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4-5 ボロボロのプロポーズ


 翌日の十時過ぎ。

 ペット美容院に来ていました。

 いま三人の美容師が、ガゼルの青い毛を切ってくれているっす。

 体格の大きいガゼルは店内に入れないので、外の地面でした。

 サクサクとハサミが入れられて、ガゼルの毛並みが綺麗になっていきます。

 ザンバラだった毛が一直線に整いました。

 その姿は格好良いというよりも、高級なケモノと呼ぶのがふさわしいですね。

 僕たち三人は、時折笑いながら見つめていたっす。

 ヒメが声をかけます。

「ガゼルー、綺麗ニャンよ~」

「うん。まるで貴族みたい」

 イヨが両手のひらを軽く叩きます。

「ぐるるぅ」

(それは良かった)

 カットが終わると、美容師たちはバケツにお湯を汲んできましたね。

 ガゼルをシャンプーしてくれたっす。

 バケツは一回では足りなくて、店内と外を何往復もしていました。

 最後にバスタオルでガゼルの体を拭き上げます。

 出来上がったガゼルの姿は、やはり高級なケモノです。

 ガゼルから巾着袋を預かっていたイヨが支払いを済ませましたね。

 一万ガリュしたみたいです。

 普通の犬や猫よりも高かったみたいですね。

 美容院が終わると、次は服です。

 僕たち三人はガゼルにまたがり、セルティナ衣服店に行きました。

 注文していたタキシードを店員さんたちが着せてくれます。

 すごいです。

 オーダーメイドらしいのですが、黒のタキシードはガゼルにぴったりでした。

 尻尾の部分には穴が空いています。

「良い!」

「ガゼル、素敵ニャンよー」

 イヨとヒメが両目を輝かせているっす。

 首の部分には赤いリボンもついていますね。

 ガゼルがぐるるぅっとうなりました。

(どうだ。似合っているか?)

「バッチリ」

「ガゼルー、これから舞踏会に行くみたいニャン!」

(そうか)

 店員がやってきて、イヨに話しかけます。

 タキシードの代金のお支払いでした。

 ガゼルは十回払いの契約をしていたようで、また一万ガリュを払います。

 これでガゼルは借金のような生活になりましたね。

 僕たちも人の事は言えませんが。

(よし! お前たち。背中に乗れ! 領主館へ行くぞ)

「乗るニャーン!」

 ヒメがガゼルに飛び乗ります。

 イヨが持ってきていたバラの花を一本、ガゼルに差し出しましたね。

 近所の花屋で買ったものでした。

(これは何だ?)

「うふ、私たちからのサービス。これをフェンリルにプレゼントして」

(ありがたい)

 バラの花を口にくわえるガゼル。

 もはや完璧ですね。

 今のガゼルに敵はいないっす。

 一騎当千でした。

 イヨと僕もまたがります。

 ガゼルが歩き出し、町の中心地へと歩いて向かいました。

「太陽、太陽、ふんふんふーん、ガゼルは素敵なスーパーウルフ! フェンリルとツガイでニャンニャンニャーン! 子供が出来たら名づけてやるニャン。フェンリルガゼルでフェンゼルニャーン!」

 ヒメが歌ってくれています。

 ぽかぽかとした陽気で気持ちいい日ですねー。

 やがて領主館に着きました。

 僕たちは降りて、ドルフに話を通します。

 ヒメとイヨが中に入り、フェンリルを呼びに行ったっす。

 ガゼルと僕はドルフのところで待っていました。

 不安そうにガゼルが言います。

(テツト、我のプロポーズは上手く行くだろうか?)

「ガゼル、ここまで来たら、やるしかないっす」

 僕はガゼルの腕を撫でましたね。

(う、うむ。こうなったら、当たって砕けろだ!)

 その時でした。

 道の向こうから一頭のスティナウルフが歩いてきます。

 ガゼルの倍もあるような体格っす。

 いち早くガゼルが気づき、鼻っ面にしわを寄せましたね。

「ぐるるぅ!」

「ガロロォ」

(お、鉄砲玉ガゼルじゃねえか? どうしてここにいる?)

 バロンです。

 ドルフが困ったようにつぶやきましたね。

「おいおい、スティナウルフのデカい奴は、あんなにデカいのか?」

 その言葉を無視して、ガゼルがバロンに聞きました。

(バロン、仕事はどうした?)

(今は昼休憩の時間だ。お前こそ、巡行狼車の仕事はどうした?)

(休みをもらっている)

 二頭は目を合わせて、お互いが表情を険しくしたっす。

 バロンが言います。

(俺は今から、フェンリルと交尾の約束を取りつけに来た)

(待て。フェンリル様とツガイになるのは我だ!)

「ぐるるぅ!」

「ガロロォ!」

 やばいっす。

 喧嘩をしそうな雰囲気です。

 ドルフが弱ったように言いました。

「おいお前たち。ここで喧嘩をされたら困る!」

「やめろ二人とも!」

 僕もそう言うのですが……。

 二頭は一触即発の状態です。

(ガゼル、これはもはや運命だ。ここでお前を食ってやる!)

(お前を食べてやる!)

 ガゼルがくわえていたバラの花を落としました。

 二頭がお互いに向かって走り出します。

「ぐるるぅ」

蛇這(じゃしゃ)の牙!)

 ガゼルの体が紫色の波動が帯びました。

 蛇がうねるような動きで、バロンの首を狙います。

 バロンが唱えます。

(ファイアーブレス!)

