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2-18 オークジェネラル(ガゼル視点)


 風を切るような速さで疾走する。

 ここはサイモン山の裏手だ。

 川を飛び越えて、木々の合間を縫うように通り抜け、我は走り続ける。

 だんだんと魔族の魔力の匂いが濃くなってきていた。

 ……近いな。

 サイモン山では少々の期間住んで、動物を狩って食べた。

 地形は完璧に分かっている。

 スティナウルフは一度見た記憶を忘れない。

 その点で言えば、上級魔族や人間よりも頭が良いのだ。

 ……それにしても。

 絶対に魔族を倒さなければならない。

 そして、バルレイツの民に我々の存在を受け入れてもらわなければいけない。

 理由があった。

 以前、ここに来る前に我らが住んでいた場所は、セトラ山と言う。

 バルレイツの遠方、方角的には北に位置するセトラ山は、チアレナプトという人間の町が近かった。

 そして、セトラ山に出現するモンスターはすごく強かった。

 山でおとなしくしていれば良いのだが、モンスターたちは町に降りて、人間たちを襲撃する。

 モンスターが人間を殺したという件は後を絶たない。

 現在でも繰り返されているだろう。

 その為、チアレナプト町の人間たちは、特別の警備軍が持っており、集まってくる傭兵も屈強な者たちが多かった。

 スティナウルフはずっとそこで暮らしていた。

 以前、我らは200頭以上もいたのだ。

 それがあの事件を期に、大方が殺されてしまう。

 セトラ山に住処を置く上級魔族たちが、遊びでデーモンを召喚してしまったのだ。

 Sランクのスキル、デーモン召喚。

 生き物はスキルを使うと、そのスキルに応じた魔力を消耗する。

 その魔族は、Sランクのスキルを習得したまでは良かったが。

 スキルを使い、デーモンを召喚した途端、それに応じた魔力を消耗し、衰弱して死んでしまった。

 体の中で魔力を生成するには、体力を使うのだ。

 魔力が無くなれば体力も無くなり、生き物は死に至る。

 召喚者を失ったデーモンは暴走し、人間や魔族を問わずに襲い始めやがった。

 デーモンは山に火事を起こし、魔族を殺し、我らの同胞までも殺し、やがて町に降りて人間を襲い始めた。

 フェンリル様でも、戦い勝つことができなかった。

 我々は逃げた。

 走って走って、たどり着いたのがこのサイモン山だ。

 デーモンが今、どうなっているのかは分からない。

 多分、人間の強い者に討伐されただろう。

 あるいはまだ生きていて、暴走のまま殺戮を繰り返しているのかもしれない。

 そんなことは知らん。

 とにかく、そういう理由があって我らはこの山に来たのだった。

 ……もううんざりだ。

 仲間たちが戦って死ぬのは、見たくない。

 それに、一族の血を絶やす訳にはいかない。

 疲れ果てて、休んでいた我らの前に現れたのが、テツトたちだった。

 あいつらは、我々が安全に暮らせるように、取り計らってくれている。

 モンスターと呼ばれる我らのために、面倒ごとを引き受けてくれている。

 情を感じた。

 実際、馬車を引いて歩くのは、悪くない仕事だ。

 洞窟の前で見張りをしているよりも、ずっとやりがいを感じた。

 出されるメシも旨い。

 この充実した生活を、これからも続けるのだ。

 人間と共に生きるのだ。

 そしてスティナウルフは数を増やし、以前のような大勢を取り戻してみせる。

 絶対に。

 仲間が生きていけるのなら、そしてあいつらのためなら、我がこの命と引き換えにしても、バルレイツを襲う者を殺してみせる。

 相手が同じ魔族であっても!

 林を走り抜ける。

 断崖絶壁の崖の上に出た。

 ……敵がいたな。

 我は立ち止まる。

 目の前にはオークジェネラルが立っていた。

 オークよりも一回り大きな体躯。

 体にはいくつもの切り傷があり、赤髪が生えていて、その顔にあるのは三つ目である。

 目の色は紫色の波動を帯びていた。。

 オークジェネラルが背中には、大きな石のような心臓が地面に置かれてある。

 おそらく、自分の心臓なのだろう。

 ……。

 こいつじゃない!

 こいつは襲撃者の魔族じゃない!

 魔力の匂いを追ってきたつもりなのに、たどり着いた場所はハズレだった。

 魔族は(そう)(しん)(けん)で、この山にいたオークジェネラルの心臓を抜き取ったのだろう。

 そしてオークジェネラルを操るために消耗している魔力が大きいのだ。

 だからこいつからは、操り主の魔力の匂いがプンプンとする。

 その匂いを辿ってきてしまったようだ。

「ぐがぁぁぁぁ!」

 オークジェネラルが吠えた。

 両手に握る巨大な剣を持って、こちらに走って来る。

 その剣は、人間から奪ったのだろう。

 ……くそ、どうする。

 倒すしかない!

