7-18 襲撃(ガゼル視点)
ドガガガガガガッ。
火薬が立て続けに弾けるような音がして、昼寝をしていた我は目を覚ました。
……なんだ?
顔を上げると、宿舎内ではスティナウルフの子供たちがおびえたように声を上げて走り回っている。
「「キャオルルゥゥ!」」
((敵だ敵だー!))
((敵が来たぞー!))
スティナウルフのジーナがすぐそばに来て、我に言った。
「ガリリゥ!」
(ガゼル様! 何者かがこの宿舎を攻撃しています!)
我は寝ぼけ眼をこすることもせずに体を上げた。
「ガルル?」
(なんだと?)
ヅダダダダダダッ!
玄関の方で、建物の木片が飛び散るようなけたたましい音が鳴っている。
敵襲なのか?
……ここは安全な町のはず。
とにかく、敵を止めなければいけない。
我は天井を見上げて吠えた。
「アオーン!」
白い光に包まれて、体が人狼へと変化する。
我は急いで玄関へと走った。
外に出ると、赤い貴族の服を着た男と、その後ろに白いスーツの男がいる。
その内の一人は見たことがあった。
白いスーツの男!
あのグランシヤランに行った時に戦った、ヨミチとかいう奴だ!
ヴァルハラだ。
ヴァルハラがこの町を襲ってきたのだ!
我は犬歯を噛み合わせて魔力を漲溢させる。
今日は巡行狼車の仕事が休日だった。
本当に良かった。
ヨミチは赤い服の男の後ろでニヤニヤと我を眺めている。
タバコをくゆらせていた。
赤い服の男は、口が機械になっており、盛り上がっているそこから弾丸を連射した。
ズダダダダダダッ!
我は悪態ついて、顔を両手でガードする。
「くそっ!」
弾丸が体に突き刺さり、血しぶきが舞った。
魔力を漲溢させているおかげで貫通はしないが、しかしこれは痛い!
だが。
ここを避けて、この場を動くわけにもいかない。
後ろには玄関があり、その後ろにはスティナウルフの子供たちがいるのだ。
間違って弾丸をくらったりしたら、子供たちなどは、たちどころに致命傷である。
我は叫んだ。
「貴様ら! なにゆえにこの宿舎を攻撃しに来た!?」
赤い服の男が弾丸を撃つのをやめた。
ヨミチがへらへらと笑って言う。
「決まっているのであーる。魔族のような害虫は、この世界から抹消なのだ!」
「そそそ、そうだ。いいい、犬っころ。おおお、お前は、こここ、ここで死ね!」
赤い服の男の口の機械が、また動いて変化する。
キュイーン。
ズドーンッ、と音がして、気づくと我の眼前が爆発した。
炸裂弾を撃たれたようだ。
「ぐぬぅぅぅぅ!」
我は動かなかったが、爆風で手や顔が血まみれになった。
ヨミチが言った。
「ギニース! 良いであるぞ! そのまま、この犬っころを殺すのであーる」
「わわわ、分かった。ううう、うひうひ、たたた、楽し楽しいなあああ」
赤い服の男の名前はギニースというようだ。
我は悲観した。
一人では宿舎を守り切れない。
フェンリルはどこだ?
我の妻がいれば、まだ戦うことができるのに!
くそう。
スティナウルフの男たちのほとんどは仕事に出かけていて、いまいないのだ!
だけど夜勤の連中ならいる。
出てきてくれないだろうか?
その時だ。
後ろの玄関から頼もしい声がした。
「バロロォォ!」
(ガゼル! こいつらは何だ!?)
この声はバロンだ!
我はすがるような声で言った。
「バロン! 今日仕事は休みか!?」
「バロォー!」
(俺は今日、休日をもらっている。何だあこいつら!? 俺が食べてやるぜ)
「バロン! 我はこの玄関を守る。あいつらを倒してくれ!」
(任せとけって奴だー!)
民家のような体躯をしたバロンが我の横を駆け抜ける。
突進し、その頭でギニースの体を吹き飛ばした。
「グギー!」
ギニースが人間の声とも機械の音ともつかない悲鳴を上げている。
タバコを吸っていたヨミチが舌打ちして言った。
「ちっ、この宿舎は魔族の巣であるなあ。よって、我が輩が駆除するのであーる」
両手を構えてこちらに歩いてくるヨミチ。
その両手が銀色に染まっていた。
スキルの鉄拳が発動している。
我の後ろの玄関からジーナが顔を出した。
「ガリリゥ!」
(癒やしの風!)
我に回復魔法をかけてくれていた。
緑色の光に包まれて、傷ついた腕や顔面が治療される。
「ありがとう! ジーナ」
(いえ!)
ジーナの後ろから、大人のスティナウルフたちが何人も顔を出した。
夜勤の大人たちや、育児休暇のメスたちだろう。
声をそろえて言う。
「「ガウガウ!」」
(ガゼル様! ここは我らが!)
(我らが敵を倒します!)
「お前ら! 気をつけろよ!」
スティナウルフたちは飛び出して、ギニースやヨミチに向かって行った。
ヨミチに噛みつこうと犬歯を開く。
彼は鼻で笑った。
「犬っころ退治など、楽勝なのであーる。飛龍脚!」
赤い波動を帯びた回転蹴りが、スティナウルフたちを吹き飛ばす。
「「きゃわんっ!」」
悲鳴を上げて、スティナウルフの三頭が地面に転がった。
顔からは血が流れている。
顔面の骨が折れたかもしれない。
バロンはギニースに噛みついて、その体を振り回している。
そこでギニースが唱えた。
「じじじじじじ、自爆!」
赤い波動を帯びる全身。
ボーンッと音がして、バロンの口が吹き飛んだ。
「バロロォー!」
(ぐわー!)
バロンの口が血まみれになり、ギニースを地面に落っことした。
くそ。
自爆なんてスキルは聞いたことがない。
後ろからはジーナの悲鳴のような声が響いた。
「ガリリーゥ!」
(ガゼル様、どうすれば!?)
「ジーナよ、玄関を守れるか?」
(私が? 分かりました。ガゼル様)
「頼む」
我がやるしかない。
やるしかないのだ。
我はヨミチに向かって歩いて行った。
ヨミチがまたタバコに火をつけて、こちらを見やる。
「お? ボス犬が出てきたのであーる。我とやるであるか?」
「ガルルゥ!」
(戦うスティナウルフは、一騎当千!)
ここを通す訳にはいかない。
子供たちには指一本触れさせない。
戦わなければいけない。
スティナウルフの子供たちよ、よく見ておけ。
これが、スティナウルフの長の力である。