4-1 これぞ魔族の生きる道(ルウ視点)
みなさん、ごきげんよう。
今は早朝。
天気は晴れ。
場所はバルレイツ北。
ルルはね、本当はルウっていう名前なんだけど、今はルルって名乗っているの。
目の前に広がっているのは一面のトウモロコシ畑。
トウモロコシって言っても、普通のトウモロコシじゃないみたい。
ポップコーンを作るための、ポップ種って言う種類なんだって。
ジャスティンが言ってたわ。
ルルの隣にいるこの男も、本当はハスティンっていう名前なんだけど。
ジャスティンって名乗ってる。
偽名を使って、人間の町に溶けこむためよ。
彼はジョウロを右手に持っているわ。
キザな顔をして言った。
「いいか? ルル、良く聞け。人間と仲良くなるためには? 胃袋を掴めば良い。動物の三大欲求で一番重要視されるのは、食べることなんだー、はっはー。人間にポップコーンを食べさせれば? すなわち仲良くなれる。人間と仲良くなれば、魔族を救うことができる。分かったか?」
「分からないわ。ジャスティン」
「なんだとう!」
ジャスティンがルルのお尻をはたく。
ピシリ。
「痛いっ!」
「いいか? ルル。もう一度言うぞ?」
「言わなくていいわ。それより、どうして魔族が人間と仲良くならなきゃいけないの?」
「何度も言ったろう。つまり? 俺様は魔王の息子である。王子である俺様は? 魔王から宝珠を奪うことにより、次期魔王になることができる。魔王とは? 魔族の中で一番偉い存在。つまり、魔族を従えることができる。魔王になった俺様が人間の王と和平を結べば? 人間と魔族はもう争うこともなくなる。つまり、平和、つまり、穏便、つまりは宇宙の愛だ、はっはー、分かったか?」
「分からないわ」
ルルは首を振った。
なんで人間なんかと仲良くしなきゃいけないのよ。
それに下級魔族は頭が悪いんだから、魔王の言うことにも従わないわ。
ルルはそれを言うんだけど。
「ルル、よく聞けーい。下級魔族なんかを、俺は魔族とは呼ばない。知能の低い連中は全て動物だ。いいか? オークやゴブリン、スライムはみんな動物だ。動物たちは? 救いようがない。なぜかと言うと、頭が悪く、人間を襲うからだ。しかしだ? 知能の高い魔族は? 救われなければいけない。なぜなら? 知能が高いからだ。つまり? ポップコーンだ。このトウモロコシを全部ポップコーンにして? バルレイツ夏祭りの夜店で売るー、はっはー。そうすれば? 人間たちと仲良くなれる。最終的には? 領主ミルフィとも仲良くなる。そして仲間に入れてもらう。つまりそういうことだ」
「全然分からない」
ルルはぶんぶんと首を振った。
またジャスティンがルルのお尻を叩く。
ピシリ。
「痛っ!」
「とりあえずまあ、ルルは俺様についてくれば? 魔族にハッピーな未来が待っているってことだ! 分かったら、きりきり働け」
「うー、分かんないけど仕方ないわ」
ルルは両手を畑に突き出してスキルを唱える。
「植物成長」
畑が緑色の波動を帯びる。
これをするとね、植物の成長を操作することができるの。
収穫時期を早めたり、粒を甘くしたり、それにおっきなトウモロコシが出来るわ。
あんまりやりすぎるとトウモロコシが枯れるから、注意が必要。
「よしよし、いいぞルル。その調子だ」
ジャスティンがルルの頭を撫でりこする。
ドキドキ。
この男に撫でられると胸が高鳴るわ。
顔だけはイケメンなのよね。
まったく。
ルルは両手を下げて、スキルを止めた。
「これぐらいね」
「そうだな。よし、朝はこの辺で帰るか」
「分かったわ」
ジャスティンとルルは畑を離れて並んで歩く。
分からない分からないって。
言ったけどさ。
ルルは、ジャスティンの考えを一応は理解している。
つまり彼は、魔王様が復活したら、人間と協力して討伐しようとしているのよね。
そしてさっき彼が言った通り、魔王様から宝珠を奪い、次期魔王になって人間の王と和平を結ぶ。
そして人間と、知能の高い魔族との共存を実現させようとしているのよね?
理屈では分かるけど、本当に実現するのかしら?
