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3-2 傭兵試験に向けて


 扉が、コンコン、とノックされます。

「テツト、朝、起きて」

 イヨの声がしますね。

 だけど眠いっす。

 昨日僕は何時に寝たんですかね。

 すっかりスキル辞典にハマっちゃいました。

 就寝時間は分からないっす。

 コンコン。

「テツト、トレーニング行くよ」

 トレーニング?

 今日はやらなくて良いんじゃないですかね。

 その通りです。

 コンコン。

「テツト、まだ寝てるの?」

 コンコン。

「テツト、どうしたの?」

 コンコン。

「テツト、入るよ?」

 ガチャリ。

 扉が開かれました。

 白いTシャツに黒の短パン姿のイヨが入ってきたっす。

 ベッドに近づいてきますね。

 イヨがあきれたようにつぶやきました。

「テツト、まだ寝てるし」

 僕の体がゆさゆさと揺さぶられます。

「テツト、朝」

「うーん、眠いっすよー」

 僕はちょっと嬉しい気分ですね。

 イヨに起こされるのは幸せでした。

 彼女は何を思ったのか、僕の布団の上にまたがります。

 そして僕の体をトントンと叩き始めました。

「テツト、起きて、起きて起きて起きて」

「イヨ、重いっすよー」

「重い? 私、重くない」

「重いっす」

「重くない重くない重くない」

 トントンと体が叩かれています。

 僕はふざけて言ってみました。

「チュウ」

 完全に寝ぼけていますね。

「チュウ!?」

 驚いたようなイヨの声。

「はい、チュウしてくれたら起きるっす」

 イヨが布団を叩くのをやめましたね。

「もう、仕方ないんだから」

 そう言って、僕の首筋に顔を近づけます。

 チュッと、唇の感触がありました。

「え?」

 僕は上半身を上げます。

 体にまたがっているイヨと目が合いました。

「おはようテツト、朝よ」

 はにかんだような笑顔を浮かべているイヨ。

 プリティースマイルです。

 僕は心臓がドキドキとして、瞬時に目が覚めてしまいました。

「い、イヨ、今!」

「早く外に行くよ?」

 イヨは照れたように笑って、僕の体からおります。

 僕は自分の首筋に左手を当てて、

「イヨ、チュウした?」

「してない」

「したでしょ?」

「してないしてないしてないよ?」

 イヨはクスクスと笑って、僕の部屋を出て行きました。

 僕はぽーっと顔が赤くなります。

 チュウされてしまったっす。

 それもイヨに。

 うおおおおおお!

 僕は興奮してベッドから出ました。

 やばいです。

 僕の息子が大きくなっています。

 恥ずかしい。

ベッドから出て靴を履きます。

 いそいそと、パジャマからTシャツと半ズボンに着替えたっす。

 ……イヨって、僕のことが好きなのかな?

 そんな疑問が頭の上をくるくると回ります。

 キスしてくれるってことは、そう言うことじゃないか?

