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7-16 調査



 巡行狼車に乗り、ヒメとイヨと僕の三人は町の南区に来ていたっす。

 早足で歩き、ラサナさんの店に行くと、本当に玄関が破壊されていましたね。

 何があったのかと視線を送っている町民もいました。

 壊れた扉を触りながら、ヒメが言ったっす。

「壊されているニャン~」

「本当ね」

 イヨが怖々とした表情で室内に足を踏み入れます。

 その背中に僕も続きました。

 店の本棚はどこも空っぽでしたね。

 イヨが右手を顎に当てます。

「とりあえず、敵の手がかりが無いか、中を調べましょう」

「んにゃん!」とヒメ。

「そうだね」頷く僕。

 三人で店内を回り、カウンターの奥の部屋にも行ったりして、敵の痕跡を探します。

 だけど、探せども探せども、敵を特定するような情報は見つからなかったっす。

 三人で店内の扉付近に集まり、話し合います。

 ヒメが唸るように言いましたね。

「んにゃん~、何も無いニャン~」

「店内には何も無いわね」

 イヨが困ったように両腕を胸に組みました。

 ヒメは鼻をひくひくとさせます。

「敵のフンがあれば、匂いで後をたどれるニャンけど~」

「フンはさすがに無いよ、ヒメ」

 僕は苦笑しつつツッコみました。

 相手は人間ですからね。

 イヨが人差し指を立てたっす。

「仕方無いから、目撃者がいないかどうか、外で聞き込みをしましょう」

「そうだね」

「んにゃん!」

 僕たちは店の外に出たっす。

 そして通りかかる町民に、昨夜のことを見ていないか、聞き込みを行ったのでした。

 隣の店の従業員にも尋ねに行ったりして。

 そうして一時間近くも頑張ったのですが、有力な情報は得られなかったっす。

 僕たちは困っていました。

 また三人で路地の一カ所に集まります。

 ヒメが眉をひそめて言いました。

「誰も見ていないニャンね~」

「うん、どうしよう?」とイヨ。

「とりあえず、聞き込みを粘るしか無いじゃないですか?」と僕。

「んにゃん~、今頃敵は、盗んだスキル書を全部覚えて、超強くなっているかもしれないニャンよー」

「そうだったら怖いわね」とイヨ。

 僕は乾いた笑い声を上げたっす。

 その時です。

「ヒメ!」

 顔を向けると、フェンリルがいたっす。

 大通りの方の道から、中型犬ぐらいのスティナウルフを二頭連れて歩いてきました。

 緑色のブラウスが素敵ですね。

 下はグレーのズボンでした。

 連れている二頭はフェンゼルとマロっす。

 奇遇でした。

 ここへ何しに来たんでしょうか?

「フェンリルとフェンゼルとマロニャン~!」

 ヒメは歩き出して、近づいてきた二頭の頭に撫でるように手を置きました。

 イヨと僕もその背中を追います。

「こんにちはフェンリル、どうしてここに?」とイヨ。

「それがワンけど……」

 フェンリルが話し出す前に、幼い二頭が喋り出します。

「「キャウワン!」」

(ヒメ姉ちゃん! 僕たち、昨夜見たんだ! この店に、強盗が入っていたんだよ!)

(ヒメ姉様、強盗は、スキル書を全部運んで、荷馬車に積んでいたでしゅる~)

 !

 有力な目撃情報でした。

 フェンリルは二人の背中を撫でながら言ったっす。

「実は昨夜、フェンゼルとマロが宿舎から出て行ってたのん。今朝、よくよく聞いたら、町の南区まで散歩してたって言うワンよ。そしたら、そこで強盗を目撃して、怖くなって帰って来たって言うのん!」

「詳しく、強盗の様子を教えてくれる?」

 イヨがメモ帳とボールペンを取り出して、フェンゼルとマロに向き合いました。

 二人が言います。

「「キャゥゥ!」」

(強盗は、一人は真っ赤な着物だったよ。もう一人は黒いふりふりのワンピースで! あと、白いスーツを着た男もいた!)

