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2-7 フェンリル


 洞窟の中に、スティナウルフが入って行ったっす。

 入口は大きく、まるでトンネルのような穴でした。

 やっぱり、僕たちも入らなきゃいけないですよね。

 巨獣の巣の中に入るのは、中々勇気がいりました。

 ヒメが臆することなく、先頭を行きます。

「待った」

 ナザクが右手を上げたっす。

 スティナウルフと、みんなが立ち止まり振り返りました。

 浅黒い肌の彼は言います。

「俺たちはここで待ってる。スティナウルフが俺たちを罠に嵌めようとしていて、挟み撃ちにされると悪いからな」

 茶髪のツーブロックのジェスが顎を引きましたね。

「そうだねえ。そうしようか」

 もう一人の女性は後ろで待機しています。

 ナザクが顎をしゃくりました。

「テツト、お前たちでフェンリルとやらと話をしてきてくれ。その内容を、後で教えろ」

 イヨが憤慨したように眉を寄せたっすね。

「何であなたたちの言うことを聞かなきゃいけない」

 ナザクが顔をしかめました。

「ああん? 俺たちは先輩だぞ? Bランクだぞ? 後輩は言うことを聞け」

「そうそう。それに本当に、挟み撃ちにされたらどうする気ー? その場合みんな死ぬけど、責任取れるの? お嬢ちゃん」

 ジェスが両腕をくんでニヤニヤと笑ったっす。

「ぐるるぅ」

 スティナウルフが不機嫌そうに吠えましたね。

(我は、お前たちを騙したりしない)

 ナザクが吐き捨てるように言います。

「本当か? 獣の言うことなんて信用できねー」

「うんうん、だから僕たちは、後方を守るってことで、オーケーかい?」

 ジェスが僕たちに視線を配りましたね。

 僕はイヨに顔を寄せます。

「イヨ、仕方ない」

 彼女は不快そうな顔つきで、二度頷きました。

 小さな声でつぶやきます。

「分かったわ」

「ビビり先輩は後方支援がお似合いだニャン」

 ヒメが言って、背を向けて歩き出します。

(ビビりと仕事をするのは大変だな)

 スティナウルフが笑ったような気がしました。

 二人が並んで洞窟の中を進んで行きます。

「何だとてめえら!?」

 ナザクがいら立ちを露わにしたっす。

「まあまあ、ナザク」

 ジェスが彼の肩に手を置いて、なだめていましたね。

 イヨと僕も、洞窟の中を進みました。

 中は暗く、イヨがカバンからランタンを取り出します。

 マッチで火を入れました。

 進んでいくと、二匹のスティナウルフが伏せっていましたね。

 洞窟はまだ奥があるようです。

 二匹のスティナウルフが毛を逆立てました。

 僕らを案内してきてくれた狼に言います。

(ガゼル、なぜ人間を連れてきた?)

(今夜の夕食か? 人間は食べてはいけないと、フェンリル様は仰せだぞ?)

 ガゼルと呼ばれたスティナウルフが、二匹に近づきます。

 そして言いました。

(この者たちはフェンリル様に会わせる)

 二匹の怒ったような顔。

(なぜだ?)

(どうして?)

 ガゼルが鼻にしわを寄せました。

(この者たちは信用できると、そう判断した。いま、人間の町で我らが人間を襲っているというデマが流れているらしい。どうしたら良いものか、我では分からん。よってフェンリル様の指示を仰ぐ)

 二匹が逆立っていた毛を、落ち着けました。

(そう言うことなら)

(分かったがしかし、何かあったらお前を食うぞ)

「ぐるぅ」

 ガゼルはうなり声を一つ上げましたね。

(好きにしろ)

 足を進めます。

 僕らはひやひやとしながらついて行きました。

 やがて、洞窟の奥の広い空間に到着します。

 そこには何匹ものスティナウルフいたっす。

 寝そべっていたり、じゃれ合ったりしている姿がありますね。

 体長は、1メートルほどの子供や、小さな家のように大きな大人までいます。

 僕たち人間が入って来たことにより、スティナウルフの全員がこちらを向いたっす。

 みんなが警戒したように睨みつけましたね。

「誰なのん?」

 洞窟の一番奥には、人間の姿の女の子が立っていました。

 背が低く、ヒメよりも小柄っす。

 髪は青く、獣のような耳が生えていますね。

 可愛らしい八重歯がちらり。

 動物の毛皮で編んだような茶色い着物を着ており、手首と足首の先は獣と同じでした。

 ガゼルが彼女の元まで歩いて、おすわりをしたっす。

 青い髪の女の子はガゼルの腕を撫でます。

「ガゼル、お帰りだワン。どうして人間を連れてきたのん?」

(フェンリル様、この人間たちが、フェンリル様と話がしたいと)

