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8-7 ドワルフ



 その後、僕たちはお世話になっている不動産屋さんの建物に行ったっす。

 もちろん、イロハのアパートを探すためでした。

 ちなみにジャスティンとルルは先にラーメン屋さんに行っちゃいましたね。

 不動産屋の若社長は人の良い笑みを浮かべてアパートをいくつか紹介してくれました。

 そのアパートの全部が町の北区にある建物で、僕たちは歩いて物件を見に行ったっす。

 その一つをイロハが気に入り、そこにすることに決めたようです。

 メガネ屋さんの隣の三階建てのアパートでした。

 アパート中でイロハが契約を結び、今日から住むことになりそうです。

 ちなみにお金は僕たちが立て替えてあげました。

 これで一件落着っす。

 彼女は午後からラーメン屋に行き、ジャスティンたちと合流する予定でした。

 用事が済んだ僕たちは、一度家に帰り、準備をして傭兵ギルドへと向かいます。

 仕事ですね。

 アパートを左に折れて、真っ直ぐ行くと小高い坂があり、突き当たりを右に折れて進んで行くと、酒場と宿屋に挟まれるようにして傭兵ギルドがあります。

 剣を空に突き上げている像。

 いつもの光景でした。

 僕たちが中に入って行くと、他の傭兵の姿は無かったっす。

 来るのが遅かったので、もうほとんどの仕事を取られちゃったかもしれません。

 イヨを先頭に僕たちはカウンターに近づきました。

 カウンターのところでは、一人の耳にとんがった女性がダリルさんと何か話しています。

 赤髪のダリルさんは僕たちを見つけると右手を上げましたね。

 その隣にはハチミツ色の髪のハニハもいます。

 控えめに手を振ってくれました。

「よー、お前ら、今日は遅かったな」とダリル。

「お、おはようございます」とハニハ。

「ちょっと用事があったんです」

 イヨが右手を掲げます。

 ふと、耳のとんがった女性もこちらを向いたっす。

 髪の色が青いですね。

 フード付きの白いローブを着ているっす。

 人間では無いと思いました。

 ダリルさんが両手を開いて言ったっす。

「良いところに来たお前ら。いま、このエルフのお嬢さんが依頼を登録しに来ているんだが、どうだい? お前ら、やってみないか?」

「どんな依頼ニャン~?」

 ヒメがカウンターに手をつき、青い髪の女性の顔をまじまじと覗き込みます。

 その女性は顔を歪めて言ったっす。

「あの、実は」

「実はニャン?」

「息子を殺して欲しいんです」

「んにゃんっ!?」

 ヒメがびっくりしたように胸をのけぞらせたっす。

 イヨが聞きます。

「息子を殺して欲しいって、どういうことですか?」

「私はエルフです。名前はセシリと言います」

「私はイヨ。この子はヒメ。後ろにいるのはテツトとレドナーです」

「あの、貴方たちは、強いですか?」セシリが眉間にしわを寄せましたね。

「はっは、セシリさん心配すんな。イヨたちは俺が太鼓判を押せるぐらいに傭兵としての能力が高いからよ」とダリル。

「そうですか、イヨさん。良かったら、私の依頼を請けてくださいませんか?」

「事情を詳しく聞かせて欲しい」

 そう言って、イヨが胸ポケットからメモ帳とボールペンを取り出したっす。

 セシリが説明をします。

 何でも、セシリの夫はドワーフらしいです。

 そして、エルフとドワーフの間で子供を作ることは禁忌とされているのだとか。

 なぜなら、エルフとドワーフの子供はドワルフという食人族が生まれるからだそうです。

 食人族と言っても人を食べるだけでなく、エルフやドワーフも食べるらしいっす。

 セシリはドワルフを産んでしまい、そのためエルフの森やドワーフの洞窟では、殺されて食べられる事件が後を絶たないそうですね。

 セシリは頭を下げました。

 どうか息子を殺して欲しい。

 そして、エルフの森とドワーフの洞窟を救って欲しい。

 依頼料金は、なんと100万ガリュでした。

 ダリルが快活に笑います。

「こりゃあ、依頼の難易度はAってところだな。だけどイヨにヒメの嬢ちゃんたちは先日、ウンディーネ様に力の恩恵をもらったそうじゃねーか。よし、もしこの依頼を請けて、解決できたのなら、お前たちの傭兵ランクをまた一つ上げてやる! どうだい? やるかい?」

