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7-21 レドナーvsイヅキ(レドナー視点)



 領主館勤めのスティナウルフ、ステイシーに乗り、俺はバルレイツの町を走り回っていた。

 繁華街のある南区、傭兵ギルドのある西区、テツトたちのアパートがある北区を回ったが、怪しそうな荷馬車は見当たらない。

 最後に、幼稚園や学校などの公共施設の多い東区に行く。

 そこで見つけた。

 大きな通りの左端に、堂々と止まっているでかい荷馬車。

 二頭の馬もいる。

 何でこんなところに荷馬車があるんだ?

 どう見ても怪しいぜ。

 俺はステイシーに声をかけて、止まってもらった。

「ステイシー、止まってくれ」

「ガウガウ!」

(レドナー、あれか?)

「分からん。ステイシーは離れていろ」

 俺は背中から剣を抜いて、その荷馬車の御者台に近づいていく。

 そこには一人の男が座っており、肘を膝につけて、手のひらに頬を載せていた。

 金色のジャケットに、背中には白い昇り龍の刺繍。

 ビンゴだ。

 こいつだ!

 こいつに間違いない。

 俺は言った。

「おいてめえ、ここで何をしている?」

「はい?」

 金色のジャケットの男は眉をひそめてこちらを向き、荷馬車の御者台から降りた。

 腰の両側には帯剣をしている。

 双剣使いか?

 一見すると、そいつは黒髪のやさ男だった。

 テツトよりも鋭い顔つきをしているが、テツトの方が腕も足も太い。

 そのおかげで、圧迫感は無かった。

 俺はまた言った。

「ビンゴだな。おめー、イヅキとか言う奴だろ?」

「ええ、私はイヅキと言う名前です。名字はアカツカです。貴方は?」

 男のくせに自分のことを私と言うようだ。

 声が高く、まるで女みたいだな。

 身長は俺より低い。

 敵の親玉と言えば、ゴリラ男を想像していたんだが、何だか拍子抜けだぜ。

「俺はレドナー・セッツァ。この町で傭兵をやりながら勇者を目指している」

「へえへえ、それはクソな夢をお持ちでいらっしゃいますねえ」

「クソな夢だと?」

「はい。勇者などクソですよ。はは」

「おめー、初対面の礼儀ってもんを知らねえのか?」

「初対面の礼儀? なんですかそれは? 美味しいのですか?」

 俺は舌打ちをした。

 左足で荷馬車を蹴る。

「とりあえず、この荷馬車を調べさせてもらう。スキル書が積まれていねえかどうか」

「調べるも何も、いっぱいありますよ!」

 イヅキは人を食ったような態度である。

 俺はイライラとしてきた。

「おめー、ラサナさんの店から盗んだな?」

「ラサナ? その方は存じておりませんが、バルレイツの繁華街から盗んで参りました」

「へぇ、易々と犯行を認めるんだな」

「はい! だって、スキル書なんか要りませんから、はは」

「じゃあ、どうして盗んだんだ?」

「決まってるじゃないですか! いたずらですよ。いたずら!」

「……っ」

 馬鹿臭くて俺は笑いがこみ上げてきた。

 真面目に会話をしている俺は阿呆みたいだ。

「スキル書を返せ」

「返しませんよー。だってもう、私の物だもーん」

「返せ。さもなくば殺す」

 イヅキはわざとらしく右手を耳に当てた。

「殺す? 誰が誰を殺すって?」

「俺がてめーを殺すって言ってんだよこの野郎!」

 俺はわめきちらすように言った。

 イヅキは耳から手を離し、ゆっくりと二度頷く。

「そうですかそうですか。貴方、殺人鬼ですね!」

「殺人鬼? 俺は傭兵で、人を殺すこともある。悪いが、容赦しねーぞ」

「殺人鬼は殺さないといけないですねー。仕方無いなー。じゃあ、私と勝負しましょっか?」

 イヅキが静かに双剣を抜いた。

 細身の剣である。

 剣を交差させれば、簡単にたたき折れそうだ。

 俺は最後通告をした。

「おい、最後に言うが、逃げるんなら今のうちだぞ?」

「逃げる? はは。貴方こそ逃げてくださいよ。そうすればいっつおーらいじゃないですかー?」

「つっ、くそ、仕方ねえやるか」

 俺は走り出した。

 俺流の剣術に、手加減の方法なんて無い。

 右から剣を超大ぶりする。

「おらぁぁああああ!」

「危険な男ですねぇ貴方。テラーバリア」

 イヅキの体がピンク色の球状のバリアに包まれる。

 くそっ。

 こいつはミルフィさまと同じ、魔法剣士って奴か!

 剣とバリアがぶつかり、カーンッと音が鳴った。

 バリアを張られちゃ、いつもと同じ連撃が繰り出せない。

 イヅキが音も無く剣を振った。

 その影すら見ることができずに、俺の腕と脇腹が切り裂かれる。

 痛みすら無かった。

 鮮血が飛ぶ。

 くそ。

 ……こいつ。

 ユメヒツジ製の服を裂きやがった!

 イヅキってこの男、頭はイッちまってるみたいだが、剣の腕前は相当のようだ。

 俺は焦って唱えた。

「ウインドムーブ!」

 両足がオレンジ色の波動を帯びる。

 移動力アップの魔法スキルだった。

 俺は地面を滑るように移動して、イヅキから距離を取る。

 イヅキが右手の剣を真っ直ぐにこちらに突き出した。

「貴方」

「何だ?」

 俺はいぶかしげに表情を歪める。

 イヅキは独り言のようにつぶやいた。

「これ以上の戦いは無意味です。先ほど、貴方は二度死にました」

「はあ、ざっけんじゃねえぞこの野郎!」

 俺は乱暴に吐き散らす。

 マジで言ってんのか?

