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1-13 卑怯者


 村長の家に三人で行ったのですが。

「ごめんください!」

 扉を開けてイヨがそう言ったっす。

 返事はないですね。

 日は落ちていて、夜が来ています。

 家の中にはランタンや蝋燭などの火の明かりもありません。

 扉を閉めて、イヨは首を振りましたね。

「誰もいないみたい」

 彼女の眉間にしわが寄っています。

「他の近所の家はどうだニャン?」

 ヒメが後ろを振り返ります。

「そうね」

 イヨが頷いたっす。

 それから、三人で他の民家も当たります。

 しかしどこの家も、もぬけの殻でした。

 ヒメが両腕を胸にくんでうなりましたね。

「うー、これはたぶん、ギニースとか言う奴の家が怪しいニャン」

 イヨが嫌そうに顔をしかめます。

「そうかもしれない」

「イヨ、行ってみるニャン」

「うん」

 イヨとヒメが並んで歩き出します。

 僕はその背中を追いかけました。

 村の奥にある小高い丘のてっぺん。

 そこに、大きな館が建っていますね。

 民家が4つもくっついたような大きさです。

 館の前には、村の男どもが集まっていたっす

 がやがや。

 その中の一人がこちらに気付き、イヨを指さしました。

「おい、イヨちゃんが来たぞ!」

「イヨちゃんか?」

「本当か?」

 男たちが顔を向けます。

 こちらが武器を持っていることに気付いたのか、警戒した表情になりましたね。

 男たちをかき分けて、金髪の男が前に出てきます。

 貴族のような華々しい赤い服を着ているっす。

 その後ろには浅黒い肌をした大男が控えました。

「やあ、イヨ。やっと僕の元に来てくれたんだね」

 イヨが憎しみの表情で睨みつけます。

「ギニースさん、貴方が私の家を、壊したんですか?」

 ギニースは演技がかった仕草で両手を開いたっす。

「やったのは僕のお父さんの命令さあ。村のみんなで、破壊したんだ。僕とイヨは結婚するんだから、あの家はもういらないだろう?」

「私はあなたと結婚しません!」

 イヨがぴしゃりと言います。

 どよめく周りの男たち。

 ギニースは顎を指でなでます。

 強気に言いました。

「そんなことを言っていいのかい? 今、俺の家の二階には、村の女性のほとんどが捕虜として捕まっている。分かるかい? この意味が?」

「どういうこと?」

「イヨが僕との結婚を断るなら、女たちは」

 ギニースは自分の首を右手で切るしぐさをしましたね。

 周りにいる男たちは、妻や娘を人質を取られているということでした。

「卑怯な!」

「卑怯も強さのうちだよ。さあ、一緒に結婚式を挙げようじゃないか」

「くぅっ」

 イヨはうつむいて歯噛みします。

 ヒメが前に出たっす。

「お前言っていることめちゃくちゃだニャン!」

 ギニースはびっくりしたように眉をひそめます。

「誰だお前は?」

「あたしはヒメだニャン!」

「ヒメ? そんな名前の女が、この村にいたか?」

「そんなのどうでも良いニャン!」

 ヒメがまくしたてます。

「イヨはお前のことなんか好きじゃ無いニャン。ギニースはどうせ、毎日鼻くそを指でほじってあまつさえそれを口の中に入れる男だニャン! トイレをするときは、マママーンと変な声を上げながら用を足すニャン! もちろん尻は従者に拭いてもらうニャン。そんな変態甘えんぼ男と、誰も結婚したくないニャンよ!」

 ギニースの頬がひくひくと震えたっす。

「馬鹿にするのもいい加減にしたらどうだい?」

「馬鹿になんてしてないニャン! 本当のことを言っているだけだニャン! ギニースは心の中でお父さんをパピーと呼んでいるニャン。お母さんはママリンだニャン。どうせイヨを好きになったのはお前の大好きなママリンに雰囲気が似ているという理由だニャン。だったらはじめから、ママリンと結婚すれば良いニャンよ!」

 ギニースの顔が真っ赤に染まりました。

 図星だったのでしょうかね?

