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3-16 決闘 テツトvsレドナー


 酒場前の土の道路。

 僕はファイティングポーズをとり、レドナーは剣を構えていましたね。

 鉄拳が発動していました。

 対峙しているっす。

 レドナーが言いましたね。

「よお、テツト。今日は良い天気だ」

「そうすね」

 晴れ渡る空を僕は見上げました。

「お前を殺す」

「殺して、ヒメを奪うんですか?」

「そうだ」

「させません」

 その場で軽くジャンプを始める僕。

 両腕に力を込めて、無を意識しました。

 ねっとりとした熱いものに体が包まれて、魔力を漲溢(ちょういつ)させます。

 酒場の扉の横にはヒメとイヨがいますね。

 祈るような表情でこちらを見つめているっす。

 ふと、扉が大きな音を立てて開かれました。

 ちらりと見ると、ガキ大将のような顔の男と痩せた長身の男が出てきます。

 前者はバンスですね。

 長身の男性は彼の仲間でしょうか?

 酒場で飲んでいたのか、バンスの顔が赤いです。

「お前らあ、決闘を始めるのか!? だったら、俺が立会人になってやるぜい!」

 レドナーが顔を歪めましたね。

 水を差された気分なのでしょう。

 僕も同じでした。

 隣にいるヒメとイヨが困ったような顔をしてるっす。

 バンスはでっぷりとした腹を揺らします。

「さあ戦え二人とも! 剣を交わして血しぶきを上げろ! この神聖なる戦いを、誰にも邪魔をさせやしねえ!」

 ……。

 そこまで言われてしまったら、もう戦うしかないっす。

 レドナーが言いましたね。

「テツト、行くぞ?」

「どうぞ」

 走り出し、突っ込んでくるレドナー。

 横に剣を大きく振りかぶっていました。

 まるで斧を振っているような体勢です。

 そんな隙だらけの攻撃で良いんですかね?

 僕の首を狙う一撃。

 瞬間、僕は身をかがめて躱しました。

「うおらあっ!」

 レドナーが勢いをそのままにタックルをかましたっす。

「くっ!」

 僕は両手を突き出して防御します。

 彼はその場で横に一回転。

 勢いを乗せて剣を下から上に振り上げました。

「だらあっ!」

「このっ!」

 僕は後ろに跳びます。

 顔面すれすれに剣の切っ先が走りました。

 前髪がふわっと舞って、僕のオデコが薄く切れたっす。

 血がつたいます。

 ……。

 何て戦い方でしょうか!?

「んにゃん、テツト!」

 ヒメのびっくりしたような声。

 僕は慌てず、その場でステップを踏みます。

 両腕を構え直しました。

「行くぜえ!」

 レドナーが走り出して跳んだっす。

 前に宙返りをするような格好ですね。

 足から僕に飛び掛かってきます。

 凄まじい速さ。

 こんな攻撃をさばくやり方なんて知らないっす。

 僕は右に跳びます。

 レドナーが地面に足をすらせて止まりました。

 こちらを振り返ります。

「雑魚雑魚雑魚! 雑魚なんだよ! お前に天使さまを守るのは無理だ。よってこれからは俺がお守りする!」

 ……くっ。

 挑発に乗ってはいけません。。

 だけど、本当に強い……。

 弱気になってはダメっす。

 僕は右手を突き出しました。

 おいでと言うように、手のひらをちょいっと引きます。

 レドナーの顔が歪みましたね。

「この野郎!」

 こちらに走り出すレドナー。

 頭上から剣を大きく振りかぶっているっす。

 僕は右拳を振りました。

「おらあああああああああああああっ!」

 レドナーの叫び声。

 僕の右腕を叩き斬ろうとしていますね。

 僕は肉薄し、襟を掴んで彼の股に手を入れます。

 持ち上げました。

 肩車。

「なっ!?」

 ドシンッ!

 地面に叩きつけたっす。

 そのまま袈裟固めにします。

 本気で首を圧迫しました。

 このまま落としてやる!