 そうに違いないっす。

 僕はキッチンで水を飲み、トイレで用を済ませました。

 階段を下りて、アパート前の道路に行きましたね。

 そこにはすでにイヨがいてストレッチをしています。

「テツト、あは、おはよう」

 ちょっと恥ずかしがっているようなイヨの笑顔。

 僕はたじたじでした。

「お、おはようございます」

「ストレッチしよ?」

「は、はい」

 僕とイヨは両手を掴みあって、いつものようにストレッチをしましたね。

 ドキドキ。

 いつもよりも彼女を意識してしまいました。

 それから腕立て、腹筋、背筋、スクワットをいつもの回数こなし、ジョギングに出かけましたね。

 夏の朝の空気はとてもさわやかです。

「はっ、はっ、はっ、テツト、気持ち良いね」

 隣に並ぶイヨが笑顔でそう言いました。

 僕は頷きます。

「そうですね!」

 いやー、好きな女の子と一緒に走るのは楽しいっす。

 最高っすね。

 人生の春です。

 マジ神っす。

 領主館にたどり着き、門番をしていたスティナウルフに「おはよう」と挨拶をしましたね。

 スティナウルフは「ガウガウ!」と返事をくれたっす。

 外周を回り、また来た道を戻ります。

「うふふ」

 ふとイヨが笑い声を上げたっす。

「どうしたの? イヨ」

「何でもない」

「何でもないって?」

「何でも何でも何でもないよ?」

 含みのある言い方ですね。

 気になりましたが、特に深く聞かないでおきます。

 アパートの前の道路に戻ってきました。

 その頃にはヒメも起き出していて、ピンク色のTシャツと黒の短パン姿です。

 乳白色の髪をポニーテイルにしていますね。

 今、腹筋をしているところでした。

 こちらを振り向きます。

 右手を上げました。

「テツト、イヨ、おはようだニャーン」

「ヒメ、おはよう」

「ヒメちゃん、おはよー」

 イヨがアパートの中に入り、木刀と盾を持ってきました。

 僕は両手を掲げて、鉄拳を発動させます。

 そう言えば、昨夜はバーサクを覚えたのでした。

 戦闘興奮が高まると発動すると、辞典の説明にはありましたね。

 発動したとしても、キチンとコントロールしないといけないっす。

 イヨが僕の前に木刀を掲げました。

「テツト、私たちは今日、傭兵試験だから、本気で来て欲しい」

「分かったっす」

 そう言うことなら、手加減する訳にはいかないですね。

 二人の間にふっと風が吹きました。

「行くよ!」

 イヨが言ったっす。

 彼女の剣と盾が黄色い波動を帯びていますね。

 ノーボイススキル、修行の成果、が発動しています。

 その効果は昨夜に辞典で読んだっす。

 修行を積み重ねるほどに、戦闘時のフィジカルが上昇する、というものでした。

「せい!」

 イヨが木刀を振りかぶります。

 びゅんっ。

 速いっす。

 僕は両手でガードして防ぎます。

 カンッ。

「せえい!」

 また木刀を振りかぶるイヨ。

 イヨの戦闘スタイルは分かっているっす。

 剣で攻撃して、反撃してきた僕にカウンターでシールドバッシュを当てようとしていますね。

 ピヨらせたところに、致命打を当てるという。

 つまる話、シールドバッシュ頼みです。

「甘いっす」

 僕は剣をはじき、足払いをかけます。

「ふっ!」

 イヨが後退して躱しました。

 そしてニヤリと笑います。

 不穏な笑みです。

 彼女が唱えました。

「疾風三連!」

 やばいっす!

