3-19 病院
白い天井。
目覚めると、僕はベッドに横になっていたっす。
窓から注ぐ太陽の光がまぶしいですね。
右手を顔の上にかざします。
「テツト、起きた?」
イヨの声がしました。
右を向くと彼女がいて、椅子に座っています。
僕の顔を覗きこんでいますね。
「テツト、起きたニャン?」
イヨの隣に並んで座って、ヒメの顔も見えました。
僕が聞いたっす。
「ここは?」
「病院よ」
「テツトは入院中ニャンよ~」
二人が笑顔をくれましたね。
夏らしい半袖にミニスカートの格好でした。
ボロボロになった以前の服は、たぶん捨てたんだと思います。
「病院?」
僕は反射的に上半身を起こします。
胸の傷が痛むかと思ったんですが、痛くないっす。
それどころか傷がありません。
白い病衣を着ていました。
「テツト、大丈夫?」
「大丈夫かニャン?」
僕は自分の体を両手でまさぐり、首を振りましたね。
「傷が、ない」
「医者が言うにはね、バーサクの状態になった時に、治ったんだって」
イヨが説明をくれたっす。
「んにゃん、テツト、良かったニャーン」
ヒメはゴロゴロと喉を鳴らしています。
「そっか。イヨとヒメの怪我は?」
「回復スキルで治してもらった」
「あたしたちは軽傷だったニャンよー」
微笑を浮かべる二人。
「それは良かった」
僕は胸を撫でおろしました。
続けて聞きます。
「僕、どれぐらい寝てた?」
「丸一日寝てた」
「テツト、ぐーぐー寝てたニャン」
「そっか」
ふと左隣のベッドを見ると、レドナーが横になっていましたね。
小さないびきをかいているっす。
頬の傷は治っているみたいで、包帯などは巻かれていませんでした。
たぶん、医者に回復スキルをかけてもらったのでしょう。
良かったです。
今は朝のようで、病院食が運ばれてきましたね。
ヒメとイヨは病院の売店で総菜パンを買ってきていました。
一緒に食べましたね。
その後で医者が診察に来たっす。
僕の体に異常はなく、いつでも退院して良いとのことでした。
その頃にはレドナーも目を覚ましていましたね。
「よう、おはようテツト」
「おはよう、レドナー」
「レドナー、おはようだニャーン」
ヒメの無邪気な挨拶に、彼はちょっと顔を落としました。
昨日振られたのが堪えているみたいです。
それでも薄い笑顔を向けましたね。
「お、おはようございます、天使さま」
ぎこちない声です。
ふと、病室の扉がノックされました。
「はーい」
イヨが返事をすると、緑色の髪をした女性が入ってきたっす。
灰色の上着に青のスカート、白いマントを羽織っていますね。
ミルフィでした。
「みなさん、おはようございます。お見舞いに来ましたわぁ」
「「おはようございます」」とレドナーと僕。
「おはようだニャーン」とヒメ。
「おはようミルフィ」とイヨ。
みんなが挨拶をして、イヨが立ち上がりました。
ミルフィの座るパイプ椅子を用意してあげます。
「イヨ、ありがとう」
「ううん」
みんなが座り、ミルフィが口を開いたっす。
「えー、皆さま、この度はサクアお姉さまが申し訳ありませんでしたぁ」
「サクアお姉さま?」
イヨが聞き返します。
「どういうことニャン?」
ヒメも目を丸くしていますね。
イヨが続けて質問をしました。
「あの人、ミルフィのお姉さんだったの?」
ミルフィがクスクスと笑って首を振ったっす。
「いえいえ、ただの知り合いです。ただ、サクアお姉さまを知っている女性はみんな、彼女のことをお姉さまと呼ぶものですからぁ」
「なるほど」
イヨがコクコクと頷きます。
僕も何となく分かるような気がしたっす。
ヒメは首をかしげていますね。
そう言えば!
サクアはどうなったんでしょうか。
イヨがまた聞きました。
「もしかしてサクアさん、死んじゃった?」
「いえ、一命を取りとめています。みなさんとは違い傷が深く、治療に時間がかかるみたいですが」
……。
複雑な気分ですね。
死んで欲しいとは思いませんが、僕はもうサクアに会いたくないっす。
ミルフィが両手のひらを合わせて、ニッコリと笑いました。
「それではみなさん、報酬の時間ですわぁ」
僕たちの顔が自然と輝きます。
「うー、いっぱいくれニャン」
ヒメが嬉しそうに体を揺すっていますね。
ミルフィがカバンから紙袋を二つ取り出して立ち上がりました。
一つをイヨに渡し、もう一つをレドナーに渡します。
「では、中身の確認をお願いします」
また歩いて、椅子に座るミルフィ。
イヨとレドナーがお札を数えて、びっくりしたような顔をしましたね。
「こんなにいっぱい?」
「すげー数だな」
ミルフィが満足そうに二度頷きます。
「今回はサクアお姉さまがみなさんに攻撃スキルを使い、理由もなく暴力を振るったとして、バルレイツ領内事件として処罰の対象とします。罰として、傭兵狩りの団の団長、バンスの首にかかっていた賞金を没収。代わりにみなさんに差し上げることにしますわ。賞金は100万ガリュでしたので、レドナーさんには25万ガリュ。イヨたちは三人いますので75万ガリュを進呈します。」
「やったあニャーン」
両手で万歳をするヒメ。
「っしゃあ!」
レドナーが右手のひらを握ったっす。
イヨが眉をひそめて聞きます。
「いいの? こんなにもらっちゃって」
「ええ。サクアお姉さまには、私から十分言い聞かせておきますので、もらっちゃってください」
「それなら良いけど」
イヨが紙袋をカバンの中にしまいましたね。
ヒメがニコニコと笑ってイヨの腕を取ります。
「イヨ~、あたし、美味しいお魚が食べたいニャンッ」
「今日はキテミ亭にしよっか」
「んにゃーん!」
二人が喜んだ笑顔を浮かべます。
それを見るとですよ。
僕まで嬉しくなっちゃいます。
「お、俺も行こうかな」
レドナーが後ろ頭を左手でかいていますね。
「あなたは来なくていい」
イヨがきっぱりと切り捨てましたね。
「そ、そうか」
残念そうなレドナーの声。
ちょっと可哀そうです。
ミルフィは両手を膝に当てて「それでなんですが~」とひそめた声を出します。
イヨが聞きましたね。
「どうしたの? ミルフィ」
「続けてなんですが、みなさんに~、ちょっとお願いしたい仕事がありましてぇ~。あ、それはとても簡単なことなんですがー」
僕たちは顔をうっすらと強張らせます。
そして、ミルフィがまた仕事の依頼をしたっす。
それはサイモン山のあの洞窟の埋め立て工事のことでした。
周辺のモンスターから工事をする人々の護衛をする仕事ですね。
確かに、簡単そうな任務でした。
みんなで話し合い、引き受けます。
また、明日から仕事になったっす!
忙しくなりそうですね。
評価☆5とブックマークといいねをいただきました! ありがとうございます。嬉しいです! 励みになります。これからも頑張ります!
【️お知らせ】近々に不器用という作者名を改名しようと思います。まだどんな名前にするかは決まっていませんが、よろしくお願いいたします。検索の際は作品タイトルで探してみてくださいね!
この部分で三巻が終わりです。
追記。少し休暇を挟みます。4巻は来週スタート予定です。