7-8 ウンディーネの試練
みんなで装備を持ち、アパートから少し離れて山の方に行ったっす。
小さな階段を上った先に、広々とした空き地がありました。
秋の枯れ葉がところどころに落ちており、木々の葉は紅葉していて見事な光景ですね。
右手の方には屋根つきの木のテーブルとベンチがあります。
空き地の中心で、ウンディーネが剣を抜いて両手に持ちました。
剣の色は青みがかっています。
「最初は誰が相手ですか?」
「俺だ!」
レドナーは抜剣しており、やる気満々っす。
彼がウンディーネの前に歩きました。
「レドナー、頑張って」と僕。
「んにゃん、レドナーよ、ウンディーネを倒すニャン!」とヒメ。
「注意して見ていないと」イヨは観察眼を鋭くしていますね。
三人は脇に寄りました。
レドナーが威勢良く声をかけましたね。
「ウンディーネ様、スキルは使って良いのか?」
「かまいません。小生も使います。さあ、いつでも来なさい」
ウンディーネは厳かな佇まいです。
レドナーが唇の片端をつり上げて言いました。
「それじゃあ、行くぜ!」
走り出します。
剣を上から大きく構えていますね。
ウンディーネが呆れたようにつぶやきました。
「これはなんと隙だらけな」
「おらあっ!」
レドナーの剣の大振りを、ウンディーネは身をそらして避けます。
「貴方は失格です!」
ウンディーネは吐き捨てるように言い、青い剣でレドナーの胸を突こうとしていました。
レドナーの気合いの込められた息づかいが響きます。
「ふっ!」
避けられたそのままの勢いでタックルをかましました。
「なっ!」
ウンディーネが焦った声を上げましたね。
もろにタックルを受けちゃいました。
「どおぉぉおおおりゃああああああ!」
レドナーは横に一回転。
下から上に剣を振り上げたっす。
「なんとっ!」
ウンディーネが大きく飛び退きます。
鎧の胸当てに剣の切っ先が走り、ビシリと音を立てて傷が入りました。
レドナーは相手に体勢を整える暇を与えずまた突っ込んで行きます。
横からの超大ぶり。
「おらあっ!」
「くっ!」
二人の剣が何度も重なり、火花が散ります。
レドナーの力の方が強いようで、ウンディーネの体が右に左にと揺さぶられました。
「レドナー! 行けるよ!」と僕。
「んにゃん! レドナー、そこだニャン!」とヒメ。
「頑張って!」とイヨ。
ウンディーネの気合いの込められた声が響きます。
「そこっ!」
剣で首を狙う一撃。
レドナーは剣でそれを防ぎ、今度は力負けしたのか剣が弾かれました。
カーンッ。
「これで決まりです!」
ウンディーネがレドナーの肩に剣を振り下ろす瞬間、
「へへっ」
彼が余裕そうに笑いました。
そうですよね。
レドナーはわざと力を抜いて、剣を弾かせたんだと思います。
力を受け流しています。
彼は前方にステップを踏み、ウンディーネに肉薄しました。
「なにっ!」
ウンディーネは相手に近寄られすぎて剣を触れないようでした。
レドナーは左手でウンディーネの服の襟を掴んだっす。
そして唱えます。
「サンダーボルト!」
大きな電流が生まれて、ウンディーネが目を白黒とさせました。
「くうっ、うあぁぁぁああああ!」
ウンディーネが感電して悲鳴を上げる中、レドナーが大外刈りをかけます。
!
レドナーが僕の技をパクっています!
「ぐっあああ!」
ウンディーネが背中から地面に倒れました。
レドナーは襟を掴んだまま、剣の切っ先を彼女の喉に当てましたね。
「俺の勝ちだ。ウンディーネ様」
「くっ……良いだろう。レドナー、小生の負けだ」
「よっしゃあぁぁああああ!」
レドナーはウンディーネから手を離し、その場でガッツポーズを取ります。
「やったあニャン! レドナー余裕ニャンニャン!」ヒメがくねくねと踊っています。
「レドナーは凄いわね」とイヨ。
「レドナー、僕の技をパクりましたね?」
レドナーがこちらに歩いてきて、いたずらっぽく笑いました。
「古来から、他人の技は盗めと言われていてな」
レドナーが左手の拳を突き出しました。
その拳に、僕は右手の拳を合わせます。
コツンッ。
「次は僕です」
「ああ。テツト、乗り越えろよ」
「当然っす」
僕が歩いて行くとウンディーネは立ち上がっていましたね。
剣を油断なく両手に握っており、その表情には鬼気迫るものがありました。
「さすがは、イフリートが認めただけのことはあります」
「次は僕です。よろしくお願いします」
「分かりました、もう手加減はいたしません」
ウンディーネはレドナーに手加減をしたんですかね?