「く! このぉぉおおおお!」

「「テツト!」」

 イヨとヒメが歓声を上げましたね。

「ふうっ、ふうっ、ふうっ」

 僕の息が荒くなったっす。

「この野郎おおおおおおおおおおおおおおおお! サンダーショック!」

 彼の左手が赤い波動に包まれています。

 背中にスタンガンを当てられた気分でした。

「うぐああぁぁああっ!」

 体がバチバチと音を立てて、僕の脳裏が白黒とフラッシュしたっす。

 逃げるように立ち上がりましたね

 ステップを踏んで彼から距離を取ります。

 立ち上がるレドナー。

 背中に手を当てると、僕の服に大穴が空いています。

 若干皮膚が焦げたようでした。

 漲溢をしていなければ、大怪我でしたね。

 僕はまた両手を構えます。

 レドナーの目が血走っているっす。

「殺してやらああああああああ!」

 彼は走って大振りの一撃を繰り出します。

 体を素早く回転させて、変幻自在の攻撃でした。

 僕は避けて。

 避けながら反撃の機会をうかがいます。

 僕らはどちらも強打狙いのスタイルです。

 レドナーが剛の剣士なら、僕は柔の武道家でした。

 ついにレドナーはためらいを無くしたのか、スキルを連射してきます。

「スラッシュ! スラッシュ!」

 オレンジ色の波動に包まれる剣を振ります。

 斬撃が飛び、僕の腕や腹が軽く切れて血しぶきがとびました。

 攻撃を受けるたびに、冷静になっていく僕の頭の中。

 そうなんです。

 ふつうは焦ります。

 僕が柔道の全国大会で優勝できたのは、この特徴のおかげですね。

 笑みすら浮かびました。

 楽しいっす。

 久しぶりの気分です。

 その時です

 頭に声が響きました。

 ――求めよ。

 何でしょうかね、この声は。

 ――狂気の力を求めよ。

 分からないっす。

「この野郎、何を笑ってやがる!」

 レドナーが走り出します。

「雷鳴剣!」

 空がゴロゴロとなったっす。

 これを受けたらさすがに死にます。

 青い波動に包まれる剣。

 それを振り下ろすレドナー。

 地面に雷が落ちました。

 ズドーン!

 僕は後ろに跳んで避けました。

 一瞬辺りが光に包まれます。

 レドナーの姿が消えていましたね。

 雷光の中で、レドナーが僕の背後に移動していたっす。

 驚いて振り向く僕。

「死ねやあああああああああああああ!」

 渾身の一撃でしたね。

 ザクゥゥ! 

 僕は悲鳴を上げます。

「うあああぁぁああああああああ!」

 胸が切り裂かれ、大きな血しぶきが上がりました。

「「テツトオオォォオオ!」」

 ヒメとイヨの悲鳴。

 まだ。

 まだだ。

 まだ戦えるぞ。

 胸から血をだらだらと流しながらも、僕はファイティングポーズを取りましたね。

「さあ、来てください、レドナー」

「くそっ、まだ死なねえのかよ! ゾンビかお前は!」

 レドナーが走り出します。

 僕はつぶやいたっす。

「一生懸命」

 体が黄色い波動に包まれます。

 十秒間の全力タイムっす。

 レドナーの頭上からの大振りの一撃。

 甘いですよ。

 僕は肉薄し、両手で彼の襟を持って後ろに転びました。

「なっ!」

 焦ったようなレドナーの声。

 体を回転させながら、彼の腰を後ろに蹴っ飛ばします。

「炸裂巴!」 

 青い波動に包まれる四肢。

 巴投げでした。

 炸裂音。

 爆風に包まれて、レドナーが吹っ飛んでいきます。

「づああああああああぁぁああああああ!」

 悲鳴を上げる彼。

 僕は立ち上がり追いかけます。

 レドナーが地面に剣を突き刺して立ち上がっていました。

 服がボロボロっす

 腹からはぼたぼたと血を流しています。

 お互いに笑みを浮かべましたね。

「やるなあ、テツトよお」

「レドナーこそ、強いすね」

 がやがやと人々の声がしました。

 見ると、酒場前には人だかりが出来ていたっす。

 さっきの雷の音で、お客さんがびっくりして出て来たみたいでした。

 僕は両手を構えます。

「さあ、続けましょう」

「望むところだ」

 両手に剣を構える彼。

 それからも長い戦いがありました。

 拳と剣が交差します。

 肉が爆ぜ。

 血しぶきが跳び。

 拳と剣がぶつかりあって。

 火花が散りました。

 野次馬たちのはやし立てる声がしています。

 外野はのんきですね。

 レドナーはいつも剣を大振りしています。

 一見隙だらけです。

 しかしある時、連なる大技を繰り出します。

 大技が速い上に。

 タイミングが分からないっすよ。

 それが決まれば僕は重傷を負ってしまいます。

 レドナーは、その時その時のインスピレーションで動いている気もしますね。

 天性の才能に恵まれた戦士っす。

 柔道の型が決まっている僕にしてみれば、これほどやりにくい相手はいないっす。

 それでも負けるわけにはいきません。

 お互い傷だらけになり。

 血を流して。

 汗を流して。

 それでもまた衝突を繰り返します。

 開始からどれぐらいの時間が経ったのでしょうか?