「無礼者。斬らせてもらう」

 ヒメが両手を腰に当てます。

「いつでも来いニャン!」

 ギニースが右手を上げたっす。

 後ろに控えていた浅黒い肌の男が前に出ます。

「ナザク、イヨの後ろの二人をやれ」

 ナザクと呼ばれた男が顔を左右に振りました。

 ぽきぽきと骨が鳴ります。

「ま、給料分は働きますわ」

 僕が前に出たっす。

 周りに村の男たちが集まって来ます。

「なんだなんだ? 乱闘か?」

「喧嘩か? よしやれー!」

「誰か松明をつけろ! 松明を!」

 あっという間に男たちに取り囲まれる僕たち。

 何人かが松明を持っており、火の明かりが照らしました。

 ナザクと僕が対峙します。

 相手は両手にダガー。

 僕はもちろん拳す。

 お互いが構えます。

 僕の手が銀に染まりました。

「モンクか? へえ、何でも良いけど、まあ殺しますわ」

 僕は緊張で胸がバクバクと鳴ります。

 ナザクからただよう野性的な威圧感。

 まるで大蛇を相手にしている気分す。

「言っとくが俺は傭兵だからな、降参するなら今のうちだぞ?」

 僕は震えそうになる足を懸命にこらえます。

「僕も、傭兵です」

「へえ」

 ナザクは長い舌で自分の唇をべろりとなめました。

 続けて聞きます。

「ランクは?」

「……Eです」

「俺はBだ」

 ナザクが見下しました。

「降参しとけってお前」

「勝負です」

 僕はその場で軽くジャンプを始めたっす。

「そうかい。じゃあ、こちらから行くぞ!」

 ナザクが走ります。

 突きの一撃。

 両手で弾きます。

 カーンッ。

「ポイズンアタック!」

 ナザクが唱えました。

 ダガーが紫色の波動を帯びます。

 相手の左手が蛇のようにうねり、僕の右腕を軽く斬ります。

「痛っ!」

 僕は後ろに大きく跳びました。

 自分の体が緑色に変化していくっす。

 ポイズンアタックの効果ですかね?

 毒にかかったのかもしれません。

「ぬはは!」

 ナザクは余裕そうなポーズでこちらにダガーの切っ先を向けました。

「お前、毒で死ぬぞ?」

「……くそ」

 僕の額から汗が噴き出します。

 体の動きが重くなっていますね。

 熱も出てきたような感じがしますね。

「早く医者に診てもらった方が良いんじゃねえかあ?」

 ……くそ。

 やりにくいっす。

 相手が剣や斧なら、振りかぶる瞬間に隙があります。

 柔道技をかけるのにもやりやすいんですが。

 だけどダガーは小回りが利くっす。

「テツト! 頑張るニャン!」

「テツトくん!」

 後ろで二人が応援しています。

 二人の前で負けるわけにはいかないっす。

 僕はまた両手を構えました。

「やるってか?」

 ナザクもダガーを掲げます。

「やっちまえー」

「よ! ナザクさん!」

 外野の男たちがはやし立てていますね。

 ……うるさいですね。

 僕は焦っていました。

 こうなったら!

 飛び出るように走ります。

「へなちょこパーンチ!」

 僕の右拳がオレンジ色の波動を帯びます。

ナザクの顔に笑み。

「それ、モンクの最弱スキルだからな」

 僕の拳がナザクの顔面に……。

「ジャンピングトルネード」

 ナザクがジャンプし、両手を広げて回転しました。

 ダガーがオレンジ色の波動をまとっています。

「ぐああぁぁああ!」

 僕の体は引き裂かれ、その場に倒れました。

 ナザクが僕の髪を掴み、無理やり立たせます。

「痛!」

「よう小僧。EランクがBランクに、歯が立つわけねーだろ」

 反撃を。

 反撃をしなくては!

 ナザクがダガーを持ったまま、拳で僕の腹を殴りつけます。

 ドゴッ!

「ぐあぁ!」

 ドゴッ!

「ぐああぁぁ!」

 ドゴッ!

「ぐああぁぁああ!」

 ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!

「ああああぁぁぁぁあああ!」

「やめるニャーン!」

 ヒメの悲痛の叫び。

「もうやめて!」

 イヨが前に出てきました。

「お! どうした?」

 ナザクが掴んでいた僕の髪を離します。

 どさりと地面に倒れる僕。

 イヨが言ったっす。

「私が、ギニースと、結婚する。だからもうやめて!」

 外野の男たちが、おー、と声を上げました。

 ギニースもこちらに歩いてきましたね。

「始めからそう言えば良かったんだよ!」

 イヨの頬を平手ではたきます。

 バチンッ。

 悲鳴も上げずに、頬を押さえるイヨ。

「お前は今日から俺の女だ。来い」

「分かった」

 二人が歩いて行きます。

「へっ、ざーこ」

 ナザクが吐き捨てるように行って、ギニースに続いたっす。

 外野の男たちも館に向かうようでした。

 ふと。

 雨が降ってきました。

 しとしとと地面を叩きます。

「テツト、しっかりするニャン!」

 ヒメが近づいてきて、僕のそばにしゃがみました。

「チロリンヒールニャン、チロリンヒールニャン」

チロリンチロリンと音がして僕の体が少しだけ回復します。

「ぐ、ぐそう」

 僕は地面に両手をつけます。

 ふらふらと立ち上がりました。

 手を腹に当てて、自分の怪我の状態を確認します。

 あばらが何本か折れていますね、これは。

「テツト、逃げるニャン」

「ダメだよ。イヨを、取り戻さないと」

 その時です。

「二人とも、こっちへ来んさい」

 丘の下から呼ぶ声がありました。

 老婆のようなしゃがれた声です。


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