 イヅキは真っ直ぐにこちらを見ていた。

「まだ来ますか?」とイヅキ。

「奥の手を使わせてもらう」と俺。

 俺はまだ誰にも使ったことのないスキルの運び方があった。

 それを使ってやる。

「行くぞ?」

「はは、もうやめておいた方が」

「ライトニングペイン!」

 空がゴロゴロと鳴り、俺に目がけて雷が振る。

 俺は剣を両手で掲げて、避雷針になった。

 体が青白く点滅し、雷光となってイヅキに向かう。

 効果時間は20秒。

 イヅキのテラーバリアは時間制限により消失していた。

「これは無駄な攻撃を、はは」

 俺とイヅキは剣を交差させる。

 カーンッ、カーンッ、カーンッ。

 おかしい!

 こちらの攻撃速度の方が上であるというのに、俺の肩口や頬が切り裂かれていく。

 鮮血が次々に飛ぶ。

 イヅキが挑発するように言った。

「ほーら、最後の一撃ですよお?」

 俺は剣の柄を下から叩かれて、剣が両手から離れてしまった。

 カキーンッ。

 くるくると回転しながら俺の剣が空中を舞う。

 その時、俺は唱えた。

「雷鳴剣!」

 また空が鳴り、素材スキルのランクアップで強化された五つの雷がイヅキを襲う。

「これはこれは怖い攻撃だなあ、はは」

 イヅキは避けることもせず、防御スキルも使わずにこちらを見やる。

 にやにやと笑いやがって!

 こいつあ気持ち悪いぜ。

 雷が振る。

 ザザーンッ。

 雷の光が一瞬、辺りをフラッシュした。

 瞬間俺は、空中に移動していた。

 そう。

 剣を弾かれたのは芝居である。

 その後、空中の剣に対して飛燕斬を使い、空中の剣に向けてワープしたのだ。

 俺は真っ直ぐにイヅキの頭に降りて行く。

 瞬間、唱えた。

「裂、真空斬り!」

 赤い波動を帯びる刀身。

 その首、もらったああああ!

「では私はこうしましょう。昇り真龍(しんりゅう)

 青い波動に包まれるイヅキの双剣。

 どうやって雷鳴剣の雷から逃れたのかは分からない。

 昇り真龍のスキルが、俺の体を再度空に吹き飛ばした。

 それと同時に、体を切り刻むような斬撃が入る。

「ぐわああぁぁぁぁあああああ!」

 俺は悲鳴を上げていた。

 まただ。

 またユメヒツジ製の服が切り裂かれた。

 そのまま落下する俺。

「ぐあっ!」

 地面に血だまりを作っていく。

 剣はまた手放してしまっていた。

 今度は芝居じゃなかった。

 くそう!

 体が痛え!

 立て!

 立って戦え、俺!

 足音もなく接近し、イヅキが俺を見下ろしていた。

「弱い、弱いですよお。貴方。さあ、そのお尻の穴を私に差し出しなさい」

「なっ!?」

「お尻の穴です! 可愛い可愛いぷっくり穴のことです。そうです、貴方はこれから私と交尾するんですよ! はい、楽しいですねえ! 気持ち良いですねえ。ハッピーですねえ。そして惨めですねえ! さあ、お互い気持ち良くなりましょう! 愛し合いましょう!」

 ぞくぞくぞくぞくぞく!

 全身に鳥肌が立った。

 や、やべえ。

 男に犯される!

 そんなことされる訳にはいかない!

 イヅキが俺のズボンを脱がそうと両手を這わせる。

 パンツまで一気に脱がそうとした。

「やめろおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!」

 俺は力の限り叫び、地面を転がった。

「はははははは! 楽しいですねえ! 楽しいですねえ! 私のチン○もうビンビンですよお!?」

「来るな! 来るんじゃねえぇぇぇぇええええ!」

「一度性交すれば、癖になっちゃいますよお、あなた! これは快感です! 快感!」

 その時だ。

 俺の体に、一陣の風が吹き抜けた。

 俺の胸にかじりつき、そいつは道を駆け抜けていく。

 俺は地面を引きずられるような格好であり、傷ついた体に激痛が走っていた。

 だけど助かった。

 スティナウルフのステイシーである。

 助けてくれたようだ。

「ガウ!」

(レドナー、乗れ!)

 俺は体をひねらせて、ステイシーの背中に乗った。

 もうぼろぼろである。

 体も。

 精神も。

 それでも何とか、狼の腹に抱きついた。

 くそう。

 剣を落っことしてきちまった。

「ガウゥ!」

(領主館へ行くぞ!)

 俺は返事ができなかった。

 両目から溢れる涙をこらえることができなかったからだ。

 あわや男に犯されるところだった。

 悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて仕方が無い。

 それに、俺の剣技では、イヅキに歯が立たなかった。

 これまで、何のために修行をしてきたんだ。

 イヨの剣技をとやかく言った過去の自分をぶん殴りたい気分だった。

「うあああぁあぁあああああぁぁぁぁああああああああああああ!」

 気づけば俺は、言葉にならない悔しい叫び声を上げていた。




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