7-9 ウンディーネの試練(2)
はい、復活しました。連載再開です。皆様、お待たせしまして申し訳ありませんでした。
これまでの自分を思い出すと、2巻分書いたところでまた体力が尽きて、えたると思いますが、今回もよろしくお願いいたします。m(__)m。
木の葉がはらはらと舞う広い土の地面の上。
杖を持ったヒメとウンディーネが向き合って対峙しています。
ウンディーネが聞きました。
「貴方、魔法使いですか?」
「そうだニャン。今からお前をやっつけてやるニャンよー」
「その杖、灼神木製ですね」
「んにゃん? 灼神木ニャン?」
「知らないで買ったのですか? 丈夫な木です」
「そうだったニャンかー、知らなかったニャン」
「では、行かせていただきます」
「来いニャン!」
ウンディーネが走りました。
ヒメの肩口に向けて剣を振ります。
「スローニャン!」
ヒメが気合いを込めて唱えましたね。
紫の波動を帯びる杖。
ウンディーネの体に紫色の輪っかが出現しました。
彼女が舌打ちして飛び退きます。
動きの速さが半減していますね。
「小生にスローを決めるとは、貴方は悪くないスキル攻撃力です」
「あたしも修行して、レベルアップしているニャンよ~!」
ヒメがニヤリと笑いました。
「続けてポイズンニャン!」
「キュアポイズン」
ウンディーネの体が一瞬緑色に変化しましたがすぐに回復します。
彼女はまた驚いたように言ったっす。
「ポイズンまで決めるとは!」
「んにゃん! 猫鳴りスローニャン!」
青い波動を帯びるヒメの杖。
しかしウンディーネには何も起きません。
彼女は首を傾げます。
「猫鳴りスロー? 聞いたことのないスキルです」
「んにゃーん! 決まらないニャン!」
相手のスキル防御力により無効化されたようでした。
ウンディーネが唱えました。
「リフレクトバリア」
「んにゃんっ、蛇睨みニャン!」
ピシンと空気が裂けたような音がして、ウンディーネの顔が恐怖に染まります。
出現したリフレクトバリアが消失したっす。
一秒後、恐怖状態が解けました。
「貴方、相手にデバフをかけるのは良いですが、攻撃をしてこないのですか?」
「んにゃん? 攻撃をするのは、いつもテツトとレドナーの役目だニャンよー」
ウンディーネがぽかーんと口を開き、それから失笑しました。
「貴方はいま一人ですよ?」
「んにゃーん、じゃあ、仕方ないから攻撃すれば良いかニャン?」
「小生に聞かないでください」
「こうなったら、やってやるニャンよ~!」
ヒメが杖を振りかぶります。
「炎風ニャン!」
「テラーバリア」
ウンディーネがピンク色の球状のバリアに包まれました。
激しい炎の風を浴びていますが、びくともしません。
「んんんー! こうなったら、どうすれば良いかニャン?」
「小生に聞かないでください」
その頃にはスローの効果が切れていました。
ウンディーネが走り出します。
「んにゃん!」
焦ったようなヒメの声。
ウンディーネが唱えました。
「蛇睨み」
ピシンッと音がして、ヒメの顔が恐怖に染まります。
「んにゃにゃにゃにゃ!」
「貴方は失格です!」
ウンディーネの突きがヒメの首を狙っていました。
「ヒメ!」と僕。
「天使さま、危ない!」とレドナー。
「ヒメちゃん!」とイヨ。
「カウンターニャン!」
ヒメの姿が消えました。
ウンディーネのバリアに一撃が入り、彼女の後ろにワープしたヒメが出現します。
「ふむ」ウンディーネの感心したような声。
「続けて、スローニャン!」
ウンディーネの体に紫色の輪っかがまた出現しました。
ヒメは相手と距離を取るように走ります。
ウンディーネが追いかけました。
「逃げるのですか!?」
「あたしはお魚大好きニャン! いっぱい食べてお腹いっぱいニャン! 日向でゴロゴロ、ゴロゴロするニャン! とっても気持ち良いニャンよ~!」
「何を言っているんですか? 貴方は?」
ウンディーネの怪訝な顔と声。
しかし僕たちには分かっていました。
ヒメの杖が黄緑色に光っています。
今のは呪文の詠唱ですね。
立ち止まり、ウンディーネに杖を向けて唱えます。
「ゴロン猫スリープニャン!」
「は?」
ウンディーネがぽんっと白い煙に包まれて、青い猫に変身しました。
その場で眠りに落ちます。
バリアは消失していました。
ヒメはにじり寄り、杖で青い猫をぶっ叩きます。
「成敗してやるニャンよ! どうだニャン! くらえニャン! 参ったかニャン! 参ったかニャン!」
青い猫がどんどんと傷ついていきます。
「ヒメ! もうその辺で!」と僕。
「天使さま、勝負はつきました!」とレドナー。
「ヒメちゃん、叩きすぎよ!」とイヨ。
ヒメは叩くのをやめて、ふーふーと息をつきました。
やがて三十秒が経ち、ぽんっと白い煙に包まれて猫がウンディーネに変わります。
顔のところどころが腫れていますね。
ちょっと気の毒です。
ウンディーネが嫌そうな顔で言いました。
「卑怯とは言いません。ヒメ、貴方は合格です」
「合格ニャン?」
「はい」
「やったあニャーン!」
ヒメがこちらへと走ってきます。
僕は抱き留めて、その背中を撫でました。
「テツト、あたしやったニャン! やったニャンよ~!」
「よかったな、ヒメ」と僕
「天使さま、さすがです」とレドナー。
「次は、私か……」
イヨが言って、ウンディーネの前に進み出ます。
二人が装備を構えて向き合いました。
青い髪の彼女が言います。
「貴方たちの強さはよく分かりました。もう容赦はしません!」
ちょっとキレたような表情っすね。
怖いっす。
イヨの剣と盾が黄色い波動を帯びていました。
スキルの修行の成果が発動していますね。
フィジカルが上がる効果っす。
「来い!」
イヨが気合いを込めて言い放ちました。
ウンディーネが走ります。
二人の剣と剣がぶつかり、火花が散りました。
「水龍乱」
ウンディーネの剣の五連撃がイヨを襲います。
イヨが唱えました。
「見切り三秒」
体が青い波動に包まれて、攻撃をすんでのところで全て回避したっす。
三秒後にウンディーネが唱えます。
「昇り赤龍」
剣を下から上へ振り上げました。
竜巻のような風が起こったっす。
「え、ええぇぇぇぇえええええ!?」
空中に吹き飛ばされるイヨの体。
やばいっす!