オレンジ色の波動をまとう装備。

 イヨの剣、盾、剣のコンビネーションが疾風のような速度で襲ってきます。

 このスキルはきついっす。

 最初の剣の一撃はなんとか防御するのですが。

 盾の一撃を腹にもろに受けてしまったっす。

「がふっ」

「せええい!」

 最後の剣の一振りが、僕の肩に決まる。

 その瞬間、僕は両手でイヨのTシャツの襟を掴み、後ろに転ぶように柔道技をかけました。

 巴投げ。

 足でイヨの腰を蹴り、後方に吹っ飛ばします。

「えっ! いやあぁぁ!」

 僕の後ろに投げられるイヨ。

 これが柔道の試合なら、一本勝ちですね。

 僕はすぐさまイヨの頭に抱き着いて、固め技を決めます。

 上四方固め。

「く、このおっ!」

 イヨがじたばたともがいて抜け出そうとしています。

 僕はくすっと笑いを一つ、立ち上がりました。

「僕の勝ちですね」

 すぐにイヨが立って、木刀を構えます。

「せえい!」

 まだやるようです。

「来い!」

 僕はまた両手を構えました。

 背筋をしているヒメが感心したようにつぶやいていますね。

「今日のイヨは気合が入っているニャーン」

 それからも、僕とイヨの稽古は続きました。

 途中、綺麗にシールドバッシュが決まることもあったりして。

 五戦やったうち、僕は四勝一敗です。

 イヨと僕は汗だくになり、やがてトレーニングを終えたヒメが立ち上がりました。

「イヨ、次はあたしがやるニャーン」

「はあ、はあ、はあ、分かった。ヒメちゃん、交代」

 ヒメはロッドをすでに持ってきていますね。

 地面の横に置いてありました。

「チロリンヒールニャーン」

 ヒメがイヨに回復魔法をかけてあげましたね。

 チロリンと音が鳴りました。

「ヒメちゃん、ありがとう」

 イヨが笑ってお礼を言いました。

「どういたしましてだニャーン」

 ヒメが僕の前に歩きます。

 僕は言ったっす。

「ヒメ、今日は試験なんだから、本気で来い」

「負けないニャンよ~」

 ジロリと睨みつけてくるヒメ。

 僕にロッドを向けて、唱えました。

「キュアポイズンニャン!」

 僕の体が緑色の光を帯びます。

 体がちょっと気持ちよくなりましたね。

 僕は笑って言いました。

「ヒメ、そのスキルは、対象者の毒を取り除く効果だから」

「毒を取り除く効果ニャン?」

「ああ。だから、戦闘で敵にかけても意味ないよ」

「んニャン、分かったニャーン」

 ヒメが再び、ロッドを油断なく構えます。

「来い!」

 僕は覇気を込めて言いました。

 ヒメが唱えます。

「ネズミ狩りアタックだニャーン!」

 ……え?

 ヒメの体やロッドは波動に包まれていません。

 つまり、今のはスキルでは無いです。

 しかし、とても俊敏な動きでした。

 僕の腹に突き出されるロッドの一撃。

 油断していた僕は、まともに受けてしまいます。

「ぐあっ!」

「続けてスローだニャン!」

 僕の体の周りに出現する紫色の輪っか。

 速度が半減してしまいます。

 ヒメがロッドを振りかぶります。

「どうだニャン! くらえニャン! まいったかニャン!」

 僕は両手でガードするのですが。

 動きが遅くなっているため、二発を受けてしまいました。

「痛って! 痛って!」

「トドメの一撃だニャーン!」

 真上から振りかぶられた、大振りの一撃。

 僕はそれを両手でガードして、同時にロッドを掴みましたね。

 ロッドごとヒメの体をこちらに引き寄せます。

「んにゃんっ」

 焦ったようなヒメの声。

 僕はロッドを離して、彼女のTシャツの襟を握りました。

 ヒメの踵に僕の右足を引っかけます。

 小内刈り。

「うわわわわぁぁああ!」

 後ろに倒れるヒメ。

 瞬間、紫色の輪っかが消えました。

 僕は彼女の体に抱き着いて、袈裟固めを決めたっす。

「テツトのエッチ、痴漢、へんたーいだニャーン!」

 ひどい言われようですね。

「何とでも言え」

 僕は一定時間ヒメを押さえ込んで、立ち上がりました。

 彼女もその場に起き上がります。

「今のは卑怯だニャン」

「卑怯なんてしてないよ」

 ……スローの方がずっと卑怯だと思いますね。

「もう一回やるニャン」

 その肩にイヨが手を置きましたね。

「ヒメちゃん、次は私」

 ヒメがぶんぶんとロッドを振ります。

「も、もう一回だニャンよ~」

「ダメ、次は私」

「んにゃんー」

 悔しそうなヒメの声。

 僕は苦笑してしまいます。

 それにしても、二人の成長は目覚ましいっす。

 上手く行けば、ダリルさんにも勝てるかもしれませんね。

 そうなると良いな。

 ヒメはがっくりと肩を下げて、道端に移動しましたね。

 イヨがまた木刀を構えます。

「テツト、行くよ!」

「来い!」

 そして今日も、忙しい朝が過ぎて行ったっす。

 そう言えば、です。

 今日の稽古でバーサクが発動することはありませんでした。

 僕は戦闘興奮が高まっていなかったのでしょうか?

 うーん、いまいち発動条件が分からないですね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 訓練は大事ですね。(>_<) 早く強くなって活躍してほしいです。
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