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7-23 ウンディーネの試練(3)



 その日の午前中の道場。

 ウンディーネとイヨが武器を持ち、向き合って立っていました。

 二人とも動かず、緊張感が漂っています。

 どちらとも真剣を持っていますね。

 ヒメと僕とレドナー以外にも、ミルフィやサリナが見守っていました。

 ウンディーネが言ったっす。

「さあ、イヨ、修行の成果を見せなさい」

「分かりました」

 イヨは睨むような目つきで唇を引き結んでいます。

 ウンディーネの唇に笑み。

「かかってきなさい」

「ウンディーネ様こそ、かかってきたらどうですか?」

「ほう」

 ウンディーネは少し感心したようにつぶやいたっす。

 かすかに頷いて、前方にすり足をしました。

「では、こちらから行きます!」

 ウンディーネがイヨに接近し、青みがかった剣を上から振り下ろしました。

 イヨが唱えます。

「カウンター」

 彼女の姿が消えたっす。

 ウンディーネの薄い鎧に一撃が入り、その背後にワープしました。

 サリナさんがいかめしい顔をして声を上げましたね。

「イヨ! もう一度!」

「はい、先生」

 コクンと頷くイヨ。

 何か失敗したんですかね?

 ですが、イヨは冷静さを崩していません。

 サリナさんとイヨには何か作戦があるのでしょうか?

 何か狙っているのは間違い無さそうです。

「何を?」

 ウンディーネがいぶかしげにつぶやいて振り返りました。

 イヨに向けて剣を振ります。

 カーンッ、カーンッ、と剣が交差する音がしました。

 イヨは力負けしていないっす。

 体力も充分。

 あとは彼女の狙っている技が決まれば良いのですが……。

 イヨが荒い呼吸をつきました。

「ふう、ふっ」

「来なさい」

 ウンディーネは厳しい目つきです。

 イヨが唱えました。

「蛇睨み!」

 ピシンと空気が張り裂けるような音がしましたね。

 しかし、ウンディーネの顔は恐怖に染まっていないっす。

 唱えられる前に目を閉じたみたいでした。

 そんな回避方法もあるんですね……。

 ウンディーネが走ります。

「貴方はやはり失格です!」

 青い髪の彼女が走り、唱えました。

「水龍乱」

 一度に五連撃が繰り出されます。

 イヨは後ろにバックステップを踏んで回避したっす。

 ウンディーネはすぐに距離を詰めて、剣を上から、横から、下から振りました。

 イヨは盾で受け止めながら、その場をくるくると回ります。

 まるで、柔道の赤畳から出ないように。

 !

 イヨが僕の戦い方をパクっています。

 ウンディーネが意気消沈したように言ったっす。

「イヨ、これは戦意喪失ですか?」

 イヨは両手を腰に当てて、お尻をぐるりと回しました。

「最近、腰が凝るんですよ」

「なっ!」

 ウンディーネの顔が朱に染まりましたね。

 挑発の仕方まで、僕のパクリでした。

 ウンディーネが厳めしい顔をして言います。

「イヨ、本気で行きます」

「来てください」

 イヨがまた武器を構えました。

 ウンディーネが下から剣を振り上げつつ唱えます。

「昇り赤龍!」

「くうっ」

 竜巻のような風が起こり、イヨが天井に吹き飛ばされて、壁にガツンと頭を打ちました。

 やがて風が終わり、イヨが降りてきます。

 サリナが叫びました。

「集中っ!」

「はい!」

 イヨの体が降りてきます。

 ウンディーネは今か今かと攻撃を溜めていました。

 青い髪の彼女が剣を振るう瞬間、

「カウンター」とイヨ。

「またですか?」とウンディーネ。

「シールドバッシュ」

 !

 !!

 え?

 紫の波動をくらったウンディーネが頭をピヨピヨと回しました。

 ウンディーネの背後に出現したイヨが、剣の腹でウンディーネの肩を叩きます。

 ポン。

 柔道で言えば、イヨの一本勝ちっす。

 僕は思わず、両手を挙げて喜んでいました。

「イヨ、やったあ!」

「イヨ、さすがニャーン!」とヒメ。

「おー! やるじゃねえかイヨ」とレドナー。

「さすがは私のイヨですぅ」とミルフィ。

「まだまだ」とサリナ。

 三秒後、スタン効果が切れたのか、ウンディーネがイヨを振り向きます。

 剣を床に置いて、右手を差し出しました。

 イヨは剣を鞘にしまって、握手に応じます。

 ウンディーネが左手で包むようにイヨの頭を撫でてくれたっす。

「イヨ、今のはスキルキャンセルですね」

「はい」

「よくぞ習得しました。貴方の勝ちです」

「は、はい!」

「その技、くれぐれも忘れることのないように」

「はい」

 イヨの声が畏まっていますね。

 ウンディーネがイヨから離れました。

 右手を掲げて言います。

「イヨ、試練は合格です。これは水の力の恩恵です。受け取りなさい」

 イヨの体が青い燐光に包まれました。

 すぐに消えます。

 これで彼女の力も、3から4になったのだと思います。

 ちなみにミルフィとサリナは水の力の恩恵をもらう必要がないですね。

 すでに全ての大精霊から力を集めているという話でした。

 それにしても、スキルキャンセルって何ですかね?

 後でイヨによくよく聞いてみようと、そう思いました。

 ウンディーネが僕たちを見回して言ったっす。

「水の力は、体の治癒力と魔力生成倍率に大きく作用します。上手く使うことです。それでは皆さま、今度こそ小生は水の神殿に帰ることとします」

 魔力生成倍率ってあれですよね。

 体力から魔力に変換される魔力の量のことっす。

「ウンディーネ様、せっかくですから、お茶をしていかれたらいかがですかぁ?」

 ミルフィが気を遣ったように言いましたね。

 ウンディーネは首を振ります。

「ミルフィ、貴方は仕事の時間のはずです。これ以上、迷惑はかけられません」

「そうですかぁ」

「ええ。それでは、またお会いしましょう」

 ウンディーネが自分の剣を拾って鞘に入れ、玄関へと向かいます。

 僕たちは着いて行き、お別れの挨拶をしました。

「ウンディーネ様、どうかお気をつけて」とミルフィ。

「ありがとうございました」と僕。

「気をつけるニャンよ~」とヒメ。

「ありがとー」とレドナー。

「またのお越しを」とサリナ。

「ウンディーネ様」

 イヨが言って、潤んだ瞳で見つめました。

 ウンディーネは最後に振り返ります。

「イヨ、次に会うときは、私ぐらい瞬時に倒して見せなさい」

「はい!」

 イヨが気持ちのこもった返事をしたっす。

 そして、ウンディーネは玄関を出て、門からも離れ、帰路についたのでした。

 ミルフィはこれから仕事ですね。

 僕たちはキテミ亭で、イヨの合格祝いをするつもりでした。

 今日は美味しいお酒が飲めそうです。



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