8-2 イヨの誕生日
今日はイヨの誕生日っす。
今回はミルフィやサリナとガゼル一家、それにジャスティンとルル、シュナも一緒に祝ってくれるようでした。
後から遅れてティルルとクラも来てくれるらしいっす。
町の南区にあるジャスティンのお店を会場として貸してくれるそうでした。
ちなみに、まだラーメン屋は始動していません。
メニューの品目が足りないという事情があるようですね。
いま、僕とレドナーとヒメとイヨの四人で、南区の宝くじ屋に来ています。
レドナーが冬のジャイアントスペシャルを買うためでした。
一等が当たれば3億ガリュがもらえるみたいです。
……当たればの話ですが。
カウンターの前にレドナーが立ち、黒い長財布を開きます。
粋の良い笑顔を浮かべて、店員のおばさんに言い放ちました。
「おばちゃん! 冬のジャイアントスペシャルを1000枚くれ!」
「はいはい。冬のジャイアントスペシャル1000枚だね。30万ガリュになります」
一枚300ガリュっすね。
1000枚も買うなんて、レドナーは当てる気です。
ヒメが彼の肩に手を置きました。
「そんなに買うのかニャン?」
「当たり前です。天使さま。1000枚ぐらい買わないと、当たらないんです」
「ふーん。まあ、30万ガリュぐらいなら良いニャンけどー」
レドナーは券の入った紙袋を受け取り、満足げな表情をしました。
「よっしゃー! 買ったぜー」
「良かったっすね。レドナー」と僕。
「用事が終わったのなら、お店に行きましょ」とイヨ。
「んにゃん~、本当に当たるかニャン~?」ヒメはいぶかしげな表情す。
そして僕たちは宝くじ屋を後にして、ジャスティンをお店へと歩いたのでした。
道を見ると、ところどころに雪が積もっていますね。
とは言っても1センチほどで、雪が無いところの方が多いっす。
ロナードの冬は雪がほとんど降らないのでした。
「ゆーきやこんこんあーられやこんこん!」
ヒメが愉快に歌っています。
金色のたれ目に、すっきりとした目鼻立ち。
今日はピンク色のトレーナー、その上に白いトレンチコートを着ていますね。
下はデニムのズボンです。
白いマフラーもしていました。
この間、乳白色の髪が伸びすぎてきたということで、ばっさりと切りました。
思いきってイメチェンしたかったようですね。
今は肩口で切りそろえられています。
「楽しい歌ね」
ヒメの隣に並ぶイヨが目尻を緩めたっす。
若干のつり目にちょこんと小さい鼻と唇。
彼女はヒメとは逆に、腰まで黒髪が流れるように伸びてきていました。
黒いニットトレーナーの上に、黒いダッフルコートを着ています。
下はデニムのズボンであり、黒いマフラーをしていました。
「んにゃん! イヨも一緒に歌うニャンよ~」
「私、歌詞知らない」
「ゆーきやこんこん、だニャン」
「ゆーきやこんこん?」
「そうだニャン。次は、あーられやこんこん」
ヒメがイヨに歌詞を教えながら、道を行きます。
レドナーが僕に声をかけたっす。
彼はグレーのコートに、今日は緑色のマフラー姿ですね。
「おいテツト、おめー、宝くじ買わなくて良かったのか?」
「うちの財布はイヨが握っているんで」
「ふーん。まあいいけどよ。それより聞いてくれ、ちょっと困ったことがある」
「何すか?」
「秋にラサナさんからもらったプラズマなんだが、唱えても発動しないんだよなあこれが」
「え? ちゃんと習得したんですか?」
「ちゃんとしたよ! だけど、発動しねえ」
「うーん。僕じゃ分からないっすね。ミルフィ様に聞いてみると良いかもしれないっすよ」
「そうだな。今日来るらしいし、後で聞いてみるか!」
それからも世間話が続きます。
やがて、店にたどり着くと、僕はポケットに手を入れました。
忍ばせてあるクラッカーを握ります。
ヒメとイヨが店の玄関から入っていくと、ミルフィとサリナ、そして人狼化しているガゼルとフェンリル、ジャスティンとルルとシュナがクラッカーを鳴らしてくれました。
パンパンパンパンパンパンパンッ。
僕とレドナーも後ろから鳴らします。
パンパンッ。
横からヒメも鳴らしました。
パンッ。
「イヨ! 誕生日おめでとうございますわ」
ミルフィが一番にそう言いましたね。
「イヨ、おめでとう」と僕。
「おめでとーだニャン!」とヒメ。
「おめでとー」とレドナー。
