表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/147

7-24 葬式



 王都ハランクルスに来ていました。

 二台の狼車で一週間、旅をしたっす。

 僕たちは手紙で、ハランクルスに住んでいるルピアやミリー、ヨナやネモと待ち合わせをしていました。

 町の門前で会うと、久々の再会を喜んだっす。

 その後、ミルフィやサリナと共に、みんなで食事をしましたね。

 今回はもう一台の狼車の手綱を引く役として、サリナも共に来ていました。

 それにしてもです。

 ハランクルスの町並みはすごいっす。

 ロナード一番の城下町ということで、そこらかしこが綺麗に整備されていましたね。

 背の高い木が等間隔に立っており、通路の地面は土ではなく、石畳でした。

 冬なので花などはあまり咲いていませんが、春が来ればそれはそれは見事な光景なのだと、ルピアが話して聞かせてくれました。

 大きな池や、丘の方に展望台があるということで、連れていってもらいましたね。

 今回は観光旅行に来た訳ではありませんが、葬式の日にはまだ一日余裕があるっす。

 大きな池の小舟には寒くて乗れませんでしたが、展望台から都市の全体の姿を眺めました。

 途中、ルピアが小話を聞かせてくれましたね。

 何でも、ロナードは大陸でも月の力が強い国らしいです。

 そのせいか、大精霊の中でも月の精霊、ルプランが一番偉いみたいですね。

 ちなみに、大精霊は大陸にいくつも存在しているみたいです。

 どういうことかというと、例えばロナードにはイフリートという火の大精霊がいますが、アウランにはサラマンダーという火の大精霊がいるらしいっす。

 同じ属性の大精霊が、大陸にはいくつもいるということですね。

 その後、城の王様にみんなで挨拶に行くことになりました。

 ルピアたちとはここでお別れのようっす。

 ちなみに今回、狼車を引いてきたガゼルとステイシーは、馬車の待機所でお泊まりでした。

 やがて通されたのは、謁見の間っす。

 赤い絨毯が敷き詰められており、片側の机には家臣のような人間が椅子に座って並んでいました。

 その際、僕たちは勇者の娘ミルフィの従者という体裁を取りましたね。

 王様は赤いマントを翻しており、王冠をかぶっていました。

 身長が高いっすねー。

 見た感じ歳は、60を超えていると思いましたね。

 そんな歳でも、重圧のある王という立場を務めているのだから、凄いっす。

「よく来た。勇者の娘、ミルフィよ。バルレイツの様子はどうだ?」

「はぁい。王様。バルレイツは先日事件なども起きましたが、町民に被害などはなく、無事に暮らしておりますわ」

「ほお。事件とな、詳しく聞かせてもらえるかの?」

「はい。それが何ですが……」

 ミルフィは今回の事件の顛末を語って聞かせます。

 イヅキの名前が出ると、王様は顔を歪めました。

 王様は言います。

「バルレイツにもイヅキが出たか……、何としてでも討伐しなければいけぬ」

「王様、次の勇者にふさわしい者は、国にいないのですか?」

 ミルフィの顔が真剣なものに変わりましたね。

 いつも余裕しゃくしゃくのミルフィにしては珍しいっす。

 王様は両腕を胸に組みました。

「わしがもっと若ければ良いが……、お前ぐらいじゃな、ミルフィよ。次の勇者にふさわしき者は」

「私はダメです、王様」

 ミルフィが首を振りました。

 どうしたんですかね。

 いつも自信満々なミルフィが、顔をひきつらせています。

 王様がその肩に手を置きました。

「ミルフィ、お前は以前、月の大精霊ルプランに会った時、その力の恩恵を受け止めきれなかった。体がもたなかったのう。じゃが、あれから数年が経っている。修行はしておるのだろ?」

「はい。修行はかかしておりません。ですが、もう一度やっても、私はまだ受け止める自信がないのです」

「ふむ。この国の大精霊で一番の強さを持っているルプランの力の恩恵、それが無ければイヅキと戦うにしても心許ない。誰か、誰か受け止めるほど器の大きい者はおらんのか?」

 どういうことでしょうか?

