャーを感じますが、楽しみでもありました。
最近ではリアルが忙しく(とは言っても皆様と同様に働いているだけなのですが)、毎日執筆するほどの体力が無いのが現状です。土日には書くようにするつもりなので、一巻につきエピソードが20あるとすると、三か月に一巻はアップできるかな? と思っています。一巻をかき終えたら、その巻を一日一部ずつアップしていこうと思っています。一巻を全部アップし終えた後、次の巻作成まで日が空くと思いますが、お待ちいただきたいです。これからも【猫もついてきた!】をよろしくお願いいたします。