1-18 救出(ヒメ視点)
ニャン。
あたしはいま、ギニースの館の前にいるニャン。
一本の木の後ろに隠れて、様子をうかがう。
玄関の前には一人の男がいて、守るように立っている。
テツトからは、村の女たちを助け出すように言われていた。
絶対に助け出すニャンよ~。
だけどあの男、強そうだ。
体格が良いし、剣を持っているし、何より無精ひげを生やしているニャン。
無精ひげが怖い。
女たちは館の二階に閉じ込められているという話だ。
二階を見上げる。
窓のところにベランダがあるニャン。
そうだ!
あたしは思いついた。
この木は背が高いニャン。
木からベランダに飛び移れば良いニャン。
あたしは両手に持っていたフライパンを口にくわえた。
木をよじ登りだす。
「ん?」
物音に気付いたのか、玄関にいた無精ひげの男が近寄って来た。
やばいニャン! 見つかったニャン!
あたしは大急ぎで木を登る。
「お前、何者だ!」
無精ひげの男が叫んだ。
怖いニャン~。
あたしは木を一生懸命に登る。
ひげの男が木を蹴りつけた。
ドンッ。
「おい降りろ! さてはシャーバル家にあだなす連中だな!」
ひげの男も木を登りだした。
やばいニャンやばいニャン!
あたしは大急ぎ。
両手が木の皮膚にこすれて傷がついた。
痛いニャン~。
でもイヨとみんなを助けるため。
頑張るニャンよ~。
「おい降りろ!」
ひげの男が信じられないスピードで登ってくる。
こうなったら!
あたしはひげの男を指さした。
「スローニャン!」
ひげの男の体に紫色の輪っかが現れる。
「な、なんだ!?」
男の登るスピードがゆっくりになる。
あたしは片手を木から離したせいでバランスを崩した。
「うわあっ!」
木から落っこちる。
「もうダメニャーン!」
「な、な! うわー!」
ひげの男にぶつかり、重なるように地面に叩きつけられる二人。
あたしは無事だった。
ひげの男がクッションになってくれたニャン。
立ち上がって、落としてしまったフライパンを拾う。
「成敗ニャン!」
ひげの男の顔面をぶっ叩く。
ゴンゴンゴンゴンッ!
「いていて痛い、痛いって!」
ゴンゴンゴンゴンッ!
「痛いっ! ぐあっ! ぐあっ、ぁぁ、ぁぁ」
よし気絶したニャン。
あたしもやれば出来るニャーン。
玄関へと向かう。
扉には鍵がかかっていた。
「んニャン?」
あたしはひげの男の元に戻り、ポケットを漁る。
ちゃりちゃりーん。
「こんなところにあったニャーン」
ラッキー。
また玄関に行き、鍵穴に差し込んで扉を開けた。
玄関の広いホールのすぐ手前には、二階へと続く階段がある。
上っていった。
「ルペドですか?」
一階の違う部屋から使用人のような格好の女が出てきたニャン。
ルペドって誰ニャンか?
さっきのひげの男かもしれなかった。
あたしは振り向く。
使用人の女と目があったニャン。
「きゃー! 誰かー!」
使用人の女が仲間を呼びに行ったニャン。
まずいニャンまずいニャン。
二階には4つ部屋がある。
あたしは片っ端から開けて行った。
どれもこれもカギがかかっているニャン。
面倒くさいニャン。
ガチャガチャ。
一番右の扉の先に、女たちがいたニャン!
「誰かの? おお! 嬢ちゃんじゃないかい!」
村長のおばあさんが目の前にいたニャン。
「助けに来たニャン! みんな! イヨを助けるニャーン!」
「すまんのう。礼を言うぞ。ヒメと言ったか?」
あたしの頭に手を置くおばあさん。
「ヒメだニャン」
村長のおばあさんはみんなを振り返った。
「みんな、出番ぞよ!」
「「おおー!」」
女たちがかけ声をあげる。
みんなの目つきがちょっと怖いニャン。
みんなが次々に扉をくぐって階段を下りていく。
一階のホールでは、
「ルペド、ルペド!」
使用人がひげの男を連れてきているところだった。
どうやら意識が戻っている。
ルペドが剣を抜いた。
「お前ら! ここは通さないぞ!」
あたしは再び唱える。
「スローニャン!」
ルペドの体に紫色の輪っかが出現した。
女たちが取り囲んで殴りつける。
「ふざけんじゃないよあんた!」
バシッ。
「金持ちに味方して、そんなに楽しいかい?」
ビシッ。
「男のくせに、女相手に武器でかかろうってかい」
バシッ。
「少しは男気ってものを見せたらどうだい!」
ビシッ。
ビシバシビシバシビシバシビシバシッ。
「ぐあぁぁぁぁあああああ!」
ルペドの顔がこぶだらけになった。
床に倒れる。
「キャアアアアア!」
使用人の女は悲鳴を上げて、違う部屋に逃げていった。
ざまーみろだニャン。
女たちが裸足のまま玄関から出て、教会へと向かう。
テツト、あたし上手くやったニャンよ。
あたしも女たちと一緒に走った。