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8-4 サリナとイヨの稽古



 早朝。

 レドナーが家に来ると、僕たち四人はいつものように領主館までジョギングをしたっす。

 灰色の外壁で囲まれた白い建物。

 金網の前にドルフがいて、その横にサリナが待っていました。

 両手に木刀を持っていますね。

 そうなんです。

 イヨはサリナに一年間ノーティアス剣術をみっちりとつけてもらう契約っす。

 稽古の開始から二ヶ月半ほどが経ちましたね。

 イヨの剣も様になってきていました。

 彼女が頭を下げて挨拶したっす。

「先生! おはようございます」

「おはようございます。イヨ様」

 サリナが会釈をして、左手の木刀を渡しました。

 イヨは受け取ります。

「今日は何をしますか?」

「とりあえず、素振り500本です」

「はい!」

 素振りを始めるイヨ。

 ビュンビュンと風を切って、木刀が音を立てています。

「サリナ、おはようだニャーン」

 ヒメが人懐っこい笑顔を浮かべて挨拶したっす。

 口角を上げて微笑するサリナ。

「ヒメ様、おはようございます」

「ドルフもおはようだニャーン」

「おう! ヒメちゃんは元気がいいのう!」

 僕とレドナーは少し離れたところでトレーニングをしていました。

 腕立て500回、腹筋背筋スクワット1000回ずつっす。

 ふと、サリナは気づいたのか、イヨに尋ねます。

「イヨ様、盾を忘れてきましたか?」

「いえ!」

 素振りをやめるイヨ。

「実は、えっと、ラブ様って人から、盾に変わるスキル書をもらったんです」

「ラブ様? 盾に変わるスキルですか? ふむ」

「はい。私もどんなスキルなのか分からないんですが」

「ラブ様とはどなたですか?」

「ラブ様は、この世界の女神らしくて。私は夢の中で呼ばれるんです。テツトたちと一緒に」

「夢の中? ふむ。よく分かりませんが。とりあえず、スキルは最後の実践稽古で見てみるとしましょう。イヨ、素振りを続けてください」

「はい!」

 イヨがまた素振りを始めます。

 ヒメが感心したように笑いました。

「イヨは気合いが入っているニャンね~」

 こちらにやってきて、トレーニングを始めるヒメ。

 やがて僕とレドナーがいつもの回数をこなしました。

 サリナとイヨが木刀を持ち、稽古が始まります。

「イヨ様、今日は突きのさばき方についてのレッスンです」

「はい」

「イヨ様、私に突きを放ってみてください」

「分かりました」

 イヨがサリナの喉を木刀で突こうとします。

 サリナはイヨの木刀の先端を軽く弾いたっす。

 イヨが木刀をまた真っ直ぐに向けようとした次の瞬間、サリナはイヨの懐に飛び込み、その胴を叩いていました。

 パンッ。

 いやー、鮮やかっすね。

 達人芸っす。

「イヨ様」

「は、はい」

「今の私とイヨ様の動きをスローモーションで再現します。イヨ様は私の動きを記憶し、同じことができるようになってください」

「や、やってみます!」

 イヨは頑張っていますね。

 レドナーが僕に声をかけました。

「おいテツト、俺たちも一勝負しようぜ」

「分かりました」

 僕とレドナーも立ち稽古を始めます。

「あたしも頑張れニャンニャニャン」

 ヒメがトレーニングをしながら歌ってくれました。

「なあテツト」

「はい?」

「俺は自分の剣術にプライドを持っているんだが」

「分かる気がします」

「だけど、あのイヅキには全く通用しなかったんだよなあ。どうすれば良いと思う?」

「それは……レドナー、自分の剣術を貫いて高める、それに尽きると思いますよ」

「そうか? 俺もイヨみてーにさ、細かい剣のさばき方を習うべきかもと思うんだが」

「それはレドナー向きじゃないですね」

「ま、まあそうか。分かった。俺は自分の剣を極めてみせる!」

「その意気ですよ。レドナー」

「よっしゃー。じゃあ行くぜ」

「はい。来てください」

 お互いに魔力を漲溢させました。

 僕の鉄拳とレドナーの剣が交差して火花が散ります。

 カーンッ、カーンッ。

 天気は空が透き通るほどの快晴。

 白い雲がゆっくりと流れています。

 やがて僕とレドナーは汗だくになり、稽古を終えました。

「やるじゃねえか、テツト」

「レドナーも、中々です」

「次は、次はあたしだニャーン」

 トレーニングを終えたヒメが杖を持ってぴょんぴょんとジャンプしていました。

「天使様、俺が相手をしましょう」

 レドナーが剣を持って向かって行きます。

 ヒメが唇の端をつり上げました。

「んにゃーん!」

 僕はちょっと、イヨの方が気になって見に行きます。

 サリナとイヨは実戦稽古に入ったのか、お互いに勝負をしていますね。

 イヨの胸辺りにはピンク色の妖精が浮かんでいました。

 小さな羽をばたつかせて空中に静止しています。

「キュピノン♪」

 妖精は可愛らしい鳴き声でした。

あれがシールドフェアリーなんですかね?

たぶんそうです。

 サリナが聞いたっす。

「その妖精、聞いたことの無いスキルです」

 サリナが怪訝に眉を寄せました。続けて、

「とりあえず、スキルの動作を確認します。イヨ、かかってきてください」

「分かりました!」

 イヨが剣を振ります。

 サリナと剣の切っ先が触れあい、タイミングを見計らって斬りかかりました。

 まだまだサリナの方が上手ですね。

 イヨの剣をかわし、サリナの剣がイヨの頭を叩く。

 と思った瞬間、フェアリーが小さなバリアとなり、サリナの木刀を防御していました。

 パンッ。

「キュピノン♪」

 イヨは振り向きざまにサリナの背中を叩きます。

 これは……。

 イヨの勝ちですね。

 さすがはラブのくれたシークレットスキルというところでしょうか。

 サリナは振り向き、鼻にしわを寄せます。

「その妖精は強いですね」

「わ、私も、今日初めて使います」

「イヨ、そのスキルを大事になさい。ただ貴方は選ぶ必要があります。妖精ありきの剣術を学ぶのか。それとも無しでも戦える剣術を学ぶのか」

「そ、それは……」

「どちらになさいますか?」

「え、えっと、いつも出すと思うので、妖精ありきで」

「分かりました。では、これからは少し本気で行きます」

 サリナの目が燃えていますね。

 本気ってやつです。

 それからも30分ほど、稽古が続きました。

 本気を出したサリナに対し、イヨはシールドフェアリーありでも負けてしまうことが多かったっす。

 やがて朝稽古の一時間が終わり、僕たちは挨拶をして帰路に着きます。

 ジョギング中。

「あー、気持ち良いなあ」とレドナー。

「早起きは三ガリュの得っすよ」と僕。

「イヨはサリナに勝てるようになったかニャーン」とヒメ。

「まだまだ勝てないわ」とイヨ。

 小学校のわきを通り、真っ直ぐ行き、百科屋さんの角を曲がって行くと、うちのアパートが見えてきました。

 これから朝食ですね。

 腹減ったっす。

 ふと、アパートの前に人陰が見えました。

 女性であり、ルルかなと思ったんですが、違いましたね。

 みんなが立ち止まります。

 女性がこちらに気づき、右手を上げたっす。

「おーい、おはよー! テツトちゃーん!」

 いつか天界で会ったことのある、イロハがそこに立っていました。



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