「イヨ様、おめでとうございます」とサリナ。
(イヨ姉ちゃん、おめでとう)とフェンゼル。
(おめでとうございましゅる~)とマロ。
「はっはー、めでたいぜ。お嫁さんおめでとう」とジャスティン。
「おめー」とルル。
「おめでとう! イヨさん」とシュナ。
「これからもよろしく頼む」とガゼル。
「イヨ、おめでとうだワン」とフェンリル。
イヨの頭は紙吹雪だらけですね。
彼女は涙ぐんで、目尻を両手で拭いながら言ったっす。
「みんなありがとう」
「おーし! いまラーメンを作るからよ。全員、席に着いた着いた!」
ジャスティンが声を張って言いました。
みんなが室内に入って行ったっす。
ちなみに、全員が耳に絆のイヤーカフをつけています。
そうなんですよね。
フェンゼルとマロとシュナのぶんも、ティルルからもらったんです。
以前、多めに作ってもらえるように依頼しましたからね。
六人掛けのテーブルに、店員とフェンゼルとマロ以外の全員が座れたっす。
ちなみにフェンゼルとマロは成長しすぎて、今はもう大型犬ほどの体格ですね。
椅子には座れませんでした。
なので床です。
真ん中にイヨが腰掛けて、みんなからプレゼントを受け取っていますね。
ガゼル一家は四人で一つのプレゼントを贈るようです。
フェンゼルが代表して、緑の魔石のついた腕輪を口にくわえて持ってきました。
その隣にマロも並んでいます。
(イヨ姉ちゃん、はい、プレゼント)
「ありがとう、フェンゼル。マロも、ガゼルもフェンリルも」
(へへへー、マジックアイテムの理性の腕輪だよ。高かったんだからね)
(お金いっぱいしたでしゅ~)
理性の腕輪ということは僕の腕輪と全く同じですね。
「ありがとう、フェンゼル、マロ」
イヨが二頭の頭を撫でます。
そして右手に腕輪をはめたっす。
次にヒメが右手を上げました。
「んにゃーん、次はあたしだニャーン」
「ヒメちゃんは何をくれるの?」
イヨが振り向きます。
ヒメはポケットから大きめのぬいぐるみを取り出しました。
熊の人形ですね。
地球で言うところの、テディベアでしょうか?
「ありがとう! ヒメちゃん!」
「んにゃん!」
イヨがぬいぐるみを受け取ります。
愛おしそうに熊の頭を撫でていますね。
「俺だ!」
レドナーが立ち上がって、ポケットから包みを取り出しましたね。
それをイヨの前に差し出します。
「これは何?」とイヨ。
「へっへっへ、夜にテツトと一緒に食うことだな」
「何なのこれは?」
「媚薬だ!」
レドナーが親指を立てます。
イヨが顔を歪めて包みを突き返しました。
「要らない」
「レドナーよ、最悪だニャーン」
「最悪ですぅ、この男」とミルフィ。
(ねえお母さん、媚薬って何?)
(なんでしゅるか~?)
「二人は知らなくて良いワン」
「じょ、冗談だって、冗談!」
レドナーは手で頭をおさえて包みをポケットにしまい、代わりに包丁を取り出しました。
イヨに差し出します。
「マジックアイテムの万能包丁だ。どんな硬い肉でも良く切れる。良かったら使ってくれ」
「最初っから、それを出してよ」
イヨは言って受け取りました。
持ってきてあるカバンに入れます。
「次は私でーすぅ」
ミルフィが右手を上げて立ち上がりました。
イヨの席まで歩き、トートバックを渡します。
「これは?」とイヨ。
「うふふふ、口下手男のマリア様の漫画、全巻51冊になりますぅ」
「うそ! いいの?」
「はぁい。ハランクルスに行った時にこっそりと最後の巻まで買ったんですよー。イヨが気になっていた漫画ですので」
「ありがとう! ミルフィ」
「はぁい。楽しんでくださいね。イヨ」
イヨはほくほくとした顔でトートバックを受け取り、床に置きました。
ミルフィが自分の席に戻ります。
次にサリナが立ち上がりました。
イヨの席まで歩きます。
「イヨ様」
「先生!」
「これは私からのプレゼントです。マジックアイテムです」
一振りの剣でした。
灰色の鞘に入っています。
「い、いいんですか? マジックアイテムの剣なんて、高級なもの」
「いいんです。ですが、これからも精進しなさい」
「は、はい!」
イヨは顔を赤くして受け取りました。
彼女はサリナに毎朝のように剣術の稽古をつけてもらっていますね。
サリナが戻っていきます。
次は、僕ですかね?
