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3-5 傭兵団アカツキ


 翌日の朝。

 いつのものように僕たちは仕事をもらいに出かけたっす。

 空に剣を突き上げている彫像。

 その奥の壁に、レドナーが背を預けていましたね。

 黒のレザーの上下が格好良いです。

 夏だというのに、灰色のマフラーを巻いているっす。

 昨日もしていましたね。

 口元が隠れています。

 ファッションでしょうか?

 夏だと言うのに、暑くないんですかね。

 レドナーが右手を上げました。

「お、おはよう、天使さまご一行」

 僕は軽く会釈したっす。

 ヒメが右手を軽快に上げます。

「おはようだニャーン。レドナーも仕事をもらいに来たニャンか?」

 レドナーが首肯しました。

「ああそうだ。俺も仕事をもらいに来たんだ。お前らと同じだ」

「朝から精が出るニャーン」

 イヨが警戒したように前に出たっす。

 レドナーに話しかけます。

「ここで何をしているの?」

「何って、俺は仕事をもらいに……」

「中に入らないと、仕事はもらえないけど」

「そ、そうだな、うっかりしてたぜ」

 ポリポリと側面の髪をかくレドナー。

 続けて言ったっす。

「ところでお前ら、仕事をするに当たって戦力は足りているか? もし足りないなら俺が助っ人に入ってやっても良いんだぜ」

 レドナーが言い終える前に、

「足りてます」

 イヨがきっぱりと切り捨てましたね。

 レドナーに同情を感じましたが、助け船は出さないでおきます。

「足りているニャンよー。レドナー、ありがとうだニャーン」

 嬉しそうな笑顔のヒメ。

 その手をイヨが掴んで引きましたね。

「ヒメちゃん行くよ」

「わわ、待ってくれだニャーン」

 建物の扉をくぐっていく二人。

 僕もその背中にいそいそと続いたっす。

 去り際、レドナーがうつむいてため息を吐きましたね。

 ちょっと可哀そうでした。

 今日のギルドの中は、いつもと同じ光景では無かったっす。

 朝の仕事をもらうために、カウンターに人々が列を作っているはずなんですが。

 違いましたね。

 一人の大柄な男を囲むようにして、傭兵のみんなが輪になっていました。

 中心にいる太った大柄な男は、顔の鼻筋が大きく、唇はたっぷりとでかくて、ガキ大将のような面をしていました。

「俺の名前はバンス! 傭兵狩りを討伐するために、傭兵団アカツキは新規メンバーを募集する!」

 バンスという名前らしい大柄な男がでっぷりとした腹を張って言います。

 続けて。

「新規メンバーは傭兵狩りを倒した後、抜けたきゃ抜けて良い。だから気楽に参加してくれ! 傭兵のみんな、俺たちで集まって、傭兵狩りを見つけて倒そうぜ! ちなみに、俺の傭兵ランクはAだ!」

 Aランクらしいです。

 高いですね。

 これは、頼もしい方が立ち上がってくれたみたいです。

 そう思いイヨの顔を覗き見ると、難しい表情をしていたっす。

 両腕を組んでいますね。

 バンスは続けます。

「もしここにいる傭兵の中で、アカツキに入らないという奴がいたら、そいつは傭兵狩りの一味と見なす。そしてアカツキ団員の討伐対象とする。みんな! これは仕方ないことなんだ。傭兵狩りをあぶりだすためなんだ。自分は傭兵狩りでは無いぞという奴は、すぐにアカツキに入ってくれ!」

 ……。

 めちゃくちゃを言ってますね。

 僕は感心してしまった手前、かなりがっくりときました。

 傭兵狩りをしている人は傭兵なんですかね?

 違うかもしれませんよね。

 イヨは下を向いて首を振っています。

 ヒメが言ったっすね。

「テツト、イヨ、アカツキに入るニャンよ~。傭兵狩りを退治するニャン!」

 イヨが小声で言います。

「ヒメちゃん待って」

「んにゃん?」

 バンスがまた声を張りましたね。

「アカツキ団では、団員のギルドの依頼報酬を以下のように分配する。まず全てを俺の手に集める。その後、ABCDEのうち、ランクの高い傭兵から多くの報酬を得る権利を与える!」

 ……。

 バカバカしいですね。

 団員の報酬の全てを一度バンスの手に集めるとか。

 はっきり言って意味が分からないっす。

 権力と金を握りたいだけの男のような気がしますね。

 団員にAよりも上のランクの傭兵がいたらどうするのでしょうか?

