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7-17 試作品の完成(ルル視点)



 みなさん、ごきげんよう。

 今、ルルたちは元カミルトンっていう店だった建物の中にいるの。

 カミルトンって言えば、バルレイツ一の高級料理店だったんだけど。

 数ヶ月前に潰れたのよね。

 経営の悪化なのか何なのか、理由は知らないけれど。

 とにかく、店は空き家になって売りに出されていた。

 そこに目をつけたジャスティンが購入したのよね。

 もちろん、ラーメンとかいう料理屋をやるためなんでしょうけれど。

 ジャスティン、そんなにお金持っていたのね。

 びっくりしたわ。

 店と土地の額は、ちょっと人に言えないぐらいしたみたい。

 店の厨房で、ジャスティンががぐつぐつと煮える底の深い円柱形の鍋を見つめていた。

 鍋には様々な野菜や、冷やしておいたバキルのあらや骨が入っているわ。

 他にも、魚の臭みを消すために、レモン汁やハーブ数種類、そして、クプスの実が入っているの。

 甘いクプスの実が、バキルの臭みを取るために、てきめんに効いていた。

 ジャスティンの唇には笑みがあった。

 オタマであくを取りながら、時折小皿にスープを注いで味見をする。

「こりゃあ行ける。行けるぜー! ルル! 姉さん!」

 なんか。

 なんかジャスティンのテンションがすごい高いわ。

 そりゃあ美味しいスープが出来て嬉しいんでしょうけれど。

 大体、ルルたちの畑の世話はどうするのよ。

 誰かに作業を委託するのかしら?

 多分そうなんでしょうけれど。

 シュナは平たくて大きいまな板の上で、せっせと麺を作るために小麦粉をこねている。

 麺にコシを出すための秘策として、ナウパンという種類の小麦粉が混ぜられていた。

 ナウパンはパンなどにすると硬くて、あまり人は食べたがらないんだけど。

 他の小麦粉と混ぜて麺にすると、どうしてかツルツルとしてコシのあるものができあがったのよね。

 シュナが勝ち気な笑みを浮かべた。

「ジャスティン店長! もう麺を切ってもいいか?」

「おういいぜ姉さん。作っちまってくれや!」

「おうけい!」

 シュナが包丁で生地を細長く切り始める。

 最初は太麺では無くて、細麺で勝負をしようということになっているみたいなのよね。

 二人とも何だか熱気があって、生き生きとしているわ。

 さて。

 それでなんだけど。

 ルルは何をしているかというと、鶏の丸焼きを作っているの。

 これ、ルルの故郷(ログレスの荒野)の定番メニューなのよね。

 甘辛く焼いた鶏のかたまりを切り分けて、ジャスティンはラーメンの具にするみたいなの。

 他にもコーン、ワカメ、そしてラーメンの中心にはもやしを山ほど載せるみたいだわ。

 シュナが麺を切り終わり、お湯の入ったお鍋にそれを投入した。

 茹で時間はきっちり四分三十秒。

 その間にもジャスティンが三つの器にスープを用意していた。

 やがて茹で上がった麺を、シュナが器に盛り付ける。

 ルルも、丸焼きにした鶏を切っておいたのを、せっせとラーメンの上に載せた。

 これ、綺麗に見えるように盛り付けないと、商品にならないわ。

 少し工夫をして盛り付けた。

 おかげでラーメンには、鶏の様々な部位の肉が載っているわ。

 他にもワカメ、コーンを端に盛り付ける。

 最後に炒めたもやしをジャスティンがラーメンの中心にどっかりと盛り付けて、それは完成した。

 ラーメン一号の出来上がり。

 試作品ね。

 これで完成みたいなの。

 魚の臭みはすっかり消えており、おいしいそうな香りだけが漂っているわ。

 ルルは食欲をそそられて、ぐぐーとお腹が鳴った

「よっしゃー! ルルと姉さん! 試作品の完成だぜ! 名付けて、バキルラーメン一号だ!」

「バキルラーメン一号!? もうちょっと、名前を考えた方が良いんじゃねーか?」とシュナ。

「ルルもそう思うわ」

「まあ、名前なんて何でもいーんだよ。とりあえず食ってみようぜ! どんな味がするか」

「そうだな!」とシュナ。

「うん」とルル。

 三人でラーメンの器を食堂のテーブルに運び、フォークとスプーンを持って口に運んだ。

 ツルツルでシコシコの麺に、出汁の効いたコクの深い味わいのスープ。

 三人は笑顔で顔を向け合った。

「姉さん、これなら行けるぜ!」

「試作品としては申し分ねーな。こりゃあ、売れるかもしんねー。ただ、魚介系のスープが好きな人に限られるかもだけど」

「ルルも美味しいと思うわ」

 三人で麺を次々にすする。

「そういやテツト少年は、鶏ガラや豚骨からも出汁を取るって言ってたなあ」

「鶏ガラや豚骨かー。バキルより安く済むかもなー」

「そんなことより、ルルの鶏のお肉はどうなのよ? 美味しいの?」

「おうこりゃ美味いぜ! ルル、あんがとさん」

「ルルさん、これは中々の味だよ。ただ、酒のつまみ感があるけど」

「むー」

 ルルは唸った。

 もう少し、鶏肉の調理の仕方をひねりたいわ。

 三人でラーメンを食べ終える。

 シュナがお腹を押さえて言った。

「あー、腹一杯だ」

「よし、このラーメンを、ミルフィさんの元へ持って行こうぜ」

「そんなことしたら、ラーメンの麺が伸びるわ。あの丸眼鏡をここに連れてきなさいよ」とルル。

「そうかー。そりゃあそうだな。じゃあ、来てくれるように頼みに行くか!」

「どうやって行くのよ?」とルル。

「そりゃあ、巡行狼車に乗ってか?」

「いってらっしゃい、ジャスティン」とルル。

「ジャスティン店長、行ってらっしゃい」とシュナ。

「ルルー、お前が行ってきてくれ」

「嫌よ。面倒くさい」

「頼むよー」

「嫌」

「ちっ、仕方ねーか。じゃあ行ってくるよ。姉さんとルルは、鍋のスープからあくをとり続けてくれ。水が少なくなったら足すのも忘れるなよ!」

「おうけい」とシュナ。

「はいはい」

 ルルは気のない声で返事をしたんだけど。

 でも気分はちょっとハイテンションだった。

 こんなに美味しい料理が出来上がるなんて、当初は思いもしなかったわ。

 ちなみに、クプスの実と、ナウパンの小麦粉を使おうという案を出してくれたのはシュナなのよね。

 料理の知識がある人に手伝ってもらえることになって、本当に良かったわ。

 そしてそれから。

 ルルたちはテーブルを片付けて、ジャスティンは店を出て行った。

 もちろん領主館に行って、ミルフィにアポを取り付けるためなんだけど。

 ジャスティンは巡行狼車で行くと思うのよね。

 ジャスティンならグリフォンを召喚して、飛んで行くことも可能なんだけど。

 だけど。

 あの男、それはしないと思うの。

 前にさ。

 能ある鷹は爪を隠すとか、何とか言っていたし。

 だから巡行狼車で行くと思うわ。

 それから、シュナとルルは、厨房でぐつぐつと煮える鍋の世話をした。

 世間話をしながら、のんきにジャスティンを待つ。

 後は、あの丸眼鏡がラーメンを食べて、何て言うかだわ。



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