 口が赤い波動に包まれて、炎の息を吐いたっす。

 ガゼルの体が焼かれて、タキシードがぼろぼろになりましたね。

 蛇這の牙はバロンに届かず、牙で防御されました。

 二頭はお互いに牙を嚙み合って、地面を転がります。

 ドルフが焦っていました。

「おい、テツトくん! 二人を止めてくれ!」

「あ、はい」

 僕は両手を掲げて鉄拳を発動させます。

 二頭は転がりながらお互いの体に噛みついたり、爪で切り裂いたりしていますね。

 止めるにも、止めに入れないっす。

 十分ぐらい続きました。

 お互いに決定打はなく、二頭の体が泥と血にまみれていきます。

 バロンが立ち上がり、逃げるように距離を取りましたね。

(待てガゼル。俺は休憩時間が終わりだ。虹の国大サーカスに戻らないといけねえ)

(逃げるのか?)

(勝負は次回に持ち越しだ。じゃあな)

 バロンが走って行きます。

 ガゼルがその尻尾を睨みつけて、不機嫌そうに口を鳴らしましたね。

「ぐるるぅ」

 ドルフと僕が駆け寄ります。

「君、大丈夫かね?」

「ガゼル、タキシードがボロボロだよ。それに体が血まみれだ」

 僕は泣きそうになったっす。

 ガゼルは歩いて、地面に落ちていたバラの花をくわえます。

 ふと、領主館の玄関からはフェンリルが出てきました。

 その後ろにはヒメとイヨもいるっす。

(フェンリル様……)

 ガゼルがつぶやいて、金網の中へ歩いて行きます。

 フェンリルが驚いたような声を上げましたね。

「ガゼル、その体はどうしたのん!?」

「テツト!?」

「テツト、何があったニャン!?」

 イヨとヒメがぎょっとした声をあげました。

 僕は説明しようとしましたがその前にガゼルが動いたっす。

 ガゼルがバラの花をフェンリルに突き出します。

 そして言いました。

(フェンリル様、好きです)

 ヒメとイヨが用意したシンプルなセリフでした。

 フェンリルは涙目になりましたね。

 ガゼルの顔を両手で抱きしめたっす。

「匂いで分かるワン。ガゼル、いまバロンと戦ったワンね?」

(はい)

「勝ったのん?」

(はい、勝ちました)

「嘘だワンね」

 フェンリルがバラの花を受け取ります。

 その両目からは涙がボロボロとこぼれました。

「ガゼル、僕とツガイになりたいのなら、ちゃんと勝ってくるワン。そうしないと、ツガイにはなれないのん!」

(勝ちました、フェンリル様)

「嘘つくなワン!」

 フェンリルがぴしゃりと言います。

 ガゼルは顔を下げたっす。

 フェンリルが背中を向けます。

「ガゼル、次に会いに来る時は、バロンを倒してくるのん!」

 続けて言います。

「そうしたら、お前の愛を受け入れるワン」

 歩いて、領主館へと戻っていきました。

 僕たちは顔を見合わせて悲しい気持ちになったっす。

 せっかくガゼルは美容院にも行ってきたのに。

 高いお金を出してタキシードも着て来たのに。

 全てが台無しです。

 バロンのせいです。

 イヨが僕に近づいてきて聞きました。

「何があったの?」

「それが……」

 僕は今あったことを説明したっす。

 イヨはコクコクと頷き、それからガゼルに近づきましたね。

 ガゼルの頭を撫でました。

「ガゼル、強くなって、バロンを倒す」

(うむ。しかし、今の我の力では……)

 ガゼルは自信が無いようですね。

 さっきの戦いを見ると、バロンを倒すどころか、ガゼルが倒される危険性すらありそうでした。

 ヒメが近寄ってきて言ったっす。

「ガゼルも人狼化できないかニャン?」

 ガゼルは顔を振りましたね。

(確かに、人狼化すれば格段に強くなれる。しかし人狼化は、月の力がたくさん必要だ。何百年も生きて、その間に毎日月明りを浴びて、自分の中に月の力を蓄積しなければいけないのだ)

「んにゃーん。難しいニャーン」

 そこでイヨが閃いたように顔を明るくしたっす。

 僕の顔を見ます。

「マジックアイテムで、何かあるかも」

 それを聞いて、僕はコクコクと頷いたっす。

「ティルルなら、月の力を増幅するようなアイテムを知っているかもしれないっすね」

(そんなアイテムがあるのか?)

 ガゼルが顔を明るくしました。

 イヨが右手を腰に当てます。

「分からない。でもあるかも」

 ヒメが両手を上げたっす。

「みんなで、ティルルのお店に行ってみるニャン!」

「うん」とイヨ。

(行こう)とガゼル。

「分かりました」と僕。

 三人が頷きました。

 決まりですね。

 それから。

 イヨがカバンからタオルを取り出して、ガゼルの体を綺麗にしてあげます。

 ヒメが何回もチロリンヒールを唱えましたね。

 傷がふさがりました。

 ボロボロになったタキシードは捨てることになったっす。

 サリナに渡して、捨ててもらいます。

 三人でガゼルに乗り、出発でした。

 また町の南区を目指します。

 領主館の門を出る時、ドルフが注意するように言いましたね。

「お前たち、喧嘩はよそでやってくれんかい。まったく」

「ごめんニャーン、ドルフ」

 ヒメが申し訳なさそうに右手を振りました。


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[良い点] ガゼルVSバロン宿命の戦い!(>_<) 次こそは勝つっピ!
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