 イヨがヒメと僕の手を握って、引いて歩き出しましたね。

 ダリルのいるカウンターへと向かいます。

「んにゃん? イヨ、バンスの話を聞かないのかニャン?」

「ヒメちゃんいいの」

 イヨが短く返事をしました。

 僕も同意す。

 カウンターではダリルが困ったような顔つきで立っていたっす。

 顎髭を撫でつつ、挨拶をくれましたね。

「よお、テツトとイヨ、それにヒメの嬢ちゃん」

 イヨが前に出ます。

「おはようございます。ダリルさん、今日もお仕事を探しにきました」

「お、おう」

 ダリルが弱ったような返事をしてバンスをちらりと見ました。

 それからクリップボードを取り、挟まれている依頼書をめくります。

 そして聞いたっす。

「イヨ、Eランクの仕事にするか? それともDランクの仕事にするか?」

 イヨが僕を振り返ります。

 僕は親指を立てましたね。

 ヒメが元気に言ったっす。

「Dランクに決まっているニャン」

 ダリルはそこでやっと微かな笑みを浮かべました。

「オーケー。じゃあ、これなんかどうだ?」

 依頼書をカウンターの上に置きましたね。

 僕たちは読みます。


 依頼内容、モーリヤ町からバルレイツ町までの依頼人の搬送と護衛。依頼人の荷物も一緒に搬送をすること。

 モーリヤ町からバルレイツ町までの距離は、片道を馬車で二日間。

 依頼の理由、引っ越しの為。

 注意事項、モーリヤ町からバルレイツ町の間の平原地帯には、時々凶悪なモンスターが出現する。また、野党にも警戒すべし。

 報酬、25万ガリュ。

 依頼人、ティルル・テッセリン

 

 イヨが眉を寄せて聞いたっす。

「この依頼、普通に考えたらモーリヤ町の傭兵が請け負うべき内容じゃない?」

 僕も二度頷いたっす。

 バルレイツからモーリヤまで行くなら分かりますが。

 この内容の場合、モーリヤにいる傭兵が運んで上げた方が、手間が省ける気がしました。

 ダリルはボリボリと頭をかいたっす。

「そうなんだがなあ。まあ依頼人としてはモーリヤの傭兵が運んでくれようが、バルレイツの傭兵が迎えに来てくれようが、どっちでも良いわけだ。渡り鳥の傭兵なら、モーリヤから来てバルレイツに留まることもあるだろうが。まあ、モーリヤに拠点を置く傭兵もたくさんいる。その傭兵からしてみれば、搬送したところでまた帰らなければいけない。結局、往復しなくちゃいけないんだ。っとまあ、さて。どうだい、やるかい?」

 イヨは顔を傾けてうーんとうなったっす。

 ヒメが右手を元気に紙に伸ばしましたね。

「やるニャン!」

 僕がその肩に手を置きます。

「ちょっと待ってヒメ」

「んにゃん?」

 イヨが胸ポケットから手帳とボールペンを取り出します。

「ダリルさん、まず聞きたいのは、私たちがこの仕事を請けたとして、同じ時間にモーリヤの傭兵も同じ依頼を請けたら、ダブルブッキングにならないかって事」

 ダリルは豪快に笑ったっす。

「それは大丈夫だ。依頼を請け負ったって手紙を伝書バトで飛ばすからよ」

「伝書バトはどのぐらいの時間でモーリヤの傭兵ギルドに着く?」

「んまあ、半日もあれば着くんじゃねーか?」

「ふーん」

 イヨがコクコクと頷きましたね。

 続けて聞きます。

「馬車、と言うか狼車かもしれないけど、それを借りる代金と、全ての食事代と、モーリヤで一泊する宿泊費はどうなっているの?」

「ふむ、今回の件については、全て依頼人が負担することになっているな。だから心配しなくても良いぞ」

「なるほど」

 イヨが帳面に書き込んで行きますね。

 ヒメが聞いたっす。

「もしも任務を失敗したらどうなるんだニャン?」

「失敗って言うのは、ケースにもよるんだが、そうだな。例えば搬送途中に依頼人が事故で死んでしまった場合、報酬は無しだ。そしたらお前たちの傭兵ランクが下がる場合もある。Eランクから下がることは無いんだが。って言うか普通に周りからの信用が落ちるだろうな」