僕は隣にいるイヨを向きます。
「次はテツトだニャーン」
ヒメが楽しそうに肩を揺らしていますね。
「う、うん」
「テツトは何をくれるの?」
隣にいるイヨが頬を染めてこちらを向いたっす。
僕は胸ポケットから、それを取り出しました。
その白いリングケースをイヨの前に置きます。
「イヨ、僕と、その……」
「え?」
イヨが疑問符の声と共に、ケースを開けました。
大ぶりのダイヤモンドのついた指輪が入っていましたね。
婚約指輪っす。
彼女はそれをまじまじと見て、僕に聞きました。
「本当に私でいいの? テツト」
「はい。結婚してください」
「こちらこそ!」
イヨが指輪を左手の薬指にはめたっす。
瞬間、室内が拍手に包まれました。
「やったーニャーン」両手を万歳するヒメ。
「いいぞー、ひゅーひゅー」レドナーが口笛を吹いています。
「素敵ですわぁ」とミルフィ。
「おめでとうございます、イヨ様」サリナ。
(お母さん、あの指輪ってなんなの?)とフェンゼル。
(なんでしゅるか~?)とマロ。
「二人は結婚するワンよ」
(そ、そうなんだ! すっげー)
(すごいでしゅる~)
「イヨ、テツト、おめでとう」とガゼル。
「「ありがとう、みんな」」
僕とイヨが声を合わせてお礼を言ったっす。
最後にルルとシュナが大きなホールケーキを運んできて、イヨの前に置きましたね。
火のついた蝋燭が立っています。
ジャスティンが腕組みをしながらニヤリと微笑んだっす。
「この特製ケーキは俺たちからのプレゼントだ。腹一杯食え、諸君!」
それからみんなで歌を歌いました。
「はっぴばーすでい、とぅーゆー、はっぴばーすでい、とぅーゆー、はっぴばーすでい、でぃあイヨー、はっぴばーすでい、とぅーゆー」
みんなが拍手をします。
蝋燭の火を吹き消した後で、イヨは泣いちゃいましたね。
両手で目をごしごしと撫でます。
「みんな、みんな、本当にありがとう」
シュナがケーキを切り分けて、全員に行き渡りました。
ルルがひとり一人に酒やジュースを運びます。
みんなが笑顔でした。
いま、ジャスティンがラーメンの麺をぐつぐつと煮ていますね。
鶏ガラのミカロラーメンも開発されたみたいで、バキルラーメンとの二つからチョイスできそうでした。
遅れて、ティルルとクラも顔を見せてくれましたね。
「こんにちはみなさん、賑やかなところ、お邪魔しても良いかな?」とティルル。
「お邪魔したうからね」とクラ。
「どうぞどうぞ!」
ジャスティンが声を張ります。
ティルルが早速、誕生日プレゼントをイヨに渡します。
紙袋から出て来たそれは、ユメヒツジの服ですね。
色は白いワンピース、それと黒いタイツです。
「ありがとう、ティルルさん!」
「うん。このユメヒツジの服は私が再び改良を重ねて作ったんだ。今までの服よりも、倍ぐらいに丈夫になっていると思うよ。仕事で着てみて」
「そうなんだ!」
イヨが大切そうに、服を紙袋に入れて受け取ります。
「あたちもプレゼント、すりゅ?」
「クラはいいよ。二人で一つのプレゼントってことにしようじゃないかー」
ティルルがクラの髪の毛をくしゃくしゃと撫でましたね。
「はよほよほよ~ん」
気持ちよさそうなクラの声でした。
こうして、イヨの誕生日は賑やかに行われたっす。
たくさんの仲間に囲まれて、イヨは幸せ者でした。