 覚悟は決まった。

「ぐるぅぅ!」

(その首、噛みちぎってくれる!)

 オークジェネラルの首を狙って我は走り、跳んだ。

 オークジェネラルが剣を振るう。

「ぐがーお!」

 我の牙と剣が衝突する。

 ガンッ!

 我は弾き飛ばされて、地面に叩きつけられた。

 ズザーと地面を滑って止まった。

 なんて力だ!

 このオークジェネラルは、強い!

「ぐがっはっはー!」

 オークジェネラルは嬉しそうに笑い、こちらに走って来る。

 また振り下ろされる剣の一振り。

 くそっ!

 我は右に跳んで躱した。

「ぐっはー! ぐっはー!」

 オークジェネラルは我を追いかけて、ぶんぶんと剣を振り下ろす。

 我は跳んで躱す

 跳んでは躱す。

 剣で叩かれた地面がぼんぼんと()ぜてめくれ上がる。

 くそっ。

 このオークジェネラル、我より強いのか?

「ぐるぅぅ……」

 おびえたような声がもれる。

「ぐっはーう!」

 オークジェネラルの額にある第三の目が黄色い光を帯びた。

 ちくしょうっ。

 ノーボイススキルが発動しやがった!

 操心拳で操られている間は、普通スキルを使わないはずだ。

 だが、ノーボイススキルならオートで発動する。

 オークジェネラルの両手両足がめきめきと肥大する。

 やがて倍ほどの大きさになった。

 このスキルは見たことがある。

 確か、バーサクという奴だ。

「ぐががっはっはっはー!」

 高らかな笑い声を上げ、オークジェネラルが襲いかかってくる。

 我は避けるのだが、剣がそこにあった木の幹に当たり、ズゴンと音を立てて根本から折れた。

 つ、強すぎる……。

 我はひたすらに跳んで後退する。

 追いかけては剣を振ってくるオークジェネラル。

 林の木々を剣がぼんぼんと吹き飛ばしていく。

 ドシンドシンと地面に倒れていく木々。

「ぐ、ぐるぅぅぅぅ!」

 走りながら後退する。

 ジャンプしては後ずさり。

 木々が倒れ。

 地面には大穴が空く。

 我は逃げる一方だった。

 くそう!

 甘かった!

 もっと我が修行していれば、こんなオークジェネラルなど、噛みちぎってやるのに!

 町に逃げた方が良いだろうか?

 フェンリル様を呼びに行った方が良いか?

 弱気になるな!

 我は立ち止まる。

「ぐははーう?」

 オークジェネラルが剣を振りかぶり、真っすぐに走って来る。

 我は決めたのだ。

 仲間を守る。

 群れを育む。

 あいつらの情に応える。

 人間のためにも戦う。

 そのために、我はここで勝たなければいけない。

「ぐるるぅ!」

(戦うスティナウルフの一族は、一騎当千!)

「ぐっはーう!」

 剣が猛スピードで振りかぶられる。

 我はスキルを使った。

 生まれ落ちてから覚えていた、たった一つのスキル。

 このスキルで、何度も死線を越えてきた。

「がうるぅぅうう!」

蛇這(じゃしゃ)(きば)!)

 紫色の波動を帯びる体。

 我は蛇がうねるように変則起動を描いて跳んだ。

 剣の一閃を避けて、相手の首に噛みつく。

「ぐあああぁぁあああう!」

 悲鳴を上げるオークジェネラル。

 体が濃い緑色に変色した。

 スキル効果で毒にかかった合図だ。

 我は首に噛みついたままローリングをしようと体をひねらせる。

「があああああああああ!」

 オークジェネラルが剣を捨てて、我の口を両手で握る。

「ぐるぅぅううう!」

 くそっ!

 なんて力だ!

 あまりの痛さに、相手の首から我の牙が離れた。

「ぐっははああああーう!」

 口を掴んだまま、オークジェネラルは我の口を上下に引き裂こうとする。

「ぐるるばあぁぁぁぁああああ!」

 ビリビリと我の口の端が破れて音を立てる。

 ダメだ!

 殺されてしまう!

 その時脳裏に浮かんだのは、スティナウルフである亡き両親の優しい笑顔だった。

 いつも毛づくろいをしてくれた母。

 獲物を獲り方を教えてくれた父。

 何度も助けてもらった。

 天国で幸せに暮らしているだろうか。

 今、我も行こう。

 我の命、ここに散る。


ブックマークをいただきました! ありがとうございます。励みになります。これからも頑張ります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ガゼルー!っどうなったんでしょう、散ったのでしょうか、気になります。(>_<)
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