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2-21 サーカス


 今日は休日でした。

 町の西にある虹の国大サーカスの広場に来ています。

 そこでサーカスが開催されていたっす。

 観客席にはパイプ椅子が会場を囲むように並べられていますね。

 お客さんが大勢いて、座っていました。

 二百人近くいるのではないでしょうか?

 チケットの値段は一人につき五千ガリュしましたね。

 これならかなりの儲けが出るはずです。

 午前の部と午後の部に分けられており、サーカスは一日に二度あるみたいっす。

 ちなみに今は午前中でした。

 今回のサーカスの目玉は、もちろんスティナウルフですね。

 どんな芸をしてくれるのでしょうか?

 今からワクワクっす。

 僕たちは、経営者のファドから指定席のチケットを格安で売ってもらいました。

 千ガリュです。

 そして今、会場正面の一番前の席に並んで座っていましたね。

 ヒメとイヨと僕の他にも、ミルフィとフェンリルが駆けつけてくれていました。

「わうぅぅ、緊張するワン」

 フェンリルが身じろぎして言ったっす。

 スティナウルフたちの芸がお客さんたちにウケるか心配なようです。

 ヒメがその肩に手を置きましたね。

「大丈夫ニャンよー、フェンリル。スティナウルフは最強だニャン」

 大きなカップに入れられたポップコーンを頬張るヒメ。

 会場の周りには食べ物や飲み物を売る屋台が出ているっす。

 さっきみんなで、ポップコーンやフライドポテトを買ってきましたね。

「スティナウルフはどんな芸をするのでしょうかぁ。楽しみですわぁ」

 ミルフィがフライドポテトを一本口に入れます。

「面白い、きっと」

 イヨがカップに入れられたジュースをストローですすりました。

 ふと、ピエロの被り物をかぶったファドが会場の中心に出てきて、大声で言います。

「みなさま、今日はお集まりいただき、ありがとうございました! それでは、サーカスの始まりです。虹の国大サーカスを、心行くまでご堪能ください」

 わあーっとお客さんが拍手をします。

 会場に音楽を担当する五人の演奏者が出て来て、軽快なメロディーが響き始めました。

 まず出てきたのは、一人の玉乗りをする男性。

 器用に玉を操って移動しながら、ボーリングのピンのようなものをお手玉していますね。

 リズムに乗って、とても器用っす。

 ヒメが目を輝かせながら鑑賞していました。

「ニャンニャンニャンニャニャン!」

 メロディーを口ずさんでいますね。

 玉乗りは十分ほど芸を続けると玉を飛び降りて、お手玉していたピンを全てキャッチしました。

 一礼したっす。

 会場から起こる大きな拍手。

 ファドが入れ替わりに出て来て、司会を進行してくれます。

 それから、僕たちは色んな芸を見ました。

 会場に並べられたいくつもの火の輪。

 それを、宙返りをしながらくぐっていく四人の男女。

 トランプを使って手品を披露してくれる手品師。

 観客を巻き込んで、びっくりするようなトリックを見せてくれました。

 次は綱渡りをする男性。

 ピエロのファドも挑戦したのですが、落っこちました。

 その体を団員がキャッチするシーンがありましたね。

 失敗かと思ったのですが、どうやら芝居のようです。

 ここまでは日本のサーカスとあまり変わらなかったのですが。

 その先が凄かったです。

 ブランコのようなものに座っている一人の女性。

 ブランコがどんどんと宙に浮き上がって行きます。

 大きな鳥四匹がブランコを引っ張って飛んでいました。

 モンスターでしょうか? 

