表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/147

8-8 冬旅



 翌日の朝。

 僕たちが傭兵ギルドへ行くと、セシリはすでに建物の前で待っていましたね。

 ヒメが近づいて行って挨拶をしたっす。

 彼女は猫の時から、人見知りを全くしないんですよね。

「セシリ、おはようだニャーン」

「おはようございます。傭兵の皆さん」

「おはよう」とイヨ。

「どうもっす」と僕。

「おはよう、よろしく頼むぜー」とレドナー。

 イヨが振り向いて言ったっす。

「テツト、私ダリルさんを呼んでくるから」

「分かりました」

 僕は頷きます。

 イヨがギルドの建物の中へと入って行きましたね。

 ヒメとセシリが何か話し合っています。

「セシリ、昨日はよく眠れたかニャン?」

「はい。眠れました」

「今日から長旅ニャンけど、大丈夫かニャン?」

「はい。馬車での旅なので、楽をさせてもらえそうです」

 ニコッとセシリが微笑します。

 エルフは誰もがこのように整った顔立ちをしているんですかね?

 年齢は二十代に見えますが、実際は何歳なのでしょう。

 やがてダリルさんとイヨが建物から出てきたっす。

 ダリルが両手を胸に組んで言いました。

「よーしお前ら。いつも通り、水とスティナウルフの食料は用意してある。地図はイヨに渡したからな。それじゃあ、気をつけて行って来い!」

「はいニャーン!」

 ヒメが右手を上げてジャンプしました。

 そして狼車の方へと歩きます。

 馬車の前にはガゼルが寝そべっていましたね。

 ヒメが元気いっぱいに挨拶をします。

「ガゼルニャーン!」

「グルルゥ」

(おはよう。ヒメ)

「またガゼルが一緒に行ってくれるのかニャン?」

(ああ、そうなった。お前たちとは縁があるな。今回もよろしく頼む)

「んにゃーん!」

 そして僕たちもガゼルに挨拶をして、その身体を撫でました。

「ガゼル、よろしく」とイヨ。

「ガゼル、よろしくっす」と僕。

「頼むぜー」とレドナー。

(うむ。任せておけ)

 そして僕らは馬車へと乗り込みます。

 御者台には僕とイヨが並んで腰を下ろしました。

 車の方には、ヒメとレドナー、それにセシリが乗ったっす。

 ガゼルが立ち上がり、イヨをちらりと振り向きました。

(イヨ、どこへ行けば良い?)

 イヨは地図と睨めっこをしています。

「とりあえず、町の東出口から出て」

(分かった。東だな)

