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7-12 遠方からの悲報



 仕事から領主館に帰ると、僕たちは食堂へ行きます。

 イヨがいるかなと思って扉を開けると、食事をしている最中でしたね。

 頭をフラフラと揺らしながら、野菜スープをスプーンですすっています。

 その対面の席にはウンディーネがいて、行儀良く食べていますね。

 上座にいるミルフィは、フォークとナイフでステーキ肉を綺麗に切り分けていました。

 ミルフィが顔を上げます。

「あら、テツトさんたち。お帰りなさいませですわ」

「んにゃーん、今日も疲れたニャンよ~」

 ヒメがイヨの隣の席に歩き、腰を下ろしました。

 その隣に座る僕。

「お疲れさまっす」

「あー、やっぱり一人欠けると疲れるぜー」

 レドナーが僕の隣の椅子を引き、両手を上げて伸びをしました。

 そして腰を下ろします。

 ヒメがイヨの肩をトントンと触りました。

「イヨ、今日の修行はどうだったニャンか?」

「ふうえ、ヒメちゃん、いつの間に帰って来たお?」

「いま来たニャンよー。イヨ、大丈夫かニャン?」

「わらひー、強くなったおー」

「こりゃダメだな」レドナーが苦笑しました。

「イヨ、大丈夫っすか?」僕は心配でした。

 イヨは目をしょぼしょぼとさせています。

 フォークとナイフを持って、肉に手を伸ばしました。

「わらひダメだわ。ダメだったってことが分かったお。これからは殺人鬼になってー、敵を血祭りに上げるおー」

「イヨ、いつもとしゃべり方が違うニャンよー」

「そんなことないお。ないないないお」

 ミルフィ以外のみんなが心配そうにイヨを見ました。

 ミルフィは口元に手を掲げてクスリと笑いましたね。

「みなさん、サリナから聞きましたが修行は順調ということです。なので、心配なさらないでくださいな」

 そう言って呼び鈴を鳴らします。

 少しして、メイドさんたちが僕たちの分の料理を運んできましたね。

 今日は牛肉のステーキでした。

 レドナーが早速食事に取りかかりましたね。

「腹減ったぜー」

「んにゃん~、イヨ、本当に大丈夫かニャン?」

 ヒメはまだ心配しています。

 食事を運んできたサリナがたたまれた紙を持っており、ミルフィのそばに歩きました。

「ミルフィ様。今し方カノス様ご一行から、お手紙が届きました」

「本当ですか!」

 瞳を輝かせて手紙を受け取るミルフィ。

 早速開き、内容を確認しています。

 サリナは下座へと歩き、控えるように立ちました。

 確かカノスは、ロナードの隣国であるアウラン皇国の魔王討伐に行っているという話です。

 ついに討伐出来たんですかね。

 僕としても気になるところでした。

 手紙を読んでいるミルフィの顔が、どんどん青ざめていきます。

 その顔は力を無くし、無表情になりました。

 瞳から涙が伝い始めます。

 イヨが聞きます。

「ミルフィ、どうしたおー?」

「どう、でしたか?」

 ウンディーネもおそるおそる声をかけました。

 ミルフィは手紙を読み終えたのか閉じ、顔を俯かせます。

 振り絞るような声でした。

「お父様が、亡くなりました」

「ふえっ!?」

 イヨがびっくりして固まります。

 ヒメは眉をしかめましたね。

「亡くなったって、死んだニャンか?」

 僕はヒメの肩に手を置き「そういうことだね」と小さくつぶやきます。

 ミルフィが唇を噛んでいます。

 そこから血が滲んでいました。

「お父様は魔王討伐に行く途中、ヴァルハラという傭兵団と戦闘になり、その団長イヅキに殺されたそうです。お父様の仲間は捕まり、男は処刑、女は捕虜になっているそうです。捕虜は凄惨な辱めを受けており、麻薬も使われているようで、もう助かる見込みは無いようですわ」

 ミルフィが右手でテーブルを叩きました。

 ドンッ、と大きな音が鳴ります。

「なんたる屈辱!」

 ミルフィには似合わない怒声でした。

「ミルフィ、イヅキを倒しに行きましょう」

 イヨが平静に戻っていますね。

 口調がいつも通りっす。

「僕も協力しますよ」

「俺も行くぜ」

「小生は、大精霊としての務めがあるので行けませんが、お気持ちお察しします」

 ヒメが声を上げました。

「イヅキ許さないニャン! ふぅぅうううううう!」

 猫のような威嚇の声っす。

 ミルフィは僕たちを見回して言いました。

「みなさん、ありがとうございます。ですが、今はまだ時ではありません。今は、まだ……」

「ミルフィ、何が気になるの?」

「まず、私たちはこの国の魔王ですら討伐出来ていません。その用意も整っていません。今の状態でアウランに、イヅキを討伐しに行くのは無謀過ぎます。お父様たちですら、負けてしまったのですから……」

「……確かにね」

 イヨが顔を落としました。

 僕は自分がふがいないような気持ちに包まれたっす。

 正義のヒーローよろしく、ここでカノスの弔い合戦ができれば良いのですが。

 力が無いということが、こんなにも悔しいとは思わなかったです。

 ミルフィはこぼれる涙を袖で拭いて、両手をテーブルにつけました。

「今は辛抱の時です。何としてでも仲間を集め、問題を一つ一つクリアしていかなければいけません」

 ミルフィが僕たちに顔を向けました。

 続けて言います。

「イヨ、テツトさん、ヒメちゃん、レドナーさん、もし戦う時が来たら、共に戦ってくれますか? つまりそれは、命を賭けることになるのですが」

「当ったり前だニャンよ!」即座に返事をするヒメ。

「いいわ」とイヨ。

「オーケーです」と僕。

「いいぜ、世話になってるからな」とレドナー。

 ミルフィが心から笑顔を浮かべた気がしました。

「ありがとうございます、ですわ」

「とりあえず、もっともっと強くなるニャンよー!」

 ヒメがそう言って、ステーキ肉をバクバク食べ始めます。

 みんながクスッと笑いました。

 それからミルフィは言いました。

 カノスとその仲間たちの亡骸がロナードに届く届かないに限らず、近日中に王都ハランクルスで葬式が行われるようです。

 なので数日後、葬式に出席するためにミルフィと僕たちは王都へ行くことになりました。

 これで彼女は両親を失ったことになります。

 一人娘ですよね。

 この世に彼女の血縁者はもういないということでした。

 僕もハルバには両親がいませんが、地球ではきっと生きています。

 どこかで生きているのと、死んでしまったのとでは、気持ちが大分違うと思いました。

 誰か。

 誰か、彼女をそばで支えてくれる者が現れれば良いのですが。

 そう思って()みません。


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