2-8 魔族(ルウ視点)
ルウは囲まれていた。
ここはサイモン山。
サイモン、って言ってもそれは人間がつけた山の呼び名なんだけどね。
山の森の中、人間の傭兵たちがルウに武器を構えている。
傭兵の数は4人。
今からルウを倒すつもりみたい。
バッカじゃないの?
ルウに勝てる訳ないじゃん。
「おいこいつ、肌が紫色だ。魔族だぞ!」
「スティナウルフを探しに来て、どこにいないと思っていたら、こりゃあ良い宝物を見つけたなあ」
「へへ、小さいけど良い体してるぜこの魔族の女。ちょっとお兄さんたちと良いことしなーい?」
もう一人の傭兵の女は何も喋らずに、こちらに剣を向けている。
ルウは知ってるよ。
魔族を討伐するとね、人間は特別報酬のお金がもらえるらしいの。
それも結構な多額みたい。
大きな報酬を用意するほどに、人間にとって魔族は倒したい存在みたいなの。
でもそれはルウたち魔族にだって言えること。
人間を殺して食べるほどに、魔族の力は増大する。
でもこの人間どもはまずそうね。
あんまり食欲がそそらないわ。
それはまあ良いとして。
人間を駆除してやる。
この大地から。
星から。
宇宙から。
人間と魔族の戦いは仕方のないことなの。
どうしてかって言うとね。
魔族の中には下級魔族がいるんだけど。
それらを人間は、モンスターや魔物って呼んでいるみたい。
下級魔族はね、知能が低いの。
それなのに腕っぷしだけは強いから、問答無用で人間たちに襲いかかる。
だから、ね。
話し合いみたいな、穏便な解決策は図れないんだって。
ルウのおばあちゃんが言ってたわ。
ルウは右手を掲げて、人間たちをおいでおいでする。
「かかってきなさい。ルウが、あなたたちを使役してあげる」
傭兵の一人、馬面のノッポが舌なめずりをした。
斧を持っている。
「なんだあこいつ、やけに自信満々だな。こっちは4人だぞ?」
二人目、頭がちょっとハゲてきている男が剣の腹をもう片方の手でポンポンと叩く。
「魔族だから馬鹿なんじゃねえか?」
ムッカー。
今の言葉、超ムカつくんですけど。
三人目、目の下に隈があって、二日酔いみたいな顔の男が下卑た笑みを浮かべた。
弓矢を構えている。
「こういう女、俺、タイプだぜ」
「ロリコンだな、お前」と馬面。
「幼女趣味とか、キモイな」とハゲ頭。
「うるせー、お前らもどうせ倒した後で犯るんだろ? 俺一人をいじめるんじゃねー」と目の下に隈の男。
女の傭兵は喋らない。
ルウは怒りが浸透、もう爆発寸前。
両手を広げて挑発した。
「早くかかってきなさいよ。せめてもの情けに、少しだけ攻撃する時間をあげるわ」
「な、なんだと?」と馬面。
「こいつ、俺たちをなめてんのか?」とハゲ頭。
「バーカお前ら、あたしのアソコに早く入れてちょうだいってことだろう」と目の下に隈の男。
男たちは爆笑する。
女はやはり無言。
ルウは舌で自分の唇をなめる。
「そうねえ。あなたたちの睾丸なら、ルウがお刺身にして食べてあげてもいいわ」
「この野郎、馬鹿にしやがって!」
馬面の男が走り出した。
「突撃アタック」
斧が赤い波動を帯びる。
ルウは両手を広げてスキルを唱えた。
「フォーディレクションズバリア」
四方にピンク色のバリアが展開される。
馬面の男が斧を振り下ろすんだけど。
カーン。
バリアに弾かれた。
「くそ、フォーディレクションズバリアだと? そんなスキル、聞いたことあるか?」
後ろの二人の男が怪訝な顔をする。
ハゲ頭が答えた。
「たぶん、プチバリアの四段階上級スキルだ。A級だ」
目の下に隈の男が声を張る。
「スキルが切れたところを狙え! 俺が弓で注意を引きつける!」
ルウの顔を弓矢で狙っている。
当たるとでも思っているの?