「イヨ! 危ない!」と僕。
「んにゃん!」とヒメ。
「イヨ、カウンターだ!」とレドナー。
ウンディーネは落ちてくるイヨを今か今かと狙っていました。
イヨの選択したスキルは――
「シールドアサルト!」
盾を全面に突き出し、オレンジ色の波動をまとってウンディーネに空中から突進します。
ウンディーネが、ふっと笑ったような気がしました。
剣と盾がぶつかる瞬間、
「カウンター」
ウンディーネが唱えましたね。
彼女の姿が消えました。
「えっ!」
素っ頓狂な声を上げるイヨ。
その胸に打撃が入りました。
「ぐっ!」
ユメヒツジの服は切り裂かれたりしませんでしたが、イヨは苦しそうに顔を歪めたっす。
ウンディーネがイヨの後ろにワープしたように出現していました。
「貴方は本当に失格です」
イヨの首元に手刀がたたき込まれたっす。
「がっ!」
イヨが悲鳴を上げて、地面に叩きつけられました。
そのまま気絶したのか、動かないっす。
「イヨ!」
「イヨニャン!」
僕とヒメが駆け寄ります。
ウンディーネは納得したように、顎を小刻みに動かしました。
こちらを振り返って言います。
「イヨ以外は合格です。受け取りなさい。水の力の恩恵です」
僕たち三人の体が青い燐光に包まれました。
ちょっと熱いです。
しかし一瞬のことでした。
僕はそれどころではなく、イヨの上半身を抱き上げます。
息はしていますね。
気を失っているだけっす。
ほっとしました。
「テツト、イヨは大丈夫かー?」とレドナー。
「大丈夫です」と僕。
「ヒールニャン、ヒールニャン」
キラリンと二回音がして、イヨの体が緑色の光に包まれます。
顔色が良くなりましたね。
「……ん?」
イヨが目を開いたっす。
続けて言いました。
「私、負けちゃった?」
「イヨ、負けたっす」
僕はつぶやくように言いました。
ウンディーネがイヨを見たっす。
「イヨ、貴方はさっき、カウンターを使うべきでした。そうすれば、まだ立っていられたでしょう」
「そ、そうなの?」
イヨが立ち上がります。
ウンディーネは両手を腰に当てました。
「それでは、用事は済んだので、小生は水の神殿へ帰るとします」
「待ってください!」
イヨが引き止めましたね。
ウンディーネが眉をひそめました。
「待てとは?」
「ちょっと、ちょっと待ってください。もう一度、もう一度私にチャンスをください。戦ってください。次こそは……」
「イヨ、貴方は……」
「私修行します!」
イヨがウンディーネの言葉を遮って言いましたね。
続けて、
「修行して、強くなって、それからまた、挑戦させてください! どうか、お願いします」
「ふむ……」
ウンディーネは両腕を胸に組んで、何か考えているようでした。
少しして頷き、口を開きます。
「分かりました。では一週間待ちます。その間、小生はカノスの娘の家に泊めてもらうことにします。イヨ、修行をしてきなさい」
「分かりました」
イヨの声が震えていますね。
かなり悔しい表情です。
他の三人が試練を超えたこともあり、自分だけ置いて行かれる訳にはいかないようでした。
イヨが僕に顔を向けたっす。
「テツト、私、今からミルフィに稽古をつけてもらえるか、頼みに行く」
「分かったっすよ、イヨ」と僕。
「イヨ、修行ニャーン」とヒメ。
「まあそういうことなら、付き合うぜ」とレドナー。
「絶対、絶対強くならないと」
イヨが意思を込めてつぶやきましたね。
そして、僕らはこれから領主館に行くことになりました。
ウンディーネの目的地も同じ場所ということで、5人で向かいます。
途中、僕らのアパートに寄り、着替えなどの準備をしましたね。
また合宿になるのでしょうか?