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1-17 結婚式


 お岩さまを倒した後で、隠れ家に戻って来ました。

 人の気配が無いっす。

 おかしいっすね。

 家の扉は開け放たれていました。

 中に入ってみると、誰もいません。

「誰にいないニャン。みんなどこに行ったニャンか?」

 ヒメが怪訝な顔で室内を見回します。

 僕は顎に手を当てました。

「たぶん、みんな連れていかれたんだ。あの、ギニースたちに」

 家の外にも中にも、人が争ったような形跡はありませんでした。

 村長たちは降伏したということですかね。

 ヒメが鼻にしわを寄せます。

「ひどいニャン! テツト、みんなを助けるニャン!」

 僕は小刻みに頷きました。

「ヒメ、ここは慎重に動こう。たぶん、イヨやみんなを助けられるのは、僕たちだけだ」

「イヨを助けるニャーン」

「そうだ。とりあえず、この家を離れよう」

「なんでニャン?」

「敵が戻って来るかもしれないだろ?」

「あー、確かにそうニャン。じゃあ、離れるニャン!」

「その前に、使えるものは持っていこう」

 僕とヒメはキッチンに行き、そこにあったパンや干し肉、野菜などの食料をもらいました。

 使えそうなもの、マッチなど、僕が担いでいるリュックに入れます。

 ヒメがフライパンを両手で持ちましたね。

「これ使えるニャン!」

 僕は眉をひそめます。

「何に使うんだ?」

 ヒメはフライパンを振りました。

「敵の頭をガツーンだニャン」

 僕は半笑いになります。

「まあ、素手よりもいいかもね」

「んニャン!」

 他にも寝室から毛布を二ついただくことにしました。

 そして僕たちは隠れ家を離れます。

 この二週間、山を駆け回ったおかげで、僕たちは川のある場所を知っていました。

 そこまで歩いて行きます。

 木の枝を集めましたね。

 川のそばの地面に焚火のもとを作りました。

 今はまだ午後っす。

 火はつけずに、僕とヒメは休むことにします。

 僕はヒメに、考えていることを説明しました。

「ヒメ、明日、村の教会で結婚式があることは知っているよね」

「んニャン、やらせないニャン」

「そうなんだけど、これから僕が言うことを良く聞いて」

「ニャン?」

 そして。

 僕たちはその場を動かずに、夜が更けていきました。

 夜、ヒメは毛布にくるまりながらクークーと眠っています。

 僕は焚火の世話しながら、寝ずに過ごしました。

 朝がやってきたっす。

 鮮やかな晴れでした。

 僕とヒメはそれぞれ行動を開始します。

 その日、教会の扉の前の地面には、季節の花で作った綺麗ハートマークが描かれていました。

 オルガンを外に出したようで、演奏を担当するシスターが、椅子に座っています。

 この日のために教会の窓を磨いたのか、キラキラと輝いていました。

 扉の前から外に向かって、ヴァージンロードの赤い絨毯が敷かれています。

 どうやら結婚式は、教会の外でやるようです。

 整髪料で白髪を撫でつけた神父がいて、両手に大きな黒い本を持っています。

 やがて村の男たちが、集団で歩いてきたっす。

 その中にはあの男、ナザクもいますね。

 女性はいません。

 ギニースの家に捕まっているということですかね。

 男たちはみな、パリッとした正装をしていますね。

 教会の赤い絨毯のわきに、男たちが並びます。

 やがてオルガンがメロディを奏で始めました。

 祝福の音楽が、教会に響き渡ります。

「来たぞ!」

 男の一人が指をさしました。

 そちらに顔を向けると、タキシード姿のギニースが、ウェディングドレスを着たイヨの手を引いて歩いてきました。

 村の男たちは拍手をします。

 どこか硬い笑顔の村民。

 ゆっくりと、赤い絨毯を歩く二人。

 ギニースの幸せそうな顔。

 無表情のイヨ。

 化粧のほどこされた彼女は顔は、とても綺麗でした。

 僕は腹をぎゅっと掴まれたような気分になります。

 二人が神父の前に立ちます。

 神父が黒い本を開きました。

 ギニースに問いかけます。

「汝ギニースは、この女イヨを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 ギニースが満足をそうに頷きます。

「はい、誓います」

 神父は二度頷きます。

 そして今度はイヨを見ます。

「汝イヨは、この男ギニースを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「……誓います」

 イヨが言って、唇をぎゅっと噛みました。

「では、二人とも、誓いのキスを」

 ギニースとイヨが向かい合います。

 彼がイヨの両肩を抱きました。

 ギニースは、嬉しくてたまらないような笑顔ですね。

 イヨは表情がビクビク。

 彼がイヨに顔を近づけ……。

 隣の家の角にひそんでいた僕は飛び出しました。

 スキルを唱えます。

「炸裂玉!」

 右手に現れた赤い玉を、ギニースに向かって投げつけました。

 ズゴンッ!

 空気が炸裂し、地面の花が宙を舞って、はらはらと落ちます。

 ギニースはぶっ飛んで地面を転がりましたね。

 僕は赤い絨毯をゆっくりと歩きました。

「その結婚式、ちょっと待ったー!」


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