2-2 朝のひととき
イヨの朝は早いっす。
朝の洗濯から始まり、バルコニーや玄関に置かれた鉢の花に水をくれます。
洗濯物を干して、朝食の下ごしらえをしました。
僕の部屋をノックする音。
「おはよう。テツト、朝」
僕も朝は強い方なんですがね。
最近の彼女には敵わないですね。
「ちょっと待ってね」
僕はベッドから起き出して布団をたたみます。
タンスの引き出しを開けて、パジャマから白のTシャツと半ズボンに着替えました。
部屋の扉を開けたっす。
僕と同じくTシャツを着たイヨがいましたね。
「おはよう、イヨ」
「テツト、トレーニング」
「うん、ちょ、ちょっと待って」
僕はキッチンに行き、コップに水を一杯飲みます。
トイレに行き、用を足しました。
玄関で靴を履き、彼女と一緒に外へ出ます。
空はまだ暗いす。
朝の四時過ぎだと思います。
通りの地面で僕たちはストレッチを始めました。
前屈の時は背中を押してもらいます。
他にも、彼女と手をつないで、引っ張り合ったりします。
イヨとやるとですね。
ウキウキです。
ストレッチが終わると、腕立て、腹筋、背筋、スクワットをいつもの回数こなしました。
腕立て500回、他は1000回ずつす。
イヨはまだまだ連続で出来ないのですが。
ですがですよ?
文句も言わずに毎日回数をこなしていました。
最近はもりもり筋肉がついてきています。
前はぽよぽよとしていた腕や太ももが筋肉質になってきていますね。
張りが出てきていました。
多分イヨは。
早く傭兵試験に受かって、傭兵になりたいんだと思います。
そうすれば依頼を受けるにしても、です。
簡単なものを二つ受けたり。
少し難易度の高い依頼も請け負うことができるっす。
それから僕たちは肩を並べてジョギングしました。
町の道路を、いつものコース走ります。
百貨屋さんの角を曲がり、真っ直ぐ行き、やがて見えてきた小学校のわきの道路を通りぬけ、領主館の周りを回り、また同じ道を帰ります。
東の空に太陽が顔を出し、空に赤みが差します。
「はっ、はっ、綺麗ね」
荒い息をつきながらイヨが言いました。
「そうすね」
僕は余裕の呼吸で頷きます。
一時間走って、帰ってきました。
その頃にはヒメも起きだしてきていて、ピンクのTシャツ姿です。
乳白色の長い髪をポニーテールに束ねていますね。
右手を口元にあててあくびをします。
左手には昨日プレゼントしたロッド。
首にはピンク色の懐中時計も下げています。
「ふわぁ、二人ともおはようニャーン」
「ヒメちゃん、おはよう」
「ヒメ、遅いぞ」
僕たちに遅れてストレッチを始めるヒメ。
イヨはアパートに一度入り、木刀と盾を持ってきたっす。
土の道路。
僕とイヨは向かい合って、稽古をしました。
真剣では危ないので、木刀っす。
「テツト、行くよ!」
「来い!」
僕は両手を構えました。
拳が銀色に染まります。
「せいっ」
真上から木刀を振りかぶるイヨ。
僕は両手で弾きます。
カーンッ。
「せいっ」
「甘いっす」
カーンッ。
「せいっ!」
「イヨ、全開で来てください!」
「せいっ!」
「もっともっと!」
「せえいっ!」
カーンッ、カーンッ、カーンッ。
イヨの太刀さばきは真っすぐです。
悪く言えば変化に乏しいっす。
しかし良く言えば、真っすぐであるがゆえに隙が無く、反撃しづらいです。
最近は力もついてきて、木刀が速く、重くなってきました。
防戦一方だった僕が、攻めに出ます。
右拳でパンチ。
次に左手。
ワンツー。
ドンドンッ。
彼女は盾で防ぎます。
僕は腰を低くして足払いをかけます。
「くっ!」
イヨがジャンプして躱したっす。
「二人とも、頑張れ頑張れニャンニャニャン!」
腹筋をしているヒメが変な歌を歌いました。
僕は足を縦に回転させます。
左足の上段蹴り。
次に右足。
ワンツー。
「シールドバッシュ!」
イヨがたまらず唱えましたね。
盾から放たれる紫色の波動。
しかしナイスタイミングでした。
僕は無理して避けずに、当たります。
ドンッ。
僕の頭がピヨピヨ。
「せえええぇぇぇぇえい!」
イヨの上段斬りが、僕の頭に命中しました。
コツ。
力を抜いてくれたようです。
スタンが解けて、僕は両手を開いたっす。
「イヨ、タイミングの良いスキルだったよ」
「はあっ、はあっ、そ、そう?」
彼女がにっこりとほほ笑みます。
「うん。今みたいに、カウンターのタイミングでシールドバッシュを使えば、ダリルさんにも通用するかも」
「う、うん!」
嬉しそうな顔です。
僕も嬉しくなっちゃいますね。
ヒメがぱたぱたと駆けてきました。
僕に抱き着きます。
「テツト、今度はあたしが相手だニャン」
「いいぞ、来い」
「行くニャーン」
ヒメが体を離して、杖を構えます。
棒術はいまいち分からないっす。
ヒメは我流でロッドを振り回します。
「せや! えいや!」
突きをくり出すのですが。
棒さばきが遅いですね。
イヨは道路の端により、両手を腰に当てました。
勝負を見守るようです。
僕はヒメの練習になるように、自分のレベルを下げなければいけませんでした。
体の動きを遅くし、たまに当たってあげます。
ドスッ。
「痛っ」
ちょっと痛かったです。
「どうだニャン!」
ヒメが嬉しそうにほほ笑んだところで、僕は足払いをかけます。
「う、うぅぅ、うわぁーっ」
ずっこけちゃいました。
イヨが苦笑しています。
ヒメは悔しそうな顔で立ち上がり、
「今のは卑怯だニャン!」
僕は両手を開きます。
「卑怯なんてしていないよ」
「もう一回だニャン!」
その肩にイヨが手を置きました。
「次は私」
「イヨ、ちょっと待つニャーン」
「ダメ、順番」
ヒメがしゅんとして引き下がりましたね。
「仕方ないニャーン」
そして、また僕とイヨが向かい合います。
「せいっ!」
木刀を振りかぶるイヨ。
太陽はすっかり東の山から顔を出し、辺りは明るいです。
今日も、僕たちの一日が始まるようでした。