8-6 領主館へ
領主館へと戻ってきます。
ドルフに金網を開けてもらい、玄関でサリナに挨拶したっす。
「あら皆さん、どうなされましたか?」
「先生、ミルフィに会わせて欲しい」
イヨが前に出て説明をしましたね。
サリナは顎をコクコクと頷かせながら聞いて、そしてイロハを凝視したっす。
「大丈夫なのですか? そこの女、領主館に入れても」
イロハは顔をぶんぶんと振りました。
「あ、あたいは何もしないよ」
「はっはー、サリナっさーん。俺様がついているから大丈夫だぜー」
ジャスティンが余裕の表情で親指を立てました。
サリナは両手を腿に当てて頭を下げます。
「かしこまりました。それではみなさま、食堂へとお上がりください」
「ありがとう、先生」とイヨ。
「ありがとうニャーン」ヒメが元気に身体を揺らしました。
僕たちは食堂へと向かいます。
そこでは、ミルフィが一人で食事を摂っていたっす。
フェンリルの姿は無いですね。
たぶん、宿舎で家族と共に摂っているのでしょう。
ミルフィがこちらを向いて目をぱちくりとさせましたね。
「あら、イヨじゃないですかー。それにジャスティンさんも。どうなされましたか?」
「ミルフィニャーン!」
ヒメが近づいて行って、すぐそばの席に腰を下ろします。
「あらヒメちゃん、おはようございますわぁ」
ミルフィがヒメの髪を優しく撫でてくれます。
「んにゃーん!」
それから、ヒメの隣に順々に僕たちは座りました。
ミルフィが両手のひらを合わせます
「それで、今日はどうなされましたかー?」
「それなんだけど」
イヨが一瞬言いよどんで、それから説明を始めました。
朝、アパートに帰ったらイロハが待っていたこと。
イロハは去年の夏に天界で戦った魅の魔族の長であったこと。
今は天全六道の長を辞めていること。
これからは僕と一緒に住むと言って聞かないこと。
イヨが説明を終えると、ふうと息をついたっす。
ミルフィは静聴を終えて、それからイロハに話を振りました。
「貴方、イロハさんと言いましたか?」
「はい、イロハです。貴方は、勇者の娘のミルフィ?」
「はい。私、この町の領主をしております。ミルフィですわぁ」
「そうなんだ」
「はい。イロハさん、どうして天全六道の長を辞めてしまったのでしょうか?」
「それは、それはね! あたいはもうどうでも良くなったの。魔王様のために人間と戦うことも。六道の長であることも。そんなことより、自分の幸せのために生きようと思った! だから、テツトちゃんのいるこの町に来たんだよ」
ミルフィが右手を頬に当てたっす。
「あら、テツトさんに惚れていますの?」
「そうだよ?」
イロハのあっけらかんとした言い方に、イヨとミルフィの眉間がぴくりと跳ねました。
ミルフィは両手のひらを合わせましたね。
「分かりましたわぁ。嘘の匂いはしませんからね。ですがイロハさん、テツトさんと一緒に住みたいという希望は断念していただくほかありませんわぁ」
「い、イヨさんがいるからですか?」
「そうなりますぅ」
「くっ……」
イロハは両手を太ももに置いて、とても悔しそうな顔をしました。
ミルフィが人差し指を立てたっす。
「それじゃあイヨ。お願いがあるんだけど、今日はイロハさんのアパート探しと職探しを手伝ってあげてもらえないかしら」
「どうして私たちが」
イヨが嫌な顔をしてイロハを見ました。
ミルフィはなだめるような声で言いましたね。
「イヨ、イロハさんは他に頼る者がありません」
「それは、そうだけど」
ヒメが首をかしげて言ったっす。
「働く場所は、ジャスティンのラーメン屋で良いんじゃないかニャン?」
「ラーメン屋って食べ物屋さんか何か?」
イロハが小首をひねります。
「おう、イロハ嬢ちゃん、一緒にラーメン屋をやろうぜー」
「ちょっとジャスティン!」
ルルが彼の太ももをぴしりと叩きます。続けて、
「魅と触は仲が悪いんだから」
イロハはルルを向いて首を振りましたね。
「あたいは別に触の勢力を嫌いじゃないよ? ルルさんって言ったっけ? ルルさんが触勢力に出身であろうと、あたいは仲良くできるよ!」
「むぅ」
ルルが小さくうなります。
ミルフィは両手のひらをポンと合わせたっす。
「それじゃあ、これで職業の方は問題ありませんわね。あとは住むところですがー」
イヨがコクコクと頷きます。
「私たちが見つけておくわ」
「イヨさん、ごめんね」とイロハ。
「イロハさん、貴方、お金持ってる?」イヨが聞きます。
「お金? 金貨ならあるけど、人間が使うガリュは持ってないよ」
「金貨? ふーん、じゃあそれを換金して、後ほどガリュで依頼金を払ってください」
「わ、分かった!」
ミルフィが呼び鈴をちりんと鳴らしましたね。
メイドがやってきて、僕たちの食事を運んできます。
今日のおかずはジャーマンポテトのようでした。
「それじゃあ、みなさん。いただいちゃってくださいな」
「いただきますだニャーン」
ヒメがフォークを持ち、パクパクと食べ始めます。
僕たちも「いただきます」を言って食事を摂りました。
「神よ、今日の恵みに感謝します」
イヨはいつも通りの祈りの言葉。
こうして、僕たちは今日の午前中、イロハのアパートを探すことになりました。




