表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/147

1-19 ナザク


「その結婚式、ちょっと待ったー!」

 僕の大声に、村の男たちが振り返ったっす。

 イヨもこちらに顔を向けています。

 その瞳がビクビク。

 イヨは信じられないものを見たような顔です。

「テツトくん?」

 僕は赤い絨毯を歩いていきます。

 横合いからでっぷりとした腹の男が立ちはだかりましたね。

「お前、息子の結婚式を邪魔する気かのーう?」

「誰ですか?」

「俺はギニースの父親、セルル・シャーバルだのーう」

 ……ギニースの父親か。

 セルルは続けて言います。

「ナザク、やってくれるかのーう?」

「ま、ここは俺の出番ですわ」

 浅黒い肌の男が前に出てきましたね。

 両手にはダガー。

 僕は拳を構えます

 銀色に染まる両手。

 ナザクは眉をひそめたっす。

「お前さ、まだ懲りないのか? また俺に向かってくるって言うんなら、今度は殺すぞ?」

 僕は覚悟を決めていました。

 飄々と言い放ちます。

「殺す? やってみてくださいよ。あなたのへなちょこアタックで、誰を殺せるって言うんですか?」

 ナザクの額に筋が、ピシリ。

「ガキ、殺すからな」

 こちらへ歩いてきます。

 僕はその場で軽くジャンプを始めました。

 ……僕、死ぬかもな。

 ナザクと僕が、一定の距離を保って立ち止まります。

「行くぞ!」

 ナザクが走ってきました。

 ダガーを振りかぶります。

 右から左から襲い掛かってくるダガー。

 僕は両手で弾くっす。

 カンカンッ!

「おめー、あの花嫁の女が好きなのか?」

 攻撃をしかけながら、ナザクが話しかけます。

 僕は表情を険しくしました。

 ナザクの攻撃を防御します。

「イヨさんは友達す」

「友達ぃ?」

 ナザクが顔をしかめます。

 そして唱えました。

「ポイズンアタック」

 ダガーに紫色の波動が生まれます。

 これに当たったらいけません。

 僕は大きく後ろに跳んだっす。

「炸裂玉!」

 右手に生まれた赤い玉をナザクのいる地面に投げます。

 ボンッ!

 空気が炸裂したっす。

 ナザクはたまらずに後退しました。

 僕の額からは滝のような汗。

 炸裂玉はすごく強いスキルなのですが……。

 使った後で、100メートル走をしたような疲労感が残ります。

 爆風がやんで、ナザクがまた歩いてきました。

 ダガーには紫色の波動が消えているっす。

 効果には時間制限があるようでした。

 ……はあ、はあ。

 何とか倒さないと。

 ナザクが右手を上げました。

「男ども、全員でこのガキを囲めえ!」

「「おー!」」

 村の男たちに僕は囲まれました。

「おらあ!」

「あきらめろ子憎!」

 後ろからキックされ、横から服を引っ張られ、戦いにくいっす。

 僕は困窮しました。

「く、卑怯だぞ」

 ナザクは面白くて仕方ないというふうに笑います。

「卑怯? 知らねえなあ。 俺はこの結婚式が成れば、それでいいんだ。それで任務は完了で、報酬が手に入る。そのためにはガキ、お前が邪魔だ。排除させてもらう」

 ダガーの切っ先を僕へ向けます。

「ポイズンアタック」

 また唱えやがりました。

 紫の波動を帯びるダガー。

 僕は神経を集中させました。

「イヨさんは絶対に助け出します」

 自分を鼓舞するように言いました。

 ナザクが表情を歪めます。

「どうしてそこまでする? 好きな女じゃねーんだろ?」

 僕は力強く言いました。

「イヨさんには家に泊めてもらいました。食事も作ってもらいました。町で一緒に暮らす約束もしています。ここで彼女を救えなければ、僕は自分を見下げ果てることになる!」

 ナザクはゆっくりと頷きます。

「ふーん」

 続けて言いました。

「でもな。小僧、いくら意気込んでも、どうにもならない不条理ってものが、この世にはあるんだぜ?」

 ナザクが走ります。

「ひゃっはあ! 死ね小僧!」

 彼が両手を振りかぶり。

 その右腕を僕は掴み、体を反転させます。

 彼の左手のダガーが、僕の背中を切り裂いていました。

 気にしません。

 懐に入り、体をバネのようにしならせました。

 肉を切らせて骨を断つ。

 一本背負い。

「なあっ!」

 ドシンッ!

 ナザクが地面に倒れたっす。

 僕は体が緑色に染まっていました。

 毒にかかっています。

 それでも右拳を振りかぶります。

「へなちょこパンチ!」

 オレンジ色の波動に包まれる右拳。

 ナザクの顔面に振り下ろしました。

 ドンッ!

「ぐがあっ!」

 ボキリッ。

 ナザクの頬に拳がめり込み、骨がくだける感触がしました。

 彼は体をぴくぴくとさせて白目を向いているっす。

 気絶したようです。

「はあ、はあ」

 僕は周りを見ました。

 男たちがおびえたような顔で僕を見ています。

 セルルの声が響き渡ったっす。

「何をしておるかのーう! 男たちよ、早くガキを殺すのだのーう!」

「「はい!」」

 男たちが僕に一斉にかかってきます。

 多勢に無勢でした。

 ふと。

「テツトくん!」

 男たちをかきわけて、ウェディングドレス姿のイヨが乱入してきたっす。

 僕の背中を守るように立ちました。

 彼女も拳をかかげます。

「イヨさん?」

「私も戦う!」

 セルルが前に出ました。

「イヨよ。何をしておるかのーう。暴れては、ドレスが汚れてしまうのーう」

「知らない!」

「知らないではないのーう。早くこっちに来るが良いのーう」

 僕は叫びました。

「イヨさんは僕の仲間です! 誰にも渡しません!」

「テツトくん?」

 イヨが頬をほんのりと染めましたね。

 セルルが帯剣していたそれを抜きました。

 困ったような顔で言います。

「イヨよ、どう言うつもりかのーう?」

「どう言うつもりも何もない!」

「裏切るのかのーう?」

「私は」

 イヨが僕の腕を握りました。

「この人と行きたい!」

 セルルが憤怒したように顔を真っ赤に染めます。

「こうなったら」

 こちらに剣を向けます。

 続けて言いました。

「俺が相手になってやるのーう!」

 僕は両手を構えました。

「来い!」

 毒にかかったせいで全身に痛みがあります。

 体が重いっす。

 セルルが命令するように言いました。

「男たちよ! もうイヨが傷ついても良いのう。一斉攻撃だのーう!」

「「はい!」」

 全員が一度に攻撃を仕掛けようとしてなだれ込んできます。

 その時。

 後ろの方から、何人もの人間の足音が響いてきました。

「「シャーバル家を倒せ!」」

「「イヨちゃんを助けろ!」」

 女たちの怒りの声が響いてくるっす。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