 ガゼルが歩き出し、馬車が旋回して動き出しましたね。

 見送っているダリルが大声で言って手を振ってくれました。

「お前らー! 気をつけろよー!」

 ヒメが馬車の窓をがらりと開けて、返事をします。

「任せるニャンよ~!」

 手を振り返していますね。

 そして、町の東出口から外に出て、狼車が道を行きます。

 冬空の下は、かなり寒いっす。

 イヨがリュックから毛布を取り出してくれました。

「はい、これ。テツト」

「ありがたいっす」

 僕とイヨは肩から毛布をかけて、寒さを凌ぐ格好になりました。

「うふふ、こうするともっと暖かいわ」

 イヨが毛布の中で腕をからめてきます。

 僕は顔が赤くなって、されるがままでした。

 気持ち良い上に気分が高揚します。

「ねえテツト」

「はい、何ですか?」

「テツトは、赤ちゃん何人欲しい?」

「あ、赤ちゃんですか?」

「うん。何恥ずかしがってるのよ。私たちもう婚約者なのよ?」

「そ、それはそうですね」

 ちなみにイヨは婚約指輪をアパートに置いてきています。

 仕事中につけて、壊れたりしたら大変す。

「うん」

「ええっと、二人は欲しいですね!」

「二人がいいの?」

「はい。僕は一人っ子だったので、兄弟とか、あこがれるっすよ」

「そうなんだ。私も一人っ子だから、その気持ちは分かるわ」

「はい。寂しくないように、二人以上が欲しいっす」

「じゃあ、頑張らないとね」

 イヨが頬を染めて僕の顔を覗き込みます。

「うふふ」

「が、頑張りましょうかね」

「うん。この戦いが終わったら、作る」

「この戦いって?」

「イヅキを倒して。ジャスティンさんが次期魔王になったら、かな」

「そうですね。それがいいっす」

 イヨが僕の肩に頭を預けてきます。

 僕は右手で彼女の肩を抱いたっす。

「ねえテツト、私、テツトの夢の話が聞きたいわ」

「夢ですか?」

「うん。この先、テツトがどうなりたいか」

「そうですね」

 僕は考えを巡らせました。

「実は僕は」

「うん」

「もっと強くなりたいんです。元々柔道家だったこともあって、戦うことに興味があるみたいです」

「ふーん。強い傭兵になりたいの?」

「そうですね。ミルフィ様やサリナさん、それに王様にも認められるような、強い者になってみたいです」

「そっか。じゃあ勇者になればいいかも」

「勇者ですか。なれますかね?」

「テツトならなれる」

「なれると良いっす」

 それからもガタゴトと狼車が揺れて、道を行きます。

 途中、イヨがヒメから懐中時計を借りて、方位磁石で進行方向を修正していましたね。

 やがて、今日お泊まりする場所にたどり着きました。

 野宿っすね。

 近くに川が流れています。

 狼車から降りると、ヒメが伸びをしました。

「あー、いっぱい寝れたニャン~。だけどちょっと寒かったニャンよ~」

「天使さま、大丈夫ですか?」

「平気だニャンよー。レドナーは心配性だニャンね~」

 僕たちは落ちている小枝を集めて、地面にたき火を作りました。

 川から鍋に水を汲んできて、いまイヨが料理を作っています。

「イヨ、今日の晩ご飯は何ニャンか?」

「うふふ、ジールコットよ」

 いつかの旅で、ミリーという女性が作ってくれた料理と同じですね。

 カレーっぽい味がする料理のことでした。

「やったーニャーン」

 ヒメが万歳をしています。

「君たちって、家族?」

 ヒメの隣に腰掛けているセシリが聞きました。

「んにゃん! あたしとテツトとイヨは家族だニャンよ~」

「ふーん。兄弟か何か?」

「ううん。イヨとテツトは夫婦だにゃんね~。あたしはテツトのペットだニャン」

 僕の隣にいるレドナーがびくりと身じろぎしました。

 眉をひそめて抗議します。

「天使さまはペットじゃねえぜ」

「え~、なんでニャン?」

「うふふ、ヒメちゃんはテツトのペットなの」

 イヨがクスと笑って、円柱形の鍋をかき混ぜています。

 セシリが首をかしげて言います。

「ペットってどういうことなの?」

「気にしないでください」

 イヨは料理が完成したのか、ひとり一人の深皿にジールコットを盛り付けます。

「テツト、ガゼルの食事を運んできて」

「分かりました」

 僕は立ち上がり、馬車に戻ります。

 香辛料入りの樽から、大きなソーセージを二つ取って、木製の器に載せて戻ってきます。

 それをガゼルの前に置きました。

「ぐるー」

(テツト、食べて良いのか?)

「いいっすよ。ガゼル」

(では!)

 ガゼルががぶがぶと食べ始めます。

 イヨがガゼルの分のジールコットを大きな木の器に入れて運んであげました。

 セシリがパンにジールコットをつけて口に運びながら言ったっす。

「家族っていいですね」

 少し寂しそうな声でした。

 イヨが彼女の隣に腰を下ろして聞いたっす。

「セシリさんにも夫がいるんでしょ? えっと、ドワーフだっけ? その人」

「夫とは別れました」

「……ごめん、聞いちゃって」

「良いんです。それに、本当は私、子供を中絶しなきゃいけなかったんです」

「ドワルフだっけ? 食人族の」

「はい。私はどうしても産みたかったんです。産めば人生が変わると思った。それに、例え食人族でも、幼い頃から礼儀作法や、やってはいけないことなどをきちんと教えれば、食人族にはならないと思っていたんです。だけど、私は甘かった」

「結局、ダメだったんですか?」

「はい。私の息子、ヒューマは、一日に一人はエルフやドワーフを食べて生きています。食べたくて食べたくて仕方ないみたいなんです。だから、私は」

「辛いことをもう言わなくていいわ」

「ごめんなさい。それよりみなさん、今回の件が片付いたら、私から一冊のスキル書をプレゼントします」

「スキル書?」とイヨ。

「それはどんなスキル書ニャン?」とヒメ。

「それは、ウインドブレッシングという範囲回復魔法です」

「んにゃーん。魔法使いのあたしが覚えるかニャーン」

 ヒメが嬉しそうに肩を揺らしていますね。

 セシルは微笑して頷きました。

 しかしその瞳はかすかに濡れています。

「はい。魔法使いの方が覚えるのが良いかと」

「やったーニャーン」

 そして、食事を終えるとみんなで後片付けをしましたね。

 順番に起きてたき火の世話をしながら就寝です。

 最初のたき火の番は僕。

 僕とガゼル以外の全員が寝袋に入りましたね。

 モンスターが襲ってくることも無く、静かな冬の夜でした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