バッカみたい。
武器を構えてにじり寄る4人。
バリアが切れた瞬間を狙っているみたいだけどさ。
残念な男たちよねー、まったく。
やがて、効果時間の1分間が経過して、ルウの周りのバリアが消える。
「今だ!」
目の下に隈の男が、立て続けに矢を放つ。
ルウは走った。
唱える。
「操心拳」
右拳が紫色の波動に包まれる。
「早いぞ!」
「気をつけろ!」
馬面とハゲが叫ぶ。
ルウの背中を横切る、疾風のような矢。
「あははは!」
ルウはジャンプして、宙を縦に一回転。
「馬鹿が! 狙いうちだぜ!」
目の下に隈の男が叫ぶ。
びゅんびゅんっ。
矢を放つんだけど。
「あはははっ」
ルウは宙を蹴った。
オレンジ色の三角形が出現し、それを蹴って宙を飛び回る。
これ、お気に入りのノーボイススキルなの。
蹴空って言うスキル。
内側がピンク色の布で重ね縫いしてある黒いスカートがひらりと舞って、相手に白いショーツが見えてるけれど。
冥途の土産に魅せてあげるわ。
はずれた矢が空を飛んで行く。
「なんだこいつは!」と馬面。
「一気にやるぞ!」とハゲ頭。
「くそ! 当たらねえ!」と目の下に隈の男。
「逃げた方が良いんじゃないですか!?」と初めて女が喋った。
「逃がすわけないし」
ルウは言って、思いきり宙を蹴る。
黒い弾丸となって、目の下に隈がある弓使いに襲い掛かった。
右手を突き出す。
相手の左胸をどすり。
「ぐあぁぁぁぁああっ!」
「もらっちゃーう」
心臓を奪って、それについている血をべろべろと舐めた。
ドクンドクンと鼓動する臓器。
可愛いわ。
目の下に隈の男は倒れずに、目の色が紫に染まる。
「お、おい! ジギー?」馬面がたずねる。
どうやらこの心臓の主はジギーって名前みたい。
ルウは笑って言った。
「ジギー、仲間を撃ちなさい」
ジギーが仲間に弓矢を向ける。
弦を引いて撃ち始めた。
そう、この操心拳を使って心臓を奪うと、相手のコントロールを奪えるの。
馬面の足に矢が命中。
「ぐあぁぁあー!」
「おい、ジギー、何をして!」と言ってハゲ頭が右手を伸ばす。
ルウの右手からは紫色の波動が消えている。
ので、もう一回唱える。
「操心拳」
ルウはジャンプし、空中を舞う。
その際両足を大きく開いて上げる。
白いショーツが空中に、ぺろん。
サービスサービス。
オレンジ色の三角形を蹴って、右手を突き出す。
馬面の左胸をどすり。
「ぬぉぁぁぁああああああ!」
「心臓二つ目もらっちゃーう」
ルウは言って、二つ目の心臓を舌でべろべろ。
「や、やべえ、やべえやべえ!」
ハゲ頭が両手で剣を構えつつ、後退する。
後ろの木に背中がくっつく。
「く、くそっ」
ルウはまた唱える。
「操心拳」
紫色の波動に包まれる右拳。
「や、やめてくれ!」
ハゲ頭がおびえるように言った。
「イヤアァァアアアア!」
その横では女が剣を捨てて、全力で逃げて行く。
ルウは命じた。
「ジギーと馬面、あの女をレイプしなさい!」
「了解」
「分かった」
低く暗い声を発して、二人が女を追いかけて行く。
ルウはハゲ頭にゆっくりと近づく。
えへへ。
右手で自分のスカートをたくし上げた。
「ねえ、これが見たかったんでしょ? 男の子って、エッチだもんね」
白いショーツが、ぺろんと覗く。
「な、なんだよ、それは!」
「ねえ、おちんちん勃起した?」
ルウは近づく。
「し、してねえ」
あたしは近づく。
「ねえ、勃起した?」
「し、してねえ!」
近づく。
「勃起したでしょ?」
ハゲ頭は剣を捨てて、両手の平を掲げた。
降参したみたい。
「し、した! したから、許してくれええ!」
「ふーん。良い思い出ができたね。生まれて良かったねー」
ルウの右腕が、ハゲ頭の左胸を貫いた。
どすん!
「ぐあぁぁぁぁあああああ!」
「心臓三つ目、もらっちゃーう」
ハゲ頭の目の色が紫に染まる。
ルウは肩から腰に下げているカバンに、ドクンドクンと脈打つ心臓三つを大切にしまう。
ふと向こうでは、女の悲鳴が上がっている。
裸にひん剥かれて、レイプされている。
あら、素敵だわ。
泣き声も甘美。
女の心臓は要らない。
「ハゲ、あなたもあの女を犯してきなさい。射精した後は殺していいわ」
「はい」
低い声で言って、ハゲが走って行った。
「あははははっ、なーんて楽しいのー!」
ルウは両手を広げてその場で一回転。
この山で人間を殺すのは、これで20人近くになるかな?
操心拳の効果時間は1日。
つまり、傭兵の男三人は、今から24時間、ルウの操り人形。
その後は死ぬの。
うふふ。
ずいぶん前には、スティナウルフの心臓も奪って、人間を殺すように命じたこともあった。
だから20人以上を殺しているかもね。
スティナウルフって言うのはね。
下級魔族のくせに人間を襲わない生意気な狼たちのこと。
さてさて。
この男たちには、何をしてもらおうかしら。
考えるだけで楽しいわ。
ルウが、ノーティアス家を、滅亡させてやるんだから。
ノーティアス家って言うのはね。
代々、人間の中でも強い子供を生む家系のことよ。
その中でも特に強い者は、勇者とかって呼ばれるみたい。
バッカみたいだわ。
絶対、絶対殺してやるんだから。
魔王様の復活は近い。
かつて、魔王様は何度も勇者に倒されている。
でもさ。
その前に、ルウがノーティアス家を滅ぼせば良いんだよ。
そのために、ルウはここへ来ているの。