ちなみに今。
ジャスティンとルルの肌の色は人間と同じ肌色なの。
擬態というスキルを使っているの。
だから、人間の町にも溶け込むことが出来ている。
夏祭りが近いせいか、遠くから笛を練習する音が聞こえるわ。
お祭りでは大きな馬車をスティナウルフが引いて、馬車に乗った人間の男女が笛を吹いたり、歌ったりするんだって。
夏祭りの名前も、今年からスティナウルフ祭りって言うらしいんだけど。
バッカみたいだわ。
下級魔族のくせに、調子に乗るのも大概にしなさいって感じ。
ジャスティンとルルが借りているアパートの前に着くと、隣の部屋の住民が朝稽古をしていた。
「痛いニャーン」
「ヒメ! ちゃんと防御しなきゃダメだよ」
「しているニャン。テツトは鬼だニャーン」
「攻撃だけじゃなくって、防御にも気を遣わないと」
「チロリンヒールニャン」
乳白色の髪の女が唱えた。
チロリンと音がして、その体が緑色の光に包まれている。
ルルはちょっと笑っちゃった。
チロリンヒールって言えば、最低ランクの回復スキルだわ。
いま対峙している男と女の名前はテツトとヒメ。
道路わきの壁に背中を預けて、二人を注視している黒髪の女はイヨ。
ルルは、ジャスティンの部屋に来てもう二週間が経つからさ。
名前を覚えたわ。
ジャスティンが前を歩き、右手を上げて挨拶をする。
「おはよーテツトくん。今日も元気だなー」
ネクラっぽい顔のテツトが元気に返事をする。
まあちょっと可愛い顔をしているんだけどね。
「あ、ジャスティンさん、おはようございます」
「おはようだニャーン」
体を元気に揺らすヒメ。
イヨが壁から背中を離す。
「おはようございます」
この女、良い奴なのよね。
料理によく使うミカロソースが切れた時に、貸してくれるの。
イヨとはお友達になりたいわ。
ルルも小声で挨拶をする。
「おはよ」
「ルル、おはようだニャーン」とヒメ。
「おはようございます」とイヨ。
テツトは挨拶を返さなかった。
ちょっとムカ。
ジャスティンはテツトに近づき、その背中をぽんぽんと叩く。
「君たち傭兵なんだろ? もっと腰を入れなきゃだめだぜー」
「あ、はい」
テツトの困ったような声。
「農家の男に何が分かるニャン?」
このヒメとかいう女はアフォなのよね。
ルルたちから立ち上る強さのオーラに気付かない。
脳みそはきっとツルツルよ。
ジャスティンは快活に笑う。
「農家の男に武芸のたしなみありってな。ま、能ある鷹は爪を隠すってことさ。はっはー、またな三人とも!」
ジャスティンがアパートの階段に向かう。
ルルはその背中に続いたの。
ヒメが感心したようにつぶやく。
「お隣さんも朝が早いニャンねー」
「そうだね」
テツトの明るい声。
階段を上り、奥の部屋にたどり着く。
ジャスティンが玄関を開けてルルたちは中に入った。
「よっしゃあ、ルル、朝飯作れ」
「しょうがないわねー」
ルルは両手に腰を当てて、口をへの字にした。
棚からハムのかたまりを取り出して、キッチンに向かう。
包丁で切っている最中に、後ろから抱きしめられた。
ドキ。
ルルは前を向いたまま聞く。
「何よ? ジャスティン」
「何だと思う?」
ルルの耳にキスをするこの男。
朝っぱらからどうしてこんなに元気なのよジャスティンは!
「指を切っちゃうから下がってて!」
「頼むよルル」
「ダーメ」
「本当にダメか?」
「ダメ」
「これでもか?」
肩を揉んでくる。
「ダメだってば」
「もうたまらん」
ジャスティンがルルの耳にしゃぶりつく。
「あんっ!」
ルルはびっくりして包丁を離した。
危ない、切るところだったわ。
振り返ってジト目で見る。
「ジャスティン~」
「良いじゃねえか。お前は俺様の娼婦なんだから」
「もう、仕方ないわねえ」
ルルは折れた。
全くこの男と来たら、一日中発情しているのかしら。
このアパートに来た当初は、ものすごく激しくされたんだからね。
まあ、それぐらいルルを気に入ったってことなんでしょうけど。
ルルはため息を一つ、ジャスティンの要求に応じたの。
朝から元気過ぎよ。
四巻開始しました! 今回もよろしくお願いいたします。
【お知らせ】一週間に一日、日曜日はなるべく休むことを心がけようかな、と思っています。しかし書いちゃうかもしれません。アップが無ければ、休んでいるんだな、と思ってください。