 ミルフィは、月の大精霊ルプランからは、力の恩恵を賜っていないみたいです。

 全ての大精霊から力の恩恵を集めたと聞いていましたが、一つだけ穴があるみたいですね。

 その時っす。

 ミルフィの後ろでヒメが右手を上げましたね。

「あたしが受け止めるニャンよ~」

「お前は?」

 王様が視線を向けました。

 ミルフィは笑って顔を振ります。

「王様、お気にせずに、愉快な従者なんです」

「ヒメちゃん、静かに」

 イヨが言って、ヒメの背中に手を置きました。

 ヒメが笑顔で肩を揺らしています。

「んにゃん~、ルプランに会いに行くニャンよ~」

 王様ははっとした顔をしましたね。

「ミルフィ、まさかそなたの背後にいるのは、従者ではなく、勇者候補生なのか?」

「……はい。実は、私が見初めて、期待している者たちになります」

「……ほお」

 王様が僕たちの顔を眺め回しました。

 目力が半端ないっす。

 僕は心臓がドキドキとしました。

 王様の唇に笑み。

「それは期待させてもらおうかの」

「王様、この者たちは、まだ時間がかかります」

 ミルフィは小刻みに首を振ります。

 王様は鷹揚に頷きました。

「そうかそうか。しかし、中々に有望な顔ぶれじゃ。あっぱれである」

「はい!」

 ミルフィは嬉しそうに顎を引きます。

 二人はそれからも近況報告をしたっす。

 それが終わると僕たちは、王様の近衛兵に従い、今日泊まる部屋に案内されましたね。

 ちなみに女性と男性は別々の部屋っす。

 僕とレドナーは部屋で世間話をしながら、時間をつぶしました。

 レドナーの提案で、城の内部を見物したりして。

 ちなみに、レドナーはあれから剣を新調しました。

 ティルルのお店から、マジックアイテムの剣を買ったようです。

 赤い石のついた、ちょっと格好良い剣ですね。

 道を行くと、びっくりしたんですが、角でイヨが知らない年配の女性と会話をしていたっす。

 相手は魔法使いのような紺色のローブを着ており、杖を持っていますね。

 僕は近づいて声をかけました。

「イヨ?」

「あ、テツト!」

 イヨが振り返り、はにかんだ笑顔をくれました。

 年配の女性が僕を眺めます。

「うん? イヨ、こちらが恋人のテツトさんですか?」

「そうなの! お母さん、こちらがテツト」

 なんと、イヨのお母さんらしいっす!

 そう言えば、王宮に魔法使いとして勤めているはずですよね。

 イヨからしてみれば、久しぶりの再会のはずです。

 名前は確か、エリザですね。

 イヨが僕の腕を取って、エリザに向き直りました。

 僕は照れちゃって、顔が赤くなったっす。

 エリザが言いました。

「テツトさん、これからもイヨのこと、よろしくお願いいたします」

「いえいえ! 僕の方こそ、お世話になっているばかりで!」

「んふ、テツトさんはずいぶん真面目そうで、体格の良い方なのですね。母として、安心しました」

「そうなの! 私の恋人にぴったり」

イヨの笑顔が弾けます。

 僕は謙遜して頭を垂れました。

「イヨは、素敵な恋人っす」

「あら、のろけるんですね」

「あ、すいません!」と僕。

「あのね、お母さん。テツトはね、テツトはね……」

 それから、イヨは僕のことを一生懸命、母に語って聞かせました。

 エリザは嬉しそうな顔で、時々目を細めて涙ぐみながら、聞いてくれましたね。

 かなり長話になったっす。

 レドナーはどこかへ行っちゃったようでした。

 やがて話が終えると、エリザは僕の右手を両手で握ります。

 真剣な顔で言ったっす。

「テツトさん。イヨと仲良くね」

「あ、はい!」

「それと、イヨは昔から焼き餅焼きだから、他の女性は作らないように」

「お、お母さん!」

 イヨが悲鳴のような声を上げました。

 僕は苦笑したっす。

 先日、イヨからはミルフィのことも愛するように言われたばかりっす。

 どうすれば良いのでしょうか?

 それにしても、イヨが焼き餅焼きだとは気づきませんでした。

 エリザは最後に言ったっす。

「今度私、バルレイツに遊びに行くわ」

「本当? お母さん、私、いっぱいご馳走作ってあげる」

「ふふふ、楽しみしているわ。それじゃあね。あと、この後夕食だけど、王宮の食事は豪華だから、楽しんで」

「あ、うん!」とイヨ。

「分かりました」と僕。

「またね」

 エリザが右手を掲げて、それから背中を向けて歩いて行きました。

 僕はイヨの顔を見て聞きます。

「イヨ、焼き餅焼きだったの?」

「ち、違う」

「でも、お母さんがそう言ってたよ」

「違うとは言い切れないけど。ま、まぁ、人並みにね……」

「そうなんだ。じゃあ、僕は浮気をしないよ」

「……ミルフィのことはどうするの?」

「どうするもこうするも、僕はイヨだけだよ」

「もう、テツトはストレートなんだから」

 そして僕たちは近くにあった長椅子に腰掛けて、少しイチャイチャしたっす。

 甘いキスもしました。

 人目が厳しいので、少しの時間だけでした。

 僕たちはまたそれぞれの部屋に行き、やがて夕食の時間がやってきます。

 その豪華な食事を終えて、お風呂に入り、今日は夜が更けていきました。

 翌日です。

 ハランクルスの墓地には、大勢の国民が集まっていましたね。

 豪奢な着物を着ている人が多いことからして、集まっている人々のほとんどが貴族っす。

 他にも鎧を着ていたり、武器を持っていたりする兵士がいましたね。

 傭兵かそのたぐいだと思います。

 勇者カノスの棺は六人の鎧を来た人間に運ばれていました。

 その先頭には王様とミルフィがいます。

 やがて墓穴に到着し、棺がロープを使って穴の下に下ろされました。

 その際、集まっている貴族たちは涙ぐんでいましたね。

 ミルフィは泣きませんでした。

 棺の中に、カノスの骨はありません。

 ただ遺品として、彼が宝具をたまわる以前に使っていた愛用の剣が、納められていました。

 棺を下ろし終えると、役人たちが土をかけて、穴を埋めます。

 僕はその光景を見て、思ったっす。

 カノスはどんな人だったのだろう?

 一度、会話をしてみたかったな。

 稽古をつけて欲しかったな。

 ミルフィの唇が動きました。

「お父様……」

 遠くにいるので何と言っているのかは聞き取れません。

 ただ、お父様と、そんなふうに唇が動いた気がしました。

 たぶん、父へのお別れの言葉を言っているのだろうと思います。

 そして、墓の前に神官が来ました。

 神官がお決まりの言葉を述べると、今度は貴族たちが順番に、墓に花を添えていきます。

 カノスの墓前は、花束で山盛りになりました。

 カノスは、こんなにも人に愛された人だったようです。

 ……凄い人だったんだな。

 こうして、ミルフィの父の葬式は終わりました。



これで7巻が終わりです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