 どうやらこの女の子がフェンリルのようです。

 僕はきょとんとしました。

 スティナウルフの長が、少女だとは思わなかったからです。

 フェンリルが鼻にしわを寄せてこちらを見ます。

「ふーん、僕に話があるのん? 言ってごらん、人間よ」

 ヒメが前に出ましたね。

 フェンリルが両目を細めます。

「その金色の瞳、君は猫なのん?」

 ヒメが両手を腰に当てて胸を張りました。

「あたしは猫だったニャン。でも、今は人間だニャン」

「ふーん、僕の人狼化と似たような感じかなん? それで? 要件を聞かせて欲しいワン」

「フェンリルよ。あたしたちは傭兵だニャン。今回は、サイモン山に巣を作っているスティナウルフが人間を襲っているから退治して欲しい、と言う依頼を受けてきたニャン。それは本当かニャン?」

 フェンリルが両目を鋭くします。

「それはデマだね。僕たちは人を襲ったりしないし、しないようにみんなに言い聞かせている。なぜなら、人は強いから。強い者と争うようなことを、僕たちはしないワン」

 ヒメが首をかしげます。

「じゃあ、なんで、依頼が出ているニャンか?」

「人間たちの間違えだと思うワン」

「人間たちの間違いだとしても、人間はお前らと、この巣を駆除しようとしているニャン」

「それは……」

 フェンリルが顔を落としたっす。

(戦争か?)

(フェンリル様、人間と戦争か?)

 近くにいるスティナウルフが念を飛ばします。

 フェンリルは首を振りましたね。

 困ったように言ったっす。

「君たちの働きかけで、何とかならないワンか?」

 イヨが前に出ました。

「フェンリルさん。今までに、人を襲っていないことを、証明できる?」

 フェンリルは眉をひそめます。

 顔を下に向けて、すぐに上げました。

「証明はできないワン。だけど、僕たちスティナウルフは、人間と同じだけの知能がある。話もできるワン。君たちの長と、人間を襲わないと言う契約を結ぶことなら、可能だワン」

 イヨが両腕を組んだっす。

 僕も何か上手いことを言いたいんですが。

 コミュ障なんすよね~。

 ぼさーっと突っ立っている事しかできないっす。

 ヒメがまた口を開きました。

「フェンリルよ。町に来るニャン。そして、あたしたちの長と契約を結べば良いニャン」

「そうね」

 イヨが頷きました。

 フェンリルが顎を引いたっす。

「案内してくれるワン?」

(フェンリル様、騙されてはいけません! 人間に食べられますぞ!)

 どこかから念が飛んできます。

 フェンリルが右手を上げたっす。

「大丈夫だワン。僕は強いから、食べられたりしないよ」

 フェンリルが洞窟内を見渡しました。

 そして声を張ります。

「みんな、僕は今から、町に降りて人間の長と契約を結んでくるワン。この地を縄張りとして良いように、話あってくるワンから、安心して待っていて欲しい」

 狼たちが静かにこちらを見つめていたっす。

 フェンリルがヒメに右手を差し出しました。

「人間の長のところまで、案内してくれるかな、えっと」

「ヒメだニャン」

 ヒメが握手に応じましたね。

 続けて、

「後ろにいるのは、イヨとテツトだニャン」

 僕らを紹介してくれました。

 フェンリルが笑顔をくれます。

「イヨにテツトだね、よろしくだワン」

 そして僕らはフェンリルを連れて、洞窟を出たっす。

 お見送りをするように、何匹かのスティナウルフたちが入口までついてきてくれました。

 洞窟の入口ではナザクとジェスがあくびをかみ殺していたっす。

 僕たちに気付くと、武器に手を置きます。

 ナザクが聞きましたね。

「おいテツト、その少女は誰だ?」

 ヒメが答えます。

「フェンリルだニャン」

 ジェスが怪訝そうに聞きました。

「フェンリル? その女の子が?」

 フェンリルが鼻にしわを寄せました。

「僕がスティナウルフの長、フェンリルだワン。人間の長のところまで、よろしく頼むワン」

「本当に交渉で解決する気かよ」

 ナザクがぼやきましたね。

 そして僕たちはフェンリルを連れて、山を下りたっす。

 目指すは、依頼人の領主ミルフィがいる町の領主館でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 感想気にしなくてもいいですよー。\(^o^)/ スティナウルフとの和平が成るといいなぁ。と思いました。
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