3-17 サクア(バンス視点)
やったぜい。
上玉の女が二人も手に入った。
いま、俺とギュネスは召喚獣プアレルの背中に揺られていた。
女二人も乗せている。
サイモン山を駆け上がっていた。
このプアレルと言うのは、Dランクの召喚獣であり、巨大なイノシシの姿をしている。
俺がスキルで召喚したんだ。
こいつは移動手段。
「ぎゅほほほほ!」
笑い声を上げる俺。
ガキ二人の立会人をすると言ったが、もちろん嘘だ。
あいつらが戦いに夢中になっている間に、女たちに手刀を叩きこんで気絶させた。
数日前に俺たちの団員を襲ったのは、こいつらで間違いないだろう。
十代後半の面をしている。
俺は実際に顔を見たわけじゃねえから、正確には分からない。
だが、あの日に逃げのびて来た団員に、女二人の顔を確認させれば分かるだろう。
団員はアジトで待っている。
あの洞窟の中だ。
これから始まる女二人の拷問を想像して、俺は体が熱くなり興奮した。
どんな地獄を見せてやろうか?
裸にひん剥き、心から俺にひれ伏すまで強姦してやる。
どんな泣き声をあげるだろうか?
麻薬を注射器で打ち込み、自分から股を開いておねだりをさせてやる。
よだれを垂らして顔を赤くし、もう俺の折檻なしでは生きられない体にしてやろう。
焼けたナイフで額と下腹に文字を彫って、俺専用のメス豚と刻み込むのも良いな。
手の指と足の指は切り落とそうか。
両目もつぶしてやろう。
可哀そうだなあ、この二人は。
もう誰にも一般人扱いをされないぜい。
何日も何日もかけて調教し、最後は俺の子供を孕ませてやろう。
心が完全に壊れた段階で、町に帰してやる。
この二人はもう、普通の生活を送ることはできない。
傭兵なんだろうが、もちろん傭兵もできない。
女を見たあのガキ二人は絶望し、途方に暮れることになる。
ぎゅほほほほ!
ったく、楽しくって仕方ないぜい。
さて、そろそろアジトが近くなってきたな。
坂を駆け上がり、藪の生い茂る獣道を抜けて、木々の合間を縫うように走る。
プアレルが「ぷぎー!」とおたけびを上げた。
アジトの洞窟が見えたぜい。
プアレルをそこで止めて、俺はその背中を降りる
ギュネスも女二人を片方ずつ手に抱えて地面に降りた。
俺は召喚獣に右手を上げて「送還、プアレル」と唱える。
プアレルの足元に黒い魔方陣が出現して、光に包まれて消えた。
ちょっと疲れたな。
召喚をしたせいで、魔力を消耗しちまった。
ギュネスを振り返る。
「おいギュネス、お前も女を犯りたいか?」
「へい」
「そうかそうか。仕方ねーなあ。この変態野郎」
「へい」
「よし、行くぞ」
「へい!」
午後の夕暮れ時だった。
俺たちは暗い洞窟の中へと帰宅する。
洞窟の途中に明かりは無いが、俺は夜目が利いた。
……。
ん?
おかしいぜい。
血の匂いがしてやがる。
心臓が鼓動を速めた。
何が起こっている?
進んでいくと、奥の広い空間にはいつものように蝋燭の明かりが灯っていた。
そこには凄惨な光景があった。
団員の男どもが全員地面に伏せっており、血を流している。
死んでいた。
そして俺の特等席である木箱には、着物を着たオレンジ色の髪の女が座っていた。
両足を組んでおり、細長いキセルでタバコを吸っている。
!
!!
サクアだ!
こいつ、俺を追いかけてきやがったのか!?
「こんにちは、バンス殿」
俺は顔面が硬直した。
心臓がバクバクと鳴り、ひどい緊張感に包まれる。
ギュネスも同じようで、女二人を地面に落とした。
ドサッと音が立つ。
俺は鼻にしわを寄せて言った。
「お、お、おめえ、サクア!」
「あい。あたいサクアでござんす。日は夕暮れ。なれの命、ここに頂戴しに参った次第でございます」
「ふ、ふ、ふざけっ」
サクアはキセルを吸い、顎を上げてふーっと煙を吐く。
彼女の後ろには、Cランクの女二人とエリーがいた。
俺を睨みつけている。
どいつこいつも俺が調教をしてやったはずなのに。
サクアに救出されて、調子に乗った面だ。
俺の唇はぶるぶると震えた。
サクアはチアレナプトって言う町の傭兵だ。
傭兵ランクはS。
このロナード王国でも屈指の魔法使いと呼ばれている。
チアレナプトは俺が前に拠点を置いていた町だ。
俺の頭からはぼろぼろと汗がこぼれた
「お、お、お前! 何してやがる!」
「何をして? だから、なれを殺しに参った次第にございます」
「ふ、ふざけんな!」
「ふざけてなどございやせん」
首を振るサクア。
ど。
どうすればいい?
