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4-10 ミルフィと腰痛薬の副作用


 レストランで食事をして、その後解散になりました。

 巡行狼車で僕たちはアパートに帰ったっす。

 三人でテーブルに座り、イヨが入れてくれた紅茶を飲んでいました。

 ヒメが鼻歌を歌いましたね。

「ふんふんふーん、家を買うニャン、家を買うニャン」

「家はまだ買わない」

 イヨが首を振ります。

「何でニャン?」

 疑問そうなヒメの瞳。

「もうちょっと、蓄えが出来てからにする」

 イヨが紅茶のカップをすすります。

 ヒメが両手をテーブルにつけました。

「でも、家があれば便利ニャンよ? 壁を引っかいても、誰にも怒られないニャン」

「家でも壁は引っかいちゃダメ」

 イヨが苦笑して言いましたね。

「んにゃーん」

 残念そうなヒメの顔と声です。

 何だかゆったりとした空気が流れていましたね。

 しかしですよ。

 突然の来訪者がやってきます。

 扉がコンコンと外からノックされました。

「はーい」

 イヨが立ち上がって扉に向かいましたね。

 開けるとそこにはメイド服姿のサリナがいたっす。

 イヨが頭を下げました。

「こんにちは、サリナさん」

「こんにちは、イヨ様。突然の来訪を失礼いたします」

「それはいいけど」

「イヨ様、ミルフィ様が三人をお呼びです。支度をして、領主館にいらっしゃってください。下に狼車を止めてあります」

「ミルフィが?」

「はい」

「どんな用事?」

「それは、ミルフィ様自身がお話したいとのことです」

「へえ」

 イヨがこちらを振り返って声をかけたっす。

「テツト、ヒメちゃん、出かける準備をして」

「ミルフィが呼んでるニャンか?」

 ヒメが聞きました。

「うん」

 首肯するイヨ。

「あ! じゃあ、マニュアル本を借りたいニャーン。ちょっと準備するニャンねー」

 ヒメが椅子を引いて立ち、自分の部屋に向かいます。

「そうね!」

 イヨも自分の部屋に下がりました。

 僕は特に支度をする必要がなかったっす。

 二人が準備をするのを待ちましたね。

 やがて二人が部屋から出てきて、僕たちは玄関から外に出ました。

 鍵をかけます。

 サリナが言いました。

「それではみなさま、着いてきてください」

「何の用事だろ?」

 イヨが疑問を浮かべているっす。

 ヒメはウキウキとした顔と声です。

「今夜はまたみんなで女子トークだニャンよ~~」

 僕は腹が痛かったっす。

 ミルフィは、アレなんじゃないですかね。

 腰痛薬を飲んだんじゃないですか?

 悪い副作用が出ている気がします。

 やばいっす。

 僕らは階段を下り、狼車に乗り込みます。

 御者台にはドルフがいましたね。

「おう、テツトくんにイヨちゃんにヒメちゃん。こんにちは!」

「こんにちはだニャーン」とヒメ。

「こんにちは、ドルフさん」とイヨ。

「ど、どうも」と僕。

 ドルフが「ハイヤー」と声を張って狼車が出発します。

 揺られながら、イヨがサリナに質問したっす。

「サリナさん、ミルフィはどうしたの?」

「みなさまをお呼びした内容は、私からは言えません。固く口止めされているのです」

「ふーん」

 イヨが右手を頬につけましたね。

 ヒメが窓から顔を出して歌っています。

「レッツゴー、スティナウルフ! レッツゴーテツト! その手でバルレイツの町をいざ救えニャン! みんなの幸せ守るため! 今日もいざ出陣ニャン! レッツゴースティナウルフ! レッツゴーテツト!」

 ちょっと恥ずかしい歌でした。

 やがて狼車が領主館の前に到着します。

 僕たちは降りて、サリナが先頭を歩いたっす。

 その背中に続きました。

 嫌な予感がしましたね。

 第六感って言うんでしょうか?