 一生懸命飛ぼうとする鳥たちの様子がおかしくて、観客たちは手に汗を握って応援しましたね。

 ブランコは地上10メートルまで飛ぶこともありました。

 やがて鳥たちは体力が尽きたのか、ブランコの女性が地面に降りて一礼します。

 その次に出てきたのはですよ。

 一人の男性がリコーダーのような笛を持っていたっす。

 笛を吹いて演奏してくれるのかなあと思ったのですが。

 男性はその場に四つん這いになり、ズボンを尻のところだけめくって、なんとお尻の穴にリコーダーをぶっ刺しましたね。

 観客がびっくりしていると、男性のお尻の笛から音楽が響き渡りました。

 男性が両手をお尻に回し、リコーダーを掴んで演奏しています。

 オナラで音を響かせていますね。

「あははははっ! アレは何だニャン!」

 ヒメが笑っています。

 それはあまりにも下品であり、おかしくって、僕たちは両手で腹を抱えて笑いました。

 会場は爆笑に包まれて、前に座っていた大柄な女性は笑いすぎたのか、息が出来なくなったようです。

 サーカスの団員達に、休憩テントへと運ばれて行きました。

 やがて演奏が終わりましたね。

 男性が尻からリコーダーを抜いてズボンを上げました。

 立ち上がり、一礼して去っていきます。

 会場の中心にはファドが出て来て言ったっす。

「それではみなさんお待ちかね! スティナウルフの! ウルフショーです! どうぞ、刮目してご覧ください!」

 六頭の大きなスティナウルフが出てきましたね。

 音楽を演奏する音が大きくなります。

 スティナウルフは三頭がおすわりをし、もう三頭がその背中を押して、ストレッチを始めました。

 背中を押されているスティナウルフは痛そうな声で「わぅわぅわぅ!」と大きな声で鳴きます。

 滑稽な光景でした。

 痛いのだと見せかけるためにわざと声を出しているっす。

 そしてストレッチが終わると、今度はトレーニングを始めましたね。

 腕立て伏せ、腹筋、背筋です。

 腕立て伏せの得意なスティナウルフには、他のウルフが背中に乗って重くするような、小芝居まで挟んでいます。

 会場のお客さんたちは笑いをこらえながら、それを見つめていたっす。

 やがてトレーニングが終わり、スティナウルフたちが走り始めます。

 六つ巴を描いて走り回り、アスレチックをジャンプして跳び越え、またジャンプして今度は空中の輪をくぐります。

 スティナウルフの体が綺麗にそろっており、見事な光景でした。

 ここがサーカスの一番の見せ場なのか、たっぷりと時間が割かれていましたね。

 そして最後。

 スティナウルフの六頭が一列に整列したっす。

 今度は何を始めるのかと思っていると、ウルフたちは器用に後ろ足だけで立ち上がったっす。

 人間が立つのと同じ格好ですね。

 演奏される音楽がリズミカルなものに曲を変えました。

 するとスティナウルフたちは両手両足を合わせて動かして、踊り始めます。

 ヒメが目を輝かせて言ったっす。

「すごいニャン。踊ったニャン踊ったニャン!」

「本当だワーン」

 フェンリルが感心したように見つめています。

 スティナウルフは人間のように器用には踊れませんが、動きはきちんとそろっています。

 それがまた滑稽であり、笑いを誘いました。

 時々、右のウルフから順番に、ガウガウと鳴いて、歌まで歌っているような塩梅でしたね。

 会場は笑いに包まれて、大盛況でした。

 そしてスティナウルフが踊る中、五人の演奏者さんたちが中心に出てきます。

 スティナウルフは踊るのをやめて前足をつき、はけていきました。

 演奏がしんみりとした楽曲に変わります。

 ギターの女性が歌を歌いましたね。

 その声の伸びはとても綺麗で、会場中に響き渡ります。

 うっとりとしながら聴き入る観客。

 サーカス開始からどれぐらいの時間が経ったのでしょうか?

 楽しい時間は過ぎるのが早いです。

 やがて歌が終わり、芸をしてくれたサーカスの団員たちが勢ぞろいして集合しましたね。

 ピエロのファドが前に立ち、声を張ります。

「みなさん、今日は虹の国大サーカスに来てくれて、ありがとうございました! これにてサーカスは終了です! 気を付けて帰ってね!」

 団員のメンバー全員がおじぎをします。

 観客は割れんばかりの拍手をしました。

 ミルフィが言いましたね。

「すごく楽しかったですねー、今日は良いものを見せてもらいましたわぁ」

「本当、楽しかった」

 イヨが頷いたっす。

 観客席からは、見に来ていた子供たちが席を離れて、団員たちに握手をしてもらったり、スティナウルフに触りに行ったりしていました。

 ふと、ファドがこちらに来て、フェンリルに近寄ったっす。

「君がフェンリルさんかい?」

 フェンリルがはにかんで笑い、答えます。

「そうだワン」

「そうかい。スティナウルフを貸してくれて、どうもありがとう。おかげでお客さんがいっぱい来たよ。感謝が尽きない」

「こちらこそありがとうだワン。仲間たちも喜んでいるワン」

「そうだね。スティナウルフはうちのサーカスの目玉になりそうだよ」

「そうかワン。できれば、美味しいものをいっぱい食べさせてあげて欲しいワン」

「ああ、約束する」

 二人は握手を交わしました。

 ファドはミルフィにも恭しく挨拶をし、それから違うお客さんのところへと行ったっす。

 あいさつ回りですかね。

 色々忙しいみたいです。

 僕たちは立ち上がり、会場の外に出ました。

 ミルフィが右手を上げます。

「それでは、私とフェンリルさんはこれからお仕事がありますので、帰りますわぁ」

「休日も仕事ニャンか?」

 ヒメが聞きましたね。

「わぅー、そうだワンよ。領主館は忙しいのん」

 フェンリルが困ったような顔で頷きます。

「そうなんです」

 ミルフィがにっこりと微笑みましたね。

 続けて言います。

「それではみなさん、またお会いしましょう」

「じゃあねだワン、みんな」

「バイバイニャーン」

 ヒメが右手を元気に上げましたね。

 イヨと僕もお別れの挨拶を返しました。

 ミルフィがフェンリルを連れて、巡行馬車の停留所へと向かいます。

「あー、楽しかったニャーン」

 ヒメが両手で伸びをしたっす。

「私たち、これからどうする?」

 イヨが聞きましたね。

 僕は少し考えてから言ったっす。

「とりあえず、ご飯にしよう。今日は外食で」

「ご飯ニャーン!」

 ヒメが両手をグーにして振ります。

「うふふ、そうね」

 イヨが嬉しそうに笑ったっす。

 そして僕たちは、近くにある大衆食堂を探しに歩いたのでした。


評価☆4といいねをいただきました。ありがとうございます。嬉しいです。これからも頑張ります!


この部分で、二巻が終わりです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スティナウルフのサーカス大盛況で良かったです。 \(^o^)/
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