1-14 森の隠れ家
ヒメに肩を貸してもらいながら歩いたっす。
おばあさんに案内されたのは、森の中の一軒家でしたね。
そこには数名の村の女性が逃げ延びていて、男性も何人かいました。
何より良かったのは回復スキルを使える魔法使いがいたことです。
僕の体はベッドに寝かされて、キュアポイズンとヒールをかけられました。
体の毒は消え去り、肋骨の損傷は治ったっす。
だけど疲れがいなめません。
「テツト、治ったニャン?」
隣にいるヒメが心配そうに聞きました。
「ああ、なんとかね」
僕は頷きます。
両目がうつらうつらとしました。
ベッドで眠りそうになっているところに、先ほどのおばあさんが来ましたね。
「具合はどうかな?」
「村長さんニャン」
ヒメが言いました。
どうやらおばあさんは村長のようです。
僕は上半身を上げます。
「あ、はい」
「ここはシャーバル家の知らない森の隠れ家じゃ。こんなこともあろうかと、隠れて作っておいた。じゃが、村の者には知っている者がおる。ここが戦場になるのも時間の問題かもしれん」
「そうですか」
「うむ。さて、困ったことになったあ」
村長は言葉とは裏腹に、その両目が爛々と闘志を燃やしているっす。
僕は言いました。
「明日、僕があの館に乗り込んで、イヨさんを助けてきます」
「馬鹿者。時を間違えるでない」
村長が注意するように言います。
続けて、
「内偵の話だと、結婚式は明後日ということじゃ。村の教会で開かれるらしい」
「明後日?」
「うむ。つまり、明後日の結婚式の日になれば、シャーバル家の館の護衛は手薄になるということじゃ」
……そう言うことか。
僕はゆっくりと頷いたっす。
「結婚式の当日、館に捕まっているおなごを救出に向かう。それが出来れば、村の男たちもこちらの味方になるだろう。結婚式を中止に追い込み、上手く行けば、イヨちゃんを救うことが、できるかもしれん」
「はい」
「男よ。お主になぜこの話をするか分かるかや?」
「僕も、作戦に加わって欲しい、ということですよね?」
「違う」
村長はゆっくりと首を振りました。
続けて言います。
「前にイヨちゃんの家に行った時に、ワシはこの白髪の嬢ちゃんを覚えておる。お主たち、旅の者だな?」
……何と答えたら良いものだろうか。
僕はとりあえず頷くことにしたっす。
「あ、はい」
村長が僕の手を両手で握りましたね。
「お主、頼む。イヨちゃんを、連れて行ってはくれんか? イヨちゃんは、この村にはもう住んでおれんくなる」
村長の瞳が涙に揺れます。
「村の男たちに家を破壊され、これからもシャーバル家には目をつけられ、この村におれば、イヨちゃんはどれだけ切ない思いをすることになるか分からん。旅のお方よ。どうかどうか、頼みまする」
「分かったニャン!」
ヒメが元気に返事をしました。
おばあさんがヒメの顔を見て、
「引き受けくれるか? ありがとう、ありがとう」
「当然ニャン!」
ヒメが両手を腰に当てて胸を張ります。
「二人とも、今日はよくよく休むように。作戦の決行は明後日じゃ。それまでの間、この家で英気を養ってくれ」
村長は背中を向けて歩いて行きました
周りにはもう5つベッドがあるっす。
僕はヒメに声をかけます。
「ヒメ、お前も今夜は寝た方が良い」
「分かったニャン」
ヒメが僕の隣に入ろうとします。
「おい、ベッドは他にもあるだろ?」
「あるけどー、このベッド大きいニャン。それに他にも人がいるから、みんな寝なきゃいけないニャン。テツト入れて欲しいニャン」
「そう言うことなら、仕方ないか」
僕は身を端に寄せました。
ヒメが靴を脱いで、布団に入ったす。
「えへへ」
「何だよ」
「テツトと一緒に寝るの、久しぶりだニャン」
「猫の時以来か?」
「そうだニャン。ちょっと照れるニャン」
「僕は照れないけどな」
そっぽを向く僕。
僕の背中に顔をつけてくるヒメ。
「テツトの匂い、久しぶりだニャーン」
嬉しそうに言いましたね。
そして夜が更けていきます。
僕はよく眠り、また朝がやってきました。