「んにゃんー、厳しいニャーン」

「はっは、ヒメの嬢ちゃんは自信がねえか?」

 ヒメが唇をすぼめましたね。

「自信はあるにゃんよ?」

 イヨが依頼書とメモ帳を見比べて何か考え、それから僕を振り向いたっす。

「テツト、この依頼、やっても良いと思うけど」

「そうですね。やりましょうか」

「うん、報酬も高いし。ただ三泊四日かかるけど、それは仕方ないと思う」

「良いと思いますよ」

「うん、じゃあテツト、サインして」

「分かったっす」

 僕は前に出て、カウンターに置いてある万年筆を取りました。

 イヨも傭兵なので、自分がサインしても良いはずなんですが。

 男性の僕を立ててくれているようですね。

 素直に嬉しいです。

 そして可愛いす。

 プリティーっす。

 僕は名前をサインしました。

 ダリルは依頼書を取り、尋ねましたね。

「テツト、お前のこの苗字はなんて読むんだ?」

「あ、白浜です」

「シラハマ? 聞いたことのねー苗字だなあ。まあいいや。とりあえず今から伝書バトを飛ばすから、お前たちは明日の朝にまたギルドに来てくれ。たぶん、今日の午後には伝書バトが帰って来ると思うんだ」

 イヨがメモ帳とボールペンを掲げます。

「馬車の手配は?」

「それはギルドでやる。お前たちは待っとけ」

「あ、はい」

 イヨがメモ帳とボールペンを胸ポケットにしまいました。

「あー、なーんかワクワクして来たニャーン」

 イヨはピクニックに行くような陽気な声っす。

 乳白色の髪が元気に揺れましたね。

 僕は苦笑しました。

 その時です。

「おい待てお前ら、俺も行く」

 僕の隣に進み出る黒い影。

 灰色のマフラーに黒のレザーの上下を着た男。

 レドナーが登場したっす。

 イヨが振り返ります。

「なんで?」

 つっけんどんな声ですね。

 ヒメが首をかしげました。

「レドナーも一緒に任務をやるニャンか?」

「ああ」

 彼が頷きます。

 そしてカウンターの前に進みました。

「ダリルさん、いま、このバルレイツ周辺には傭兵狩りが出ています。彼らだけでは危険かと。戦力不十分と判断し、俺も任務に加えてやってください」

 ダリルが眉をひそめましたね。

 しかし何を思ったのか、両腕を胸に組みうんうんと頷きます。

「そうだなあ。確かに、傭兵狩りは大問題だ。おい、イヨ。この男、レドナーも連れて行ったらどうだ?」

 イヨが頬をひきつらせました。

 どうしたんですかね。

 ……。

 イヨはレドナーのことを嫌いなんでしょうか。

 昨日は合成スキルのことを教えてくれたこともあり、僕はわりと好印象を持っていました。

 おごってもらいましたし。

 ヒメがレドナーの肩に手を置きます。

「よし、レドナーよ、一緒に来るニャン」

「ちょ、ヒメちゃん!」

 びっくりしたようなイヨの声。

「天使さま、お供いたします」

 レドナーが顎を引いたっす。

 ダリルが快活に笑います。

「それじゃあ四人とも、明日の朝にギルドに来てくれ。今日は一日休みだな! まあ、ゆっくりしてくれや!」

「するニャーン!」

 右手を天井に突き出すヒメ。

 イヨはじっとりとした目つきでレドナーを見ます。

 それから助けを求めるように僕に言いました。

「テツト、良いの?」

「僕は良いけど、イヨは大丈夫?」

「ま、まあ」

 何かやる気なさそうです。

 ここは僕がしっかりしなければいけないっすね。

 イヨの背中をそっと触りました。

 そして彼女の耳に顔を寄せます。

「何かあったら、僕が」

「お願いよ、テツト」

 レドナーが何かすることなんて無い気がしますけどね。

 ただ、こう言っておけばイヨも少しは安心すると思いました。

 ……イヨは何が不安なんだろう?

 ふと振り返ると、室内の中心ではいまだにバンスが大声を響かせていたっす。

「全員、傭兵団アカツキに入れ! これは強制だ! 繰り返す、全員入れ! 入らない者は、団員の討伐対象とする!」

 入る人なんているんですかね?

 彼の言葉を聞く人は次々に離れており、カウンターに列を作っています。

 イヨが依頼書の控えをもらって、僕たちは建物を出ました。

 気になったので、僕はそっとイヨに聞きます。

「レドナーの何がそんなに嫌いなの?」

 イヨが泣きそうな目をします。

「知らない男と泊りがけの仕事を出来るわけある?」

 ……あ。

 分かったっす。

 イヨとヒメは女の子なのです。

 長旅となると、色々と問題はありますね。

 ……と言うか山積みでした。

 僕は苦笑して、二度頷きます。

「そう言うことっすか」

「うん……」

 イヨが深く深く首肯したっす。

 イヨとヒメは僕が守らなければいけないっす!

 そして、今日はレドナーと解散し、僕たちはアパートに帰ることにしました。

 長旅前の支度をしなければいけませんね。

 帰る途中、食材屋に寄りました。

 イヨはまたサンドイッチを作ってくれるみたいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] テツトの名字、初めて知ったがな。(゜□゜) イヨちゃんのサンドイッチ食べたいー。 \(^o^)/
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