表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/147

4-8 アルテミス


 みんなで朝食を食べていました。

 ガゼルはいつものソーセージの塊、僕たちはサンドイッチです。

 食べながら、ティルルが羨ましそうに言いましたね。

「いやあ、テツトさんはモテるなあ」

「そ、そんなことないっすよー」

 僕は顔を赤くして首を振ったっす。

 ティルル双眸を鋭くします。

「そうかな? 昨日は女の子二人に添い寝をしてもらったみたいだけど」

「テツトはモテモテだニャーン」

 ヒメがサンドイッチをはぐはぐと口に運んでいますね。

 イヨまでもが冗談を言いました。

「二人とも骨抜きにされたんです」

 僕は声を上ずらせます。

「い、いいい、イヨ!」

「うふふ」

 イヨは艶やかな微笑を浮かべていますね。

 僕はたじたじっす。

 朝食を食べ終えたガゼルが宣言するように言いました。

(テツトはイヨが良いそうだぞ?)

「えっ?」

 ぽっ、と顔を赤くするイヨ。

 僕は顔の前で両手を振ります。

「ち、違っ、違う違う」

「違うの?」

 イヨが僕に疑問そうな顔を向けたっす。

「いや、違うというか、何というか……」

「じゃあ誰がいいの?」

「そ、それはっ」

「あたしかニャン?」

 ヒメが自分の顔を指さします。

「はいはいご馳走さまでーす」

 サンドイッチを食べ終えたティルルが言いました。

 続けて言います。

「これは今年中にも結婚式かな?」

(うむ。我も行こう)

 ガゼルの顔が笑っています。

 ヒメが両手を万歳しました。

「みんなで結婚式だニャーン」

「え、えええ!?」

 僕は顔をひきつらせたっす。

「いいんじゃない? 別に」

 イヨはまんざらでも無さそうな顔です。

 い、いいのかな?

 僕はイヨの顔をまじまじと見てしまいました。

 今日も可愛いっす。

 激しくプリティーっす。

 そして。

 僕たちは食事を終えて、イヨが温泉から流れる川で洗い物をしましたね。

 荷物を背負って出発です。

 ランタンを右手に掲げるイヨが先頭でした。

 川の流れている先の洞窟へと足を進めます。

 ティルルが不安そうに言ったっす。

「魔族が出ないといいけど」

(その時はテツト、頼むぞ)

 ガゼルが「がるるぅ」と口を鳴らします。

「分かりました!」

 僕はいつでも戦闘が出来るように気を張ります。

 やがて洞窟の向こうに、また広い空間が見えてきましたね。

 薄明りが見えたっす。

 イヨが恐々とした声で言いました。

「何かいるわ!」

 地面は岩石のような黒色でした。

 広い空間の先は崖になっていて、川の水が下に落っこちています。

 その手前に、小さな月のような石に乗って浮かんでいる妖精のモンスターが一人いましたね。

 黄色い光を放っています。

髪の長い女性ですね。

 ヒメが指さしたっす。

「アルテミスニャン!」

「本当だわ」

 イヨが頷きました。

 僕たちは立ち止まります。

 アルテミスが何かつぶやいていますね。

「はよん? ほよん? はよほよん?」

 ガゼルが口を鳴らして前に出ました。

(どうする? アイツを食べるか?)