 体に鳥肌が立ちます。

 玄関から中に入り、僕たちはリビングに通されました。

 長いソファに腰かけていたミルフィが立ち上がります。

「テツトさん、良く来てくれましたわぁ」

 何か……。

 何かいつもと違います。

 ミルフィの両目にハートマークが浮かんでいますね。

 イヨとヒメが顔を見合わせて、それからイヨが「あっ!」と声を上げたっす。

「ミルフィ、もしかして、腰痛薬飲んだ?」

「はぁい。ガゼルさんが届けてくれて、飲ませていただきました! おかげ様でぇ、この通り! すっかり腰が痛くなくなりましたわぁ。全てはテツトさんのおかげですー」

「ミルフィ……」

 イヨが顔をひきつらせて、ソファに座ります。

 ヒメと僕もその後に続きました。

 やばいっす。

 ミルフィが顔を赤くしています。

 熱視線て言うんですかね。

 こちらを見ています。

 イヨが言いました。

「ミルフィ、今日は何の用事なの?」

「用事? 私はただぁ、テツトに会いたかっただけですよぉ」

「用事は無いの?」

「いえ一つだけ、イヨとヒメちゃんにはお願いしたいことがありましてぇ」

「何?」とイヨ。

「何ニャンか?」とヒメ。

 二人が怪訝そうな顔つきになりましたね。

 サリナが紅茶を運んできました。

「みなさま、どうぞ」

 僕たちの前にカップが置かれます。

 サリナが下がっていきました。

 ミルフィが右手のひらを開きます。

「さ、どうぞお飲みくださいなぁ」

 ヒメとイヨがカップを持ち、紅茶をすすりました。

 にんまりとしたミルフィの笑顔。

怪しい笑みでした。

 両手のひらを合わせたっす。

「それでなんですがぁ、私ぃ、実はぁ、勇者の一族の末裔(まつえい)としてー、子供を産まなければいけませんのですぅ。そこで何ですがぁ、ちょっとぉ、テツトさんの子種をぉ、分けて頂きたいと思っていましてぇー」

 イヨがカップをテーブルに置きます。

 ドンッ、と大きな音が立ちましたね。

「それはどうしてテツトなの?」

「それはですねぇ。実は私とテツトさんの体はぁ、月影占術でー、とても愛称が良いということが前々から判明していたのですよぉ。むふふふふ」

 ヒメがカップをテーブルに置きます。

 ドンッ、と音がして、紅茶が少しこぼれました。

「テツトは渡さないニャン!」

 ミルフィが両手で自分の頬を挟みます。

「いえいえ、何もテツトさんと取ろうと言う訳ではありません。ただその子種をですね? 子種をちょっと頂たいのですわぁ」

 イヨが冷静に言ったっす。

「ミルフィ、貴方はいま、腰痛薬の副作用で頭がおかしくなっている。冷静になってからまた話して」

「おかしくなってなどいませんですぅ」

 ミルフィが子供のように唇をすぼめて顔を振りました。

 そして僕を見ましたね。

「どうですかぁ? テツトさん。一晩私とエッチをして、子種を分けて頂けないでしょうかー? とっても気持ちよくしてさしあげますけどぉ?」

「そ、それは……」

 イヨが後ろから手を伸ばして、僕の背中を思いっきりつねります。

「痛たたたた!」

「痛い?」

 ミルフィの困惑した声。

 僕は言ったっす。

「ミルフィ様、僕は、ミルフィ様に子種を分けることができません」

「どうしてですかぁー?」

 ミルフィが泣き出しそうな表情をしましたね。

 僕は。

 僕だって男です。

 ここはイヨのためにも、自分のためにも、はっきり言っておく必要がありました。

「ミルフィ様、僕には、好きな人がいるんです」

「それは誰ですかぁ?」

 泣き出しそうなミルフィの両目。

「それは、ミルフィ様とは別の人です」

「イヨですか? それとも、ヒメちゃんですかぁ?」

 三人の視線が僕に集中します。

「……」

「黙ってないで教えてくださいなぁ」

 僕はイヨの顔を向きます。

 彼女の頬がほんのりと染まっていましたね。

 微かに頷いたように見えます。

 僕は立ち上がりました。

「ぼ、僕は、僕は!」

「僕は、何ですかぁ?」

「僕は! 僕は! イヨの事が!」

 そこでミルフィが両手のひらをぱちんと叩きました。

「分かりましたわ」

 氷のように冷たいミルフィの声でした。

 彼女が立ち上がります。

 そして言ったっす。

「イヨ、道場にいらしてくださいな」

「何をするの?」

「勝負ですわ!」

 ミルフィが鬼の形相でイヨを睨みつけましたね。

 そして。

 道場にミルフィとイヨが立ち、二人とも木刀を持って対峙していました。

 イヨは持参していた盾も持っています。

 イヨの装備は黄色い波動に包まれていますね。

 スキル、修行の成果が発動していました。

 僕とイヨはそばに立ち、イヨを応援しています。

 どうしてかサリナも来ていました。

 ミルフィが双眸を鋭くします。

「イヨ? 私にコテンパンに叩きのめされて、わんわんと泣き声を上げる前に、謝れば許してさしあげますわぁ」

「私、謝ることなんて何もしてない」

「では、勝負をするということで、お間違いありませんかぁ?」

「よく分からないけど、テツトは渡さない」

「あらぁ、おかしな話ですねー。渡さないだなんてぇ。テツトは、イヨの所有物なのでしょうかぁ?」

「私の所有物じゃないけど、ミルフィには渡さない」

「それはどういうことでしょうかぁ? 自分の物ではないのに、私に渡さないなんて。せめてイヨとテツトが夫婦であると言うのなら、私としては、引き下がっても良いですがぁ」