(一人はすっごく体が大きかったでしゅる~。機械みたいだったでしゅるよ~。あと、教会に勤めている人みたいな服を着た女もいたでしゅる~。あと、一番怖かったのが、背中に昇り龍の刺繍の入った、金色のジャケットを着た男でしゅる)

 僕たちははっとして顔を見合わせたっす。

 みんなすぐに感づいたようで、イヨが声高に言いましたね。

「それって、グランシヤランで戦った人たち?」

「ヴァルハラニャン!?」

「やばいね!」

 僕は顔をしかめました。

 弱ったように右手をオデコに当てます。

「「キャオン!」」

(知ってる人なの? ヒメ姉ちゃんたち)

(知ってる人でしゅるか?)

「ヴァルハラって言ったかワン!?」とフェンリル。

 フェンリルはその名前を聞いたことがあるのか、苦虫を噛みつぶしたような顔をしました。

 金の昇り龍の男は誰か分かりませんが、他の五人は多分、奴らで間違い無いっす。

 修道服の女は傭兵ギルドに連れて行かれたはずですが……。

 脱走でもしたんでしょうか?

 僕はイヨの腕に手を置きます。

「イヨ、確かあの夢の中で、女神のラブ様が、ヴァルハラは人間以外の全ての種族を滅ぼそうとしてるって言っていたよね」

「うん……。だとすれば、敵の目的はもしかして!?」

「スティナウルフの宿舎が危ないニャン!」

 ヒメが大声で言いました。

 そこにいる全員が、ざわっと身じろぎしましたね。

 フェンゼルとマロが何か言うのを押しのけて、フェンリルがヒメに聞きました。

「敵は、魔族を狙っているワンか?」

「そうだニャン! 今すぐスティナウルフの宿舎に行くニャンよー! 襲われているかもしれないニャン!」

「そっか! 僕は出てこなきゃ良かったワン」

「とりあえず、みんなでスティナウルフの宿舎に行きましょう!」とイヨ。

「だけど、どうやって? 走っても時間がかかるよ!」と僕。

 ヒメが持っていたロッドを握りしめました。

「あたしの召喚獣に乗っていくニャンよ。辞典で、Dランクの召喚はプアレルとかいうイノシシを召喚できるって、書いてあったニャン!」

 そう言えばヒメは召喚のスキルをランクアップさせたのでした。

 この間買いましたね。

「ヒメちゃんナイス!」

 コクコクと頷くイヨ。

 ヒメが唱えます。

「召喚、プアレルニャン!」

 その場に大きな大きな黒い魔方陣が現れます。

 一つの民家サイズの赤茶色いイノシシが立ち上がったっす。

「ブギィィィィ!」

 地面が揺れたような気がしました。

 プアレルは四肢を地面に打ち鳴らして、大きな足音が立ちましたね。

 やっぱり、ヒメは召喚に対するスキル倍率が高いっす。

 召喚獣が大きすぎるんですよね。

 みんながプアレルを見上げる中、ヒメが猫のように体をしならせて、召喚獣の背中にジャンプします。

「みんな! 早く乗るニャンよ!」

「ど、どうやって乗ろう?」

 イヨが困ったように言って、僕を見ました。

 僕たちはヒメのようなジャンプ力が高く無いっす。

「「キャウオン!」」

(ヒメ姉ちゃん、乗るよ!)

(乗りましゅる~)

「僕も乗せてもらうワン!」

 スティナウルフの三人が軽々と跳躍し、ヒメの後ろに乗りましたね。

 見ると、イヨがプアレルの腹の毛を掴み、よじ登ろうとしています。

 チラリ。

 スカートからタイツのお尻が見えちゃっています。

 ふりふりと揺れて可愛いですね。

 今はそんなことを気にしている場合じゃ無いっす。

 僕たち二人はよじ登るしか無いですね。

 僕もイヨの真似をしました。

 全員が乗ると、ヒメがプアレルに指示します。

「プアレルよ! あたしが言った方向に走るニャンよ! とりあえず、大通りに行くニャン!」

「プギイィィィィ!」

 召喚獣が走り出したっす。

 僕たちはその背中にしがみついて、プアレルが走る振動に耐えたのでした。

 目指すは、スティナウルフの宿舎です。

 まだ、何事も起きていなければ良いのですが……。




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