していないように見えましたけどね。
「手加減しなくていいっすよ」
僕はファイティングポーズを取り、その場で軽くジャンプを始めました。
鉄拳が発動します。
無を意識して魔力を漲溢させました。
「来なさい」
「行きますよ」
僕は正面からゆっくりと近づきました。
右拳から。
ワンツースリー。
「ふっ」
ウンディーネの剣と僕の拳が交差して、火花が散りました。
彼女が唱えます。
「疾風突き!」
オレンジ色の波動を帯びる剣。
素早い突きが僕の額を狙います。
僕は左手で弾き、右手を素早く動かして剣の腹を掴みました。
今だ。
と思ったんですけどね。
ウンディーネが唱えました。
「フリージングソード」
青い波動をまとう剣。
知らない合成スキルっす。
僕は焦って剣を離しました。
ステップを踏んで彼女から距離を取ります。
僕の右手が少し凍り付きましたね。
そういうスキルなのでしょう。
右手をグーパーさせて、問題が無いことを確認します。
ウンディーネがこちらへと走ってきていました。
剣を捕まれたせいか、ちょっと怒った表情です。
僕は心で笑いながら、顔には出しません。
彼女は素早く剣を薙いで、連撃を繰り出します。
僕は剣を弾いては後退。
弾いて後退。
その場をぐるぐると回転するように移動しました。
まるで、柔道の赤畳から出ないように。
二十秒も経ったでしょうか?
ウンディーネがしびれを切らしたように言います。
「貴方、逃げてばかりいますが、これは戦意喪失ですか?」
「最近は肩がこるんすよねー」
僕は左手を右肩に起きます。
右手をぐるぐると回しました。
「なっ!」
彼女の顔が朱に染まります。
続けて剣を薙ぎました。
「死んでもしりません!」
剣を振る速度が上がりました。
僕は手で剣を弾きながら、また後退します。
「テツト、負けんなよー!」とレドナー。
「テツト、焦らないで!」とイヨ。
「んにゃんテツト、頑張れニャン」とヒメ。
僕は苦笑したっす。
今、彼女の体に流れる魔力を見ることができていました。
神竜の力の恩恵の効果ですね。
視力が上がり、魔力の流れも見ることができるようになっています。
魔力の色はほとんど透明なのですが、どろりとした液体のような物がウンディーネの四肢の中でうごめいていました。
流れは機敏であり、剣を振る瞬間には腕に集まります。
そして今、大きく腕に魔力が集まりました。
ウンディーネが唱えます。
オレンジ色の波動をまとう剣。
「水龍乱!」
「はらはら回避!」
スキルにはスキルで立ち向かうのが常套手段っす。
剣の五連撃をすんでのところで躱し、接近してきた彼女の懐に入り込みました。
腕を掴み、体を反転させます。
一本背負い。
ドシンッ!
「あぁっ!」
悲鳴を上げる彼女の体を上四方固めにします。
ウンディーネはスキルを使って逃げるかと思ったんですが、すぐに力を抜きましたね。
僕の肩を軽く二度叩きます。
「……貴方の勝ちです」
僕は立ち上がり、柔道の試合のように礼をしました。
「ありがとうございました」
みんなの元に歩いて行きます。
レドナーとハイタッチをしました。
「勝ったっす」
「おう!」
パンッ、と小気味の良い音が鳴ります。
女性二人も笑顔でした。
「テツトは最強ニャンニャニャン!」ヒメが歌ってくれましたね。
「何で貴方たちはそんなに強いのよう」イヨが感心したように言いましたね。
ウンディーネは立ち上がって、僕らの元に歩み寄ります。
「あなた方は中々の強者ですね」
「ウンディーネよ、次はあたしニャン!」
ヒメがロッドを構えて、猫のように歯を光らせていました。