「もう少しなの!」

「もう少し、とは?」

「もう少しって言ったらもう少しなの!」

「それは、もう少しで夫婦になれる、という言葉でしょうかぁ?」

 イヨが頷きました。

 僕は胸がドキドキとしましたね。

 イヨは僕と夫婦になりたいんでしょうか?

 いいんですかね?

 もう良いってことにしちゃいましょう。

 ミルフィが木刀を構えます。

「では、私としては、テツトとイヨが結ばれるのを全力で阻止させていただきます」

「来い!」

 イヨも木刀と盾を構えました。

 そしてスキル唱えます。

「凝視」

 イヨの両目が黄色い波動を帯びます。

 ミルフィが笑いました。

「あらぁ、それは私が教えてさしあげた、合成スキルの素材スキルですねー。買ったんですかぁー?」

「先手必勝!」

 イヨが距離を詰めました。

 木刀を振りかぶります。

 ミルフィが受け流すように木刀を木刀で受け止めました。

 カーンッ、カーンッ。

「イヨ、頑張るニャンよ!」

 ヒメが両手をグーにして真剣な眼差しを向けているっす。

 イヨがまた唱えました。

「疾風三連」

 オレンジ色の波動をまとう装備。

 イヨは疾風の速さで動き、剣、盾、剣の三連撃を放ちます。

 ミルフィが唱えました。

「幻惑回避」

 イヨの体がゆらりと揺れたっす。

 三連撃は力を無くしました。

 ミルフィが木刀を振るい、イヨの右肩を狙います。

 瞬間、イヨは後ろに跳んで躱しました。

「くっ、やるわね!」

「あらぁ、私はまだまだ全然本気を出していませんよぉ? 本当に全然ですぅ。イヨ、テツトを私にください」

「テツトはあげない!」

「ください!」

「あげないあげない!」

「そんな子供が駄々をこねるように叫ばれるとぉ、私、怒っちゃいますよぉ?」

「テツトは私の物なの!」

「カチーン、さすがに私、激おこですわぁ」

 ミルフィが走り出します。

 木刀を振りました。

 イヨは盾を構えます。

「バンストライク!」

「シールドバッシュ!」

 二人のスキルがぶつかり合います。

 イヨが壁に吹き飛ばされて、背中から叩きつけられました。

 地面に崩れます。

「ぐうっ!」

「イヨ! 立つニャン!」

 悲鳴のようなヒメの声。

「あら? あら?」

 ミルフィはシールドバッシュの波動をくらって、頭をピヨピヨと回しているっす。

 やばいっす。

 イヨは歯が立たないっすね。

 力が違い過ぎます。

 サリナが声をかけました。

「ミルフィ様、そろそろ」

「あらぁ、時間ですかぁ?」

 イヨは立ち上がれずに、そのまま地面に力なく四肢を投げだします。

 どうしたんですかね?

 気絶したんでしょうか?

 ふと隣では、ヒメも床に膝を落としました。

「あれぇ、あたし、何だか眠くなって来たニャンよ~」

 そのまま床に転がり、くーくーといびきをかき始めます。

 僕は眉をひそめてミルフィを睨みました。

 サリナが言ったっす。

「お二人の紅茶には、睡眠薬を入れさせていただきました」

「な、なんでですか?」

 僕が聞きました。

 ミルフィが笑顔でこちらに近づいてきます。

 ジャンプして僕の首に抱き着きましたね。

「さあテツト、私とエッチしましょうね!」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。卑怯じゃないですか!」

「卑怯? 卑怯ではありません。全然卑怯ではありません」

 首を振るミルフィ。

 サリナが言いました。

「ミルフィ様、イヨ様とヒメ様は私が自宅へ帰します。後はどうか、ごゆるりと」

 ごゆるりとって何すか?

 分からないっす。

 ミルフィが僕の左手を握って、元気よく歩き出しました。

「さあテツト、二人の秘密の花園に向かいますよ!」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと!」

 僕はミルフィの手を離そうとするんですが。

 剛力ですね。

 離せないっす。

 僕はミルフィに引っ張られるがままに歩き、彼女の部屋に連れていかれました。

 やばいっす。

 この後どうすれば良いんでしょうか?


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[良い点] テツト羨ましい(゜□゜)
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