ボロボロになった風車のように、俺の頭の中はギシギシと音を立てて回転した。
「お、お、おい、サクア。よく来たな。お、俺と組まねえか?」
「嫌でござんす。あたい、なれのようなウシガエルみたいな男は、苦手にございます」
「くっ、ま、まあ待てよ。ここで俺の命をとったところで、お前に何もメリットは無いだろう?」
「いえ、メリットはありんす。罪なき女を虐げる、なれのような男をまた一人、この世から消失させるという、メリットでございます」
歌うような口調だ。
くそ。
どうすればいい。
横に顔を向けると、ギュネスもぶるぶると震えている。
俺は両手を開いた。
「まあ待てよサクア。俺がお前に何をしたって言うんだ?」
彼女はまたキセルを吸い、プフーと煙を吐き出した。
「チアレナプトでの女の強姦と殺人。それも10を超える。バンス、なれはすでに賞金首でござんす」
「そんな罪、男傭兵なら誰だってやっているぜ!」
「あい。その通りでございます。なのであたいの使命とは、この世の男傭兵の魂を全て、あたいの奴隷にしてしまう。それが、あたいというこの女の生きざまでありんす」
くそっ。
この女狂ってやがる!
ふと、サクアは俺の隣に顔を向けた。
「おお、そっちの男は中々の美男子。どうですか、ここは男の誇りを捨て去り、あたいの奴隷になるのが良いかと思いございますが」
「へ、へい!」
ギュネスはその場に平伏した。
俺はぎょっとして顔を向ける。
「お、おいギュネス!」
「バンス様、すいやせん」
ギュネスは泣いていた。
サクアは履いていた草履を脱ぎ去り、生足を向ける。
「なれ、ギュネスと言うのですか?」
「へい」
「あたいの足をお舐めなさい」
「へい!」
ギュネスが歩いて近づいて行く。
そしてサクアの足元にひざまづき、その生足を膝に乗せた。
両手で持って、指を舐め始める。
サクアはうっとりとした顔で声を上げた。
「おお! これは夢心地。まるで天に昇るような気分じゃあ」
俺は目じりから涙がこぼれた。
ギュネスが……。
ギュネスが落ちてしまった!
俺の、俺の腹心のギュネスが……。
足の指を舐められながら、サクアが俺にキセルを向ける。
「バンス殿。他に仲間がいるのなら、今のうちに教えて欲しい。それができれば、なれを苦しまずに殺してさしあげましょう」
「い、いねえよ……」
「いない? 本当に?」
「い、いねえったらいねえよ!」
「そうでございますか。それは良かった。ではバンス、自殺を許可しましょう」
「自殺!?」
「あい。自殺でありんす」
「自殺……そんなことできるわけっ!」
「では、あたいに拷問をされて死にますか?」
「ふぅ、ふぅ、ふざけ……」
俺はその場に崩れ落ちた。
両手を地面につけて、おうおうと泣きだす。
戦ったとしても。
こいつには勝てない。
逃げることもできない。
終わった。
全てが。
終わった。
サクアはキセルを俺に向ける。
「ポイズン」
俺の肌が緑色に変色する。
毒にかかった合図だ。
「せめてもの情け。毒で死になさい」
もう、終わりだ。
どうとでもなれ。
俺は顔を上げる。
涙声で叫んだ。
「仲間は、いる!」
「先ほど仲間はいないと言ったのに?」
「バルレイツの町にはなあ! 俺が手製を込めて育てた弟子がいる!」
サクアは足の指をなめられてくすぐったそうに顔を染める。
「へぇ、名前はなんと?」
あいつらの名前は確か。
「テツトとレドナーだ!」
「あい。その名前、記憶に刻み込みました」
「テツトとレドナーがお前を殺しにくるだろう!」
「あい。それはとっても楽しみでございます」
「終わりだ! 終わりだ! お前は終わりだあああああああああ!」
俺は両手を広げて、背中から倒れた。
きつい。
毒が、きつい。
術者のスキル倍率が強いせいだ。
もう毒が全身に回ってきやがった。
死にそうだ。
死んだ。
サクアは歌うような声をあげる。
「ギュネス、もっと上までお舐めなさい」
「へい!」