「当ったり前だニャーン」

 ヒメが両手のひらを握り合わせます。

 イヨがこちらに身体を向けました。

「うーん。テツト、レドナー、どうする?」

「俺はいいぜ! 傭兵ランクが上がるっていうのなら、一石二鳥だしな」

「僕もいいですよ」

 イヨがまたダリルを向いたっす。

「やる」

「よーし。それじゃあこの依頼書にサインをしてくれ」

 僕が前に出たっす。

 カウンターの上にある万年筆を取り、自分の名前をサインします。

「それじゃあお前ら、また明日までに準備しとけ。狼車の手配はこっちでしとくからよ! また明日の朝、来てくれ!」

「ダリルさん、エルフの森とドワーフの洞窟までは、どのくらいかかるの?」

「狼車で三日だな。エルフの森とドワーフの洞窟は隣り合った場所にあるから、その二つの間の移動にはそれほど時間はかからんだろうな」

「分かった」

 イヨが頬を上げて微笑を浮かべます。

 ダリルが右手を開いて言ったっす。

「えっとセシルさん。あんたも明日の朝に来てくれ」

「分かりました」

 そして僕らは傭兵ギルドの建物を出ました。

 セシルはすぐ隣の宿屋を借りるようで、一礼して去って行きましたね。

 僕たちは今日、暇になったっす。

 ヒメが「あー!」と声を上げました。

「どうしたの? ヒメちゃん」

「イヨー。往復に6日もかかったら、事件解決の日数も合わせると、フェンゼルとマロにところに遊びに行けないかもしれないニャンよ~」

「あ、それはそうね」

 イヨが人差し指を顎につけます。

「うー、二人が怒るニャンよ~」

「天使さま、今日遊びに行けばいいんじゃないですか?」

「あ! それが良いニャン!」

 ヒメがパアッと笑顔を浮かべました。

 確かに、僕たちは今日これから暇っす。

 イヨが僕を見ました。

「そうしよっか」

「それが良いですね」

 僕は首肯します。

「行くニャン~!」

 そしてヒメを先頭に、僕たちはここからさほど離れていないスティナウルフの宿舎まで歩いたのでした。

 宿舎に行くと、フェンリルやガゼルの姿はありませんでしたね。

 仕事に出ているのでしょう。

 フェンゼルとマロが退屈そうに自分たちの部屋で寝そべっていました。

「フェンゼル~、マロ~、ヒメお姉さんが来たニャンよー」

 二人がすぐに起き出して、尻尾をバタバタと振ります。

(姉ちゃん! 今日はどうして来たの?)

(今日は休日じゃないでしゅるよ?)

「実はー、次の休日は仕事で来られないニャン~。だから、代わりに今日遊ぶニャン!」

(えー! なんで!?)

(仕事でしゅるか~?)

 ヒメが二人の頭に手を置きます。

「お姉さんも忙しいニャンよ~。よし、フェンゼルが鬼だニャン。かくれんぼするニャンよ~」

(わ、分かったよヒメ姉ちゃん! じゃあ、隠れてよ!)

(マロは隠れましゅ~)

「ほら、イヨとテツトとレドナーも隠れるニャンよ~」

「私たちもやるの?」

 イヨが頬をぷっくりとさせて笑みを浮かべます。

 どうやら今回は僕たちみんなが参加のようでした。

「当ったり前だニャン~。隠れるニャンよ~!」

 そしてその日は昼食をまたいで、夕方になるまで遊び通したのでした。

 そしてにしても、子供の体力は半端ないっす。

 僕はちょっと疲れちゃいましたね。

 その後で僕たちはまた領主館へと行き、イヨがサリナに旅から帰ってくるまで稽古をお休みする旨を告げました。

 明日からは大変な日々になりそうです。



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