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2-1 ヒメの誕生日


 ヒメの誕生日でした。

 地球では1月から12月というふうに、月が12に分けられています。

 この異世界ハルバの月は、春の月、夏の月、秋の月、冬の月というふうに、4つに分けられているっすね。

 1つの月は90日あるようですね。

 360日をかけて、星は太陽の周りを回るようでした。

 今日は夏の月の7日。

 地球で言えば7月7日の七夕に当たります。

 みんなでホールケーキを買ってきたっす。

 夜。

 アパートの一室の丸テーブルを、三人で囲んで座っていましたね。

 ケーキにさしてある蝋燭にマッチで火をつけました。

 ランタンの明かりを消して、三人で歌います。

 大きな声は恥ずかしいので、僕の声は小さいす。

「はっぴばーすでいとぅーゆー。はっぴばーすでいとぅーゆー。はっぴばーすでいでぃあ、ヒメちゃーん。はっぴばーすでーいとぅーゆー」

 ヒメが息を吹きかけて、蝋燭の火を消しました。

 イヨと僕は盛大な拍手をします。

「二人とも、ありがとうニャーン」

 照れた声のヒメ。

 イヨがランタンに火を入れました。

 部屋に明かりが戻りましたね。

 三人とも、誕生日にかぶるような派手な三角帽をかぶっていました。

 ヒメが聞きます。

「テツト、あたし何才になったニャン?」

 僕は頬をかきます。

「たぶん、3才か4才だと思うけど」

 ヒメを拾った時は子猫でした。

 たぶん、1才ぐらいだったと思います。

 あれから2年が経っているので、ヒメは3才ぐらいっす。

 ちなみに、ヒメの本当の誕生日は分かりませんね。

 拾った日が七夕だったので、七夕を誕生日ということにしていました。

 イヨが椅子の後ろに隠していたプレゼントの小さな袋をヒメに渡します。

「はい、ヒメちゃん。プレゼント」

 ヒメが鼻を赤くして受け取ります。

「イヨ、ありがとうだニャン」

 早速ふくろを開けています。

 中にはピンク色にキラキラと輝く懐中時計が入っていました。

 首から下げるタイプのようです。

 ヒメが時計を開きます。

 時計の中に方位磁石もついています。

「綺麗だニャーン」

「いいでしょ」

 イヨがうふふと笑いました。

 ヒメが顔を向けます。

「高かったニャンか?」

「結構した。マジックアイテムだから」

「マジックアイテムニャン?」

「うん」

 マジックアイテムという存在は初耳っすね。

 後でイヨに詳しく聞いてみることにします。

「大事にするニャンよ~」

 ヒメが懐中時計を首にかけました。

イヨが満足そうに微笑します。

 僕は椅子の下に置いてあった長細い袋を取ります。

 ヒメに渡しました。

「ヒメ、誕生日おめでとう」

「テツト、ありがとうニャン」

 ヒメが袋を開けます。

 中から出てきたのは、木製のロッドでした。

イヨにお金を貰い、買ってきたっす。

とは言うものの村で散々イノシシを狩った代金を彼女に渡していますね。

僕が買ってあげたようなもんっす。

 片方の先には赤い宝石がついていますね。

 その宝石はスキル効果を増幅する効果があるようです。

 ヒメがロッドを上下に振りました。

「やったニャン! これであたしも、立派な魔法使いニャン!」

「そうだね」

 僕は薄く笑いました。

 ヒメがロッドを膝に置きます。

 涙ぐんで言ったっす。

「二人とも、こんな高価な物を、ありがとうニャン。嬉しいニャーン」

 イヨが木製の包丁を持って、ホールケーキを切り分けてくれましたね。

 三等分されたショートケーキを、フォークでいただいちゃいます。

「うまいニャン、うまいニャン」

 ヒメが唇にクリームをつけながら頬張ります。

 それを見たイヨがクスと笑いをこぼしました。

「ヒメちゃん、ゆっくり食べて」

 僕は幸せそうな二人の顔を見て、もうそれだけで満足っす。

 やがてイヨがキッチンから料理を運んでくれます。

 今日のために腕をふるって作ってくれたみたいですね。

 フライドポテトやチキン、パンやサラダがテーブルに並びました。

 ヒメの希望したマグロのたたきとクリームスープもあります。

 酒はありません。

 ロナード王国に、子供が酒を飲んではいけないというルールは無いようですが。

 今日のところは誰も買ってきませんでした。

 このアパートに僕らが来たのは一週間前のこと。

 マーシャ村を出た日から数えると、8日が経っています。

 花屋さんのすぐ隣の、集合住宅でした。

 2DKの小さなアパートであり、シャワー室とトイレ付きです。

 部屋の一つは、ヒメとイヨが使っています。

 もう一つは、僕の部屋す。

 今いる部屋の、キッチンとダイニングはくっついていました。

 一か月の家賃は5万ガリュと結構しますね。

 三人が暮らしていくには、せめて月30万ガリュは稼ぎたいところでした。

 ちなみにこの一週間の僕らの稼ぎはと言うと。

 4万ガリュほどっす。

 赤字す。

 傭兵ギルドの仕事を頑張ったんですけどね。

 依頼人の逃げた飼い犬を捕まえたり。

 ベビーシッターの真似事をしたり。

 空地の草むしりまでしました。

 イヨが僕に顔を向けます。

「テツト。そろそろ、大きな仕事をして、稼がないと」

「そうすね」

「あたしも頑張れニャーン」

 のんきな顔と声のヒメ。

 イヨが人差し指を立てたっす。

「明日ギルドに行って、儲かる仕事を探してみる」

 僕の傭兵ランクはEっす。

 せめてもう一つランクが上がれば、稼ぎの良い仕事がもらえるみたいですが。

 依頼遂行の実績が何回か必要で、その上で昇格試験があるみたいっす。

 ヒメがショートケーキをペロリと食べちゃいました。

「ケーキをもう一つ食べたいニャン」

「もう~」

 イヨが自分のケーキをフォークで半分にして、ヒメの皿に移します。

「イヨ、ありがとうニャーン」

「ヒメちゃん、ケーキはこれで最後」

「んニャン」

 ヒメがまた食べ始めます。

 僕はチキンを取り皿にとって、フォークで食べました。

 イヨは料理が上手す。

 塩コショウが利いている上に、パリッとしていて旨いっすねー。

 やがて三人で食事を食べ終えました。

 イヨが食器の片付けをします。

 椅子に寄りかかって寝息をかくヒメ。

 僕はその乳白色の髪をそっと撫でました。

「んにゃーん、もう食べられないにゃーん」

 ヒメが寝言をつぶやきます。

 イヨが振り向きました。

「テツト、先にシャワー使って」

「あ、はい」

 僕は立ち上がり、自分の部屋に行きます。

 着替えとタオルを持って、シャワー室に入りました。

 ちなみにお湯は出ません。

 裸になります。

 ……冬は寒いだろうな。

 そんなことを思いながら、タオルに水をつけます。

 石鹸を取り、泡立てました。

 そして、今日も夜が更けていきましたね。

 明日から、大変な一日が始まるとも知らずに、です。


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