 二人の体力も尽き果てようとしていました。

 僕は次が最後の一撃です。

「よう、テツト」

「何ですか?」

「こんなに殴ってくれるお前が大好きだぜ」

「僕もです、こんなに斬り刻まれたことはありません」

「良い天気だ。さあ、行こうぜ」

「はい!」

 走り出す僕たち。

 彼が唱えました。

「真空斬り!」

 赤い波動に包まれる剣。

 僕も唱えます。

「へっぽこパンチ!」

 オレンジ色の波動に包まれる右拳。

 レドナーの剣が僕の肩口を切り裂きます。

 僕の拳が彼の頬にめり込みました。

 ドンッ!

 激しい音がして、二人がその場に崩れます。

 地面に背中をつけて、ぜいぜいと息をするレドナーと僕。

「テツト、お前、こんなに強かったんだな」

「レドナーこそ、強すぎですよ」

 ふと、傭兵ギルド前でこちらを見守っていた赤髪に顎髭のおっさんが歩いてきました。

「おめーら、喧嘩もその辺にしておけ!」

 ダリルですね。

 彼も出てきていたようです。

 両手を腰に当てて、呆れたような表情っす。

 しかし笑っていました。

 僕は地面に両手をつけて、その場に立ち上がります。

 レドナーも剣を地面に立てて立ちました。

 彼が言います。

「この勝負預けとくぜ」

「いいですよ、次はいつでも」

 僕は酒場の前に歩いて行きます。

 見物を終えた野次馬たちが酒場に戻っていくところでした。

 見るとヒメとイヨの姿がありません。

 ……えっ!?

 僕は焦って、顔をキョロキョロとさせます。

「おいどうした? テツト」

 レドナーの疲れたような声がかかります。

 僕は振り返ります。

「ヒメとイヨがいないっす!」

「……マジか!?」

 顔を険しくする彼。

 僕は焦りました。

 そう言えば、バンスと長身の男性の姿もないっす。

 立会人をしてくれるんじゃなかったんですかね。

 ダリルが近づいてきます。

「どうした? テツト」

 僕は泣きそうな表情を向けましたね。

「ヒメとイヨがどこかに行ったっす」

 ダリルは両腕を組みました。

「まあ落ち着けテツト。冷静になって考えろ。トイレに行ったんじゃねーのか?」

 それは無いと思いました。

 ですが可能性はゼロではないです。

 僕は酒場に入り、トイレを探しました。

 しかし二人の姿は無いっす。

 テーブルで酒を飲んでいる傭兵たちに、ヒメとイヨは見なかったかと聞きました。

 誰もが首を振りましたね。

 外に戻ってきます。

 どういうことっすかね?

 二人は攫われたんでしょうか。

 だとしても一体誰に?

 傭兵狩りでしょうか?

 ……まさか?

 レドナーが僕の肩に手を置きましたね。

「おいテツト、天使さまとイヨを探すぞ」

「はい。ですが、どうしたら良いか」

「俺も分かんねーけど」

 二人で顔をうつむかせます。

 ふと。

 巡行狼車が道路を横切って行きました。

 僕は顔を上げます。

 そうだ!

 ガゼルなら、イヨとヒメに匂いを知っているはずです。

 追いかけられるかもしれません。

 巡行狼車の営業所は、ここからそう離れていないっす。

 僕は走り出しましたね。

 その背中についてくるレドナー。

「喧嘩もほどほどにしろよ、二人とも!」

 ダリルの心配そうな声が背中にかかりました。

 レドナーが僕の隣に並びます。

「テツト、どこ行くんだ?」

「巡行狼車の営業所です」

「巡行狼車? そうか、スティナウルフか!」

「そうです。ガゼルが、いてくれれば良いんですが」

 僕は祈るように走りました。

 どうしてこんなことになったんだ。

 今は考えても仕方ないっす。


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[良い点] 二人を争わせるなんて、罪な女ヒメちゃん。 (゜□゜)
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