 その頭にイヨが手を置きます。

「食べちゃダメ」

 イヨがティルルを振り返ったっす。

「ティルルさん、アルテミスは頭が良いの?」

「それは分からないな。私も情報がないよ」

 ヒメが歩き出しました。

「あたし、話しかけてみるニャン」

「ちょっと、ヒメちゃん!」

 焦ったようなイヨの声。

 ヒメはアルテミスにゆっくりと近づいて、話しかけます。

「アルテミス。お前はアルテミスニャンか?」

「はよ~ん」

「そうニャンね。あたしはヒメだニャン」

「はよぴとはよ?」

「んにゃん! お前はなんて言う名前ニャンか?」

「ほよはよん」

「クラって言うニャンね~」

 ヒメが会話をしていますね。

 凄いっす。

 元々猫のせいなのか、人外の生物ともコミュニケーションがとれるようでした。

 アルテミスが眉をひそめます。

「ほよぴそほよん?」

「あたしたちは、お前の持っている月光石を取りにきたニャンよ~。良かったらくれニャン」

 アルテミスの両手には黄色い石がありますね。

 あれがたぶん月光石なのでしょう。

「ほよほよ~。はよりろはよはよ」

「あたしたちはお前を倒したりしないニャンよー。ただ、月光石を譲って欲しいニャン」

「はよ~。はよ~。……ほよれのらのほよん」

「ジアリウムニャン?」

「はよ~」

「分かったニャン。じゃあ、あたしたちが代わりのジアリウムを持ってくるニャンよー。そうすれば、持っている月光石を譲ってくれるニャンね!」

「はよんほよん!」

「任せろだニャーン」

 ヒメは頷いて振り向き、こちらに戻って来ます。

 ティルルが感心したように言いました。

「すごいねヒメさんは。アルテミスが何を言っているか分かるのか」

「分かるニャンよー」

 ヒメがえっへんと胸を張ります。

「ぐるるぅ」

(我も分かる)

 ガゼルが頷きました。

 ガゼルも話の内容を理解したようです。

 イヨが聞きます。

「それでヒメちゃん、どうだったの?」

「ん~、アルテミスのクラが言うには、いま持っている月光石は新しいジアリウムと交換だってことだニャンよ~。イヨ、ジアリウムを持ってくるニャン」

「ジアリウムは、無い」

 イヨが肩を落としました。

 ティルルが地面を足で踏みつけます。

「発掘しよう!」

 ティルルが興奮したように言葉を続けたっす。

「ここの地面にはマグマ鉱床がたくさんあるからね。ジアリウムも採れると思うよ」

「本当!?」

 両目を丸くするイヨ。

「発掘ニャーン!」

 ヒメが右手を突き上げました。

 そして僕たちはガゼルのカゴに積んであるツルハシを取り出します。

 ツルハシには赤いマジックストーンがついており、破壊力上昇の効果が込められていましたね。

 ティルルの指示に従い、黒い岩石を慎重に掘っていきます。

 僕は鉄拳の腕力上昇効果もあり、サクサクと掘り進めることができました。

 黒い岩石の下に、様々な綺麗な石が見えてきたっす。

 ティルルが興奮して言います。

「すごい! 虹鉱石だ! ラナ鉱石まである! 浄化石まで! テツトさん、イヨさん丁寧に掘ってくれ」

「丁寧に?」

 イヨが顔を上げました。

「ああ、なるべく石が大きくとれるように、粉々にしすぎないように、石の外側を掘ってくれ。頼むよ」

「やってみる」

 僕とイヨが掘り進めます。

 その間、アルテミスがこちらに近づいてきて興味深そうに眺めていました。

 ヒメがその隣に腰かけて、二人で何やら会話をしていますね。

「はよ~ん、ほよ~ん」

「クラはずっとここに一人ニャンか?」

「はよぴそほよん」

「それは寂しいニャンねー。良かったら町に来れば良いニャン」

「ほよんほよーん」

「大丈夫ニャンよ~。人間はお前を倒したりしないニャン。そういうふうに、取り計るニャンよー」

「はよりぷ、りぷほにょ~ん」

「任せろどっこいだニャーン」

「はよんほよ~ん」

 それからも会話が続きます。

 僕とイヨは声をかけあって、発掘を進めました。

 ガゼルはそばに伏せっていて、大きなあくびを一つしたっす。

 途中、昼休憩をしてご飯を食べましたね。

 クラにも、イヨが食事を分けてあげました。

 クラは困った表情をしましたが、貰った手前、口に運んだっす。

 普段は何も食べないんでしょうかね?

 やがて。

 色んな石が採れました。

 虹色をした虹鉱石の塊。

 黄緑色をしたラナ鉱石というらしい石の塊。

 ガラスのような色をしたジアリウム。

 深緑色をした浄化石という名前の鉱石。

 他にも金や銀、様々な鉱石が出ました。

 僕たちのリュックとカバンや、ガゼルの背負うカゴが石でいっぱいになります。

 これ以上は持てないですね。

 マグマ鉱床はまだまだありそうでした。

 僕たちは疲れて地面に座っていましたね。

 イヨが聞きます。

「ティルル、今日採れた石だけで、お金にするといくらぐらいになるの?」

「5000万ガリュにはなるね!」

 ティルルが興奮したように言いました。

「5000万ガリュニャン?」

 ヒメの瞳が喜びに溢れています。

 イヨの頬にも笑みが浮かびました。

「私たち、お金持ち」

「そうだね! もしあれだったら、いま着ているヒメさんの服の代金はこの石で支払ってもいいよ!」

「本当?」

 イヨの笑顔が弾けます。

「ああ。こんな宝の山に案内してくれるなんて、私としては感謝してもしきれないよ」

 ティルルはほくほくとした表情です。

 イヨがふと、首をかしげました。

「でも、町に帰ったらこの場所をミルフィに報告しなきゃいけないかも」

「それはダメだよ!」

 ティルルが全力で首を振ったっす。

 ヒメも顔を険しくしましたね。

「この場所はあたしたちだけで独占するニャンよー! あたしたちが見つけたんだから、当然だニャン!」

 イヨは顎に手をつけて、うーんとうなりましたね。

「鉱石を全て採り終えた後で、報告すれば良いかも」

「それならいいけど」

 ティルルが安堵の吐息をつきます。

 クラが鳴き声を一つ上げました。

「はよんほよん?」

 みんなの視線が集中しましたね

 イヨがヒメに顔を向けます。

「ヒメちゃん、なんて言ってるの?」

「クラは、自分も町に行こうと思うけど、どこに住めば良いのか分からないって言っているニャン」

 ティルルが二度頷きました。

「それならうちに来れば良い。クラには私の助手をしてもらおう。クラは知性が高いみたいだけど、ただちょっと足りないかもしれないから、知性上昇のマジックアイテムをつけてあげるよ。もしかしたら、人語を話せるようになるかもしれない」

「ティルル、ありがとうだニャーン!」

 ヒメがえくぼを浮かべます。

「はよはよはよ~ん」

 クラがペコリと頭を下げたっす。

「いえいえ」

 ティルルが微笑します。

 ガゼルが口を震わせました。

「ぐるるぅ」

(おい、月光石はどうなった?)

 クラがガゼルに顔を向けます。

「ほよぴそふぁらほよ」

(そうか。分かった)

 クラはなんて言ったのでしょうか?

 分からなかったですね。

 しかしガゼルは納得したようでした。

 ガゼルは立ち上がり、カゴからジアリウムの塊を一つくわえてクラの元に歩みます。

 二人が持っている石を交換しました。

 ガゼルの口にくわえられた黄色い石。

 ガゼルはそれをカゴの一番上に置きます。

 イヨが言いました。

「それじゃあ帰りましょうか」

「そうだね!」

 ティルルが返事をして、みんなが立ち上がります。

 続けてティルルが聞ききました。

「どうする? 昨日の温泉の場所で一泊してから帰る?」

 イヨは思案顔をして、ヒメに尋ねます。

「ヒメちゃん、いま何時?」

 懐中時計を開くヒメ。

「もう四時過ぎだニャンね~」

 イヨは二度頷いたっす。

「一泊してから帰りましょうか」

「了解了解」

 ティルルが頷きました。

 僕たちは発掘道具を片付けて洞窟を引き返します。

 アルテミスのクラが光を放っているおかげで、ランタンは要らなかったですね。

 温泉の前に着くと荷物を置いて、僕たちは休憩をしました。

 みんなで輪になって腰を下ろします。

 クラは小さな月に座っているので、地面には座らなかったですね。

「ふんふんふーん」

 ヒメが鼻歌を歌っていました。

「これで家を買えるニャンよ~。いっぱい日向ぼっこができるニャンねー」

 家は確か、1000万ガリュほどする、という話でした。

 買うことになるのでしょうか?

 これから、三人で相談ですね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] アルテミスと戦いにならないで安心しました。(>_<)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